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第3節 

3 環境配慮の組み込みに向けた行政の具体的な展開

 このように各国において、行政の活動へ環境配慮を組み込む取組が進んでいる。では、わが国の現状はどうなっているだろうか。
 ここでは、他目的の施策や事業への環境配慮の組み込み、事業者としての行政の活動における環境配慮の組み込み、それに環境政策の強化を加えた三つの取組について「行政のグリーン化」として幅広く位置付け、それらの現状と今後の課題について概観する。

(1)国の内外を見据えて環境政策の充実・強化を図る

ア 環境政策の国際的展開
(ア)各国協調の下での取組
 第1節で概観したように、現在の地球環境の状況は極めて深刻であり、早急に有効な対策が講じられない場合には、21世紀には環境状況の悪化が進行し、環境問題により社会の発展が制約される事態が発生することも考えられる。このため、これまで国連人間環境会議(1972年(昭和47年)スウェーデン)、ナイロビ会議(1982年(昭和57年)ケニア)、地球サミット(1992年(平成4年)リオ・デ・ジャネイロ)といった場で国際的な合意の形成を目指し議論が行われてきたほか、地球温暖化や砂漠化といったそれぞれの問題について、各国が協同して対応するため、気候変動枠組条約や生物多様性条約等の多国間条約が締結されている。
 地球環境問題に関しては、先進国と開発途上国さらには後発開発途上国との立場の違いや影響が深刻な国とそうでない国との立場の違いなどの各国の利害が様々であり、国際的なルールづくりの障害となっている。地球環境問題の責任は先進国と開発途上国が共通に負うが、両者に責任の程度の差を認める「共通だが差異のある責任」という考え方に基づき、有効な対策の構築が求められている。
 わが国の経済活動は、国民総生産で世界2位であり、輸出量が世界の約8%、輸入量で6%を占めるなど国際社会において大きな地位を占めている。このため、環境問題に関する国際的な対応場面において、わが国が積極的な役割を果たしていくことが求められている。これまでにも気候変動枠組条約第3回締約国会合において議長を務め、京都議定書の取りまとめに尽力するなど貢献を行っているが、閣僚級の会合など、様々な機会をとらえ国際的な合意形成のために一層努力する必要がある。
 さらに、わが国の環境対策に関するこれまでの知見や技術力を活かし、国際的な連携を図っていくことが必要である。例えば、地球観測に関しては、国連環境計画(UNEP)による地球環境モニタリングシステム(GEMS)などの国際的な計画に参加して、連携を図っているが、今後一層この取組を強化するとともに、わが国が位置するアジア地域における対策を率先して講じていくことが必要である。


(イ)開発途上国に対する協力
 地球全体の持続可能な発展を達成するためには、開発途上国において、環境対策の実施や環境配慮を組み込んだ経済社会システムの構築が必要であり、まず、途上国自身が自助努力を行わなければならない。その一方で、自助努力が効率的であるためには先進国による国際協力が不可欠である。
 協力のためには、環境政策対話を通じて、途上国の状況や要望に応じて援助方針を共同で形成するという協力の方向付けを行うことから、個別の環境対策における協力を行うことまで、幅広い取組が求められる。
 環境政策対話においては、わが国が属している北東アジア地域における取組が重要である。すでに具体的な取組も始まっており、例えば、1999年(平成11年)に引き続き2000年(平成12年)2月に開催された日中韓3か国環境大臣会合では、共同でのプロジェクト形成、実施が合意されるなど、着実な進展を見せている。
 政府開発援助(ODA)においては、1992年(平成4年)に制定された「ODA大綱」の基本理念に「環境の保全」が盛り込まれたことに引き続き、今後5年程度のODAの基本的方向性を定めた「ODA中期政策(1999年)」においても環境保全への取組を重視すべきであるとされている。この枠組みの下で、具体的な国別の援助方針が策定されている。これらのODAにおける環境分野重視の結果、1998年(平成10年)度実績ではわが国の環境分野のODAは、4,138億円に上り、全体の25.5%を占めるまでになっている。今後の課題としては、環境対策と経済発展の両立を可能とする対策や貧困対策といった他の分野の施策との連携、及び地方公共団体、事業者、NGO等の様々な協力主体間の連携が重要となっている。さらに、(2)で詳述するが、環境分野以外の協力においても持続可能な開発の観点の導入が課題である。
 また、協力分野においては、民間の技術力の活用も重要である。事業者の持つ技術は対価を支払うことなしに提供を受けることは困難であるが、地球温暖化対策におけるCDM(クリーン開発メカニズム)は、事業者の参入が期待できる枠組みであり、今後の普及・推進が期待されるとともに、他の分野でも同様のメカニズムが開発されることが望まれる。

イ 環境政策の進化すべき方向
(ア)予防的措置の必要性
 人や生態系への影響については、回復困難なものも多いため、環境対策においては予防原則を適用することを第一に考えることが基本となる。このため、まず、環境の状況や汚染物質の排出状況を的確に把握することが必要である。これまで行われてきた大気汚染や水質汚濁、自動車汚染等の公害に関する監視、測定や自然環境の調査に加え、化学物質による汚染状況の測定や生態系についての調査などを強化する必要がある。
 さらに、これら監視、測定等により収集されたデータについては、整理、分析され、広く公開されることにより、国、地方公共団体を始めとする様々な主体による対策に活用されることが望ましい。
 また、環境問題は経済社会の動向と密接に関連している。経済社会の動向は非常に速いスピードで変化しており、それに併せて環境への影響も様々に変化すると考えられることから、環境への影響が大きいと考えられる経済社会活動に関する情報について、迅速に収集し、環境への影響について分析を進めることが求められている。
 さらに、汚染の状況と環境影響等の因果関係の究明や環境影響の発現メカニズム等について解明を図るため、一層の研究を進めることが重要である。特に、人の健康や生態系に何らかの影響が現れた場合には、現状の把握や原因究明が迅速に行える体制の整備が不可欠である。例えば、内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン)などによる影響については、個体数の減少や雌性化などの野生生物等で顕在化している異常と原因物質の因果関係や異常が発生するメカニズムなどについては、いまだ十分に明らかにされておらず、調査・研究を進めることが求められている。
 なお、監視、測定、調査研究等により得られた環境情報の質の向上や提供システムの確立の重要性は、OECDにおいても認識されており、1998年(平成10年)4月に環境情報に関する理事会勧告が行われている。同勧告では、環境政策を推進するため、環境や関連する経済変数に関するデータの整備、情報システムの質と検索能力の向上、環境政策評価のための環境指標の開発と利用の促進、環境や環境対策の課題についての効果的な情報提供のメカニズムの確立等について加盟各国に勧告している(1-3-2表)。


(イ)計画的な対策の必要性
 環境問題に関しては、時間的な面で短期から長期まで様々な問題があり、広がりの面でも地域的な問題から地球規模の問題まで、また、種類の面でも公害から自然環境の保全まで多様となっており、さらに相互に複雑に関連している。したがって、環境対策については、個別の問題に対処療法的に対応していくのではなく、統一的な視点で計画的に実施していくことが求められている。
 このために、先進各国で、環境政策の方向性を総合的に示す計画や戦略が定められている(1-3-3表)。


 わが国でも、平成5年に制定された環境基本法と平成6年に策定された環境基本計画がこの役割を果たしている。
 環境基本計画では、「循環」、「共生」の概念、さらにこれらを展開していくための「参加」、「国際的取組」の概念を長期的目標として掲げ、これら目標の達成に向けた、21世紀初頭までの施策の方向が定められている。計画の進捗状況については、毎年点検が行われており、さらに、計画策定後5年を経過したことを受けて、現在、計画の見直しが行われている。新たな環境基本計画においては、現在の環境基本計画が個別具体的な施策を統一的な方針に基づき総合的かつ体系的に推進するという点では必ずしも十分に機能していない状況を踏まえ、持続可能な経済社会の具体像とそこに至る道筋を具体的に描くことを主要なテーマとし、長期的な目標と個別の具体的な施策との関係を分かりやすく示すために、目標期間の具体化、施策間の優先順位付け等の工夫を行うことが検討されている。
 また、環境政策全体を計画的に進めていく取組に加え、個別の環境問題についても、個々の施策をまとめ、計画的に推進していくための枠組み作りが必要である。
(ウ)ポリシーミックスの必要性
 環境政策の手法としては、規制的手法、経済的手法、環境影響評価、環境の保全のための施設整備、普及啓発等様々なものがある(1-3-1図)。


 わが国では、これまで、環境問題への対策として、主に規制的な手法が使われてきた。規制的な手法は主な発生源が特定されている場合には効果を発するが、いくつかの欠点がある。一つは、行政コストが高いため、小規模な発生源が多数存在する問題については、効率的な対応ができない。二つ目としては、規制の対象となる物質について、それぞれ規制基準を定めることが必要であるが、数万種類が存在する有害化学物質のように、すべての物質について環境や人の健康への影響を解明し、基準を定めるためには膨大な経費と時間がかかるという点である。
 したがって、現在の地球環境問題や生活型公害、化学物質問題等への対応に当たっては、規制的な手法に加えて、経済的措置の導入や企業との自主的な取組を促すための協定などの様々な施策を問題の性質に応じて適切に組み合わせることが重要である。
 経済的手法においては、?税・課徴金、?排出量取引、?預託金払戻制度(デポジット・リファンド制)、?補助金等の手法がある。OECD報告書(1997年)によると、1990年からOECD諸国では経済的手法の利用が大きく広がってきており、中でも環境税の利用は、環境指向型税制改革を背景にして、支持を高めつつあるとされている。環境指向型税制改革とは、OECDによると?既存のゆがみのある補助金及び税制度の廃止や部分的な修正、?既存の税の再構築、?新しい環境に係る税の導入から成り立っており、実際には、必要に応じて組み合わせて使われている。
 これまでのわが国の環境対策は規制的手法が中心となっており、経済的手法は、補助金等以外はなじみがなかった。しかし、近年、国民や企業の間でも経済的手法についての認識が進んでいる。
 環境関連税制については、平成11年12月に政府の税制調査会がとりまとめた「平成12年度の税制改正に関する答申」の中で、環境への負荷により生ずる社会的費用を、製品やサービスの価格等に反映させることなどにより、環境負荷の原因者に対して負担を求めるという原則を基本としつつ、今後の税制のあり方の検討の中で、環境関連税制についても、国内外における議論の進展を注視しつつ、環境施策全体を視野に入れた幅広い観点から検討を行う旨が述べられている。
 近年、先進各国で経済的手法の導入が進んでいる分野としては、地球温暖化問題があげられる。この問題については、主な原因である二酸化炭素の発生源があらゆる経済活動に起因しているため、経済的手法の適用が有効であると考えられている。例えば、炭素含有量に応じてエネルギーに課税して二酸化炭素の排出を削減しようとするいわゆる「炭素税」が1990年代初頭に北欧4か国にオランダを加えた5か国で導入されている。このほか、地球温暖化対策としてのエネルギーに対する追加的な課税として、1999年(平成11年)にドイツとイタリアが導入を行い、イギリスにおいては、2001年(平成13年)の導入を内容とする法案が議会で審議中(2000年(平成12年)3月現在)であり、フランスも2001年1月の導入について2000年1月に閣議決定を行っている(1-3-4表)。


 具体的な導入に当たっては、税の導入だけでなく、デンマークのように政府と協定を結び、削減を約束した企業に対しては、税の軽減措置を図っているケースやオランダやドイツのようにさらに二酸化炭素削減効果を高めるため、省エネルギー設備投資への税の軽減措置や補助金と組み合せたケースが見られる。
 また、京都議定書に規定された温室効果ガスの排出量取引についての検討がいくつかの国で進められている。産業界から政府に排出量取引制度提案がなされたノルウェーや、官民共同で提案がなされたイギリスのように、その検討の場は政府によるものにとどまらない。アメリカでも、検討が進められており、1999年に自発的削減に対するクレジット法が議員提案により連邦議会に出された。また、EU委員会は、2005年までにEU域内での温室効果ガスの排出量取引制度を構築する案を作成し、現在加盟国からの意見を求めている。これらの動きは、京都議定書の目標達成のために各国内で早期に排出量取引の枠組みを構築し経験を積むことが、効率的かつ効果的な国内政策措置の一つとして有効であるとともに、2008年から開始される議定書に基づく国際的な排出量取引制度に迅速に対応するための鍵となるとの認識が、国と企業それぞれに共通する動機となっていると考えられる。
 このように、いくつかの国においては、早期に温暖化対策を講じることが必要であるとの考え方に基づき、経済的手法の活用を重視した様々な政策手法の検討が進められている。
 具体的な対策ではなく、対策の枠組みを定め、対策の内容については事業者の自主的な取組を求める手法についても導入が始まっている。例えば、化学物質対策の分野では、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)という新たな手法があり、わが国では平成11年7月に成立した「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」において制度化が図られている。これは、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的として、従来の規制的措置とは別に、新たな手法として導入されたものである。具体的には、化学物質を取り扱っている事業者が自ら環境中に排出する当該化学物質の量や、その事業所の外に搬出される廃棄物に含まれて移動する化学物質の量を把握して行政庁に報告し、事業者は、それらの化学物質の自主的な管理の改善を図り、行政庁は報告された化学物質の排出量等の情報をとりまとめて自らあるいはその情報に関心がある者が活用できるようにする仕組みである。
 このほかにも、企業や国民の自主的な取組を促進するための措置が積極的に導入されている。
 企業との協定による方法については、わが国では以前より、地方公共団体と企業とが締結する公害防止協定の事例があり、各国でもすでに取り組んでいる。例えば、オランダでは、企業や業界団体が政府との間で1990年(平成2年)から2000年(平成12年)までにエネルギー効率を平均で20%向上させる内容の協定を結んでいる。施策の内容については、企業の自主性にまかされている。協定の実効性は、原則として、大規模な設備の設置に関する環境面での許可で担保されており、企業が目標を達成できなかった場合には、許可権者が環境面での許可に際して、エネルギー効率の向上の要請を行うことができる。1998年(平成10年)10月現在で、30の協定が結ばれており、1,200以上の企業が対象となっている。これら企業のエネルギー消費量は産業界エネルギー消費量の約90%を占めている。
 また、企業の自主的な取組の実効性を確保するための措置として、わが国では経団連環境自主行動計画などの産業界の行動計画の進捗状況を審議会において点検している。一方環境会計や環境報告書など企業が自らの環境保全への取組を明らかにすることにより、一層効率的な取組を図る施策や環境教育や普及啓発活動についても、施策の有効性が指摘されている。
 わが国でも、より効率的な対策の実施に向け、環境問題の性質に応じ、それぞれの施策手法の特性を活かした組合せの方策、すなわちポリシーミックスのあり方の検討が重要な課題となっている。
(エ)環境政策の効果の把握
 平成11年4月に定められた中央省庁等改革の推進に関する方針では、改革後の各府省において、?新規に開始しようとする施策に対して事前の評価を行うとともに、?一定期間経過して事業等が未着手又は未了のもの、?新規に開始した制度等で一定期間を経過したもの、?社会的状況の急激な変化等により見直しが必要とされるものについて、重点的に政策評価を実施することを定めている。現在、政策評価の方法については、政府全体において検討されているが、環境政策に関しても、適切な効果の把握を含めた評価方法について詳細な検討が課題となっている。
(オ)行政と民間のパートナーシップの強化の必要性
 これまでの行政と民間の関係では、行政から民間へという一方向の情報の流れが大きい状況にあったが、情報公開法の制定や情報化の進展により、民間から行政への情報の流れが増加している。例えば、現在、政府における決定に関して、一般国民の意見を聞く制度を設けている例が急増している。また、平成11年4月より規制、基準の設定などに関しては、原案を一般に公開しパブリック・コメントを求める手続きが開始されている。これらの手続きに関しては、インターネットのホームページが活用されるなど情報化の進展により、より幅広い範囲での意見募集が可能となっている。
 また、平成13年4月からの情報公開法の施行により、国民が行政情報を得る機会が増加する。地方公共団体においては、すでに情報公開条例を制定している団体が多く、条例に基づいた環境関連の情報提供が行われている。
 これらの仕組みにより、国民の意見を一層反映した行政が進められるものと考えられる。欧米各国においても、政策決定において、行政と国民、事業者、NGOとの間でのパートナーシップの形成が進んでおり、例えば、イギリスでは環境に関する総合的な計画である「持続可能な開発イギリス戦略」を策定するために、草案作成段階でEC委員会の協議等と併せてNGOとも協議を重ねている。その後、草案については、環境団体や企業団体、地方公共団体、大学、研究機関、政府関係者等が参加するセミナーにおいても検討されたほか、たたき台については、6,000以上の組織や個人に配布され、500件以上の回答が得られている。
 また、個別の環境対策の分野においても、行政と民間のパートナーシップの強化が求められている。例えば、技術開発などにおいて、産業界や大学との連携の重要性が指摘されているが、環境関連技術の開発に関しても、環境対策を実施する側と環境関連技術を開発する側との情報交換はますます重要になっている。
(カ)地域の特性を活かした施策の推進
 わが国の環境行政の歴史の中で、地方公共団体が先駆的な施策を実施した例は多く、環境政策を牽引したと評価されている。さらに、地方分権が進む中で、地方公共団体が果たす役割が大きくなっている。
 現在も、各地方公共団体では、それぞれ地域の特性に応じた先進的な施策が実施されている。具体的には、(2)で詳しく述べるように、計画の策定時点において環境への影響を評価する制度が川崎市などで実施されており、東京都でも予定されている。なお、地方分権一括法により地方公共団体の課税自主権を尊重する観点から、法定外普通税についての許可制を国の同意を要する協議制とし、協議の範囲を縮減するとともに、「住民の受益と負担の関係が明確になり、また、課税の選択の幅を広げることにつながる」との趣旨で法定外目的税が創設されたことを受け、環境に関連する法定外税の検討に着手している事例が見られる。例えば、三重県で産業廃棄物埋立て税が検討されている。
 また、上越市では、企業や市民の税負担について、環境面に配慮しているかどうかを指標として差を設ける制度の検討が開始されることとなっている。
 自動車による大気汚染対策としては、地方公共団体において様々な施策が実施されており、東京都においてはロードプライシングやディーゼル車のディーゼル微粒子除去装置(DPF)の装着義務化等を始めとする様々な施策が提案されているほか、各地でパーク・アンド・ライド及び環境キップや環境定期券などのバス、列車料金の特定日の割引制度等が実施されている。さらに、自転車や路面電車等環境負荷の少ない交通手段を中心とした街づくりを進めている地方公共団体も多い。



(2)他目的の施策や事業へ環境配慮を組み込む

ア 他目的の施策や事業に関する方針転換の動き
 現在、従来の施策について、環境保全の観点から、施策の方針を転換する動きが加速している。
 例えば、建設省道路審議会では、平成11年11月に「地球温暖化防止のための今後の道路政策について─未来へ引き継ぐ環境のための政策転換─」との答申を行い、地球温暖化問題に対処していくために、従来の自動車等の交通需要に対応した、インフラとしての道路の整備という考え方を超えて地球環境への負荷の少ない道路利用への転換とよりよい環境創出を目指して道路政策を展開する旨明らかにした。
 また、廃棄物行政についても、現在の生活環境の保全及び公衆衛生の向上を主な目的とした行政のあり方から、広く環境の保全を図るための行政へと転換を見せている。
 諸外国では、施策の必要性と環境への影響を比較考量して、施策の見直しが行われる例が増加している。例えば、アメリカ内務省では、同省所管の事業について、ダムの建設費用と比較して農業用水や電力などの利益が少なく、土壌の塩類集積、漁業への影響等があると判断し、新規のダムの建設を中止したほか、不要となったダムの取り壊しを進めている事例もある。
 このように、環境保全以外を目的とした施策や事業の方針が大きく転換した背景には、環境問題の深刻化に加え、環境問題に対する国民の認識の高まりがあると考えられる。

イ 他の目的の施策や事業における環境配慮
 2(2)における行政のグリーン化に関するOECDの勧告にも示されているように、行政の様々な意思決定は、環境に対して直接的、間接的な影響を及ぼす。このため、意思決定に際しては、環境への影響をあらかじめ検討することが重要であるとの認識が高まっている。1995年に制定された環境基本法でも、第19条において環境に影響を及ぼすと認められる施策の策定及び実施に当たっては、環境の保全に配慮しなければならない旨規定されている。
 道路やダム等の環境に大きな影響を与える開発事業の実施に当たって、あらかじめ、環境に与える影響を調査、予測、評価し、必要な対策を講じるため、わが国では、平成11年6月、環境影響評価法が施行された。これにより、法律に基づく環境アセスメント制度が本格的に始まり、大規模な公共事業が対象となっている。今後はこの制度を的確に運用し、環境影響を回避・低減していくことが重要である。
 しかし、個別の事業実施段階での環境影響評価には、より上位の政策や計画の段階で事実上事業の実施が決定されている場合がある。また、複数の事業の累積的な影響の評価が難しいといった構造的な問題が指摘されている。さらに、政策や計画の立案といった意思決定に際して、環境への影響を検討する必要性があることが国際的に指摘されている。
 こうしたことから国際的にも、政策(policy)、計画(plan)、プログラム(program)の段階から環境アセスメントを行う戦略的環境アセスメント(SEA)の制度を導入する機運が高まっている。
 アメリカでは、すでに1970年代より国家環境政策法「NEPA」に基づき、「人間をとりまく環境の質に重大な影響を与える立法の提案、その他の主要な連邦政府の行為に関するすべての勧告ないし報告」について環境影響評価を行うことが定められている。具体的には、?連邦政府が融資、援助、実施、承認を行う事業、?連邦政府が作成する規則、規制、計画、政策及び手続き、?法律の提案の3種類の行為が対象となり、スクリーニングを経て絞り込まれたものにつき、環境影響評価書が作成される。
 また、フランスやオランダでは法律で土地利用計画や開発計画に対する環境アセスメントの実施が定められているほか、カナダやイギリスでも閣議決定などで政策や開発計画等に対してアセスメントの実施が義務付けられている。このように諸外国では、計画やプログラム段階での環境影響評価を義務付けている場合が多いが、カナダやオランダのように政策に対しても義務付けている例もある。
 また、欧州共同体(EU)でも検討が進められており、1996年(平成8年)の欧州委員会の提案を踏まえ、2000年3月に欧州理事会が「計画及びプログラムの環境影響の評価に関する指令」の導入を採択した。このため、同指令は、欧州議会での検討を経て、2000年中に決定される見込みである。同指令が決定されると、EU加盟国は、3年以内に一定の計画及びプログラムの策定に際して環境アセスメントを導入することが義務付けられることとなる。
 わが国では、環境影響評価法において港湾計画について環境影響評価を実施することが定められているほか、環境影響評価法の国会の附帯決議において戦略的環境アセスメントについて早急に検討することが求められていることを踏まえ、環境庁においては、学識経験者による研究会を設けて検討が行われている。また、いくつかの地方公共団体で関連した制度が定められている。例えば、東京都では、平成10年6月に都が策定する広域開発計画及び個別計画を対象とした「総合環境アセスメント制度」を導入することを決定しており、現在、制度の試行を行っている。また、三重県では「三重県環境調整システム推進要項」を平成10年3月に策定し、三重県が実施する開発事業について、計画段階から環境への配慮について行政内部において調整する手続を設けている。
 開発途上国における貧困等の諸問題への対応に関する支援においても、環境面での配慮が行われる例が増えてきている。また、環境分野のODAのみならず、様々な開発分野や経済協力の形態(ODAやOOF(その他政府資金))等、途上国協力全体に持続可能な開発の視点を導入することが課題となっており、例えば、国際協力銀行では、国際金融等業務(非ODA業務)においても環境改善プロジェクトのための融資を積極的に取り上げる方針である。




(3)事業者としての行政の活動における環境配慮を進める

 国や地方公共団体は、民間企業と同様に各種の製品やサービスの購入・使用や、建築物の建築・維持管理など、事業者や消費者としての経済活動を行っている。
 通常の経済活動の主体としての国及び地方公共団体の占める位置は大きく、平成10年度におけるわが国の国内総生産(GDP)において、国と地方公共団体の最終消費支出が占める割合がそれぞれおよそ2.4%、7.6%となっている。このため、国や地方公共団体の通常の活動における環境配慮の観点の組み込みが重要である。

ア 国の率先実行計画の取組状況
 国については、経済活動に際して環境保全に関する行動を実施した場合に期待される環境負荷の低減が大きいことや地方公共団体や事業者、国民の自主的・積極的な行動を求めるため、平成7年6月に「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画(率先実行計画)」が閣議決定された。同計画においては、用紙類の使用量など具体的な数量を伴った九つの目標の他、幅広い分野において国が取り組むべき事項が定められている。また、平成10年3月には、国の物品等の調達に当たって参考とするために、「物品等の環境負荷の少ない仕様、材質等に関する推奨リスト」として紙類、OA機器、公用車等について環境への配慮の方針及び個別製品リストにおいて示すべき環境配慮情報の内容を示した分野別のガイドラインが決定され、同年6月には個別製品リストが公表された。個別製品リストはその後、4回にわたり改訂が行われている。
 率先実行計画の実施状況については、毎年調査が行われ、結果が公表されている。平成10年度の実施状況については、国が調達する環境負荷の低減に資する物品等(環境物品等)のうち用紙類中のバージンパルプの使用量が対平成7年度比で63.9%となり、目標である80%以下となっているほか、事務所の単位面積当たりの上水使用量も88.1%となり、目標である90%以下を達成している。しかし、事務所の単位面積当たりの電気使用量が平成7年度から7.7%の増加を見せ、各事務所から排出される廃棄物量も14.1%も増加するなど、目標達成に向けて大幅な努力が必要な項目がある。また、公用車に占める低公害車の割合も0.87%と目標値である10%を大きく下回っている。
 実績が上がらない理由については、低公害車については、燃料供給施設の整備が十分でないことや車種が限られていること等により導入が困難であったこと、電気使用量については、OA機器の急速な普及に対策が追いつかなかったこと、昼休みの一斉消灯やパソコン等の電源をこまめに切るなどの比較的容易な取組が徹底されていないこと等が指摘されている。また、計画において目標が政府全体を一本として設定されている点、平成12年度の最終的な目標数値のみが示されている点及び推進・点検体制が不十分であるという点も指摘されている。さらに、環境物品等の購入に関して、強制力のある方針や規則がない点も原因と考えられる。このため、国等に環境物品等の購入を義務付けることなどを内容とする法的措置が多方面から求められている。
 率先実行計画の目標年度が平成12年度であることに鑑みると、このような問題点への対応や計画の実施状況についての進行管理の強化など一層の取組の促進が必要となっている。



イ 地方における取組状況
 地方公共団体においても率先実行計画の策定が進んでおり、平成10年3月末の策定団体数は、45都道府県、11政令指定都市、139区市町村となっている。また、各地方公共団体では様々な先進的な取組が行われている。
 平成11年9月から10月にかけて全国3,299の地方公共団体に対し、環境保全型製品の購入(グリーン購入)の実施状況に関しアンケート調査が行われた。
 この結果、グリーン購入に取り組む意義については、80%の団体が「非常に意義があり、積極的に推進すべき」と考えているのにもかかわらず、実際の取組状況については、都道府県や政令市では組織的に取り組んでいる団体の割合が全体の81%と高いが、区市では28%、町村では8%と進んでいない状況にあることが明らかになった。
 一方、神奈川県を始めとして、組織における環境管理体制を構築している地方公共団体の数が増加している(1-3-5図)。



ウ 今後の課題
 事業者としての国や地方公共団体の環境配慮の取組は、環境対策を進めていく上で効果的であり、例えば、地球温暖化対策の推進に関する法律においても、地方公共団体が自らの事務及び事業に関する実行計画を策定し、実施状況を公表することが義務づけられている。しかし、これまでに概観したように、実際の取組状況はまだ十分とはいい難い。
 このため、明確かつ定量的な目標の設定や効果的なフォローアップの実施に加え、環境管理システムの構築等の枠組み面での改善、さらには、制度面、運用面で障害となっている事項を明らかにし、取り除くための努力が課題となっている。

 以上、行政のグリーン化の方法と現状について概観した。
 新たな世紀において、持続可能な社会を構築するために行政が果たすべき役割についての期待は大きく、例えば、平成10年に総理府が行った「社会意識に関する世論調査」において、政府に対して力を入れて欲しい事項として、28項目中自然環境の保護が回答中37.2%を占めて(複数回答:以下同じ。)6位となっており、生活環境の整備が20%で13位と高い位置を占めている。しかし、同調査において、現在の日本の状況についての認識では、自然環境や生活環境が良い方向に向かっているという回答はそれぞれ7.4%と6.9%であるのに対し、悪い方向に向かっているという回答では、自然環境で43.5%、生活環境で18.8%と高くなっている。
 実際に、地球温暖化問題や廃棄物問題など、問題に対応が追いついていない場合も多い。
わが国では、既存の施策に明示的に環境配慮が組み込まれる場合が増加するなど、行政のグリーン化を進める動きも見られるが、今後、一層、行政に対して変動する環境の状況及び社会経済状況に応じた柔軟かつ機動的な対応が求められる。

水俣病に関する社会科学的研究会報告書「水俣病の悲劇を繰り返さないために」

 水俣病は、公害問題の原点といわれており、発生から原因の究明までに非常に長い時間が経過し、地域における深刻な社会紛争を引き起こした問題である。平成7年に全面的な解決を図るために閣議決定された「水俣病対策について」と同時に閣議決定された内閣総理大臣談話では、「水俣病の悲劇を教訓として謙虚に学ぶ」旨述べられており、国立水俣病総合研究センターでは、この談話の趣旨に基づき、水俣病発見初期の治療や研究に携わった医師、研究者、長年にわたり水俣病問題について研究してきた研究者、現代の環境問題の研究者等により構成された「水俣病に関する社会科学的研究会」を発足させた。同研究会では、水俣病が拡大した経緯について社会科学的観点から整理・考察し、平成11年12月に「水俣病の悲劇を繰り返さないために」と題した報告書を公表した。
 同報告書では、水俣病がなぜ起こり、なぜ拡大したのか、また、なぜ発見から政府による公式見解まで12年間もかかったのか。その時々における行政決断の遅れや研究者、地域住民、原因企業等の対応を検証し、水俣病の経験から得られた貴重な教訓を明らかにしている。初期対応や原因究明、対策等20にわたる論点について具体的な分析を行い、企業の社会的責任に加え、国の役割、省庁間の関係、県や地元市町村の役割、研究者の役割、マスコミの役割等について教訓を引き出すとともに以下の4点を総括的な教訓としている。
1.現場を直接見て、住民から真摯に聞き取ることから始める。
2.健康を守ることを優先し、原因の確からしさに応じた行政的決断が求められる。
3.様々な場面における情報の収集と開示が必要である。
4.企業には社会的責任がある。

金沢市におけるコミュニティバスやパーク・アンド・ライド等の交通対策

 金沢市では、市街地の幹線道路の渋滞が問題となる一方、中心市街地では狭い道路が多く大型バスが入れないため、バス路線がないといった公共交通空白地域を抱えている。このため、バス利用の促進を中心とした交通施策を実施し、高齢者や障害者のための交通機関の確保や自動車交通の削減等を図る、環境にやさしい交通の実現を目指している。
 具体的には、高齢者にも利用しやすい小型ノンステップバスが細街路を中心に巡回する「金沢ふらっとバス」や郊外の駐車場と市内をバスで結ぶパーク・アンド・ライドシステムとしての「K. park」、路線バスへの低公害車車両の導入等を進めるとともに、自転車の利用を促進するため、鉄道駅やバス停付近での駐輪場の整備を行い、サイクル・アンド・ライドの拡大を図っている。
 コミュニティバスの利用状況については、60歳以上が43%を占め、利用目的は、買い物が1位となるなど、高齢者が日常的に利用している状況が窺える。
金沢市では、これら施策を順次拡大し、「人・まち・環境にやさしいまちづくり」を目指すこととしている。

オランダにおける廃棄物処理計画に関するSEAの実施例

 オランダでは、有害物質を含まない廃棄物に関する処理計画を住宅・国土計画・環境省、州際協議会、オランダ自治体連合の3者の協定に基づく廃棄物協議機構が作成し、3年ごとに改訂することとなっている。同計画には、実現すべき廃棄物容量の規模、処理能力と廃棄物発生量との関係、投棄場所を選定する際の基礎的条件等が定められることとなっている。この計画について、自主的な環境影響評価が実施されており、ここでは、第1次廃棄物処理10か年計画の策定における検討の状況をとりあげる。
 計画では、以下のとおり、廃棄物の最終処理量の予測が行われ、廃棄物の処理方法について、現行の政策に基づく「政策シナリオ」のほか、代替案が3種類設定され、それぞれについて評価が行われている。さらに、検討のため、参考案も設定された。
? 政策シナリオ(自然への投棄を最小限にし、焼却するケース)
・可燃性廃棄物の投棄は禁止し、すべて焼却する。
・すでに立案されている分別収集は継続し、有機廃棄物は分別処理する。
? 代替案?(焼却処理を最小限に抑制し、投棄するケース)
・焼却容量の規模を現在のままに保ち、その他の廃棄物は投棄する。
・事前分別の容量は拡張しない。
? 代替案?(投棄を最小限、事前分別を最大限とするケース)
・可燃性廃棄物の投棄は禁止し、RDF化して焼却する。
・事前分別を最大限実施し、有機性の残存物は酵素分解し、可燃性の残存物は焼却し、不燃性の残存物は投棄する。
? 代替案?(焼却処理を最小限に、事前分別は最大限とするケース)
・焼却容量の規模を現在のままに保ち、その他の廃棄物は投棄する。
・事前分別を最大限実施し、有機性の残存物は酵素分解し、その他は投棄する。
? 参考案(事前分別を止め、廃棄物はすべて焼却するケース)
 この結果、表2のように環境負荷の予測計算値が推計された。一般的な廃棄物処理のガイドラインでは、最少の焼却と最大の事前分別と酵素分解の組合せが環境面から最もよいとされており、代替案?がこの方向に沿っている。しかし、この案では、廃棄物の投棄量が増大し、また焼却に伴うエネルギー回収量がなく、むしろマイナスになるというデメリットがある。
 結果としては、代替案?が政策シナリオより環境保護の観点から有利であると評価されたが、大規模の処理施設の廃棄物処理能力や技術的な経験が十分でないため、短期的には政策シナリオに基づき実施し、長期的には代替案?が実施できる状況を作っていくことが選択された。
オランダでは、この後、第2次廃棄物処理10カ年計画についてもライフサイクルアセスメント(LCA)手法を活用した環境影響評価が行われている。


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