前のページ 次のページ

第3節 

3 環境保全活動の社会的広がりと民間団体の果たすべき役割

 個人の環境保全への取組は、個々にバラバラで行われているだけでは、その効果は十分には発揮できない。個人による環境保全活動が社会的広がりを持つためには、目的意識の共有や組織化、専門的能力の確保が不可欠である。こうした意味で、NGOに代表される非営利的な民間団体の果たす役割は重要である。以下では、わが国で展開される民間の環境保全活動の実態や、その社会的広がりを支える民間非営利団体と行政の役割を考察する。

(1)わが国で展開される民間の環境保全活動はどのような特徴を有しているのか

 今日、日本国内の民間非営利団体は膨大な数に上り、その活動も多岐にわたる。環境分野においても例外ではなく、(財)日本環境協会が平成8年11月から平成9年6月にかけて行った調査において対象とした環境NGO(民間の非営利団体で環境保全活動を実施している団体)は、11,595団体であった(ただし、統計には現れない小規模のものや、非継続の団体も存在し、これらを含めると正確なところは分からない)。
 この調査の結果は、わが国における環境保全活動を行う民間非営利団体の特徴を如実に表している。
 まず対象とする活動分野については、回答のあった4,227団体中最も多いのがリサイクル・廃棄物であり(50.3%)、以下、自然保護(45.0%)、環境教育(43.3%)、消費・生活(37.4%)の順になっている。また、活動形態では、普及啓発(72.7%)、実践活動(72.0%)、調査研究(45.8%)などが多い。このことを更に詳しく、設立時期及び活動エリアから活動分野の大きな流れを考えてみたい。2-3-25図に示すとおり、昭和39年以前を環境問題が顕在化していない時代(黎明期)、昭和40〜50年代を産業公害が中心課題だった時代(産業公害期)、昭和60年以降を地球環境問題や都市・生活型公害の時代(地球環境問題期)に分類すると、設立時期で見た団体数のウエイトでは後二者がそれぞれ4割程度と拮抗している。これを活動エリア別に見ると都道府県、全国、海外と活動エリアが広がれば広がるほど、昭和60年代以降に設立された新しい団体の割合が高くなっている。環境問題の変質に伴って民間非営利団体の活動エリアも広域化している傾向を示すものといえよう。
 組織的には、会員数100人以下の団体がほぼ半数を占め、大半が法人格を有しない任意団体である。有給、無給を問わず、その団体の企画、運営等に定常的に携わっているスタッフの数は、約4割が10人以下であり、財政規模(年間総収入額)も、半数以上が100万円未満であり、非常に小規模の組織が多数存在していることが分かる(2-3-26図)。
 さらに、経済企画庁が公益法人を除くあらゆる非営利団体を対象に行ったアンケート調査によると、全収入に占める「会費」収入の比率の平均が33%、補助金・助成金(「行政からの補助金」と「民間、その他の助成金」の合計)が33%である。その一方で、業務収入(「事業収入」と「行政からの業務委託」の合計)が13%、「寄付金」は5%と低い。また、支出の約8割が「事業経費・活動経費」である(2-3-27図)。





(2)民間非営利団体は環境パートナーシップを構築する上で重要な役割を果たす

 NGOなどの民間非営利団体は、多様な主体の環境パートナーシップを構築する上で重要な役割を果たす。つまり、具体的な環境保全活動に取り組む一主体であるにとどまらず、行政、企業、個人等の各主体間の連携を取り持つことができる。また、多様化する社会的ニーズに対し行政では対応しきれない、もしくは対応が不十分となってしまう領域について、民間非営利団体は、独自の発想で機動的に対応することが可能である。
 以下では、今後期待される民間非営利団体の役割を、
? 個人が一人では行いにくい環境保全への取組を団体で行うことにより、個人の参加しやすい環境を作ること、
? 行政、企業、個人といった各主体の持つ情報や関心などの橋渡しを行うとともに、自らその専門的能力を活かし提言、行動を行うこと
の大きく2点に分けて考察する。

ア 個人の環境保全への取組を組織化する
 人々は環境問題について漠然とした問題意識や不安感を持っているが、その一方で具体的に何をしていいのか分からなかったり、1人だけ環境に配慮した生活を行ったところでどれだけ効果があるのかといった疑念を少なからず持っている。こうした意味において、同じ関心を持ち、行動を行おうとする個人が組織化されることは、個人の環境保全への取組を促進するインセンティブになると考えられる。
 例えば、費用が高く個人では購入しにくい太陽光発電などの自然エネルギー設備を共同で購入、設置しようとする動きが各地で起きている。滋賀県などで市民共同出資で太陽光発電所を次々と設置してきた「市民共同発電所を作る会」、大型風力発電を住民の共同出資で設置する計画を検討している「クリーン・エネルギー・フォーラム」や「生活クラブ生協北海道」などの取組が注目される。
 また、こうした民間非営利団体による活動を継続的に発展させるためには、単なる環境問題についての危機意識を喚起するのみならず、自然環境の中でのレジャー、スポーツ活動や、農林水産業等の体験、学習を通じた自然との交流など、生活に潤いと楽しみを与えるような多様な活動メニューを提示することも必要である。

イ 行政、企業、個人それぞれが持つ情報の橋渡しをする
 個人や個々の団体が抱える様々な制約を解決し、相乗的な効果を発揮するために、個人、企業、行政、民間非営利団体等が連携することが、環境保全活動を展開する上でますます重要になる。このように、様々な団体がそれぞれ「利害関係者」として同じ活動の場に参加し、相互の信頼関係を基調として活動していくためには、情報公開とコミュニケーションが重要な前提条件となる。
 しかし、徹底した情報公開は必要であるが、価値観、ライフスタイル、関心事項が違う個人に対し、行政がその多様なニーズに対応してきめ細かな情報を提供することは難しい。このため、民間非営利団体が、行政、企業と個人が持つそれぞれの情報の橋渡しをする、すなわち、組織的に行政や企業からの情報を収集、分析し、その結果を分かりやすい形で個人に還元することで環境に配慮したライフスタイルへの転換を進めるとともに(啓発機能)、行政や企業に対して新たな施策や事業を要請すること(政策提言機能)が必要である。こうした機能によって、政府の施策あるいは利害関係者である個人の選好、行動に変化を起こし、また企業に対して環境の外部費用の内部化を促すことにもつながる。
 例えば、本章第3節1で取り上げたグリーン購入ネットワークは、環境に配慮した製品・サービスを積極的に評価し支援していく団体であり、消費者に環境に配慮した製品・サービスの購入意欲を持たせることを通じて、市場拡大にも貢献するものである。
 また、こうした情報提供とその共有化が重要であるのと同時に、個々の参加団体や一人一人の参加者においても、情報に接するための真剣な心構えが求められる。まず、個々人は民間非営利団体等から提供される情報をただ待つだけでなく、必要に応じて情報を自主的に入手し、その内容を理解し、評価や提案を発信することが求められよう。また、個々人が活動プロセスや方向性について常に監視を続けることが結果として団体活動の継続的な改善につながるとの意識を持って、情報に積極的に関わることも求められよう。

(3)民間の環境保全活動が社会的に広がるために行政が果たすべき役割は何か

ア 情報の場の提供
 環境保全に取り組む民間非営利団体の存在やその活動状況は、個人、企業、行政に十分知られておらず、逆に企業や行政の持っている環境情報も民間非営利団体に十分に伝えられていない。そのことは、単なる環境問題やその取組への無関心にとどまらず、各主体間の不信感や不必要な対立をもたらす要因ともなるおそれがある。こうした点から、行政は、各主体が情報を幅広く共有し、それぞれの取組や考え方、立場をよく知り、そして幅広い視野と柔軟な意識を持って交流できるような基盤を整備することが必要である。
 これに対応するため、平成8年10月、環境庁と国連大学は「地球環境パートナーシッププラザ」を開設し、ホームページなどによる地球的規模での情報発信、民間非営利団体を始めとする各主体の活動に関する情報の収集・発信や主体間のネットワーク作り、各種展示会、イベントなどを通じた環境問題や環境保全への取組を紹介する普及啓発事業等を実施している。
 その他、地方公共団体においても、平成8年4月の「かながわ県民活動サポートセンター」の開設を皮切りに、環境保全活動を行う団体も含めた民間非営利団体に対して支援するサポートセンターが全国各地に設置されている。特に環境分野に特化したものとしても、東京都板橋区の「エコポリスセンター」に見られるような活動拠点の整備が進められている。

イ 財政的措置
 安定した活動資金の不足は、多くの民間非営利団体にとって深刻な問題である。現在、環境保全活動を行う民間非営利団体に対する措置としては、地球環境基金による助成がある。地球環境基金は、1992年(平成4年)の地球サミットにおいて、政府が民間非営利団体の環境保全活動に対する資金援助の仕組みを整備する旨を表明したことを受けて、平成5年、国と民間の拠出により環境事業団に創設された。助成対象団体は、「民間の発意に基づき活動を行う非営利法人その他の団体」であり、?日本又は海外の団体による開発途上地域の環境の保全と、?日本の団体による国内の環境保全活動で広範な国民の参加を得て行われるものに対し、資金助成がなされる。平成11年度は、494件の助成要望の中から、217件に対し、計7億3665万円の助成が行われた(2-3-28図)。そのほか、国際的な環境保全活動に関する助成である草の根無償資金協力制度や、森林整備等を行う民間非営利団体に対する「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律」に基づく助成などがある。
 なお、公益の増進に著しく寄与する法人として主務大臣から認定を受けた公益法人(特定公益増進法人)に対する寄付金については、税制上の優遇措置が認められている。環境分野では、自然環境の保全のための野生動植物の保護繁殖、すぐれた自然環境の保全及び活用並びに国土の緑化事業の推進を主たる目的とする法人が、特定公益増進法人として認定を受けている。



ウ 参加の制度化
 近年、環境保全活動を行う民間非営利団体の果たすべき役割が重要視されるにつれて、政策決定過程において民間非営利団体の参加機会を広げる動きが見られ始めている。例えば、環境影響評価法がスコーピング段階及び準備書段階において、誰でも意見が提出できる旨を定めており、民間非営利団体もこれらの制度を利用できるようになった。また、地方公共団体による地域環境計画や地球温暖化防止地域推進計画の策定に当たっても、地域住民の意見を早い段階から広く聴取し、反映させるなどの取組が見られる。
 さらに、地域密着型の環境保全活動を行ってきた民間非営利団体がこれまで蓄積してきた環境に関する様々な情報や知見を生かし、より効果的な取組を行うため、行政がこれらの団体と協働する事例が増えている。例えば、東京都武蔵野市では、木の花小路公園の管理、運営を民間非営利団体である「生きものばんざいクラブ」に委託している(第4節で詳説)。
 そのほか、平成11年4月に施行された「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づいて、地球温暖化防止に向けた活動をより広範に展開するための情報提供・支援機関である全国地球温暖化防止活動推進センター(以下、「全国センター」という)が、(財)日本環境協会に設置されることとなった。全国センターは、民間非営利団体と産業界、地方公共団体とがパートナーシップを組んで運営する体制をとっている。国の取組において、これまでこうした体制は見られず、将来の様々な国における施策展開に対し一つの試金石になるものと考えられる。

(4)民間の環境保全活動が発展するためには組織運営能力の向上が求められる

 すでに述べたように、行政を中心とした情報提供や財政的な支援などは、民間の環境保全活動を発展させ、活動の主体となる民間非営利団体に関する知識や理解を社会全体に深めていく上で、必須条件といえる。しかし、それにも増して必要なものは、これら団体の組織運営能力の向上とそれを担う人材の育成である。
 例えば、市場の中で需要者のニーズに応じて製品を作りそして取引するという企業の場合と異なり、民間非営利団体には、個人という枠を超えた社会的なニーズを把握し、そのニーズを満たす活動を行うことにより社会の理解と支援を獲得していくことが求められる。また同時に、民間非営利団体は、価値観を共有する組織として多くのボランティアをかかえて活動しており、組織内のコミュニケーションも不可欠である。
 加えて、民間非営利団体の活動目的は、いわゆる金儲けではなく、社会性を持ったものである。そうした目的を継続的に実現していくためには非営利の収益事業を行い資金を得ることが必要となるが、その際、事業を行うことで団体の運動体的性格を損なわないよう考慮しながら運営を行うこと、つまり「運動性」と「事業性」の両立を図ることが必要である。また、団体が成長したり、時代変化によって目標が変化することが考えられるが、これらにどのように対応していくかも、運営上の大きな課題である。
 環境分野を始めとする民間非営利団体による活動はわが国においては新たな転換点に立っており、上で述べたような組織運営能力の向上が必要である。今後、運営能力や専門性を持った人材を育てる仕組みや組織の整備は、民間セクター全体にとっての大きな課題であろう。こうした課題を一つ一つ解決することによって、社会全体を環境保全型に変革していくために社会を構成する主体の一つとして民間非営利団体が機能することが期待される。

特定非営利活動促進法

 近年、福祉、環境、国際協力、まちづくりなど様々な分野において、ボランティア活動を始めとした民間の非営利団体による社会貢献活動が活発化し、その重要性が認識されているが、これらの団体の多くは、法人格を持たない任意団体として活動している。そのため、銀行口座を開設したり、不動産の登記をしたり、電話を設置するなどの法律行為を行う場合には、団体の名で行うことができず様々な不都合が生じていた。
 こうした中、平成7年1月の阪神・淡路大震災における民間非営利団体の活躍を契機に、その活動全般への社会的認識が高まり、ボランティア活動を始めとする市民が行う自由な社会貢献活動の健全な発展を目的とした「特定非営利活動促進法」が平成10年12月1日に施行された。この法律により、上記のような活動を行う民間非営利団体が「特定非営利活動法人」として法人格を取得することが可能となった。
 その法律の概要は以下のとおりであり、平成12年3月末現在、特定非営利活動促進法に基づく法人格取得数は、1,724法人(都道府県認証1,589法人、経済企画庁認証135法人)である。

(特定非営利活動促進法の概要)
1.目的
 市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促し、もって公益の増進に寄与すること。
2.対象
(1)特定非営利活動(注)を行うことを主たる目的とすること、
(2)営利を目的としないものであること、
(3)社員の資格の得喪に関して不当な条件を付さないこと、
等の要件を満たす団体であること。
(注)特定非営利活動とは、まちづくりの推進や環境の保全を図る活動等、法の別表に掲げる12の活動分野に該当する活動であって、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものである。
3.特定非営利活動法人の設立
 所轄庁(事務所が所在する都道府県の知事、2以上の都道府県区域内に事務所を設置するものについては、経済企画庁長官)は、申請が法定要件に適合すると認めるときは、原則として申請から4か月以内に、その設立を認証しなければならない。
 また、設立の認証後、登記することにより法人として成立することになる。

※ なお、同法附則において、「特定非営利活動法人制度については、この法律の施行の日から起算して3年以内に検討を加え、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」とされている。

自然体験を通じた里山の保全〜赤目の里山を育てる会

 三重県名張市南部の通称「赤目の森」は、日本の滝100選の「赤目四十八滝」北西部に広がる約200ヘクタールの雑木林である。この里山に平成2年にゴルフ場開発計画、その後産業廃棄物の処理施設建設計画が浮上し、平成8年に反対住民が中心となって「赤目の里山を育てる会」を結成した。この会の目的は、単に大規模開発に反対するのではなく、開発の代替手段として、土地を売りたい地権者や里山を守りたい地域住民、都市生活者などと共同で里山を育てることにある。具体的には、寄付金を募って土地を取得していくナショナル・トラスト運動、トンボ池や里道の整備、成長した樹木の間伐などの自然保護活動のほか、間伐した木をキノコ栽培や炭焼きに活用するなどの取組を実施している。また、自然観察会が地元小学校の課外授業としても採用されているが、その運営は赤目の里山を育てる会と一緒になって行われている。
 こうした赤目の里山を育てる会の取組は、ただ里山の保全を叫ぶのではなく、創意工夫の下、守るべき里山に活動拠点を設け、様々な自然環境とのふれあい事業を通じて里山の保全を積極的に進めるものであり、今後の民間非営利団体の活動のあり方を考える上での好例といえる。

食える市民活動〜中部リサイクル運動市民の会

 昭和55年10月に設立した「中部リサイクル運動市民の会」は、市民運動と事業活動を併せ持つ「食える市民運動」という形態で様々な活動を行っている。
 具体的には、主な活動資金として、新聞古紙100%のコピー用紙などの環境関連製品を開発、販売して活動資金とするとともに、平成12年3月現在、名古屋市内32か所にリサイクルステーションを設置して、ビン、アルミ缶、スチール缶、トレイ、牛乳パック、古紙等10種類の資源物を回収、再資源化するシステムを確立している。
 さらに、平成11年2月、名古屋市が行った「ごみ非常事態宣言」に対し、具体的な方向性が見えないなどの理由から、市民が主体となって「名古屋ルール」というごみ減量プランを提案し、その実施に向けて行動している。具体的には、?徹底した分別と収集システム、?ごみの有料化、?指導員制度の創設、?ごみ減量のための市民による情報ネットワークシステムの構築、などの対策が盛り込まれ、雑誌やフォーラム等の場を通じて、市民自らが減量のために行動するよう呼びかけている。
 このように、中部リサイクル運動市民の会は、市民運動と経済活動の両立をうまく図りながら、先に述べた民間非営利団体の二つの役割の双方を行っている好例といえる。



ドイツの民間非営利団体の政策決定過程における参加

 ドイツでは、あらゆる主体が環境政策上の意思決定過程へ早期に参加することが、協働原則の核心をなすものであると考えられている。その具体例として、連邦自然保護法では、自然保護に影響を与える法規制や計画の実施、変更に際して、一定の要件を満たす民間非営利団体に意見表明権や書類の閲覧権を付与し、またいくらかの州では団体訴訟が認められている。連邦環境省の調べによれば、平成10年5月現在、連邦政府により20団体、州政府によって115団体が同法の認証を受けており、環境政策遂行上のパートナーとして活動している。

前のページ 次のページ