3 国土を構成する自然的要素と人間的要素
(1) 国土を構成する自然的要素
国土を構成する自然的要素は、大きく大気、水、土壌等、生物に関係するものに分けることができよう。大気に関係するものとして、大気(大気質)、気象・気候等、水に関係するものとして、水(水質、水量)、底質等、土壌等に関係するものには、地形、地質、地盤、地史等があげられよう。また生物に関係するものは、植物、動物、微生物等があげられる。
これらの要素は、国土の構成要素であるとともに、それぞれが相互に関連し合い、複雑にかみ合わさって自然のメカニズムを作り出している。例えば、大気、水、土壌は相互に影響を与えながら、地球上を循環し、水循環、大気循環などの自然のメカニズムを形成している。また生物は、相互に影響を与えているだけでなく、大気、水、土壌を基盤として生存するものである。
人間活動も、このような国土を構成する自然的要素を基盤として成り立っている。したがって、水、大気等の自然的要素に人間活動が介在し、自然のメカニズムに影響を与えるとともに、自然からの影響を受けている。水は、大気から河川、海域等に向かうまでの間、水資源として開発・供給されること等を通じて様々な形で何度も利用された後、自然の循環に戻される。この過程で水に大きな影響を与え、その結果土壌、生物等にも影響を与えている。大気についても、都市の構造や工業活動等が、大気質等に大きな影響を与え、さらに、そのもとで生息する生物等に対しても影響を与えることになる。
(2) 国土を構成する人間的要素
上述のとおり、人間は、自然のメカニズムの中で生活しており、常に自然的要素に影響を与えつつ、時にはそのメカニズムにさえ変化を生じさせながら、一方では自然からの影響をうけながら、社会経済活動を行ってきた。
人間が長い歴史の中で自然に手を加え、または、自然からの影響を受けて行ってきた国土を構成する人間的要素の主なものは、経済活動及び日常生活、文化的・社会的活動、行政活動、人間活動のネットワークの観点から整理することができよう。経済活動及び日常生活の観点からは、生産(原材料の供給、生産施設の立地、生産活動)消費(商業・サービス施設の立地、物質・サービスの消費活動)、廃棄等(廃棄物の処理施設等の立地、廃棄物の処理、再資源化)などがあげられよう。文化的・社会的活動の観点からは、祭り・宗教等の文化・歴史、都市や農山村の景観、行政活動の観点からは、行政施設の立地、社会資本等の行政サービスの供給があげられる。また人間活動のネットワークの観点からは、交通体系、流通システム、情報ネットワーク等があげられる。
この様な人間活動には、きびしい地形や気候条件等の影響をうけ、その制約のもと行われているものとして水資源開発、治水等の社会資本整備や農林水産業等の生産活動等がある。
これらの人間の社会経済活動を行う際には、国土を構成する自然的要素との相互関係に留意しつつ進めることが必要である。
(3) 国土を構成する自然的要素と人間的要素の乖離
冒頭で、今日の国土構造について概観したが、国土を構成する自然的要素と人間的要素の観点からそれを端的に表現すると、自然のメカニズムと国土を構成する人間的要素である各種の社会経済活動とが乖離してきているといえる。つまり、多くの人間活動が自然のメカニズムと直接的な関係を持たずに行われるようになり、自然のメカニズムが認識されにくくなってきたのである。その結果として、大きく分けて以下の2つの現象が生じているといえよう。
第1は、自然のメカニズムが、個々の構成要素のみに着目して一面的に捉えられることが多く、全体として捉えられにくくなっていることである。第2は、人間の社会経済活動や制度的な仕組み等において自然のメカニズムが十分配慮されていないことである。
ここでは第1の現象を「全体の把握の欠如」、第2の現象を「配慮の欠如」と便宜上呼ぶこととしたい。
また、この2つは、表裏一体の関係にある。すなわち「全体の把握の欠如」により、自然のメカニズムが意識されず、その結果「配慮の欠如」が引き起こされる。また、個々の人間活動や行政施策の中での「配慮の欠如」により、自然が改変され、そのメカニズムが見えにくくなり「全体の把握の欠如」に拍車をかけることとなっている。
ここで、自然のメカニズムと人間活動との関係を「生態系」の観点から具体的に見てみよう。
人間活動における生態系との関わりのうち個体数の減少にかかる関係の一部は、第2-1-1図のように表すことができよう。すなわち、生態系の変化には、土地利用の変化による生息域の改変、大気汚染・水質汚濁等による生息環境の物理・化学・生物学的な悪化等の間接的な影響、捕獲・採取・伐採等または維持・管理水準の低下、等による生態系への直接的な影響により生態系が変化する。ここにあるように、生態系を健全な状況に維持するためには、様々な人間活動と自然のメカニズムを全体として一体的に捉えて取り組む必要があることがわかる。
さらに、国土空間を国土を構成する自然的要素と人間的要素を含めた形で断面的にみてみると第2-1-2図のようになる。(自然的要素、人間的要素については一部を抜き出す等簡略化している。)これは、ある国土空間は、様々な自然的要素、人間的要素がある国土空間上に重層的に存在し、相互が密接な関係にあることを示したものである。
しかし、現実には、このような自然のメカニズムと人間との活動の因果関係がすべて明らかになっているわけではなく、また、明らかになっていたとしてもすべての人々がそれを理解、認識、配慮しながら活動を行っているわけではない。また、人間の経済活動、文化的・社会的活動、行政活動等をみても自然のメカニズムが十分配慮される仕組みになっているとは言い難い。
このような状況を解決し、自然のメカニズムと人間との活動との調和の接点を見いだすことが求められているといえよう。