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第1節 

1 生活関連の環境負荷

(1) 生活関連の環境負荷は誰の責任か
 生活関連の環境負荷といえば、エネルギーの利用に伴うCO2や家庭ごみ、自動車排出ガス、台所排水等がすぐに想起されるが、これらは生活関連であるからといって、生活者に排出の全責任があり、生活者のみの取組により全てが解決できるというものだろうか。
 例えば、現代の生活を営むには、ある程度のエネルギーの利用、商店における様々な商品の購入は不可欠であるが、これらの行動による環境負荷の程度を左右するエネルギー利用機器のエネルギー効率や商品への包装の多寡は生活者が直接に改善することは難しい。それらは商品の製造、流通を行う事業者やその活動への規制等を行う行政の取組如何により変わってくる。また、道路、電車、自転車等どの交通機関を利用するかにより、同じ区間の移動でも環境負荷は違ってくるが、もし環境負荷の小さい交通機関がその地域に存在しなければ、たとえ生活者が環境に配慮したくとも、生活者はその地域にある交通機関によらざるを得ない。つまり行政や事業者の整備する公共交通機関のような社会資本が、生活者の行動による環境負荷の程度に大きな影響を持っていることがわかる。一方、こうした事業者や行政の行動は、生活者の欲求に規定されているとも言え、さらにその生活者の欲求が、事業者の宣伝活動等により喚起されていることもあり得る。
 以上の例をみても、生活関連の環境負荷低減を考えるためには、生活者の行動は勿論のことであるが、それだけではなく、関連する事業者・行政・NGO等あらゆる主体の行動が織りなす経済社会システム全体を視野に入れる必要があるのではないかと考えられる。
 以上のような問題意識から、本章で扱う「生活関連の環境負荷」とは、原則として、生活者の行動から直接的に排出される環境負荷及び生活者の利用する財・サービス等を作り出す際に出る環境負荷を指すこととし、これらの環境負荷低減のために取りうる方策についてはその主体を問わず扱うこととする。
(2) 現代の先進国に生きる我々の資源消費量の特異性
 現在の我が国の生活関連の環境負荷を分析する前に、少し現代の資源消費を過去のそれと比較してみよう。第3-1-3図第3-1-4図は、それぞれ世界のエネルギー消費量、化石燃料消費量の推移を示したものであるが、産業革命以降、特に20世紀の半ば以降、加速度的に消費量が増大している。また、第3-1-5図は、水資源の消費量の推移を示したものであるが、これも20世紀の半ば以降、大きく増大している。これらのデータは人類全体の資源消費量であり、全てが家庭内で消費されるわけではないが、我々の現在の生活はこうした膨大な資源消費に支えられていると言うことができる。なお、この間、世界の人口も1800年の約10億人、1950年の約25億人から現在の約60億人へとそれぞれ約6倍、約2.4倍に増加しているが、資源消費量はこれをはるかに上回るペースで伸びている。現代は、歴史上未曾有の資源消費時代にあると言える。
 次に、先進国の資源消費及び環境負荷を開発途上国のそれと比較してみよう。第3-1-6図は、1人当たりのCO2排出量の国際比較であるが、1人当たりで見ると、西側先進国の人々は、開発途上国の人々の約6倍排出している。
 また、第3-1-7図は、ドイツといくつかの開発途上国の環境負荷を比較したものであるが、現代の先進国の人々の資源消費の膨大さがここにも見られる。
 こうした資源の大量消費を背景に、現在、様々な環境問題が顕在化しており、これらの問題に対する早急な対策が必要とされている。また、化石燃料等は有限であり、いずれにしても現在のような資源消費に支えられた生活を長期にわたって持続できないことは明らかである。


(3) 生活関連の環境負荷
 では、我が国の環境負荷に占める生活関連のものの大きさ等について、CO2の排出、水質汚濁・水資源使用量、廃棄物を例にとって概観する。
ア CO2の排出
 我が国の平成7年のCO2排出量の内訳を家計と企業に分けてみると、生活者が消費する電力や燃料に起因して排出される家計のCO2排出量は、およそ2割、企業等がおよそ8割である。家計のおよそ2割の内訳は、家庭が全体の1割強、マイカー利用などの運輸関係が全体の1割弱等となっている。一方、平成2年度〜平成7年度の伸び率をみると、家計がおよそ2割、企業等が約5%となっており、家計の伸び率が企業のそれに比べ顕著である。
(ア) 家庭内でのエネルギー消費等
 家庭内でのエネルギー消費に伴うCO2排出の内訳とその推移は、第3-1-8図のとおりであり、給湯用、照明・動力用、冷房用の伸びが著しい。第3-1-9図は、家庭内で消費されるエネルギー利用機器のライフサイクルエネルギーを示しており、赤い部分が製造段階、青い部分が家庭内での使用段階で消費されたエネルギー量である。多くの機器では、使用段階でのエネルギー消費の割合が大きくなっており、生活者の使用状況、機器のエネルギー効率が、環境負荷に重要な影響を持つ。また、第3-1-10図は、エネルギー利用機器の待機時における電力消費を示したものであるが、製品によっては、稼働時の50%以上のエネルギーを消費しており、待機時の消費電力の改善が望まれる。一方、ワープロ等いくつかの機器では、製造段階でのエネルギー消費が大きな割合を占めているため、環境負荷低減のためには、製造段階での省エネルギー努力が重要である。また、製品によっては、木材等の低エネルギー消費資材への転換を図ることも必要である。また、第3-1-11図は、家庭で消費される農産物の生産の際に投入されたエネルギー量とその用途別内訳であるが、ハウス栽培のもの、特に冬春に収穫されるものの生産には、省エネルギー化も進められているが、大きなエネルギーが使用されており、光熱動力の割合が大きくなっていることがわかる。
(イ) 自動車利用に伴うエネルギー消費
 生活者が運輸部門で消費するエネルギーの大部分は自動車によるものである。第3-1-12図は、輸送機関別のエネルギー消費量の推移を示しているが、自動車のエネルギー消費が大きな割合を占めるとともに、著しく伸びていることがわかる。自動車利用に伴うエネルギー消費増大の要因としては、自動車台数の増加と自動車の燃費の悪化傾向が挙げられる(第3-1-13図)。
 また、第3-1-14図は、輸送機関ごとに人一人を1km運ぶのに消費するエネルギーを示したものであるが、乗用車が鉄道に比べ6倍のエネルギーを消費していることがわかる。こうしたデータからも、徒歩、自転車の利用、公共交通機関の充実、幅広い利用が望まれる。
イ 水質汚濁、水資源利用の状況
 主な湖沼における発生源別汚濁負荷割合をCODについて見てみると、いずれも生活系の寄与が3割前後を占めている(第3-1-15図)。東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の、閉鎖性海域の化学的酸素要求量(COD)を見てみると、5割〜7割が生活系の寄与であり、生活が大きな汚染源となっていることがわかる(第3-1-16図)。これら生活系の汚濁の原因の内訳は(1日当たりの負荷割合(BOD))、し尿(3割)よりも、台所や洗濯などの生活雑排水(7割)の影響がはるかに多くなっている(第3-1-17図)。
 また、国内の水使用量の総量は、第3-1-18図の通り、近年ほぼ横這いとなっているが、このうち2割弱を占める(平成6年度)生活用水の量は、昭和40年に比べ、平成6年度には約3.5倍に増大している(第3-1-19図)。
ウ 廃棄物
 第1章第1節で見たように、平成6年度の我が国の一般廃棄物総排出量は5,054万t(東京ドーム136杯分)、国民1人1日当たり1,106gである(第1-1-2表参照)。
 一般廃棄物のうち、家庭から出る家庭ごみと、オフィスや商店から出る事業系ごみの内訳は、第3-1-20図の通りである。さらに、東京都と京都市の調査により、家庭ごみの内訳を重量で見てみると(第3-1-21図)、家庭ごみの組成のうち、5割弱は生ゴミ(厨芥)となっており、次いで紙類が4分の1前後を占めている。また、生活者自身の取組よりも製品の製造・流通業者の取組のあり方により増減すると考えられる容器包装廃棄物の量が、家庭ごみのうち、重量で4分の1強、容積では6割弱を占めている(第3-1-22図)。


(4) 各主体はどのような行動により生活関連の環境負荷発生に関わっているか
 次に、(3)で見た環境負荷は、それぞれどの主体のどのような行動に規定されるのかを簡単に見てみよう。
ア 生活者の行動
 生活者が直接に環境負荷の発生させる時点は、主として物質やエネルギーの消費と廃棄の際であるが、これを低減させることのできる生活者の行動には、?商品購入の時点で、極力不要な物は買わないこと、また、極力環境負荷の少ない物を選択すること(その後の消費、廃棄段階での環境負荷に大きな影響を持つ)、?商品の購入後に、環境負荷が少なくなるよう使用量、使用方法、管理方法に配慮すること、?商品の廃棄の際に、極力最終処分量が減るようなルートに廃棄物を出すこと等がある。なお、商品購入の時点でその商品のライフサイクルで評価した環境負荷の小さい物を選択すれば、以下で見る事業者の使用原料や製造工程にも好影響を与えることができる。
イ 事業者の行動
 事業者は生活者の消費・利用する様々な物・サービス(食品、衣料、日用雑貨、薬品、住宅、エネルギー利用機器、自動車、電気・ガス・水道等の公共サービス、輸送サービス、小売り等流通等々)を提供している。事業者が、生活関連の環境負荷の程度に影響を与えうる行動としては、?生活者に提供する財・サービスを、エネルギー効率がよいもの、ごみになりにくいもの等、発生させる環境負荷の少ないものとすること、?生活者の手元に財・サービスが届く前の時点で、環境負荷の少ない方法で生産・輸送し、提供することがある。
ウ 行政の行動
 行政は、?都市計画や公共事業など自ら、あるいは、民間との役割分担の下に計画・整備する道路等交通体系、下水道等の社会資本をどのようなものにするか、また、?事業者や生活者の行動を規定する(誘導、規制等)様々な制度・社会的ルールをどのようなものにするか、というような行動により、生活関連の環境負荷の程度の影響を与えうる。
 このように、生活関連の環境負荷を広くとらえると、その低減方策は人間社会のほとんどすべての行動を対象にして考えていく必要があるということが改めて認識された。「ライフスタイルを環境に配慮したものに変えていく必要がある」との提起は、生活者だけではなく、上で述べたように深い関わりを持つ、事業者や行政にも変化を要求するのである。行政においても、生活関連の環境負荷の低減を目指す場合には、あらゆる施策を環境の観点から見直していく必要があろう。

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