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第2節 

2 21世紀の持続的発展に向けた日本の挑戦

(1)環境問題から学んだ教訓を活かしていく

 今回の白書は、20世紀における環境問題から学んだ教訓を確認することから出発した昨年の白書に対し、21世紀の新たな潮流を展望しつつ、今後の環境政策と国民一人一人の取組のあり方について論じるものである。このように内容的には対を成す平成11年版の環境白書が拠って立つ基本姿勢を明らかにすることから始めたい。
 昨年の白書では、20世紀における環境行政の歩みを振り返ることを通じ、持続可能性を高めるための環境政策の今後のあり方を探ることとした。さらに、「持続的発展が可能な経済社会は、環境保全を自らの目的として内在化させることで実現する」という基本的な考え方に立脚し、産業部門、国民生活さらに国際社会へとそれぞれ視野を変えて、環境保全上の重要課題を掘り下げ、このような考え方の有効性を確かめることを試みた。
 そこでまず、前回と今回の白書における共通の出発点となる「20世紀の教訓〜新たな世紀の持続的発展に向けた環境メッセージ」を、ここで簡単に再確認する。
 これを受けて、環境価値を重視した合理的な行動規準である「環境合理性」の考え方が経済社会の構成員に定着するとともに、環境配慮を促進する社会の仕組みを強化することが何より重要であることを述べた。これが経済社会における「環境保全の内在化(グリーン化)」につながり、その結果として経済社会の各部門における「環境効率性」が高まり、持続的発展が可能な経済社会が実現できるとした。
 そして、来るべき21世紀は、わが国が20世紀に環境問題から学んだ教訓を真摯に受け止め、他国に先駆けて「環境立国」として国際的な地歩を固め、地球全体の持続的発展に向け役割を果たしていくための極めて重要な世紀であることを述べた。

(2)「環境の世紀」の実現のためには足元からの変革が求められている

 この章においては、20世紀における地球環境のマクロ的変貌を振り返り、将来予測の示す厳しい現実を明らかにした。人類社会の持続可能性を考えるとき、現在が地球環境の劣化に歯止めをかけるべき転換期とならなければいけない。これがまさに地球環境にとっての2000年の意味である。21世紀の持続的発展への明るい展望を拓くためには、もとより人類全体の努力が必要であるが、日本が率先実行し国際社会をリードする役割を担うことが求められている。持続可能性を高める「環境の世紀」を確固たるものにするため、行政、国民、事業者等それぞれの活動主体が足元からの変革を着実に進めていかなければならない。
 これを受けて、第1章では、21世紀に予想される内外の構造変化を見据えつつ、今後の環境対策の課題と方向性について論じたい。そうした上で、環境保全への配慮を組み込んだ経済社会のあり方とその実現のために政策主体が果たすべき役割を考察する。これにより、環境の世紀に向けた日本の環境政策の目指すべき方向を明らかにしたい。
 これに続き、第2章では、経済社会の全体像を論じるだけでは見えにくい、国民一人一人の視点から捉えた新しいライフスタイルの具体像を模索したい。さらに、個人の意識や行動の変化が関連する企業の活動や行政施策に影響力を持ち、経済社会を持続可能なものに変革させる可能性について考察する。これにより、環境の世紀に求められる新しい行動原理の意味するところを明らかにしたい。
 さらに、第3章では、わが国の環境に関する基礎データや環境問題への対応状況など広く環境の現状について、分野ごとに整理しつつ、21世紀に引き継ぐことになる日本の環境の全容を明らかにする。



20世紀の教訓〜新たな世紀の持続的発展に向けた環境メッセージ

1 環境問題から得た教訓を共有し、自省とともに受け継いでいく
 明治期の鉱毒事件など、振り返ってみると警鐘をならす声が存在していた場合がある。にも関わらず当時一部の利益を優先させた判断により、対策が遅れ、あるいは不十分であったりしたために、二度と戻らなかった人命や健康があった。こうした過ちを繰り返さないよう、過去の原因などを教訓・経験として共有していく必要があろう。
2 環境問題の複雑な原因構造に適合した根元的な対策を複合的に実施していく
 多数者の日々の生活と関わりの深いところで発生する負荷の集積がその原因となるような都市・生活型の公害には、個別の発生源の環境負荷を削減する従来型の対策手法が必ずしも奏功しなかった。負荷がいよいよ発生する「汚染の出口」のみに着目するのではなく、その発生の原因に着目した根治療法を発展させていく必要がある。
3 国際的なイニシアティブの発揮と、適切な環境協力の推進により、望ましい国際秩序の形成に尽力していく
 地球環境問題は、先進国と途上国、また各国の個別の事情から、時に利害が真っ向から対立することがあり、条約等の策定・遵守に際して困難に直面する場合がある。こういう時にこそ、わが国は、アジアの一員であること、経済的に大規模な活動を営む国であることなどの特性を活かし、積極的な役割を果たしていくべきである。
4 生物多様性という概念で自然環境を保全していく
 珍しいもの、すぐれたもの、美しいもの、といった価値を基準にしてそれらを守るということだけでは不十分である。「生物の多様性」という概念で自然環境保全の問題を捉えるべきであり、そのためには、各レベルで多様性の保全に向けた取組が重要である。
5 人間の与える負荷と自然環境の許容量を踏まえた共生を図っていく
 人間活動が与える自然環境への負荷を事前に適切に予測・評価することが必要であり、その際、我々がこれまで知り得た自然環境の知識には限界があることを認識し、慎重な対応が心掛けられるべきである。また、人間と自然との共生の確保には、体験学習などを通じて自然の大切さを学ぶことが重要であるが、その場合も環境の許容量を踏まえた自然とのふれあいを図ることが必要である。
6 最適生産・最適消費・最少廃棄型の経済社会への変革を図っていく
 大量生産という20世紀の画期的な生産方法も大量消費そして大量廃棄という問題をもたらし、経済社会の持続可能性にとっての制約となりつつある。循環を基調とし、持続的に発展することのできる社会のために、従来の生産、消費、廃棄の在り方自体を見直していく必要がある。
7 各主体間の適切な役割分担と適切な参加により環境保全の内在化を進めていく
 環境対策は、少数特定の主体が担えば果たされるものではない。社会全体で享受されることになる環境の恵みを重視して、様々な主体が合理的な判断を形成し、相互の連携をとって適切な役割分担と積極的な参加の下に環境問題への対策を講じていくことが重要である。このため、行政による情報提供、環境教育の推進が有効である。
8 将来像を踏まえて環境政策の方向を明確に示していく
 科学的な技術評価に基づいて、政策主体が明確な意思表示をすることにより、技術革新など対策の進捗が期待できる。
9 未然防止や早めの対策を心がけていく
 問題が認識され、対策が講じられ、効果が現れるまでに、時間がかかり、場合によっては手遅れ(健康への影響、動植物の絶滅など)になってしまう。したがって、未然防止や早期の対策が効果的であり、そのための国民的な合意や国際的な合意の形成が重要である。環境問題は、その発生、広がり、影響等に関する予測が困難である。環境の問題は、相互に関連し全体がつながった問題であり広い視野を持って考えていく必要がある。
10 統一的な責任主体の下で計画的な施策の推進を心掛け、目標の設定と事後評価を適切に行っていく
 環境行政を統一的に実施していく組織の必要性が認識された。また、環境保全に関する政策は計画的に講じられるべきである。政策の達成度合や評価という点から、環境行政の目標はできる限り定量的であることが望ましく、目標達成の可否を客観的にチェックすることが重要である。関連分野の政策に関しても、十分環境に配慮して実施される必要がある。




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