1 昭和60年代以降の社会経済の動向と環境問題
(1) 経済のボーダーレス化と環境問題
経済のボーダーレス化が経済を活性化させる一方で、環境問題の広がりを地球規模化していった側面が見られた。例えば、主に開発途上国等に供給を依存している一次産品の価格が下落し、これにより先進国の景気が浮上した。このことは開発途上国における不適切な輸出や工場立地といった環境問題の悪化要因となった。
また、60年代の景気拡大の契機の1つとして、原油などの1次産品価格の大幅な下落があった。原油価格の下落は、省エネルギー努力の後退を招くおそれがある。事実、我が国のエネルギー消費量は第2次石油危機の起こった54年度以降平均的には横ばいで推移してきたものが、62年度以降前年比5%以上の大幅な伸びを示すこととなった。石油価格の低迷によって省エネ投資が頭打ちの状況にある中で、生産1単位当たりのエネルギー原単位の改善が停滞したこと、家電製品のエネルギー効率についても、向上が余り見られなくなったことなどに加え、景気拡大の局面において、鉄鋼、化学、パルプなどエネルギー多消費型産業の生産が大きく増大したこと、業務部門においても業務用床面積の増大や,OA機器の導入が進んだことなどがエネルギー消費の再拡大傾向の要因になったと考えられている。
60年半ば以降、いわゆる景気の二面性が生じたが、円高不況の克服に向けては、国内での産業の構造調整とともに、国際化が進んだ。特に中間原材料・部品の海外調達や製品の輸入が拡大した。企業は、世界的視野で事業展開を進めるようになり、生産・販売などの最適立地を目指して積極的に海外への直接投資活動を展開していった。こうして、我が国は世界中の環境資源に依存する度合を高めた。また、海外への直接投資、特に製造業の進出は、受入地の水、土壌、大気等への影響も大きいことから、海外への活動を展開するに当たって十分な環境配慮が求められるようになった。この点については第3章211/sb1.3>において考察を深めたい。
(2) 産業の高度化と環境問題
経済成長を支えたもう1つの要因に産業の高度化がある。企業は円高の厳しい経営環境を克服していくため様々な努力を行った。それはおおよそ、?製品の高付加価値化、?産業技術の高度集約化(ハイテク化)、?情報化の活用、?経営の多角化の4つの方向に集約できる。
こうした産業における変化は、環境面でも新しい局面を生じさせた。先端技術を活用した高付加価値型の産業の開発は、高度成長期において問題とされてきた硫黄酸化物等の汚染物質による公害問題を発生させる可能性は小さいが、化学物質の利用拡大と使用形態の変化をもたらし、廃棄物の性状を変化させる可能性を持っている。また、情報化の進展によるOA機器の普及は、エネルギー消費量を高めるとともに、紙の使用量を増大させた。高度に専門・分化した機能を持つ製品は、再利用(リユース)やリサイクルの障害となりやすいものであった。
(3) 東京一極集中、過剰流動性に伴うバブル問題の噴出と環境問題
日本経済の拡大傾向の中で浮き彫りにされてきた大きな課題が、東京への一極集中であり、それと密接に関連する土地問題である。50年代半ばからは情報の豊かな東京圏への高次都市機能の一極集中が進み、それに伴う人口の再集中も続いた。東京圏への一極集中は、大気汚染物質、水質汚濁物質の集中をもたらし、公害問題を悪化させた。また、廃棄物排出量の増大は、最終処分場の確保難をもたらし、首都圏で発生した廃棄物が東北地方などに大量に搬出され、持ち込まれている地方公共団体において廃棄物処理施設設置反対の決議がなされるなどの問題が生じた。
また、東京都心部における事務所需要の増大、周辺地域における買い換え需要の増大、それらを見込んだ投機的取引の増大に加えて、金融緩和によって大量の資金が土地市場に流れ込んだことによって、60年代に入って東京圏で急激な地価の上昇が起こり、それはやがて全国に波及していった。地価の高騰は、下水道などの環境保全のための社会資本整備に支障を生じさせるとともに、日照の確保や緑の保全といった快適な生活環境づくりを阻害する要因となった。また、土地価格の急激な上昇を当て込んで借入れなどを行う、いわゆるバブル経済が崩壊した後は、我が国の経済は膨大な不良資産の償却に悩むことになった。このため、不況が長期化し、この時期、企業や自治体などにおける環境投資の縮小が見られるようになった。
(4) 生活の多様化、高級化と環境問題
60年代の内需拡大成長達成の背景の1つに、個人消費の拡大が上げられる。こうした消費者指向の高級化・多様化もエネルギー消費量の増大をもたらしたものと考えられる。例えば、この時期に、乗用車の燃費は、同一車種でみると向上しているが、実際に購入された新型乗用車の平均燃費でみると消費者がより大型の車を購入する傾向が進み悪化を示した。また、サービスの分野では、余暇・レジャー支出や外食などが大きく伸びた。余暇・レジャー支出の伸びに背景には、国民の欲求が物の豊かさへと広がっていったことがあり、豊かな自然とのふれあいへの希望も大きくなり、その一方でリゾートマンションなどの開発圧が高まった。