3 自然保護施策の進展
(1) 自然公園等の管理の充実
自然公園制度は、すぐれた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進による国民の保健、休養、教化に資することを目的としており、本来的に保護と適正な利用の両立を図ることが要請されている。しかしながら、過去の「第1次レジャーブーム」や、「列島改造ブーム」の際の自然公園における開発圧力の高まりやそれに対する自然保護を求める国民の期待の高まりの中で、環境庁の対応は、利用の面については抑制的にならざるを得なかった。昭和62年8月に自然環境保全審議会自然公園部会に設置された「利用のあり方検討小委員会」は、自然公園の利用は、自然の特性や容量を踏まえた「持続的利用」たるべきこと、美しい風景を見、野生生物に出会うといったその地域でしかできない「代替性のない利用」を優先すべきこと、を基本的考え方とする報告を行った。この報告を受けて、平成2年に策定された公共投資基本計画にも自然公園の整備が盛り込まれ、平成3年度の生活関連公共投資枠の中で、自然公園トイレの緊急再整備事業が認められることとなった。さらに平成6年には国民生活に密接した新しいタイプの公共事業として、自然公園等事業が公共事業に位置付けられるとともに、平成8年度には、植生の復元等による自然環境の保全復元事業等が新たに補助対象となった。
新聞社カメラマンによる崎山湾自然環境保全地域(沖縄県西表島)におけるサンゴ損傷事件を契機として、平成2年4月に自然環境保全法等が一部改正され、動植物の損傷を規制対象として明確にするとともに、国立・国定公園の特別保護地区等において「車馬・動力船の使用」や「航空機の着陸」が新たに規制されることとなるとともに、特別地域についても環境庁長官が指定する地域で同様に規制させることになった。
(2) 鳥獣保護の強化等
ア 野生鳥獣の保護管理
野生鳥獣の保護管理に関しては、野生鳥獣の個体群を安定的に維持しながら、人との軋轢を可能な限り少なくすることによって人と野生鳥獣の共存を図るという基本的な考え方が、平成10年12月、自然環境保全審議会より示された。今後、その共存を実現するための方策として、野生鳥獣の科学的・計画的な保護管理、いわゆるワイルドライフ・マネージメントの推進が重要になるものと考えられ、この審議会答申に即して制度面の整備が図られつつある。
イ 絶滅のおそれのある野生生物の保護
絶滅のおそれのある野生生物の保護については、これまでも、トキ、アホウドリ、イリオモテヤマネコ等については、国設鳥獣保護区の管理等として取り組まれてきたが、他の絶滅のおそれのある野生生物についてもその保護対策に取り組む必要性が高まってきたため、平成4年6月、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」が制定され、同法に基づき希少野生動植物種が順次指定された。これを受け、国内希少野生動植物種について、生息地等保護区の指定、保護増殖事業計画の策定等が進められた。
ウ 国際協力による野生生物保護の展開
ア) ワシントン条約への対応
我が国は、ワシントン条約に基づく輸出入規制を「外国為替及び外国貿易法」、「関税法」等により実施しているが、昭和62年(1987年)12月、これらの輸出入規制と合わせて同条約規制対象種の国内における取引を規制する「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」が施行された。これにより、ワシントン条約の附属書?に掲げられている野生動植物の商業目的での取引が規制されることとなった。なお、現在では同法に代わり、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づき国内の取引規制が行われている。国内での取組を充実させる一方、国際的には我が国は第8回締約国会議を1992年に京都において開催し、以降常設委員会においても議長国を務める等条約履行に積極的に関与・貢献してきている。
イ) ラムサール条約への対応
我が国は同条約に55年(1980年)6月加入し、釧路湿原を我が国最初の登録湿地とした。その後、1993年には釧路市において第5回締約国会議を開催した。過去最大規模の参加者を得た同会議は、国内外における湿地保全に対する意識高揚に大きく貢献した。また、第7回締約国会議で推進することとなったアジア太平洋地域水鳥保全戦略に基づく種類群毎の水鳥重要生息地ネットワークの活動を豪州とともに支援してきている。なお、現在我が国の登録湿地は10か所である。
ウ) 渡り鳥等保護条約等への対応の進展
前述のとおり渡り鳥等の保護に関し日米、日ソ及び、日豪間で条約等が締結された他、昭和56年(1981年)には日中間で渡り鳥等保護協定が署名された。さらに、日韓環境保護協力協定に基づき、平成8年度から韓国との間でも渡り鳥保護プロジェクトが開始している。現在、これら渡り鳥等保護条約等に基づき各国との間で、会議を開催し情報交換などを行っているほか、ツル、オオワシ、ホウロクシギ等を対象として共同調査を実施している。また、日中間では、渡り鳥等保護協定に基づく協力以外にもトキの保護協力が進んでいる。飼育下での繁殖を試みるため、60年(1985年)に中国から雄のトキ1羽が貸与され、平成2年(1990年)には、北京動物園に日本から雄のミドリが貸し出されたが、残念ながら繁殖に至らなかった。平成11年には、中国からトキのペア「友友」と「洋洋」が日本に贈呈されており、今後の繁殖が期待されているところである。
(3) 生物多様性保全への取組
生物多様性は、生物進化の所産であり、人類の生存基盤である生態系が健全に維持される上で重要であるとともに、生物多様性の構成要素の一つであるそれぞれの生物は衣食住、薬品、燃料など人類に様々な恵みをもたらすものである。地球環境保全のための緊急課題の一つとして生物多様性の保全が認識され、1993年(平成5年)12月に生物の多様性に関する条約が発効した。生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組が各国で進められている。
生物の多様性に関する条約に基づき、我が国の同条約実施の基本方針や施策の展開方向を示すため、「生物多様性国家戦略」を平成7年10月に地球環境保全に関する関係閣僚会議で決定した。その中に掲げられた長期的な目標の達成に向け、「生物地理区分毎に多様な生態系が保全されるよう」重要な生態系を持つ地域の抽出や「生物間の多様な相互関係が保全されるとともに将来にわたって生物の再生産や繁殖の過程が保たれるよう」国土レベルでの生態系ネットワークの確保を図るための検討など生物多様性の確保に係る施策を総合的かつ計画的に推進している。
(4) 国際的に価値の高い自然環境の保全への取組
世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)は、顕著で普遍的な価値を有する世界の文化遺産や自然遺産を保護するため、保護を図るべき遺産をリストアップし、締約国の拠出金からなる世界遺産基金により、各国が行う保護対策を援助することを目的に、47年(1972年)の第17回ユネスコ総会で採択された。我が国は平成4年(1992年)に同条約を締結した。平成5年(1993年)には、我が国の屋久島と白神山地が、特に原生的な自然が保たれている貴重な地域であるとして、世界自然遺産に登録された。平成7年(1995年)には、遺産地域の保全に係る各種制度を所管する環境庁、林野庁、文化庁の3庁と青森・秋田・鹿児島県が、相互に緊密な連携を図ることにより、遺産地域を適正かつ円滑に管理することを目的とした管理計画を策定した。