5 地球環境問題に対する我が国の取組
(1) クローズアップされた地球環境問題
今日、オゾン層の破壊、CO2濃度の上昇等による地球温暖化、酸性雨、熱帯林の減少、砂漠化、野生生物の減少など、人類の生存基盤である環境の地球規模での汚染と破壊が地球環境問題として取り上げられている。このような「環境問題の地球規模化」により、環境問題が単に世界共通に見られる現象となっただけでなく、経済社会活動の相互依存関係の網の目によって結ばれている諸国家、特に先進国と開発途上国が共に協力して問題の解決に当たらなければ、人類の生存と発展の基盤が失われてしまうという共通の懸念が育ってきた。
このような状況の背景には、一方での先進国における資源やエネルギーの大量消費と、一方での開発途上国における貧困や人口の急増等に起因する過度の焼畑耕作等の自然資源の酷使とがある。
例えば、世界の人口は、過去半世紀、約2%の成長率で増加してきた。1960年に30億人だった人口が、1999年半ばには60億人を超えると見られているが、この増加の90%以上は開発途上国で生じており、その結果として、食料・燃料需要を増加させ、それが耕作や薪炭材需要の増大をもたらし、森林や土壌への圧力を強めている。また、エネルギーの消費は人口の伸びを上回る伸びを示し、昭和25年から同63年までの38年間に世界全体で約4.6倍になった。世界の多くの国々がエネルギー供給源を化石燃料に大きく依存しているが、化石燃料の消費の増大は、CO2、窒素酸化物、硫黄酸化物の大気中への排出の増加を伴い、それが国内の環境問題はもちろん、CO2濃度の上昇等による地球の温暖化や酸性雨などの地球環境問題の原因となっている。なお、地球環境問題に関する議論の高まりについては、さらに第3章211/sb1.3>において整理を試みる。
(2) 我が国としての取組体制の強化
地球規模の環境問題が極めて大きな国際的な関心事項となり、特に先進国を始めとして世界の首脳が地球環境問題にイニシアティブを発揮しようと懸命な時期にあって、我が国がこの問題にどのように対応すべきかその真価が問われるようになった。平成元年5月12日の閣議において、地球環境問題に対応するための施策に関し、関係行政機関の緊密な連絡を確保し、施策の効果的かつ総合的な推進を図ることを目的として、内閣総理大臣が主宰し、関係閣僚、自由民主党役員等より構成される「地球環境保全に関する関係閣僚会議」の設置が正式に決定された。6月の第1回会合では6項目から成る地球環境保全に関する基本方針を了解した。7月には内閣総理大臣より環境庁長官が、地球環境問題に関する行政各部の所管事務の円滑な調整を行うことを任務として地球環境問題担当に任命された。9月には、日本政府とUNEPの共催により「地球環境保全に関する東京会議」が開催された。会議の成果は議長サマリーとして取りまとめられ、地球環境問題の解決のためのすべての国の規範として「環境倫理」を提言した。
気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議において採択された京都議定書の着実な実施に向け、地球温暖化防止に係る具体的かつ実効ある対策を総合的に推進するため、平成9年12月、内閣に地球温暖化対策推進本部を設置した。同本部は、2010年に向けて緊急に推進すべき地球温暖化対策として10年6月19日、地球温暖化対策推進大綱を策定した。
環境庁では、昭和63年末より、地球環境対策を関係省庁が一体となって進めてこそ、世界に対する貢献につながるとの認識の下、企画調整局においては、従来の国内環境問題にとどまらず、地球環境問題に関する総合的な対策の企画調整とその推進を積極的に行うことを方針とした。同局では、64年早々より地球環境問題に関する検討が進められ、平成2年7月、庁内各局で急速に増大していた地球環境関連の事務を集約し、地球環境問題に全面的に取り組むため、同局に地球環境部が新設された。また、環境保全に関する研究等の一層の推進を図るため、国立公害研究所が国立環境研究所に改組された。世界の環境行政組織の中でも専ら地球環境を守ることを任務とした専門部局を設ける例は少なく、厳しい行財政事情にも関わらず、我が国で地球環境部が設けられたことは、我が国でのこの問題に対する関心の高まりを反映する画期的な出来事と言えよう。さらに、同年に地球環境研究総合推進費が創設されるとともに、地球環境研究の総合化や地球環境研究への支援、地球環境モニタリングの推進を目的として、国立環境研究所の中に地球環境研究センターが設置された。