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第2節 

2 国土利用の変貌に伴う環境問題への対応

(1) 東京一極集中とその影響
 東京圏では特に昭和50年代後半から、我が国経済の国際化、ソフト化等を背景に、金融、情報などの機能やそれに関連する人口の集中が進んだ。既に東京湾臨海部においては、各種開発プロジェクトの構想や計画が打ち出されていたが、東京圏への一極集中はその傾向に拍車をかけるとともに、更にその後背地においても、オフィスや住宅の需要の増大から、急速な都市再開発が進展した。
 このような状況を踏まえて、国土の均衡ある発展を目的として、62年に作成されたのが、「第四次全国総合開発計画」(いわゆる「四全総」)である。四全総では、多極分散型の国土形成がうたわれ、そのための施策として安全でうるおいのある国土の形成、活力に満ちた快適な環境づくりの推進、新しい豊かさ実現のため産業の展開と生活基盤の整備、定住と交流のための交通、情報・通信体系の整備が打ち出されるとともに、遷都についても検討することとされた。その後、四全総で打ち出された理念を実現すべく、「多極分散型国土形成促進法」や「大都市地域における優良宅地開発の促進に関する緊急措置法」、「地域産業の高度化に寄与する特定事業の集積の促進に関する法律」(いわゆる「頭脳立地法」)などの法律が制定され、施策が進められた。
 環境庁の検討会が平成元年に取りまとめた「東京湾地域の開発と環境ビジョンについて」においても、東京一極集中是正施策の積極的推進の必要性が指摘された。また、このような東京圏の環境問題や都市・生活型公害の顕在化に対応して、環境行政のサイドからトータルな視点に立った提言が求められる中、都市における環境問題を捉える新たな視点として提唱されたのがエコ・ポリスの形成である。これは、国民の大多数が都市又は都市的環境で生活する中、都市の環境問題の解決を図るには、都市の構造や都市活動を支えている経済社会的な仕組み、都市市民の生活様式の現状や将来の動向にまで立ち入って、都市システム全体を見直すべきとの考え方に立つものである。
 平成10年3月には、「21世紀の国土のグランド・デザイン−地域の自立の促進と美しい国土の創造−」(新しい全国総合開発計画)を閣議決定した。ここでは、例えば、太平洋ベルト地帯内部について「大都市を中心に、人口、諸機能の過度の集中により、居住環境の悪化、交通渋滞、大気や水質の汚染等環境への負荷の高まり、水需給の逼迫等様々な過密問題が発生している。都市の連たん化に伴ない、農地や森林が大幅に減少したことや、河川や沿岸では、水質の悪化、親水性への配慮を欠いた堤防や護岸により水面から隔てられたこと等により、人々が身近な自然に親しむ機会が大幅に減少してしまったところが多い。」との認識が示されるに至った。
(2) 大都市集中が進む中での窒素酸化物問題への取組
 環境行政の重要課題の1つとして、昭和60年度における二酸化窒素の環境基準の達成を目標に、各種の対策が講じられてきた。60年度早々、環境基準の期限内達成の可否は、国会等で頻繁に取り上げられるなど社会的にも大きな関心を集め、環境庁が期限内達成の可否を評価することが求められた。
 この結果、一部の自動車排出ガス測定局などにより、環境基準の期限内達成の見込みのないことが明らかになり、環境庁は対策の方向付けを改めることに迫られた。このため、60年12月、環境庁は今後の窒素酸化物対策の方向を示す「大都市地域における窒素酸化物対策の中期展望」を策定・公表した。この中期展望を受けて、大気汚染防止法による規制対象の拡大、地方公共団体と協力して進める自動車交通対策等計画の策定等の対策が進められた。しかし、石油価格低迷での景気拡大によるエネルギー多消費傾向、大都市への経済活動の集中による交通量の増加などを背景として、62年度の総量規制3地域の測定データにより、環境基準達成状況の悪化が判明した。環境庁はこの事実を厳しく受け止め、当面の対策強化を行うとともに、63年12月には「窒素酸化物対策の新たな中期展望」を策定・公表し、従前からの対策の充実、強化を図るとともに、今までにない新たな対策についても検討を進め、その効果や実施可能性等も踏まえつつ、更に季節大気汚染対策等をも含めて、総合的な対策の逐次具体化と実行を図っていくこととした。
(3) リゾート開発や野外レクリエーション施設整備への対応
ア リゾートブームの発生
 60年代に入って、再度の人口の大都市集中が生じ、生活様式の面でも一層の都市化が進行した。これに伴い、国民の自然への志向が高まり、所得の向上とあいまって自然の中での余暇活動に対する需要が顕在化していった。一方、円高と貿易黒字の増大から、内需主導型への経済構造の変更が求められ、「金余り」現象の中で国内における適切な投資先が模索されていた。こうした中、昭和50年代後半から我が国でも先駆的なものが展開を見せ始めていた「リゾート」開発が60年代に入り、地域開発の切札として脚光を浴びることとなった。リゾート開発は、「良好な自然条件を有する土地」で行われることが多く、適切な環境配慮がなされない場合には、施設整備に伴う自然への影響も懸念された。例えば、森林がレジャー施設用地に変わった場合を考えると、土壌保全、大気汚染物質の吸収、野生生物の生息地の提供といった環境保全に資する様々な機能を消失させ、あるいは減少させてしまうことが懸念される場合もある。
 リゾートブームは、採算性という行動原理に基づく民間企業の活力に依存するものであり、民間事業者の経営上の戦略や地価の高騰により、計画の変更を迫られる事業が見受けられる。
 国民の余暇需要の増大と多様化、地域振興推進の必要性等を背景に、ゆとりある国民生活の実現と地域振興を図ることを目的として「総合保養地域整備法」は62年5月に成立した。同法に基づく基本方針には、自然環境の保全との調和等が整備に際し配慮すべき事項として盛り込まれた。福島県、三重県、宮崎県の3県をはじめ、63年7月以降、平成9年度末までに41道府県(北海道のみ2地域)の基本構想が、自然環境の保全との調和について定めるという同法上の要件や同基本方針に適合していることを確認の上で承認された。
イ ゴルフ場問題への対応
 我が国のゴルフ場開発は、昭和40年代後半の列島改造ブームの際に急速に進行し、その後のオイルショックにより沈静化していったが、昭和60年代に再び増勢に転じ、第2次開発ブームの様相を呈した。
 ゴルフ場の開発は18ホールで敷地面積が100haに及ぶものであり、環境に与える影響の大きな事業である。このため、コースの造成に伴う自然環境の破壊や災害の発生のおそれに加えて、芝の維持管理に使用される農薬によって水源が汚染されるおそれもあるとして、各地ゴルフ場の開発計画に際し地域住民等による反対運動が頻発した。
 ゴルフ場の開発計画の急増に対応するため、一部の都道府県においては要綱等により、県土面積に対する比率や市町村当たりの場数を基準として、ゴルフ場の総量規制を行おうとするものが現れた。
 ゴルフ場の排水から公共用水域に流入する農薬について、その適切な監視・指導のため、平成2年5月、主要な農薬について厚生省は水道用水の水質目標を設定し、環境庁は公共用水域への排水口における、人の健康の保護の観点からの暫定指導指針を定め通知した。また、多くの地方公共団体において、農薬の適正使用に関する要網等の制定や事業者との協定の締結が行われている。このような取組により、これまでに測定された例では直ちに問題とはならない水準にとどまっている。
(4) 開発事業等への対応
 昭和60年代になると、従来からの公害防止の強化を求めるものに加え、自然保護の観点からも、開発事業の見直し等を求める声が市民から発せられるようになった。例えば、新石垣空港の建設案は、航空旅客増などに対応するため、1,500メートル滑走路を持つ現行の石垣空港に代わって、石垣市白保地先海面を埋め立てて2,500メートル滑走路の空港を建設するとする計画案であった。しかし、白保地先はサンゴ礁の発達した海域であるとともに、漁場となっていることから、地元や自然保護団体の強い反対運動を招き、沖縄県知事は、県が実施した環境アセスメントや環境庁の実施した調査等を踏まえ、62年と平成元年の2度にわたり、既定計画変更の意向を表明した。しかし、自然保護団体等からは、新計画によっても石垣島東海岸のすぐれたサンゴ礁生態系を破壊することになるとする意見が出され、平成2年12月には、IUCN総会においても、空港予定地の変更を求める決議が採択されるに至った。これらにより、現地では計画見直しのための検討が進められることとなった。
 長良川河口堰事業は43年に「木曽川水系における水資源開発基本計画」の一環として閣議決定され、63年より河口堰本体工事が開始された。関係地方公共団体の長から建設促進の要望があった一方で、環境に及ぼす影響についてNGO等により様々な懸念が表明された。環境庁では、平成2年、長官の現地視察等を経て、環境保全上の見地からの環境庁長官見解を公表した。3年度には追加調査が行われ、堰の運用開始後も引き続き環境に関する調査が行われている。
 諫早湾の湾奥部を潮受け堤防で締め切り、内部に干拓地と調整池を整備するとともに、高潮、洪水にも対応することを目的とした諫早湾干拓事業事業については、環境アセスメントが実施されており、環境庁は、昭和63年、平成4年、9年に干拓調整池の水質保全等について意見を提出した。9年4月の潮受け堤防の仮締め切り以降、関係地方公共団体や農業者を始めとする地域住民等から事業推進の要望があった一方で、環境保全に関する世論が高まった。環境庁では調整池の水質保全対策について、今後の推移を見守りつつ、必要に応じ意見を述べることとしている。
 我が国有数のシギ・チドリ類の渡来地である藤前干潟において、一般廃棄物等の最終処分を目的とした西1区廃棄物最終処分場事業については、「厚生省所管事業に係る環境影響評価実施要綱」及び「名古屋市環境影響評価指導要綱」に基づく廃棄物最終処分場及び公有水面埋立事業に係る環境影響評価手続きにおける名古屋市環境影響評価審査書における意見「鳥類などの生息環境及び周辺水域の水質等干潟生態系に影響を及ぼすことは明らかであり、人工干潟の造成等の自然環境保全措置を実施すべき」を踏まえ、埋立免許の出願が行われた。一方、平成10年12月、環境庁は、藤前干潟における干潟改変等に関する見解を発表した。その後、世論の高まりを背景に、諸般の情勢を考慮して名古屋市が西1区廃棄物最終処分場事業を断念した。

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