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第2節 

2 「モノ」づくりを中心とした産業における取組

 まず、最も多くの業種を含む「モノ」づくりを中心とした産業活動の取組から論じることとしたい。「モノ」づくりを中心とした産業としては、鉄鋼等の素材産業、家電、自動車等の組立産業、住宅・建設業、運輸・流通業、さらには、モノを活用してサービスを提供する産業等を含めてトータルな形で整理することとする。
(1) 環境経営の取組姿勢
 事業活動において環境保全の取組を内在化していくためには、製品やサービスも含めて環境問題への対応が事業者の経営戦略、事業戦略の中に、徐々に具体化されていくことが必要である。そこでまず「モノ」づくりを中心とした産業活動を論ずるに当たって、事業者の環境への対応の基本的な取組姿勢としては以下のようなものが考えられる。
 まず、第1のタイプは、政府の規制や関係者の要望等を受け、受動的な形で環境保全に関する取組を行うものである。(規制対応型)
 第2のタイプは、環境対策を事業活動のリスク対応として認識し、事業者内部の環境管理体制の整備を行い、予防的な取組を行うものである。(予防的対応型)
 第3のタイプは、環境保全を事業者の経営戦略またはビジネスチャンスとして捉え、エコビジネスを展開したり、より環境の負荷の少ない製品の製造の展開を図っていくものである。(機会追求型)
 第4のタイプは、環境保全は企業の社会的責任でありかつ、持続可能な企業経営のために必要不可欠なことであると捉え、事業活動全体における環境負荷の削減を図っていくものである。また、事業活動の持続可能性の観点から他の主体との連携を図ったり生産する製品の転換、業態の変換等を行う場合もある。(持続発展型)
 このような事業者の対応は、上記4つのどれか一つに割り切れるものではなく、それぞれの局面で対応の取組姿勢は異なってくるものであろう。ただ、これまでの産業活動の歴史を振り返ってみると、第1のタイプから第4のタイプへ向かう時系列的な進化を経るものが多く近年はそれが並列的に現れるという傾向が伺える。そのいずれの対応であっても事業活動の経済効率性と環境保全の取組とが両立していく形で進められることが必要であろう。
(2) モノづくりにおける環境配慮を進める取組
 次に事業活動におけるライフサイクルの各段階で行うことが望ましい具体的な取組について考察する。
ア 原材料調達段階
 まず、環境負荷の少ない原材料調達に関しては、採取における環境配慮や近隣地域における原料の調達等の取組が挙げられる。環境庁が平成10年度に実施した環境にやさしい企業行動調査(以下、「企業行動調査」という)の結果(第1-2-1図)では、まだ取組が遅れている部分と言えよう。
 また、原材料の環境・人体への影響やリサイクル可能性やLCAの評価を行うことも重要である。
イ 製造段階
 製造段階における取組としては、原材料の使用量の削減、省エネ・省資源の取組、再生資源の積極的利用によるリサイクルの促進や汚染物質の少ない製造工程への転換、廃棄物の減量等環境保全コストの削減に資する取組が挙げられる。これらはかなりの事業所で取り組まれているが、部品や材料の少数化やクリーン燃料への転換等の取組は遅れている。これらのほか、受注生産の導入、不良品率の割合の減少(品質管理と工程管理)や製造段階の環境負荷の低減に資する技術開発やその活用を図っていくことも重要である。
ウ 流通・販売段階
 流通・販売段階における取組としては、容器包装の減量化、環境負荷の少ない包装材料等の利用や物流の効率化に資する取組が挙げられる。これらの取組状況は第1-2-2図のとおりである。低公害車の使用、運転方法の工夫は年々増加傾向にある。
 最近の取組事例としては、流通業におけるパレットの再使用、元売り各社相互間による流通効率化(相互融通)による総輸送量の削減、運輸業界によるアイドリング抑制の強化(配達員の配達時でのキーの携帯の義務づけ)等がなされている。
エ 製品利用段階
 製品の利用段階の取組としては、長期利用を進めるため、メンテナンス体制の整備、製品のバージョンアップ体制の整備や中古市場の確立等の取組が重要であると考えられる。これに関してある家電メーカーでは中古パソコンの売買情報交換のためのホームページを開設するとともに中古品を検査、クリーニング等をした上で3か月間の保証をつける有償サービス等を始めている。
オ 廃棄・リサイクル段階
 事業活動に伴って排出される廃棄物については、自ら責任をもって、排出する廃棄物の性状を把握し、その性状に応じたリサイクルや適正処理を確保するため、分別、加工・処理、委託先への情報の伝達等を行うこと等が挙げられる。また、一定の製品廃棄物については、その製造業者等が引取り、リサイクルを行うといった取組も有効である。製造業者等による引取り・リサイクルに関する取組の例としては、平成10年度の特定家庭用機器再商品化法(通称「家電リサイクル法」)の制定を受け、家電製品の小売業者、製造業者等により回収ルートやリサイクル体制の整備などに関する検討、再商品化手法の実証実験等が進められている。


(3) ライフサイクル全体を見通した「モノ」づくり
ア 「モノ」づくりにおける「環境設計」の必要性
 以上、ライフサイクルの各段階におけるグリーン化の取組について考察したが、更に環境効率性を高めるためには、各段階それぞれの取組に加え、ライフサイクルの全体を見通した上で製品設計や生産システムが構築されることが必要であろう。ライフサイクル全体を見通した製品製造に関しては、オランダの公的機関とUNEPによって「エコデザイン」という概念が開発され、それを実現するための以下の8つの方法を提案されている。
? 新しい製品コンセプトの開発
? 環境負荷の少ない材料の選択
? 材料使用量の削減
? 最適生産技術の適用
? 流通の効率化
? 使用時の環境影響の軽減
? 寿命の延長
? 使用後の最適処理のシステム化
 このエコデザインを進める仕組みとして、製品開発プロセス段階にエコデザインを内在化すること、環境への負荷が少ないだけでなく、簡単で柔軟な使い勝手の良い機能の高い競争力のある製品として作ることを目標とすること、そのためには、製品開発と環境関係のスタッフさらには、健康や安全関係のスタッフ間の連携を確立することが提案されている。
 また、国際標準化機構(ISO)においてはこのようなエコデザインの導入を支援する「製品規格に環境側面を導入するための指針」が平成9年に発効(ISO)され、平成10年に工業規格としても発効している。
 さらに、人工物工学の見地から提唱されているインバース・マニュファクチュアリングについて紹介したい。
 資源循環型の新しい生産システムの構築へ向けた「インバース・マニュファクチュアリング」の構想は、東京大学の提唱により多様な分野で研究が始められ、平成8年末には産官学の共同による「インバース・マニュファクチュアリング・フォーラム」が発足している。インバース・マニュファクチュアリングは、「逆工場」とも呼ばれ、リサイクル工程から発想して生産とリサイクルを一貫させた環境対応のモノづくりを目的としたものであり、これが目指す製品ライフサイクルは以下のとおりである(第1-2-4図参照)。
? 元の部品と同質のモノに戻す閉じたループによる循環型製品のライフサイクルの実現
? 循環型製品のライフサイクルの実現に当たっては、
・ 製品を長寿命化する(アップグレードをさせる)メンテナンス
・ 補修・部品交換などによる製品の再生
・ 部品の別の製品へのリユース
 などを中心とした「小さな」閉じたループの重視
? 「量的充足」から「質的充足」への転換
? 社会ストックとしての人工物の存在を前提とし、足りない人工物だけを新たに作る、適量生産のシステム
? ライフサイクル産業への転換
 このようなライフサイクル全体を見通して環境負荷を少なくする製品設計や製造の在り方をここでは、「環境設計」と呼ぶこととし、以下ではこの環境設計について論ずることとしたい。
イ 環境設計の方向性を示すキーワード
 アで紹介した概念や環境効率性、ファクター4・10、ナチュラルステップ等の考え方を参考に環境設計の方向性を示すキーワードを整理したい。
(ア) 物質集約度の低減
 製品の機能を低下させずに製品のライフサイクルにわたる資源利用量を削減することは、環境への負荷を低減させる場合があるとともに、利用等にかかるコストを引き下げる場合がある。
(イ) エネルギー集約度の低減
 製品やサービスのライフサイクルのあらゆる段階でエネルギーが消費される。製品のエネルギー集約度には、原材料を収集して製品化するために必要なエネルギーとそれを消費し、リサイクルし、廃棄・処理するまでに必要なエネルギーが含まれる。生産・消費段階のエネルギー集約度の低減は、ある程度までは生産コストの削減や製品の競争力の向上につながるため取り組みやすいが、リサイクル・廃棄段階まで視野に入れた製品は少ない。インバース・マニュファクチュアリングの取組は、リサイクル段階におけるエネルギー集約度の低減に資するものとして期待される。
(ウ) 有害化学物質の利用・排出の削減
 環境中に排出された有害化学物質には簡単に分解されるものと毒性を保ったまま拡散するものとがあるが、後者のような有害化学物質についてはプロセスのクローズド化といった材料管理の改善や使用量の削減、害の少ない物質への代替等により、その利用や排出の削減や適正な管理を行うことが重要である。
(エ) 製品の耐久性の向上
 製品の耐久性を向上させることは環境効率性を高めるために非常に重要である。耐久性の向上のためには、製品の素材や設計の改良により元来の耐用年数を延ばすこと、メンテナンスや修理により継続利用の可能性を高めることが有効である。このようなメンテナンスや修理のサービスは、新しいビジネスとして注目されている。このような商品販売後におけるサービス事業は、従来の売って終わり型の顧客対応パターンから売った後の顧客サービスを重視していくライフサイクル産業として今後の発展が期待される。また、長期耐用型の製品設計に当たっては、将来の技術開発について確固たる見通しを持ち、長期的視点に立った設計が要求されるが、これは環境保全上の効果だけでなく、製品の付加価値を高めることにもつながるであろう。さらに、耐久性の向上のための取組は、同一所有者による継続利用だけでなく、製品の再使用(所有者の移転を伴った同一物の利用)を進めることにもつながる。一方、エネルギーや資源多消費型の機器については、より物質集約度、エネルギー集約度の高い製品の開発された場合においては、従前の製品の長期利用が必ずしも環境保全上望ましいとは言えない場合があることに留意する必要がある。
(オ) 利用密度の向上
 利用密度の向上とは、共同利用、製品の多機能化、機能ごとに構造を分離するモジュラー構造等による機能拡張等の方法などにより、1つの製品に係る利用の密度を高めることを言う。利用密度の向上により恒常的な環境影響の緩和や抑制を図ることができる。また、利用形態を製品の販売(所有)からレンタル・リースへと転換することによって製品のグレードアップ等の機能拡張の可能性を高め、利用密度の向上を図ることもできる。前述の耐久性の向上も利用密度の向上のための1つの手法ともなり得る。
(カ) 再生可能資源の持続的な利用
 現在の産業活動の基礎を成している化石燃料や鉱物資源等の地下資源は、一旦採掘してしまえば、新たに再生することが困難な資源である。一方、太陽エネルギーやバイオマス資源は再生可能なエネルギー・資源であり(以下、再生可能資源という。)、再生量の範囲内で活用する限りでは枯渇することがない。また、バイオマス等の再生可能資源は、コンポスト化や生分解により環境に負荷の少ない形で環境に還元することができるものである。
 バイオマス資源を一定量活用することは資源の再生産や環境保全の観点から望ましいと言える。つまり、森林等のバイオマス資源は高い二酸化炭素の吸収力を有しているが、森林の吸収力は、成長期に大きく成熟期には低下するため、適切な時期に伐採し活用して若木に代替させていくことが有効である。また、伐採した木材を住宅や家具等の材料として利用し保持することで炭素を閉じ込めておくことができる(第1-2-3図)ほか原材料としての製造時の消費エネルギーは非木質系材料より少ないものとなっている。さらに、燃料として利用することにより(バイオマス発電等)、化石燃料の使用を軽減することが可能である。日本の国土の約7割は森林であり、その蓄積は毎年約7千万m3ずつ増加している。今後も国内の農林業から再生可能資源を持続的に利用することにより、農林業の振興、それに伴う自然環境・国土の保全を図っていく必要がある。


囲み1-2-1 バイオマス資源への期待
 バイオマス資源は、資源の持続可能性だけでなくその用途の多様性からも注目できる。例えば木は図のような多様な用途に用いることが可能である。また、ヨシ等の水生植物は、古来から紙やすだれ等に使用されてきたが、定期的な刈り取りとその利用が水生植物の水質浄化機能を高めるものでもある。さらに原材料の違う住宅建設に伴う二酸化炭素排出量を比較すると、バイオマス資源を用いた木造建築が最も排出量が少ないものとなっている。
 また、従来は非再生資源からしか生産できなかったものを再生資源である植物に生産させる、新たな植物バイオマスの利用方法が期待されている。


(キ) 再使用・リサイクル可能性の向上
 再使用・リサイクルの可能性の向上を通じて、より効率的に社会的コストを軽減しつつ環境負荷の低減を図っていくことが必要である。この際、それぞれのモノの性状や生産・流通・消費形態に応じた対応が必要となるとともに、廃棄物の排出・処理に係る環境負荷のみならず、物流・処理過程等におけるエネルギー消費を通じた二酸化炭素排出等の環境負荷も総合的に評価し、これを低減していくという視点も重要である。再使用可能性の向上に向けた取組としては、材質の強度、修理利便性の向上など設計段階からの取組や回収ルートの整備、中古品市場・不要品交換の場の確立などの取組が挙げられる。またリサイクル可能性の向上に向けた取組としては、リサイクルしやすい原材料の選択や使用原材料の種類や部品点数の削減、同種製品の規格の統一、分解しやすい構造の採用など設計段階での取組や収集・運搬・再生利用のための社会基盤の整備などの取組が挙げられる。
 このようなキーワードを基に、環境設計の在り方を原材料の選択、製品設計、生産システムの3つ観点から具体的に整理してみたい。
(4) ライフサイクルを見通した原材料の選択
 原材料の選択の仕方は、生産、利用、廃棄、リサイクルの方法を規定し、製品製造全体のライフサイクルに大きな影響を与えるものである。
 従って、原材料選択に当たっては、性能、機能の観点に加え、ライフサイクルでの環境負荷の最小化、使用後のリサイクルの最大化という観点から選択されることが望ましい(エコマテリアルの選定)。そのような原材料選択は、(3)で整理した環境設計のキーワードを基に、以下のように整理できよう(第1-2-2表)。


 以上の観点から原材料選択を試みた事例として「アマゾンの畑で採れる自動車」と「地域の再生可能資源の活用、有害化学物質の利用の徹底的削減を目指す住宅造り」を紹介したい。前者は、ドイツの自動車メーカーで、構造体の部分の鉄鋼を除いた内装材の9割を再生可能な天然素材を用いて生産を始めたものである。タイヤには天然ゴム、ヘッドレストにはココナッツ繊維、トラックの天井の内貼りはジュート等が用いられ、軽くて丈夫な、かつリサイクル可能な低負荷型の自動車が生産されている。燃料としても、サトウキビからできたエタノールが用いられている。このような取組の背景には再生可能な資源の活用により自動車利用自体のひいては自動車産業の持続可能性を向上させるという企業戦略がある。また、天然素材を生産する農民の経済力を高めることにもつながっている。後者は木材、煉瓦やタイルに地元北海道産のものを用い、自社製家具や建具などの塗装材にも菜種等の道産の農作物の利用を試みている北海道の住宅メーカーの取組である。このような地域資源の活用は、気候、風土に適した独自の住宅造りを可能にするとともに、輸送の効率性の向上、地域の林業振興にもつながりうる。また、クロスや畳、絨毯やカーテン等についてホルムアルデヒド等の有害化学物質を含むものから、純毛絨毯等害の少ない天然素材への代替を図り、健康と環境保全へのアプローチとなっている。
 一方、このような原材料の選択を進めていくに当たっては、以下のような課題があることに留意することが必要である。
 まず、再生可能資源は、量産が難しいものが多く、従来用いられてきた素材よりもコストが高くなりがちである。また、価格の低減、量産を求めることが、途上国からの輸入を進める利点を持つ一方、プランテーション等のモノカルチャーを進めることにもつながりかねない。さらに、再生可能資源は同水準の品質保持が困難であることが多く、品質表示に係る制度も未整備であることが多い。そこで、当該資源の環境保全上の意義を適切に評価し、品質表示等当該資源の生産と利用を進める社会経済上の仕組みを整えていくことが必要となってこよう。
(5) ライフサイクルを見通した製品設計
 「モノ」づくりの製品設計に当たっては、製品の機能面だけでなく、製品の製造、使用、廃棄、リサイクル等のライフサイクルにわたって効率的な資源・エネルギー利用と環境負荷の削減がなされるように配慮されることが望ましい。
 (3)で紹介した環境設計のキーワードに沿った製品設計としては、以下のようなものが挙げられる。(第1-2-3表)


 以上に掲げたような製品設計を試みた事例としては、国内自動車メーカーによる「共同利用」の車利用システムの開発が挙げられる。これは、電気自動車等の低公害車を地域の人たちで共同で活用する移動システム、つまり車の「所有」から車の「共同利用」への転換を図るシステムであり、交通渋滞の緩和や環境への負荷の軽減に資するものである。また、車の管理が事業体で行われるため、効率的なメンテナンスによる車の長期利用を可能にするものである。
 また、購入時から徐々に機能・性能を向上させるようなアップグレード型の設計を組み込んだ「成長する製品」にも注目したい。現在行われている製品の機能のアップグレード化は製品の買い換えを促す場合が多い。そこで技術革新の激しい半導体などは交換容易な設計とし、構造部品等の変化のない部品を長寿命化するなどにより、ハードはそのままでソフトや部品のみ変更することで、製品の機能の成長をさせる「成長する製品」の開発が期待される。さらに、モデルチェンジを控えることにより永久不滅のブランドモデルとして付加価値を高め、企業戦略としている海外の自動車メーカーがある。これらの設計は、長期利用を進めるとともに、製品のブランドとして付加価値を高める可能性もあろう。
 我が国においては、リサイクル可能性の向上という観点から「再生資源の利用の促進等に資するための製品設計における事前評価マニュアル作成のガイドライン」や業界で策定したガイドライン等を踏まえながら「製品環境アセスメント」を実施し、リサイクルや省エネルギーに配慮した製品開発を積極的に行っている事業者もある。
 以上のような製品設計に関し、物質集約度やエネルギー集約度を低減させる取組は、生産活動の効率化、コストの削減に資するものもあるが、耐久性の向上、利用密度の向上等は、新しい製品への需要の削減をもたらし企業利益にはつながらない可能性がある。しかし、生活に必要な製品がある程度普及した現在においては、従来のように新しい製品への需要が拡大し続けるとは限らない。従って、長期耐用型製品の開発とともに、メンテナンス、修理というサービスを行うことにより新たなビジネスの展開を図っていくことがむしろ必要となろう。これは顧客との継続的な関係を構築し、当該事業者に対する信頼性の向上に資するものともなろう。メンテナンス、修理を進めていくためには、これらが安価で容易に行えるようになることが必要であろう。また、木造住宅の耐用年数が30年とされていることや中古住宅の資産価値を評価する基準の欠如等が住宅の長期利用の障害となっている等制度上の課題の解決も必要であろう。
(6) 地上資源のライフサイクルを長期化する生産システム
 次にライフサイクルを見通した生産システムとして、地上資源のライフサイクルを長期化し、効率的利用を実現させるような生産システムについて考察したい。これを、環境基本計画における廃棄物・リサイクルの原則である「発生抑制、再使用、再利用、適正処理」の4原則を具体化する観点から、インバース・マニュファクチュアリングを基に整理をすると第1-2-4図のような生産システムがモデルとして考えられる。
 ここに示された各段階でのリサイクル方法は以下のとおりである。
? 再使用(リユース)
 メンテナンスによる製品の長期使用(自家使用)を行う又はガレージセールやフリーマーケット等の使用者間での取引やリサイクルショップを経由して製品そのものの再使用(製品再使用)を行う。
? 製品再生(プロダクトリサイクル)
 修理(Repair)、使用済み製品のうち品質の優れているものをサービス拠点等に回収し、一部の部品等を交換するとともに、適切な清掃を行って再出荷する再整備(Refurbish)や、使用済み製品のうち使用状況や品質等を基準として選択したものを再生工場に送り、必要なレベルまで解体するとともに部品交換を行って、再度組み立てて出荷する修復(Reconditioning)による再製品化を行う。
? 部品再生(パーツリサイクル)
 ?で再使用されなかった部品又は回収製品から使用可能な部品を取り出し、これと新規部品を用いて製品を組み立てる再製造(Remanufacturing)を行う。これは現在パソコンやOA機器の一部で一般化している。
? 材料再生(マテリアル・リサイクル)
 廃棄物などを原材料として利用するリサイクルを行う。廃棄物となる前の製品と同等の製品の原材料としてリサイクルするものと、質を落として利用するリサイクルがある。
? 化学的な利用(フィードストック・リサイクル)
 廃棄物などを物質レベルで化学的に利用するリサイクルを行う。例えば、廃プラスティックを高炉の鉄鉱石の還元剤としてコークスの代わりに利用するものなどがある。
? 熱・エネルギーとしての利用(サーマル・リサイクル)
 プラスティックや木材などの廃棄物を熱・エネルギー源として利用するリサイクルを行う。
 この原型となったのが、国内OA機器メーカーで開発されたコメットサークルと呼ばれるコピー機の生産システムである。コメットサークルのコンセプトは、小さなループのリサイクルを優先しかつすべてのリサイクルに適合する原材料の選択や製品設計を重視している。このシステムは、人工物ではなく、その上に乗っている機能(サービス)を売っていく、つまり「量的充足から質的充足への転換」により、製品の機能、消費者の生活の質、事業者利益、雇用を維持しつつ、資源利用量や環境負荷量を削減していくものである。また、以下のような経営上のメリットをもたらす。
ア 技術の相互向上の実現
 この生産システムにおいては、再使用工程を見込んだ製品設計が非常に重要になってくるため、再使用工程の品質情報や工程情報が製品設計にフィードバックされる。再使用技術は、製品設計者、生産技術者の意識変革や生産管理システム、製品の評価システムの変革を通じて、リユース技術による品質の向上といった「技術」の循環をも実現しうる。
イ ライフサイクル産業の発展
 このシステムにおいては、製品のライフサイクルをモノづくりの対象とすることが必要となってくる。特に販売後のサービス、メンテナンス、アップグレードサービスは新たな製造業のビジネスとして注目される。すなわち、事業者は、「ライフサイクル全体としてどれだけ環境負荷を課けずに新たなビジネスチャンスを創出できるか」を最大の命題として事業戦略を立て、製品のライフサイクル管理を行い、部品再利用を予測した設計、部品の洗浄、検査、余寿命診断、そして再利用部品の品質保証の技術を確立する等ライフサイクル産業へと進展していくのである。
 また閉ループリサイクルの実現のために例えば、素材供給業はヴァージン資源ではなく再生資源の供給を求められるようになるため、素材供給業のリサイクル業への転換が、事業の拡充、事業転換等につながっていくことが必要である。すなわち、この取組は、
・ 材料や部品の供給者が再生原料や低環境負荷型の部品を供給すること
・ 電気事業者が持続可能なエネルギー転換の努力をすること
・ 流通業者がリサイクルや補修の準備をすること
・ 消費者が多少高くても再生部品を使っているものでも受け入れること
・ 地方公共団体がリサイクルの支援をすること
 等サプライチェーンの中での多くの人たちの協力が必要となると同時に、チェーン内の構造転換等を促すことにもつながるのである。
 また、このようなシステムを効率的に回すためには、事業者がライフサイクルを管理するための供給形態としてレンタルやリースが適しており、その結果モノの所有形態にも転換をもたらすことにもなる。
囲み1-2-2 ライフサイクルショッピングストアーの事例
 奈良県に開店した大型のショッピングストアは、その隣にリサイクル施設を設置し、開店と同時に稼働させている。リサイクル施設としては、ストアから発生する生ごみを処理し堆肥化する生ごみ粉砕器、食料品等の各種梱包材料である発泡スチロールの固形化装置を配置し、これらの装置を動かすための燃料には、ストアから出てくる紙ごみ、木屑等の廃棄物を使用している。この逆工場(リサイクル施設)の施設設置のためには3000万円要しているが、1か月のランニングコストは、約100万円であり、ごみの全量を業者に出すと1か月150万円程度になるため、長期的に見るとコスト削減となる。これは逆工場と一体となった新しいショッピングストアの登場と言えよう。
(7) 「モノ」づくりからサービスへ
 経済社会の構造変化につれ、その経済社会が必要とする製品やサービスのの種類、性質が異なってくる。経済成長によりモノの豊かさが実現した現在において、高い製品機能に加え環境への負荷の少ない製品が求められるようになり、また生活に最低限必要な製品の普及により、人々の欲求は、徐々にモノの量から質へ、さらにモノからサービスへと移ってきている。このようなモノの所有から機能の享受といったニーズの変化は、持続可能な経済社会を構築していく観点からも望ましい傾向であり、産業活動もこのような方向へと転換を試み始めている状態である。環境設計においては、製品販売後のメンテナンス、修理等のサービスを含めたライフサイクル産業への発展が期待されている。実際、建設業による構造物の維持・補修・更新の最適化を図るためのコンサルティングと補修事業を展開する建設業や、環境に関連する総合マネジメントサービス業への展開を目指すセメント会社等の取組が始まっている。
(8) サービス分野におけるグリーン化
 サービス産業は製造業に比べれば、環境保全との関わりが間接的であり、取組も後発であった。しかし、サービス産業は、4,500万人の就業人口、全産業の7割を占める事業所数(527万)を持つ産業として発展しており、サービス業における環境保全への影響も無視できなくなってきている。社団法人ソフト化経済センターの報告(平成4年)では、サービス業における環境保全への取組の方向性を5つの観点から分類している。(第1-2-4表)
 サービス業においては品質や生産性を向上させることが省資源や省エネにつながり(努力エコ)それ自体が環境に適合する活動となることが多い。また?提案エコ、?体験エコや?販売エコの取組は、当該サービスの付加価値を高め、さらに差別化を図るためにも非常に有効な取組であろう。
囲み1-2-3 ホテルにおける環境保全の取組
 ホテルにおける環境保全の取組は、経営側だけでなく、顧客側の協力も必要となってくるものであるが、近年世界規模でグリーン化の取組が始まっている。デンマークのあるホテルチェーンでは、デンマークで最も環境保全型のホテルに変えること、自然保護の重要性に係る理解を深めることや自然保護団体の活動を支えることを目的にグリーン化の取組を進めている。
 例えば、ホテルにおけるエネルギー消費量の25%削減や宿泊客に利用された部屋の数に応じた自然保護団体への寄附、宿泊客によるタオル等の再使用、水やエネルギーの効率的利用の促進や有機食品の提供等22項目にわたる取組事項を挙げ、各ホテルでこれらのうち少なくとも15項目について3年間以内で達成することを定めている。これらの取組を進めるため、タオルの取り替えを自己宣告型にする等宿泊側にも協力を求めている。


(9) 「モノ」づくりを中心とした産業における課題
 以上のような取組を進めて行くに当たって、現実的には課題は多い。平成10年度に日本能率協会が実施した調査における「環境により配慮した事業活動」の課題や「環境により配慮した商品開発」については(第1-2-5表,第1-2-6表)のような課題が提示されている。これらの課題を解決していくには事業者内部での取組に加え、事業者間の業種の垣根を超えた連携や行政的な支援も必要となってこよう。
 一方、ある国内製造メーカーにおいて脱フロンの取組を行ったところオゾン法に基づく生産規制に伴う価格上昇もあり取組を行わなかった時と比較して相当の費用削減効果をもたらしたという事例もある。また、環境装置生産額は年々増加傾向にあることから明らかなように、産業活動における取組は環境市場の形成にも貢献している(第1-2-5図)。このようなことから産業活動における環境保全の取組は持続可能な経済活動の基盤となるだけでなく、新たな産業の育成にも資するものでもあるといえよう。

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