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第2節 

4 海洋環境の保全

 海洋は、陸上の汚染が水の働きにより移されて蓄積し汚染物質が最終的に行き着く場所となることが多く、汚染が世界的に確認されている。汚染の形態も、有機汚濁物質、栄養塩、重金属、環境化学物質、プラスチックやビニール等の廃棄物の蓄積等様々である。
 平成9年に我が国周辺海域において海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は713件で、平成8年に比べ41件(約5%)の減少であった(第4-2-7図)。このうち油による汚染は405件と全体の5割以上の高い比率を占めている。油以外のもの(廃棄物、有害液体物質(ケミカル)、工場排水等)による汚染は254件、赤潮は54件であった。汚染は船舶からのものが6割以上を占める。原因別には、汚染排出源が判明している551件のうち故意によるものが331件を占め、取り扱い不注意、海難等がこれに続く。
 浮遊性廃棄物等については、海洋環境保全調査においてプラスチック類等調査を実施している。平成7年度から8年度の調査は、東京湾、大阪湾、博多湾およびそれらの沖合域において行われた。表層におけるプラスチック類等は、調査海域内に広く分布していたが湾奥部、湾口部に比較的高分布で分布する傾向が認められた。その組成を見ると、海藻草類、発泡スチロール等の占める割合が多くなっている。また、海洋バックグランド汚染観測によると、これらプラスチック類は外洋に比較して日本近海に多く分布しており、特に夏期に多い。底質の廃棄物は、7年度、8年度共特に内湾域で、プラスチック類、金属、ガラス類等非常に多くの種類が認められた。また、沖合では漁具、釣具等も認められた。
 近年は、相次いだタンカーの油流出事故のため、流出した油による環境汚染が社会的に大きな関心を集めた。国内では、平成9年1月に島根県隠岐島沖で、ナホトカ号の事故、7月に横浜港沖で、ダイヤモンドグレース号の事故が発生した。
 ナホトカ号の重油流出事故の際は、流出油の処理を行うため油処理剤が使用されたが、沿岸付近では使用を制限するなど海洋生態系への影響をできる限り小さくするよう配慮がなされた。一方、海岸に漂着した油の除去は手作業に頼らざるを得なかったが、多くのボランティア等の活躍によりそのほとんどが回収された。この他、油により被害を受けた水鳥の保護収容等を行った。流出した油が海洋環境に与える影響については、事故直後より、水質、底質、大気、生態系等の調査を実施しており、現段階では重大な環境影響は確認されていない。しかし、生態系への長期的影響については現段階での判断は難しく、今後も、段階的・継続的な調査・監視を実施する必要がある。
 油による海洋汚染は、タンカーの事故以外にも様々な原因で発生する。船に関しては、船底の汚水やタンカーの洗浄水の廃棄等の問題がある。他に、油田での事故やパイプライン等からの流出、陸上施設からの排水への混入等多くの汚染経路がある。これらの汚染経路により、水生生物等の生態系等への影響を及ぼす可能性もあることから、海洋環境の状況を的確に把握し、適切な対応を講じていく必要がある。
 放射性廃棄物の海洋投棄問題については、1993年(平成5年)4月、ロシア政府が公表した白書により、旧ソ連・ロシアが1959年(昭和34年)から1992年(平成4年)にわたって北方海域及び極東海域において放射性廃棄物の海洋投棄を行ってきた事実が明らかになった。また、1993年(平成5年)10月にロシア太平洋艦隊が日本海において放射性廃棄物の海洋投棄を実施したために、国内で大きな問題となった。このような事態に対し、我が国では、厳重な抗議を申し入れるとともに、さらなるロシアの海洋投棄を防止するために日露核兵器廃棄協力委員会の資金の一部を利用して低レベル液体放射性廃棄物処理施設の建設のための協力を進め、1996年(平成8年)1月に同施設の建設に係る契約が結ばれた。

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