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第1節 

2 生活関連の環境負荷低減方策

 各主体が、1(4)で見たような行動を行う際に、それぞれ適切に環境への配慮を行えば問題ないのであろうが、各主体の様々な行動の直接的な目的は、消費による効用や事業者活動による利潤等と考えられ、環境保全が第1の目的ではない場合がほとんどであるため、これまでは十分に環境への配慮が各主体の行動に組み込まれてきたとは言い難い。
 ここでは、生活者が生活関連の環境負荷に関わる行動を行う際に環境に配慮するかどうかは、どのような要因によって決定されているか、また、生活者自らが取りうる環境配慮行動にはどのようなものがあるか、を考察する。次に、その要因を踏まえ、生活関連の環境負荷を低減するために、どの主体が、どのような実践や他の主体への働きかけを行っていけばよいか、という観点から、事業者や行政等の行いうる方策について論じる。
(1) 生活者の行動の決定要因
ア 生活者の行動の決定要因−社会心理学的アプローチ−
 生活関連の環境負荷の程度は、生活者が、商品を購入する時点での商品の選択、商品の購入後の使用量・使用方法・管理方法の決定、商品の廃棄等の際に環境への配慮をどのように行うかにより左右される。これらの行動の際に環境配慮を行うかどうかは、どのような要因のつながりにより決定されるのだろうか。広瀬幸雄名古屋大学教授の研究(「環境と消費の社会心理学」:名古屋大学出版会)を基に整理してみると、以下のようにまとめられる
 まず、上記の生活者の行動が環境に配慮して行われるまでには、環境保全意識が高まること、すなわち、「環境配慮の重要性を認識し、環境配慮に何らかの行動が必要と意識すること」及び「環境配慮の行動を実践すること」の2つの過程が存在する。前者の意識の高まりを規定する要因は、?問題がどれくらい深刻で、その発生がどのくらい確かか、?問題の責任がどれくらい個人に帰属するのか、?個人による対策が問題解決にどのくらい効果があるか、の3つである。また、このようにして環境保全意識が形成されたとしても、それが直ちに行動に結びつくわけではない。環境配慮行動における意識と行動の間にギャップがあることは周知の通りである。
 意識と行動のギャップが埋まり、行動が実践されるためには、意識の高低のほか、?環境配慮行動を実践するための知識や、技能、機会等があるか、?環境配慮行動を実践することによる個人の金銭的、時間的損得の程度はどうか、?環境配慮行動は、社会的にどのくらい一般的なものか、の各要因が環境配慮行動をとる方向に満たされている必要がある(第3-1-23図)。
イ 生活者が地球温暖化対策のための行動を実践するプロセス
 前項の要因分析を具体的な環境問題、ここでは地球温暖化問題にあてはめて考えてみよう。まず、意識の程度を左右する要因の方は、?現在は生活者にとって実感しにくい地球温暖化による海面上昇や気候変化等の影響が、どのくらいの確実性で現実のものとなり、それによる被害の大きさを生活者がどう評価するか、?温室効果ガスの排出に占める個々人の寄与をどのように生活者が評価するか、?個々人の行いうる省エネルギー等の対策が問題の根本的解決に役立つと生活者が感じるか、等であろう。これらを高めていく方策としては、生活者自らが自然に触れることなどにより環境に対する関心を育むこと、行政がそれぞれについての説得力ある情報を提供すること、積極的な環境教育を行うこと等が考えられる。
 次に、行動が実践される要因の方は、意識の程度に加え、?地球温暖化の原因が化石燃料を燃焼させる際のCO2であるという知識や電気製品の適切な使用方法等の具体的なCO2削減のノウハウを知っているか、省エネルギー型の製品や社会資本が提供されているか、?省エネルギーは元来経済的には得になる可能性があるが、その程度を生活者がどう評価するか、また、省エネルギーに伴う手間を生活者がどう評価するか、?エネルギーの無駄遣いに対しての一般的な風潮、また、個々人の身近な人々がどのような態度をとっているか、などであろう。こうした要因を踏まえ、生活者が地球温暖化防止のための行動を実践するための方策を考えると、?については、行政等が情報提供、教育を行うこと、また、省エネ型の交通体系を整備し、利用の機会を提供すること、事業者が省エネルギー型のエネルギー利用機器を開発・提供すること、などが挙げられる。?については、省エネルギー行動が経済的に有利であることについての情報提供を充実させること、省エネルギー行動がより有利になるような政策手法を導入すること、またそうした行動に手間のかからないような製品・仕組みを提供することが考えられる。?については、政府の情報提供、環境教育のほか、規制等の行政による様々な制度が環境配慮を組み込んだものとなっていることが必要であろう。
 そして、このような対策によって生活者が行動を実践するための条件が揃ったときに、実際何をすればよいのか、というと、例えば、購入の際に、省エネルギー型の電気製品や省エネルギー型の生産工程で作られた製品を選択する、製造時のエネルギー消費が少なく、かつ、二酸化炭素を貯蔵しておく役割を果たす耐久的木材製品を使用する、不要な照明や冷暖房の使用を避け、エアコンのフィルターをまめに掃除する、冷蔵庫に詰めすぎない、可能なら自転車や公共交通機関を利用する、リユース・リサイクルできるものはきちんと分別し、廃棄物として焼却・埋立処分にまわされないようにする、といったことが挙げられる。
 以上、地球温暖化を例に取り、環境配慮行動が実践されるプロセスの構造を考察した。以下これを踏まえて、(2)においてまず、生活者が自らの意思でできることにはどんなものがあるかを見る。次に(3)では事業者が行いうること、(4)では行政が行いうることについて論じる。


(2) 生活者が行いうる方策
 我々の日常生活からは、あらゆる場面において環境への負荷が多少なりとも発生している。しかし、我々のちょっとした工夫と努力によってこの負荷を減らすことができ、環境問題の解決にも貢献することができる。ここでは、そのような方策の一部を紹介してみよう。
ア 自動車による環境負荷の低減
 外出する際には、自家用車の利用をなるべく差し控え、バスや電車などの公共交通機関を使ったり、目的地が近い場合には自転車や徒歩で行くことによって、窒素酸化物等の自動車排出ガスの量が減少するとともに、二酸化炭素の排出も減る。また、停車時にはアイドリングをストップしたり、空ぶかし、急発進をしないことなども効果的である。
イ 水資源の使用
 水の節約を心がけることは、水資源の節約ばかりではなく、水道水の供給や下水の処理に要するエネルギーの節約につながる。
 よく朝シャンといった必要以上に髪を洗うことによる水資源の浪費が指摘されるが、そればかりではなく、歯磨きの時に水を流したままにしないこと、あるいは風呂に入った後の残り湯を洗濯に使ったり、水洗式トイレの給水タンクの中に水を入れたビンを沈めたり、ポリ袋に水を詰めて浮かせることによって、1回の洗浄に使用する水量を節約することも有用である。また、蛇口に節水コマをつける、洗車の時ホースで水を出しっぱなしにせずバケツを使う(約8分の1ですむ)ことも節水につながる。
ウ 水質汚濁
 台所での調理や食事の後の片づけなどで出る生ゴミは、水質汚濁の原因になることから、十分注意する必要がある。
 発生した生ゴミは、流しにおいて水切り用の目の細かい網、三角コーナーや濾紙袋などを使って濾過することにより、水質汚濁をある程度防ぐことができる。また、何より材料を有効に使って、たくさん料理を作り過ぎないようにすること、食べ残しをしないことが大切である。出た生ゴミを土に埋めたり、生ゴミのコンポスト化機器を用いて堆肥にするという例もある。米のとぎ汁も水の汚れの大きな原因となるので、家庭菜園の肥料や植木の水やりに使うなどそのまま流さない工夫が必要である。また、洗い物を米のとぎ汁に漬けると、米糠により油物が落ち、洗剤も少なくて済む。
 食用油は、台所では最も水の汚れの原因になるので、揚げ物をした後の油を炒め物に使うなどして、できるだけ使い切るようにすることが必要である。それでも残る場合には、新聞紙などにしみこませたり、油の吸収材を使うなどして燃えるごみとして出すといい。また、廃油を原料として石鹸を作ることもできる。
エ 環境負荷の少ない製品を使う
 資源やエネルギーをむだにする製品、例えばそのまま捨てられリサイクルされることのない商品の利用を控える。また、トイレットペーパーやティッシュペーパー、子供用のノートや落書き帳は古紙を利用した物を使うことにより、二酸化炭素の吸収源でもある森林が保護されることになる。特に、新聞や牛乳パックなど家庭からの古紙資源の供出が盛んに行われる一方、古紙を利用した製品の購入が進んでいないことから、古紙の価格が暴落し、古紙回収業者の生計が成り立たなくなりつつあるので、紙のリサイクルを維持するためにも古紙利用製品の購入が進められることが望ましい。
 また、鉄、コンクリート、アルミニウム等を、製造時のエネルギーが少ない木材に代替し、それを長期間使用することによって、木材製品に蓄えられている炭素量を増やすことが地球温暖化防止のために重要である。
 さらに、環境保全に役立つことを一定の基準により示した製品を優先して使うことも効果的である。
 このように商品・サービスを購入する際に必要性をよく考え、価格や品質だけではなく、環境への負荷ができるだけ小さいものを優先的に購入することを「グリーン購入」という。一人ひとりが日頃の買い物や職場での備品・資材を調達する際にグリーン購入を進めることは、地球への負担が確実に減るばかりでなく、商品を供給する事業者に環境への負荷が小さい製品の開発や環境に配慮した経営努力を促すことにもなる。
オ 廃棄物の発生を少なくする
 家具や電化製品など耐久消費財は、修理すれば長期間使用することができる物が多いので、なるべく修理して使うことが望ましい。また、まだまだ使える物を引っ越しなどで手放さなければならなくなった場合には、フリーマーケットなどで人に譲ることも有効な方法である。
 食品トレーや牛乳パック、アルミ缶、スチール缶、PETボトルは、なるべくごみとして出さず、リサイクルとして回収しているところ(自治体の分別収集、スーパーの回収ボックス等)まで持っていくようにする。その際、決められたルールに従って出さないと、リサイクルの際人手と費用が余計にかかることとなるため、ルールに従って出すことが大切である。また、飲料を買うときは、再利用が可能なビン(リターナブルビン)の物を買うことにより廃棄物の発生が少なくなる。
囲み3-1-1 家庭生活の工夫による二酸化炭素排出削減の例
 地球温暖化防止のためのライフスタイル検討会では、家庭生活の工夫による二酸化炭素排出削減量の試算をした。以下にその幾つかの例を示す。
・ 断熱材による暖房の削減
 ガスストーブ、エアコン、石油ストーブ各1台が
 1日3時間、年間120日間削減可能と仮定→1年で122.0kgC
・ 可燃ごみの削減(1日0.5kgを削減)→1年で 43.8kgC
・ 朝シャンをやめる(1回6分年200日をやめる)→1年で 23.9kgC
・ 自動車での送迎をやめる(往復6km年200日をやめる)→1年で76.8kgC
・ 通勤を自動車からバスへ
 片道3km、年間240回を自動車からバスへ
 バスは燃費が通常より向上と仮定→1年で 78.0kgC
・ 通勤と買い物を自転車へ
 (往復4km年150回を自動車から自転車へ)→1年で 38.4kgC
・ パソコンのスイッチを切る
 (260Wのパソコンを1日2時間240日切る)→1年で 15.0kgC
・ エコクッキングに努める
 (1回で水85l、ガス119l、ごみ80gの削減を年300回)→1年で32.7kgC
・ フリーマーケットを利用する
 ワンピースに換算して年間10着分を
 フリーマーケットで購入する(原油換算)→1年で 48.7kgC
・ 低燃費車を利用する
 (年8000kmを30%の低燃費車で走行したと仮定)→1年で153.6kgC
カ 二酸化炭素の発生抑制
 家庭での電気、ガス、灯油、ガソリン、水の消費など、生活のあらゆる場面が二酸化炭素を排出する要因になっている。これらのエネルギーの消費は家庭生活を営むのに必要不可欠であるが、必要以上の浪費は地球温暖化につながるとともに家計も圧迫することになる。
 例えば、暖房機器や冷房機器を効率的に使う、節電をする、ガス器具を効率よく使う、リサイクルを進める、自動車の利用を減らす、節水するなど、生活を少し工夫することによりどれだけ二酸化炭素の排出を減らせるだろうか。平成9年10月、地球温暖化防止のためのライフスタイル検討会がまとめた試算によれば、1世帯当たり約1.2トンもの二酸化炭素の排出を減らすことが可能であるとされた。平成7年における家庭生活の消費に関連した二酸化炭素の1世帯当たりの排出量は約3.6トンなので、3分の1もの二酸化炭素を減らすことが可能であるということになる(囲み3-1-1参照)。
 さらに、製造時のエネルギー消費量の大きい製品を木材製品に替えることも、二酸化炭素排出削減のために有効である。
 なお、家庭生活におけるCO2の排出量など環境に負荷を与える行動や環境によい影響を与える行動を記録し、環境への負荷量の収支計算を家計簿による家計の収支計算のように行うものとして「環境家計簿」がある。この環境家計簿をつけることにより、自らの行動を客観的に評価し、環境への負荷の少ないライフスタイルの確立に役立てることができる。
キ 環境保全行動の実施状況
 これまで挙げた環境への負荷を低減する行動をはじめ、自然とのふれあいの体験等自ら学習に努める、地域のリサイクル活動等の環境保全活動への参加、国・地方公共団体が行う環境保全施策への協力について、環境庁では平成7年度から毎年全国の20歳以上の男女を無作為抽出しアンケート調査を実施している。その結果を第3-1-24図にまとめて示す。
 これを見ると、「ゴミの分別」などルール化された「リサイクルのための分別収集への協力」に関する環境保全行動はよく行われているが、「環境保護団体に寄付」「環境保護の市民活動」「地域の緑化活動」への参加、あるいは同じリサイクルでも「活動」そのものへの参加など、能動的な環境保全意識に裏付けされた行動に関しては実行率が低い。また、環境への負荷を低減する行動の中では、「再生紙等負荷の少ない製品やサービス選択」の実行率が他の行動に比べ低くなっている。
囲み3-1-2 やってみよう環境にやさしい暮らし−エコライフ実践活動in代沢中町会'97−
 この取組は環境庁、世田谷区が、世田谷区代沢中町会の協力と東京電力(株)、東京ガス(株)の協賛を得て、平成9年11月4日から12月10日まで実施したものである。町内会というまとまった地域で約1ヶ月間に渡り環境にやさしい暮らしを実践し、その効果を電気・ガス使用量を通じてCO2削減量という数字で把握をした。
 この実験では、日常生活での具体的行動を難易度等から、「すぐやってみよう」(「使用していない家電製品のコンセントを抜く」など9項目)、「じっくりやってみよう」(「暖房の設定温度はなるべき低めにする」など18項目)、「できたらやってみよう」(「白熱灯を電球型蛍光灯に取り替える」など15項目)に分けて、それぞれの行動を「いつも実施した」、「時々実施した」、「あまり実施しなかった」、「実施しなかった」の4パターンによる差別を設けて各家庭での実施状況をアンケートに記入してもらった。また、各行動の実施後に、電気・ガスの検針票の当月及び前年同月の使用量を比較した。アンケート回収率は60%であった(1,098世帯中659世帯)。
 その結果、積極的に取組を行った世帯(「すぐやってみよう」6〜8項目をいつも実施した世帯。全体の36.7%に相当)では、約5%(6.1kg-C/世帯・月)のCO2削減効果が見られた。また、対象世帯全体での削減量は1.9%(3.8kg-C/世帯・月)であった。
 また、エコライフ実践活動の必要性については、「大変そう思う」が68%、「かなりそう思う」が19%と、全体の87%の住民が必要性を感じていることが明らかになった。


(3) 事業者が行いうる方策
ア 事業者の役割
 各々の事業者は、製造や流通の段階において少なからず環境に負荷を与えている。この負荷を低減するために、製品の原材料を環境負荷の少ないものにしたり、製造工程でのCO2削減のため製造工程を見直したり、物流拠点の整備などで効率的な流通の確保に努めるなど、事業者に様々な取組がみられ始めている。
 また、事業者は消費者に対し製品やサービスを提供する立場にあることから、より環境負荷の低い製品や、環境負荷の低減に関係するサービスを提供することが可能となる。消費者は事業者の提供する幅のなかで商品選択を行っていることから、我々自身の生活に直接関連する環境負荷の低減に事業者の果たす役割は大きい。事業者の環境に配慮した行動を支えるためには、社会システムのあり方の変革もまた必要である。
(ア) 環境負荷の低い製品開発、サービスの提供
 冷蔵庫やエアコンの冷媒用に広く普及していたCFC(クロロフルオロカーボン:いわゆるフロンの一種)等が、オゾン層を破壊することから、生産の規制が行われることとなり、代替フロン冷媒等これらオゾン層破壊物質を使用しない技術開発が行われている。また、地球温暖化要因の代表とされるCO2排出量を抑えるため、省エネルギー型家電製品や低公害車などが開発されている。これらの開発は、事業者の持つ技術力に負うところが大きい。環境負荷の低い製品は、「環境にやさしい事業者」といったイメージアップにもつながることから、積極的に開発に取り組む姿勢がみられる。
 製品が廃棄される際、いかに環境負荷を低減するかも事業者が対応すべき問題のひとつである。
 家庭から排出される廃棄物の量を減らすため、台所用洗剤の詰め替え用容器の開発や、使い捨て容器からリターナブル瓶への動きや、流通段階での簡易包装や量り売りの実施など、いわゆる容器包装廃棄物の発生を抑制する動きがある。
囲み3-1-3 事業者の行動の決定要因
 事業者は、一般に利潤の極大化を追求する経済主体である。とかく事業者は極大利潤を追求する組織であるのでコスト増大要因となる環境対策を行わないという議論があるが、これは誤った認識である。事業者は単独では存在し得ず、市場経済や社会環境の中にその身を置いているので、極大利潤の追求を企図しつつも、その行動は市場経済、社会環境から様々な制約を受け、その中で活動を行うことになる。つまり、受ける圧力があれば事業者は環境対策を行うこととなる。
 このように事業者の行動を社会的にコントロールすることをコーポレート・ガバナンスと呼ぶが、このコーポレート・ガバナンスによって、事業者が環境に配慮するように導くことは可能である。環境保護に関する事業者の行動を決定しうるガバナンスには、大きく二つある。
 その一つは市場である。事業者は、環境問題に限らず様々な制約を、常に製品市場、金融市場、労働市場などから受けている。環境への配慮が欠けていると、例えば消費者等から批判を受け、製品の売り上げが落ちることが考えられる。すると、事業者は消費者に受け入れられるよう、環境に配慮した経営を行い、そうした製品を供給するようになる。つまりこの場合、製品市場が事業者の環境配慮を要請し、圧力を与えたと言えよう。同じように、金融市場から受ける可能性のある圧力として資金調達に支障を来す場合や労働市場からの圧力として優秀な人材の確保に支障を来す場合等が考えられ、こうした事態を招かないよう、事業者の行動はより一層環境への負荷を削減するような方向に向かうことになる。
 今一つは、法的な規制である。法的な環境規制に反することは、違法行為として罰せられるので、事業者が規制基準を遵守して活動する要因となる。さらに、米国のスーパーファンド法など、事前の環境配慮が欠けていたため引き起こされる環境汚染に対し、事業者に莫大な汚染浄化費用や損害賠償金の負担が強いられる事例が増えてきている。こうした資金的負担につながる制度も、事業者の活動の制約要因となる。資金的負担を求められた例としては、エクソン社のバルディーズ号事件がある。この事件は、アラスカ沿岸でタンカー・バルディーズ号が座礁、原油流出事故を起こし、エクソン社は莫大な汚染除去費用を負担するとともに、米国政府とアラスカ州に対し10億ドル以上の賠償金を負担することとなった。


 また、牛乳パック、ペットボトルなどの回収箱を設置し、回収した資源を利用した再生品の販売も行われている(第3-1-1表)。
 製品の長期間の使用を手助けし、使い捨て時代の流れをくい止める「修理専門店の登場」などの取組も現れている。
囲み3-1-4 修理専門店の登場
 「修理するよりも、買い替えた方が安いし時間もかからない。」家電製品の修理を販売店に依頼すると、こんな返事が返ってくる。修理すればまだ使用できる物を、廃棄物にしてしまう今の流れにストップをかける動きが現れ始めている。
 家電量販店の修理専門部門から独立し、修理専門店として事業を展開している事業者がある。数多くの修理部品を店舗にそろえ、自前で修理を行うため、修理品を販売店と製造メーカーとの間で配送する日数分が短縮できた。修理の実績も月に1,000件を越える店舗もあり、今後は全国展開を図ることとしている。
 修理専門店の出現は、事業者の意識改革であると同時に、消費者の「ものを大切に長く使用する」意識を喚起するきっかけとなることが期待される。
(イ) 消費者意識と事業者の意識のギャップ
 平成7年度、地球環境とライフスタイル研究会(国立環境研究所)が実施した「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響《消費者編》」によると、消費者は環境問題を解決するためメーカーに、「廃棄された製品を責任持って回収・処分する」(77.4%)、「環境に良い製品を積極的に開発する」(68.5%)ことを求めている。
 また百貨店・スーパー・小売店に対しては、「包装を簡素化する」(70.3%)、「ビンやトレイなどのリサイクル活動を積極的に行う」(63.9%)ことを望んでいる。
 平成8年度、同研究会が実施した「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響《企業編》」によると、メーカーが消費者から期待されていると認識していることは、「公害対策など環境対策を積極的に行う」(60.1%)、「環境に良い製品を積極的に開発する」(56.9%)、「廃棄された製品を責任をもって回収・分別する」(35.3%)となっており、消費者の認識とは大きな差がある。こうしたギャップを埋めるためのシステムづくりも事業者に求められる。
 流通業界では消費者の意見を商品の仕入れや販売に活かすため、店舗の一角に「消費者意見」を入れるボックスを設置したり、消費者との懇談会を実施し、消費者の生の声を聴いている。消費者の意見は、流通業界を通じメーカーに伝わり、商品開発に反映された事例もある。
(ウ) 製造段階での環境負荷の低減
 製造段階での環境負荷を低減することも、事業者の重要な役割のひとつである。(イ)でも記述したが、日常生活で使用している製品には、多くの有害物質が含まれる。製品を廃棄する段階での環境負荷を低減するためには、これらの物質の代替品の開発や、製造段階での有害物質の使用量の削減が必要である。
 「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響《企業編》」によると、企業は「環境に配慮した商品を製造、納入、納品してもらう」(25.0%)ことにより、取引企業やグループ企業といった他事業者に対し環境配慮を求めることもあるが、調査対象企業の半数近くは環境配慮について取引先やグループ企業に対し何ら要請していない状況にある。(第3-1-25図)
 事業者は、製造工程でCO2排出量の削減を図ったり、廃棄物の発生を抑制すると同時に、関連する事業者からの部品調達時には、環境に配慮されているものを要求したり、環境に配慮した事業者から調達することなどに心がける必要がある。
(エ) 消費者意識にみる環境問題
 「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響《消費者編》」によると、消費者が製品を購入する際に考慮する点は「機能や品質、価格」(約8割)であり、環境を第一に考えているわけではない。(第3-1-26図)
 さらに、「《企業編》」によると、事業者は、最近の消費者の環境意識を「大多数は価格重視で、環境配慮商品・サービスよりも安さを求める」(約6割)、「環境に良くても使うときに手間のかかる商品・サービスは好まない」(約5割)とし、消費者は環境より利便性や価格を重視する傾向にあると把握している。(第3-1-27図)
 また、「《消費者編》」では、消費者は環境問題の解決者を「国(86.0%)、企業(73.6%)個人(57.6%)」と回答している。環境問題を自らの問題として意識しているというよりは、国や事業者が解決する問題と考えている。
 事業者は、環境問題を解決するため行動を起こしつつある。たとえそれが、環境配慮から出発したものでなく、新たな市場の開拓を目的とするものであったとしても、確実に動き始めている。その動きをより大きなものとするため、我々は何をなすべきか考え、行動する必要がある。
 日常生活に起因する環境問題は、以前の産業公害と大きく異なり、我々一人ひとりが原因者であることを認識し行動する必要がある。事業者や行政だけで解決できる問題ではない。環境問題を自らの問題として認識し、生活者、事業者、行政といった三位一体で取り組むことから解決の糸口が見つかる。
イ 事業者の自主的取組
 今日の環境問題は、前節までで見てきたような廃棄物問題や地球温暖化、都市・生活型の環境問題など通常の事業活動や日常生活に起因する問題が大きな部分を占めるようになってきている。このような問題に対処していくためには、国、事業者、国民といった全ての主体が自主的積極的に環境保全に向けた行動に取り組んでいくことが求められている。
 こうした観点から、企業においても環境保全への取組を自らの目的の一つとしてとらえるようになり、いかに環境保全を事業目的の中に適切に織り込んでいくかが問題となってくる。前項ア で述べた取組を自主的に進めていく手助けとなる手法を紹介する。
(ア) 環境ラベル
 製品の環境に関する情報を提供する環境ラベルは、事業者に対して、
? 環境保全型製品の開発の動機を与える
 ほか、事業者はそれ自身が消費者としての性格を持つので、
? 製品の「環境への負荷」についての情報を伝達されることにより、消費財の購入や生産用資材の調達の際に、より環境保全に配慮した行動をとることが可能になる
 といったことを通じ、経済社会システムがより環境に配慮したものになることに貢献するものととらえることができる。
(イ) 環境マネジメント
 事業者が、自主的に環境保全に関する取組を進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいくことを環境管理(環境マネジメント)といい、このための工場や事業場内の体制・手続等を環境マネジメントシステムという。
 環境マネジメントシステムの構築に取り組むことは、
? 効率化によるコストの削減が期待できる
? 事業者の環境リスクの低減に貢献する
? 自社製品の環境負荷を把握し、環境負荷の少ない製品を製造することにより、競合他社製品と比べ優位を保つことが可能となる
 といったメリットが考えられる。
 事業者の自主的な環境ラベル、環境マネジメント及び環境報告書などへの取組によって、前項ア において述べたように生活者に関連する環境負荷が低減することに資する。これらの詳細については、第1章第3節を参照されたい。
(ウ) 事業者のオフィス部分における取組
 事業者のオフィス部分における環境保全への取組は、直接生活に関連する環境負荷の低減には結びつかないが、こうした取組は事業所内で働く各人の日常の行動に起因する部分が大きいので、ここで見てみることとする。
 事業者の環境保全への取組、目標は、近年発行する事業者が増えてきている環境報告書によって我々に知らされる。こうした報告書によると、サービス産業のみならず、メーカー等においても、オフィス部分での消費者としての環境保全に向け、目標を定めて、取組を進めている例が多いことを知ることができる。
 取組としては、主として
? 紙の使用に関するもの
 使用総量削減(例:前年比10%減)、
 古紙利用率向上(例:前年比古紙配合率10%増)、等
? エネルギーに関するもの
 電力使用量削減、等
? 廃棄物に関するもの
 廃棄物量削減、リサイクル率向上、等
? 物品購入の際のグリーン購入
 古紙利用率向上、エコマーク商品の購入、等
 が行われている。
 事業者は、経済社会の中で大きな部分を占めており、消費者としての事業者がこうした取組を進めていくことは、環境にやさしい製品の市場拡大につながるなど、期待される効果も大きく、今後ますますこうした動きが盛んになっていくことが望まれる。


(4) 行政の行いうる方策
ア 生活関連の環境負荷低減のための総合的な取組について
 国民のライフスタイルに係る政府の取組について、今一度考えてみたい。
 環境保全に係る政府の施策は、70年代の公害対策の時代は、事業者への規制等産業面における対策が中心であった。環境行政の基本的な法律であった公害対策基本法の法目的は「事業者、国及び地方公共団体の公害の防止に関する責務を明らかにし」とされており、住民の責務として行政が行う公害防止に関する施策への協力等が定められていたにすぎない。しかし、大都市における大気汚染や、生活排水による水質汚濁等の都市・生活型公害が深刻となってきた80年代から、生活者を環境行政の視野の中に入れるようになってきた。平成5年に制定された環境基本法においては、目的として「国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし」と環境保全に係る「国民」の役割を明確にし、国民の責務として、日常生活に伴う環境への負荷の低減に努めることが定められた。
 環境基本法に基づき、平成6年に策定された環境基本計画においては、今後対応すべき環境問題の特質として、「経済社会システムのあり方や生活様式の見直し」の必要性が明示され、そのため広範な主体による自主的積極的な環境保全に対する参加を必要としている。そこで、計画の長期目標の一つとして、公平な役割分担の元でのすべての主体の「参加」の実現をとりあげ、国、地方公共団体、事業者、国民の役割を定めている。環境基本計画における国民のライフスタイルに関わる施策は、環境情報の提供等国民への環境保全に係る普及、啓発施策が中心で、それ以外の個別分野については、地球温暖化、廃棄物・リサイクル対策、自然と人間の共生の確保等環境分野の特定の目的を達成するための施策の中に内包される形で記述されているが、個別施策と国民のライフタイル全体との関連が明らかにされていないなど、施策としてはまだ体系化されていない状況にある。
 また、環境保全を直接的な目的としていない各種の政府の施策も、間接的に国民のライフスタイルに与えているものもあるが、それらの施策の実施の際、どこまで環境保全の観点からのライフスタイルへの影響が考慮されているか不明である。
 本来ライフスタイルは、国民自身が選択し、発展させていくものであり、政府が、個人のライフスタイルを強制するようなものではない。しかし、国民のライフスタイルは、「人並みの生活」、つまり社会的に形成された「標準的」な生活水準に影響をうけるものでもある。また、既存の法制度、経済社会の仕組みを前提としたライフスタイルを選択せざるを得ない。
 したがって、国民の日常生活が大きな環境への負荷を与えている以上、政府が環境保全の観点からより望ましい方向へ誘導、支援していくことは必要である。(1)でみたように個人の活動の要因には個人の嗜好に加え、経済社会の状況、システム、制度等政府の取組に大きく関わってくるものも多く、個人の取組だけでは実行不可能なものも多いことから、政府のライフスタイルに関する施策について整理してみたい。
 以下では、ライフスタイルに影響を及ぼしうる政府の施策を、?個人や事業者の活動への働きかけ、?政府自身の活動の変革、の2つに大きく分け、具体的に考察してみることとする。
イ 生活者や事業者の活動への働きかけ
 生活者・事業者といった各主体が環境に配慮した行動を起こすまでには、?「環境配慮の重要性を認識し、環境配慮に何らかの行動が必要であると意識すること」、?「環境配慮の行動を実践すること」の2つの過程が存在する。したがって、こうした過程に働きかけることが、各主体の行動を環境に配慮したものへと変更するために有効である。環境政策では、生活者や事業者に働きかける手法として、主に直接規制、経済的手法、普及・啓発といったものが用いられうる。直接規制は環境負荷を生じさせる活動に対する強制的な規制であり、排出基準、安全基準などがこれに当たる。経済的手法は、補助金、融資、税制上の特例措置、環境に係る税、課徴金、排出権取引、デポジット・リファンド制度など経済的誘因を与えることで行動の環境保全に適する方向への変化を促す手法である。普及・啓発には情報提供、環境教育などが含まれる。また、現実の政策は、種々の手法があわせて用いられることが一般的であり、これらの手法が相互に補完しあい、最も効果的となるような組み合わせとなるように適切な手法が活用されることが必要である。
 そこで、本項では、こうした行政の政策手法ごとに生活関連の環境負荷対策について考察していくこととする。
(ア) 各主体の自主的積極的行動の促進−情報提供、環境教育等−
 個人が日常生活において環境配慮型の行動をとるためには、適切な情報提供を行っていくとともに、個人が環境に関心を持ち、環境に対する人間の責任と役割を理解することが必要不可欠である。ここでは、生活の様々な場面における自主的積極的な環境保全行動を促すような情報提供、環境教育・環境学習の推進や民間活動の支援について記述する。
a 生活の中で使用されるものの環境負荷の多寡などの情報提供
 ライフスタイルは、生活者のそれぞれが、様々な選択を行って方向付けられるのもであり、それをより環境への負荷の小さいものにしていくのも生活者である。
 しかしながら、本節の1で述べているように、生活関連の環境負荷は、生活者の行動のみならず、事業者・行政等の行動も密接に関連している。したがって、このような環境負荷の低減に取り組んでいこうとするとき、それぞれの主体が当事者意識を持って取り組むことは勿論であるが、三者がバラバラに取り組むよりも、それぞれが情報を共有しあい、互いを認識し、連携して取り組むことがより有効かつ効率的である。
 情報は、適合性、信頼性、理解可能性、比較可能性の4つが満たされて、有用なものとなる。適合性とは、提供される情報が受け手の欲しているものかどうかということである。タイムリーであるか、必要な程度に詳しい情報か等が、これに当たる。信頼性は、その情報が信頼できるかどうかということであり、誠実な表示法やデータの中立性等である。理解可能性は、文字通り、情報が受け手に理解される内容であるかどうかである。いかに詳しい情報も受け手に伝わらなければ、その情報が活かされることはない。比較可能性は、一貫性のある情報を提供しているかどうかである。
 このような利用可能性の高い情報を、生活者へ提供し、また提供する枠組みを作ることで、環境に望ましい方向へライフスタイルが変わっていくことをサポートしていくことができよう。具体的な情報共有化手段を見ていくことにする。
(a) 環境ラベル
 生活者がそれぞれ環境保全型製品に関する関心をより高め、より広範な取組に結びつけていくためには、多くの製品の中で何が環境への負荷が少ないのか、具体的にどのような環境負荷があるのかといった情報を適切に提供していくことが不可欠である。
 このような製品の環境に関する情報を提供するための手段として、その有効性が期待されるものに環境ラベルがある。一般に環境ラベルとは、製品等の環境に関する属性情報をラベルの形で表示することにより、製品の差別化を行うものである。このような環境ラベルは、製品の「環境への負荷」についての情報を消費者に伝達することにより、消費者がより環境保全に配慮した消費行動をとることを可能にする、という点において、生活者の商品選択により、経済社会システムがより環境に配慮したものになることに貢献するものととらえることができる。
(b) PRTR制度
 PRTRのシステムは、事業者が、規制・未規制を含む潜在的に有害な幅広い物質について環境媒体(大気、水、土壌)別の排出量と廃棄物としての移動量を自ら把握し、これを透明かつ客観的なシステムの下、何らかの形で集計し、公表するものである。OECDが導入を勧めているこの制度は、これらの物質の排出、移動の情報の地域住民との共有が図られることにより、個人にとって、環境リスクに対する理解が進み、適切な情報と理解の上に立った行政や事業者との対話や自らの環境リスクの低減行動がとれるという利点があり、個人のライフスタイルを望ましい方向に変更するきっかけとなりうるものである。このような利点を有するPRTR制度は、個人、事業者、行政が相互に協力しつつ連携した化学物質対策を講じることを可能にする手法である。
 環境ラベル及びPRTR制度については第1章第3節に詳しいので、参照されたい。
b 環境教育・環境学習の推進
(a) 環境教育・環境学習の取組経緯
 環境教育については、1972(昭和47)年にストックホルムで開催された国連人間環境会議において採択された「人間環境宣言」の中で、その重要性が明記されたのを契機として、UNESCO/UNEPを中心として、国際的な取組が進められた。1975(昭和50)年にはベオグラードで「国際環境教育ワークショップ」が開催され、環境教育に関するベオグラード憲章が採択された。この憲章では環境行動の目標を、「各国民がそれぞれの文化に基づいて『生活の質』、『人間の幸福』などの基本的概念の意味を自ら明確にし、いかなる行動が社会的・個人的幸福を増進させうるかについての共通理解を明確にすること」とし、環境教育の目的を、関心、知識、態度、技術、評価能力、参加の6項目として掲げ、環境教育の内容、在り方等のフレームワークが示された。
 我が国で環境教育の取組が広がったのは、昭和60年代に入ってからであった。その後平成5年に成立した環境基本法では、「環境の保全に関する教育及び学習の振興」を環境保全のための主要施策の一つとして規定した。また、平成6年に閣議決定された環境基本計画においても、持続可能な生活様式や経済社会システムを実現するため、環境に対する人間の責任と役割を理解し、環境保全活動に参加する態度及び環境問題解決に資する能力が育成されることが重要である、として、学校、地域、職場、野外活動の場等、多様な場において互いに連携を図りながら、環境教育及び主体的な学習を総合的に推進することとしている。
(b) 世界の共通認識となった、環境問題を解決しうる人材の養成
 (財)旭硝子財団では、我が国の他、世界各地域の主に政府や民間の環境問題に携わる有識者を対象に、「第6回地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」調査を行った。その中の「持続可能な社会実現のために、あなたが重要だと考える対応テーマ項目を3つ選択しなさい」という質問に対して、「市民の過剰消費ライフスタイルの変革」、「共生的自然観を育む環境教育の推進」及び「過剰生産・消費・廃棄システムの変革」が上位3つを占めた(第3-1-28図)。その中で、特に海外では「環境教育」は1位ないし2位を占めており、環境配慮意識を育てることの重要性は世界の共通認識であることが分かる。
(c) 国民の自主的な環境学習の推進
? 子どもたちのための環境教育・環境学習の推進
 次世代を担う子どもたちへの環境教育・環境学習は、人間と環境の関わりについての関心と理解を深めるような自然体験や生活体験を積み重ねることにより、環境保全意識を高めていくような方法で進めていくことが重要である。
 環境庁では、平成7年6月から、全国の小中学生を対象として「こどもエコクラブ」への参加を呼びかけ、地方公共団体との連携の下、子どもたちが楽しみながら地域の中で環境学習・活動を行えるよう支援している。
 クラブの活動は、それぞれのクラブのメンバーの興味・関心に基づいて自ら活動内容を決めて自主的に行う「エコロジカルあくしょん」と、自主活動をより豊かなものにするために、こどもエコクラブ全国事務局から紹介される全国のクラブの共通的学習活動である「エコロジカルとれーにんぐ」の2つの柱から成る。特に、クラブの中心的活動である「エコロジカルあくしょん」では、全国各地で地域の環境に密着した多様な活動が展開されている。
 全国事務局では、会員向けに活動のヒントとなる情報を盛り込んだ会報の発行や、各クラブの交流を深めるための「こどもエコクラブ全国フェスティバル」や「夏の全国交流会」の開催等を行っている。また、アジア地域で環境保全活動を行う子どもたちとの交流や意見交換等を行う「こどもエコクラブアジア会議」も開催している。
 平成9年度には、全国で、約3,500クラブ、約55,000人の子どもたちが参加している。
 一方、学校教育においては、従来から、小・中・高等学校を通じて、児童生徒の発達段階に応じて社会科や理科、保健体育科などの教科等において環境に関する学習が行われてきている。また、文部省では、平成9年6月に「地球環境問題に関する行動計画」を取りまとめ、平成10年2月に同計画を改訂しているが、この中では、体験的な学習を重視した学校における環境教育の充実や青少年の環境学習機会の充実等がうたわれている。
? すべての年齢層に対する環境教育・環境学習の推進
 環境教育・環境学習は幼児から高齢者までのそれぞれの年齢層に対して、多様な場において互いに連携を図りつつ推進することが必要である。特に、現代の環境問題を引き起こした現在の世代には、環境について学び、責任を持って環境問題を解決し、よりよい環境を次世代へ引き渡す義務がある。近年では様々な場において環境教育・環境学習の機会が提供され始めており、今後も積極的な取組が期待されている。
囲み3-1-5 知り、学ぶことが、行動へ結びつく〜板橋区の自主活動グループ「ぽんぷ」の活動〜
 東京都板橋区では、区立エコポリスセンターにおいて「板橋エコロジー講座」を開催している。この講座は、1つのテーマを「学習」、「実習」、「見学」、「ワークショップ」の4段階に分けて学習することにより、エコロジカルな市民として実際に行動を起こすきっかけを見つけられるようなカリキュラムとなっているのが特徴である。平成9年度は、水環境、エネルギー、価値観、まちづくり等のテーマについて、受講生参加型の講座を実施し、区民の環境学習を支援する機会として好評を得ている。
 「ぽんぷ」はこの講座の平成7年度受講生により結成された自主活動グループである。毎回の受講を通じて当事者意識を持ち始めた受講生たちが、「今の自分たちにできること」を考え、行動に移していく母体として、平成8年に会の活動が始まった。「ぽんぷ」の名前は、「環境のことや社会システムのことで一人ひとりは様々なつぶやきを持っている。そのつぶやきを吸い上げるグループになりたい」という思いを込めて名付けられた。「ぽんぷ」の活動は月2回。参加者も主婦が大半で、決して派手さはない。毎回手探りの状況で活動を行っていくうちに、生ゴミの堆肥化や「さき織り」(古布を編み直してハンカチなどを作る)、リサイクル問題などに取り組むようになった。決して無理をせず、自分たちの身の回りの「当たり前」の生活態度を見直し、できるところから行動する。まさに手押しポンプが水を吸い上げるかのようなゆったりとした動きであるが、吸い上げられたつぶやきの滴は集まり、やがて大きな流れになっていくかもしれない。
 環境庁では、平成8年度に地球温暖化対策の一つとして、「エコライフ・ワークショップ」を開催した。これは、環境に配慮したライフスタイル確立のためには、様々な世代、地域、職業の人々が集まりそれぞれの立場で考え、意見交換を行い、自主的に学ぶ機会を設けることが重要であるという認識から始まった取組であり、全国3カ所において延べ105名を集めて開催され、参加者の好評を得た。そこで平成9年度にはさらにこの取組を全国に広めていくため、ワークショップを企画・運営を行いうる人材(ファシリテーター)を多数養成するための「ファシリテーター養成ワークショップ」を、全国の8つの地域より55名の参加者を得て京都市において開催し人材育成に努めた。その後この8つの地域において実際にエコライフワークショップを開催した。
 また、文部省では、博物館、公民館等の社会教育施設において、地域の環境保全や環境理解等を深める地域社会教育活動などの学習機会を充実し、生涯にわたる環境学習を推進している。
 現場の博物館等においても、環境教育・環境学習を推進する取組が行われている。滋賀県立琵琶湖博物館では、琵琶湖と人々の生活の関わりを特に昭和30年代における地域の人々の暮らしを中心に展示している。それを疑似体験することにより、地域の環境問題を考えるきっかけとすることが目的である。また、同館は“魅力ある地域への入口として、フィールドへの誘いとなる博物館”をめざす基本理念を持っている。琵琶湖周辺の自然や歴史を単に保存し展示する場所ではなく、博物館を訪れる人々が、自分たちの周りにある自然や、地域の歴史を考え直し、実際に現場へ出て活動するきっかけを作ることを意識した企画・運営を行っている。
c 民間活動の支援
 平成10年3月に「特定非営利活動促進法」が第142国会で成立した。今後は民間団体による非営利活動の活発化が予想され、環境分野においても自主的な取組が進められることが期待される。近年では、市民団体等による自主的な環境学習や環境保全活動が広がりつつあり、それらを支援する取組が各地で行われ始めている。
(a) 環境カウンセラー登録制度
 環境庁では、民間の自主的な取組を支援するため、平成8年度に「環境カウンセラー制度」を創設した。同制度では、環境に関する知識や経験を活用して環境に関する相談や助言を行いうる者を、広く一般から公募し、一定の要件を満たす者を推奨すべきカウンセラーとして「環境カウンセラー登録簿」に登録する。この名簿を広く一般に公表することで市民や事業者からの環境保全活動等に関する相談・助言の要請や、環境学習に際しての講師派遣の依頼などに応えようというものである。
 登録は、市民や市民団体等の環境保全活動を扱う「市民部門」と、事業者の環境保全対策や環境活動評価プログラム等を扱う「事業者部門」の2部門に区分されて行われる。また、登録者を対象に毎年度研修を行っている。平成9年度までに市民部門として496人、事業者部門として993人が登録されている。
(b) 民間活動支援の場づくり
 NGO等民間団体の活動はその多くが会員のボランタリーな活動に頼っているのが現状であり、専用事務所や専属スタッフを有する団体は少数である。一方で公益的な環境保全に関する活動を行う民間団体の重要性は年々高まっており、こうした取組を支援する取組が始められている。
 神奈川県は、市民活動の支援策の一環として、横浜駅西口のかながわ県民センター内に「かながわ県民活動サポートセンター」を平成8年4月に開設した。現在、同センターでは環境保全活動をはじめとする県民の自主的活動が活発に行われている。同センターの運営主体は県であるが、運営協議会や利用者の意見を聞く機会を多く設け、柔軟性のある運営(毎晩夜10時までの開館など)を行っている。その結果、開設初年度である平成8年度の年間利用者は約14万人、利用団体数約1,400に上った。また、センター利用者の反応も好評である。都道府県レベルでこういった施設を運営することは全国初であるが、この経験が参考となり、各地で同様の活動が活発化することが期待される。
 また、環境庁は国連大学との協同事業として、東京青山に地球環境パートナーシッププラザを開設している。環境関連NGOが交流会、学習会等を開くことのできるセミナースペースの提供や、環境保全のための取組を紹介する展示、ワークショップの開催など、環境保全に関する民間活動の支援を行っている。
(c) NGOによる環境保全活動への経済的支援
 環境分野における民間団体(環境NGO)の活動は、国際社会においては早くから重要な位置を得てきたところであるが、我が国においても近年国際舞台で積極的な活動が行われるようになってきた。特に、地球温暖化防止京都会議においては、我が国の様々な環境NGOが世界各地から専門家を招聘し、また会議の進行状況や民間団体の意見に関する情報提供、大規模なパレードの実施など活発な活動を行い、注目された。
 環境NGOは、環境国際協力の分野でも大きな役割を果たしてきた。現地のNGOと協力しつつ、現地の事情に応じてきめ細かな対応を行うとともに、地域社会に密着した活動を実施し、さらに国や地方公共団体による対応ではカバーできない分野などで活躍している。
 しかしながら、我が国の環境NGOは、国際的な環境NGOと比べると組織も活動規模も小さく、より効果的な環境保全活動の推進のためには、資金の不足、人材の確保等多くの課題を抱えており、強力な支援が必要な状況である。
 これを踏まえ、環境事業団では、政府の出資及び民間の出えんにより、平成5年5月より「地球環境基金」を創設し、その運用益等を内外の民間団体が開発途上地域において行う環境保全活動及び我が国の民間団体が国内で行う環境保全活動への助成に充てている。また、平成9年度からは、要望内容の多様化に対応し、民間団体による世界的な規模の会合開催への支援及び民間団体間の世界的なネットワーク形成に向けた支援などを行うため、民間のグローバル・パートナーシップ・プログラムを新設し、助成を開始した。平成9年度の助成要望と採択の件数は、第3-1-2表のとおりである。
(イ) 経済的手法
 生活者が財やサービスを消費する場合に、もっとも重大な関心を持つ情報は、価格についてのそれであろう。財やサービスを生産する側が市場を経由して負担する費用のほかに、市場を経由せずに最終的には社会全体が負担することになる費用(外部費用)が存在しているが、普通この外部費用を生産者は費用ととらえないため、意思決定の際に考慮されることもなく、従って価格にも反映されていなかった。また生活者は、価格に反映されないため、この費用を認識することはなかった。このように市場経済の外におかれた外部費用は削減への誘因が働かず、社会全体としてその活動がそのまま継続されることとなる。
 こうした状況はまさに環境に関して生じている。経済活動にともなって生じている環境に関する外部費用の存在を、それを生じさせている生産者及び消費者が何らかの方法で認識し、経済活動に組み込むことができれば、環境負荷を低減することが可能となる。外部費用まで含めた価格体系は、「フルコスト・プライシング」と呼ばれることがある。国際貿易や国際投資の歪みを防止しながら、環境汚染等による環境利用のコストを価格に織り込むことなどを求めた汚染者負担の原則(PPP)は、環境政策上の重要な原則として各種の規制等を通じて実施されているが、経済的負担を課す措置もこの原則に沿って、効率的に外部費用を内部化することに資するものである。
 経済的手法には、こうした負担を課す措置のほか助成を与える措置があり、いずれにしても、経済活動・日常生活を市場メカニズムを通じ、経済的な誘因を与えることにより、環境保全活動に適合したものとなるよう促そうとするものである。
a 助成措置
 環境基本法では、環境に対する負荷活動を行う者による公害防止のための施設の整備その他の自ら環境への負荷を低減するための措置に対し、必要かつ適切な経済的な助成を行うために必要な措置を講ずるよう努めることを規定している。また、環境基本計画においては、環境改善を限られた期間中に早期に達成するために行われる場合があるが、その際には助成を受けるものの経済的な状況や財政支出が最終的には国民の負担となることを勘案し、また、国際貿易、国際投資に重大な歪みを与えることのないよう、汚染者負担の原則を踏まえ、必要かつ適正な措置を活用する必要があるとされている。
b 経済的負担を課す措置
 製品・サービスの取引価格に環境コストを適切に反映させるための、環境に係る税、課徴金、預託払戻制度(デポジット・リファンド・システム)などの経済的負担を課す措置については、都市・生活型の環境問題や地球温暖化問題など多数の日常的な行為から生ずる環境への負荷を低減させる点で、有効性が期待されるとともに、資源の効率的

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