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第3節 

3 環境配慮を事業活動に織り込んでいくために

(1) 環境マネジメントシステムの構築
ア 事業活動における環境配慮
 今日の環境問題は、前節までで見てきたような廃棄物問題や地球温暖化など通常の事業活動や日常生活に起因する問題が大きな部分を占めるようになってきている。このような問題に対処していくためには、国、事業者、国民といったすべての主体が自らの行動を自主的・積極的に環境に配慮したものへとシフトさせていくことが求められている。
 特に経済活動においては、事業者が大きな部分を占めているが、消費者等の利害関係者が企業に対して環境に配慮した活動を要求する等の動きが顕在化しつつある。こうした状況を考えると、環境保全に対する取組について社会の信頼を得られるよう、環境への配慮を行うことが企業の存続の条件となってきている。
 また、環境への負荷の少ない持続可能な社会を作っていくためには事業者がその活動に伴う環境への負荷を低減するとともに、その能力を活かして環境保全活動に積極的に取り組むことが重要である。
 こうした観点から環境保全への取組が企業の目的としてとらえられるようになっているため、今後はいかに環境保全を事業目的の中に織り込んでいくかが問題となってくる。事業者が、自主的に環境保全に関する取組を進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいくことを環境管理(環境マネジメント)といい、このための工場や事業場内の体制・手続等を環境マネジメントシステムという。
 環境マネジメントシステムは、?企業が自ら事業活動に伴う環境への負荷の把握・評価、?環境に関する経営方針や目標、行動計画の設定、?その目標や計画の実施に当たっての責任体制の明確化、?その達成状況の点検、?さらに全体のマネジメントシステムの見直し、といった内容から構成される。
イ 環境マネジメントシステム規格の制定
 欧米では、1970年代から広範な社会問題に関心が寄せられ、これらに対する企業の責任が問われるようになった。そしてこのような企業と社会の対立を解消するため、社会的責任活動の結果の開示とこれに対する監査(社会監査)が行われるようになった。様々な環境問題への関心の高まりによって、こうした枠組みの中で、環境管理についての取組が始められた。世界に先駆けて制定された環境マネジメントシステムについての規格は、1992年(平成4年)に英国規格協会が作成したBS7750である。
 また、EMAS(Eco-Management and Audit Scheme:環境管理・監査規則)は、EUにおいて1995年(平成7年)4月から運用されている環境マネジメントシステム及び監査に関する制度である。EMASは、すべての加盟国に直接適用される規則(Regulation)によって規定されている。なお、事業者のEMASへの参加は任意である。
 EMASは製造事業者を対象とし、次の手順で参加が認められ、参加事業者の環境声明書は、外部の者が閲覧できる制度が構築されている。
? 環境初期調査の実施
? 環境マネジメントシステムの構築及び環境監査の実施
? 環境声明書の作成及び公認環境検証人による検証
? 環境声明書、事業所の国の直轄機関への登録
 こうした手続を経て登録された事業所は、EMASの参加マークを使用することができることになる。
ウ ISOにおける検討
 このような国際的な環境マネジメントシステムのルールづくりのきっかけとなったのは、1992年(平成4年)に開催された環境と開発に関する国連会議(地球サミット)である。この会議に対応して1991年(平成3年)に設置された「持続可能な開発のための経済人会議」(TheBusiness Counsil for Sustainable Development:BCSD)が環境パフォーマンス(組織による環境側面に関するマネジメントの成果とされる)の国際規格等に関する取組の重要性を指摘し、民間の国際組織であるISOに対して国際規格の策定を要請した。
 こうした要請を受け、ISOは環境マネジメントシステム規格等に関する検討に着手し、1991年(平成3年)9月にIEC(国際電気標準化会議)と共同でSAGE(環境に関する戦略アドバイザリーグループ)を設立する。SAGEでの検討を踏まえ、1993年(平成5年)2月にISO内に環境マネジメント専門委員会(TC207)を設置し、環境マネジメントシステム規格等を検討することとなった。ここで検討が重ねられた結果、1996年(平成8年)9月及び10月に環境マネジメントシステム規格、環境監査規格に関する5つの規格が、また、翌年6月には、ライフサイクルアセスメントに関する規格が発行されている(第1-3-1表)。
エ 我が国におけるISO14000シリーズへの対応
 我が国においては、ISO14000シリーズに対応して、鉱工業について工業標準化法に基づくJIS規格(日本工業規格Qシリーズ)が発行されている。既に発行されているISO14000シリーズの6つの規格については、いずれもJIS規格が制定されている。
囲み1-3-3 ISOにおける検討項目と体制
 ISO14000シリーズの検討を行っている環境マネジメント専門委員会(TC207)は6つの分科会に分かれており、第1分科会から順に環境マネジメントシステム、環境監査、環境ラベル、環境パフォーマンス評価、ライフサイクルアセスメント、用語と定義の規格について検討を行っている。


 我が国では、ISO14001に関する適合性評価制度として、審査登録制度が確立されている。本制度は、(財)日本適合性認定協会が認定機関として審査登録機関が適正であるかを認定し、この審査登録機関が、事業者が構築している環境マネジメントシステムがISO14001に合致しているかどうかを審査し、合致している事業者を認証する仕組みとなっている(第1-3-5図)。したがって、ISO14001の審査登録を希望する事業者は、審査登録機関に申請を行い、その審査を受けることとなる。
 ISO/TC207に対する環境管理規格審議委員会事務局の調べでは、平成10年3月末現在で我が国において、ISO14001規格を審査登録している事業所等は861件となっている。その業種別内訳は、電気機械53.1%、一般機械11.8%、化学工業7.3%、精密機械6.5%、輸送用機械4.3%となっており、代表的な製造業で全体の8割以上を占めている。一方で、小売業、地方自治体、商社、病院、保険などのサービス分野における審査登録が増加してきており、あらゆる業種における自主的、積極的な環境への取組が浸透してきているのが分かる。
 環境庁が上場企業と従業員500名以上の非上場企業を対象に行った平成9年度の「環境にやさしい企業行動調査」によると、ISO14001規格の認証を取得又は取得予定である企業の割合は、前年に比べ増加傾向にあり、今後も各企業の環境管理への積極的な取組の推進が期待される(第1-3-6図)。
オ 環境マネジメントシステム構築のメリット
 環境マネジメントシステムの構築に取り組むことは、様々なメリットをもたらす。
 まず、環境負荷排出量の削減がある。
 また、組織においては、経営者のみならずその組織における全従業員の環境保全に対する意識が高まり、積極的な環境保全活動が行われ、環境への負荷の低減につながる。
 次に、効率化によるコストの削減が期待できることがあげられる。すなわち、環境マネジメントシステムの構築により、作業効率の見直し、改善が図られ、これが省資源、省エネルギーに結びつき、結果としてコストが削減される可能性がある。
 また、企業の活動が環境に与える影響を常時監視するシステムを作ることことにより、環境汚染に対する多額の賠償金の負担やそれに伴う企業のイメージの悪化といったリスクを事前に回避することが可能となる。
 そして、自社製品の環境負荷を把握し、環境負荷の少ない製品を製造することにより、競合他社製品と比べ優位を保つことが可能となる。
 さらには、自社で構築した環境マネジメントシステムが規格の要求事項に合致していることを第三者機関が審査登録することで、事業者は、取引先、地域住民、自治体等の利害関係者からより信頼を得るようになる。
 こうした観点から、ISO14001の審査登録の効果は、製造業のみならず、サービス業においても有効であり、あらゆる業種でISO14001を導入する動きが増加する傾向にある。
カ 環境活動評価プログラム
 このように、環境マネジメントシステムを構築していく動きが高まりつつある。その一方で、我が国に存在する700万近い幅広い事業所の大多数は、環境活動への意欲はあったとしても、自らの事業活動と環境との関わりや行動の方法等についての情報が十分でなく、どこから手を付けていいのか分からないというのが現状である。このため、幅広い事業者に対して、環境管理への取組を促すための施策が進められている。環境庁で行っている環境活動評価プログラムは大多数の事業者が簡単な方法により、自主的に「環境との関わりに気づき、目標を持ち、行動する」という地球市民としての役割を果たし、具体的な環境活動が展開できるようにするためのものである。具体的には、事業活動に伴う環境への負荷の簡易な把握の方法や、環境保全のために事業者に期待される具体的な取組のチェックリストを示し、環境管理の実行のための計画づくりと取組の推進を支援するものである。本プログラムの参加を通じて知識と経験を身につけた事業者は、それを活かして、国際規格に沿った環境マネジメントシステムの構築へと進んでいくことが期待される。
キ 中小企業事業団の情報提供事業
 中小企業事業団では、ISO規格の発行に合わせ、中小企業者に対し、環境管理・監査制度の概要について周知するため、各県の中小企業地域情報センターと協力し、ISO規格に関する情報提供を行っている。


(2) 環境報告書
 環境報告書とは、事業者が事業活動に伴って発生させる環境に対する影響の程度やその影響を削減するための自主的な取組をまとめて公表するものであり、環境行動計画、環境声明書や環境アクションプランなどと呼ばれることもある。具体的な記載内容としては、環境に関する経営方針、目標及び計画、環境問題に取り組む組織体制、ISO14001規格への対応状況など環境マネジメントシステムに関わる内容や二酸化炭素排出量の削減や廃棄物の削減・リサイクルなどの環境負荷の低減に向けた取組等がある。
 環境報告書を作成しようとする取組は、今後、ますます重要となってくる事業者の環境に対する取組の一形態であるといえる。
 こうした環境報告書は、事業者が社会に対して開いている窓と例えることができよう。事業者の外に身を置く第三者は、この「窓」を通して、その事業者が環境問題についてどのように考え、どのように行動したかを知ることができる。一方、事業者も「窓」を通して、自らの環境保全への取組をアピールするとともに、第三者からの反応を得ることで彼らが事業者に何を求めているのかを知ることができる。さらに、環境報告書を作成し、自らの環境に関する取組をまとめることは、行っている取組や自らの事業活動、さらには様々なデータの収集方法やデータそのものの見直しになる。こうした見直しをすることで取り組み方法や環境効率の改善を図ることが可能となる。環境マネジメントシステムを内部で構築することと合わせて、環境報告書などにより、その取組状況を外部に発信し、消費者や地域住民など利害関係者とのコミュニケーションを図りながら、環境保全の取組を進めていくことが重要となっている。
 こうした状況を踏まえ、民間では、環境アクションプラン大賞と呼ばれる表彰制度が平成9年から創設されている。この制度はレベルの高い意味のある環境アクションプランの内容を広く紹介することで、国内で作成される環境アクションプランのレベルの向上を図り、事業者の自主的な環境保全に対する取組を促進することを目的に実施されている。
 環境報告書の記載内容には統一的な取決めはないが、国際的には、いくつかのガイドラインが策定されている。代表的なものには、前述のEMASでの要求事項のほか、世界産業環境協議会(WICE)が1994年(平成6年)に作成した「環境報告書/環境に関する経営のための指針」や、PERIの「PERIGUIDELINES」などがある。こうしたガイドラインは環境報告書の普及と内容のレベルアップに大きな貢献をしてきたと考えられる。我が国においても、平成9年に「環境報告書作成ガイドライン」が発行されるなど、環境報告書の普及の支援のための取組が行われている。
 また、第三者機関による環境報告書の評価制度の導入としては1994年(平成6年)に発表された国連環境計画(UNEP)のテクニカルレポート等がある。このレポートでは、企業の環境情報の在り方について多角的に論じて、環境報告書のガイドラインを提示し、その項目として、「経営方針とシステム」、「製品・製造工程の環境影響」、「環境活動の財務面」、「持続可能な発展の課題」の4項目が挙げられている。また、このレポートの中で、世界の代表的な企業の報告書が、環境報告書を5つの段階に分類した「環境報告書の進展段階」(第1-3-7図)のどこに位置するかの比較表を作成したものを掲載している。


(3) 環境会計
 企業の事業活動を環境効率的なものにする有効な手法の一つとして考えられるものに環境会計がある。環境会計は、事業者の環境保全活動がどのように行われているか、またいかなる効果をあげているかを把握するためのツールを提供するものである。
ア なぜ環境会計を行う必要があるのか
(ア) 環境会計の企業内部での利用
 企業が環境保全活動を行う上で、その費用がどのくらいかかるのかを把握することは非常に重要である。費用が適切に把握されていないと、効率的で効果のある環境保全活動を行うことができないからである。経営者が環境保全活動を行うことを決定する際に、その活動がどの程度の費用でなされるのかが把握されていないなら、その実行の是非について経営者としての正しい判断を下すことができなくなってしまう。
 環境保全コスト、すなわち環境保全に係る投資や経費等は、事業活動の中で発生するコストの一つである。一般に環境保全活動は企業にとってコスト増をもたらす行為と考えられがちである。しかしながら、例えばいわゆる「省資源」の実行は、環境への負荷を低減しつつ、企業にコスト減をもたらす取組の一つである。製品の製造工程全体を通して環境保全コストをとらえることで、より環境にやさしい製品や製造工程を設計することが可能となる。
 また、環境保全コストが正しく把握されないと、こうしたコストが他のコストの中に潜んだままとなり、どこの部署で環境保全コストが発生しているのか認識することができず、効果的に環境対策が施せないこととなる。さらに、環境対策により、実際は節減されているコストがあるにもかかわらず、それと認識されず、環境対策投資が不当に過小評価されてしまうといったことが起こりうる。こうしたことは、投資の予算を組む段階にも同様のことが言え、正しい効果が見逃され、投資そのものが見送られてしまうといったことを招くおそれがある。
 このように企業が環境への配慮を事業活動に組み込んでいく上では、環境保全コストを把握していくことが、効率的かつ効果的に環境保全活動を行うために有効である。
 環境保全コストを把握する上で、問題となるのが何をもって環境保全コストと見なすのかという、その定義と範囲の問題である。
 現在までのところ、環境保全コストについての定まった定義は国際的にもできていないが、環境会計の持つ有効性から世界でも環境会計についての様々な研究が行われている。
 国連では、国際会計・報告基準専門家政府間作業部会において、環境会計についての検討が進められており、1991年(平成3年)に作成された報告書の中では、ドイツの化学工業会における産業ガイドラインとある企業の社内ガイドラインを具体例として取り上げている。また、1993年(平成5年)にはCICA(カナダ勅許会計士協会)が研究報告書「環境コストと環境負債」を発表している。この中で環境コストを「環境対策コスト」と「環境損失」からなるとしている。また、米国環境保護庁では1995年(平成7年)に「経営管理手法としての環境会計入門」を発行し、この中では環境コストの例示を行っている。そして、WBCSD(世界環境経済人協議会)が1996年(平成8年)に「金融市場と地球環境(FinancingChange)」を出版しており、この中では、設備投資、経常費用、汚染浄化措置費用、研究・開発費用の4つのカテゴリーに分けて分類している。
 平成9年度の環境にやさしい企業行動調査においても、上場企業の26.9%が環境保全支出を集計している一方で、上場企業の66.5%、非上場企業の79.4%が全く環境保全支出を把握していない。環境保全支出の集計を行う上での問題点として、「環境保全支出の定義や集計方法が不明」としているものが全体の59.2%(上位2つを回答)を占めており、また、半数以上の企業が環境保全支出を把握するための指針やガイドラインを必要であると回答しており、何らかの指針が必要とされていることがわかる(第1-3-8図第1-3-9図)。また、環境保全支出額を集計している企業において集計結果は、環境管理における目標実行に伴う支出額の管理や環境保全投資額の投資効果分析等に利用されており、自主的な環境保全活動を効果的にまた効率的に行うための内部管理ツールとして、環境会計の手法は大きな役割を果たすと考えられる。
(イ) 環境会計の環境報告書における利用
 こうした流れとともに、環境報告書のガイドラインの中で環境保全コストについての記述が行われるようになってきている。
 例えば、CERESレポートは、CERES(環境に責任を持つ経済社会のための連盟)がCERES原則の署名企業に対して環境報告書の作成を要求したもので、環境報告書のガイドラインの先駆的な例と言えるものであるが、1992年(平成4年)版の中で、大気汚染防止法などの法律ごとに罰金などの金額を記載するよう求めている。
 また、WICE(世界産業環境協議会)も「環境報告書 環境に関する経営のための指針」で「環境費用」について取り上げ、「環境に支出した費用やその総額における資本的支出と営業費用の内訳は、外部関係者にとって大きな関心事である」としている。
 さらにUNEP(国連環境計画)のレポート「企業環境報告」では、環境報告書に盛り込むべき内容として50項目をあげており、そのうちの6項目は環境保全コストにかかるものである。
囲み1-3-4 ライフサイクルコストの考え方
 従来、生産者は、製品のコストとして製造段階におけるコストのみをとらえ、このコストを最小化することに注力した。しかし、一つの製品の原材料採取から廃棄・リサイクルまでの流れを考慮すると、本当は製造段階のコストに加え、使用段階のコスト、廃棄段階のコストがそれぞれの製品に存在する。この3つのコストを製品のトータルのコストとしてとらえようとするものが、製品のライフサイクルコストの考え方である。
 実際、現在では、省エネ型冷蔵庫、省エネ型エア・コンディショナー、節水型洗濯機など、電気料金や水道料金の節約により使用段階のコストを少なくすることを考慮した製品が製造されるようになってきている。このようなコストを削減することは、省資源、省エネルギーなどにつながり、環境負荷を低減させることになる。
 さらには、廃棄・リサイクル段階におけるコストまでも製造段階で考慮に入れることができれば、リサイクルのしやすい構造の製品を製造するといった行動に結びつけることができる。このようなライフサイクルコストの考え方に基づいた製品製造がなされていくことが期待される。
 我が国においても、(社)全国環境保全推進連合会が発行した「環境報告書ガイドライン」の中で「環境への取組のコスト」という項を設け、企業が環境への取組のために支出した環境保全コストについて記載することを勧めている。
 平成9年度環境にやさしい企業行動調査によれば、共通の基準となる指針やガイドラインに沿って自社の環境保全コストを積極的にアピールすることに、多くの企業が賛意を示しており、環境保全コストの開示への理解が進んでいることが読みとれる(第1-3-10図)。実際に環境への取組に積極的な企業の中に、環境報告書の中で環境保全コストを掲載している例が見られるようになってきている。このように環境会計の果たす役割の一つとして、外部の利害関係者に対する情報提供といういわば財務会計的な役割もある。
イ LCA的配慮の導入
 前述したとおり、LCAは原料の採取段階から廃棄・リサイクル段階までの全体にわたる物質の流れや各段階での環境への負荷をとらえる機能を有しているため、LCAの考え方による分析は環境保全コストの発生原因を探る上で有効であり、環境への負荷の発生の責任の明確化とその低減のための適切な費用負担を決定する上で有効となろう。また、計画段階で応用することで、不必要な環境保全コスト発生の未然防止につながり、あるいは環境保全コストの発生が事前に予測可能となるので、それに対する対処をあらかじめ想定することが可能となる。


(4) 環境ラベル
 経済社会システムを構成する各主体がそれぞれ環境保全型製品に関する関心をより高め、より広範な取組に結びつけていくためには、多くの製品の中で何が環境への負荷が少ないのか、具体的にどのような環境負荷があるのかといった情報が適切に消費者や購入者に提供されていくことが不可欠である。また、企業などの事業者は、その製造・販売者としての立場だけでなく、製品の消費を行う消費者としての立場としても、こうした情報が有効なものとなる。
 このような製品が環境に与える影響に関する情報を提供するための手段として、その有効性が期待されるものに環境ラベルがある。一般に環境ラベルとは、製品等が環境に与える影響に関する属性情報をラベルの形で表示することにより、製品の差別化を行うものである。このような環境ラベルは、
? 製品の「環境への負荷」についての情報を消費者に伝達することにより、環境保全型製品の選択を促し、消費者がより環境保全に配慮した消費行動をとることを可能にする
? 事業者に対し、環境保全型製品の開発の動機を与える
 といったことを通じ、経済社会システムがより環境に配慮したものになることに貢献するものととらえることができる。
 我が国における環境ラベルとしては、例えば、平成元年2月より(財)日本環境協会が実施しているエコマーク事業がある。エコマークは環境保全の全般を対象とし、製造・販売業者及び消費者から中立の立場の第三者機関によって全国規模で展開されているラベリング事業であり、環境ラベルとしての認知度は高い。一方、多種多様な製品が消費される中で、エコマークの対象商品類型が、全体のごく一部のものにとどまっているなどの現状を踏まえ、より環境への負荷の少ないライフスタイルの実践に貢献するよう検討が行われている。
 エコマーク事業は、カテゴリーごとに環境負荷に関する一定の基準を設け、これを満たす商品に「エコマーク」を付けることにより環境保全型製品の普及促進を図るものであるが、当初は、特定の環境負荷を考慮した基準の設定が行われてきていた。しかし、一側面での環境負荷が低減されても、他の面で環境負荷がかえって増大してしまうということがないように、平成8年3月から、商品類型の認定基準の策定の際に、商品の原材料の採取から製造、流通、廃棄に至る製品のライフサイクル全体にわたる配慮が行われるようになった(第1-3-2表)。
 このように、エコマーク事業は、LCA的な観点が盛り込まれつつあり、今後LCAとの関係はより密接なものとなってこよう。
 エコマークと同様の環境ラベルは、海外でも実施されている。もっとも古くから実施されているのは、1978年(昭和53年)に開始されたドイツのブルーエンジェルであり、その他、米国のグリーンシール、北欧3国のノルディックスワン等がある。
 一方、米国SCS社が行っている「Environmental Report Card」プログラム等は、後述するISOで検討中のタイプ?環境ラベルの事例として挙げられる。これは、製品の環境への負荷をLCA的な観点から定量的に表示するものであり、消費者自身がデータを基に他製品と比較を行うことにより、購入の際により客観的な判断ができるという面で事業者による調達等においての効果が期待されている反面、専門的な知識が要求されるため、一般消費者にとってはわかりにくいという議論もある。今後、LCAの手法の検討とあわせて、環境ラベルへのLCAの適用についての検討が期待される。


 ISOにおける検討状況
 環境ラベルについても、ISOにおいて国際規格化へ向けた議論が行われている。環境ラベルについてはISOの環境マネジメント専門委員会(TC207)の中の第3分科会で1993年(平成5年)から検討が行われている。ISOでは環境ラベルを3つのタイプに分類して検討している。
 タイプ?は、製品のライフサイクルに配慮して、カテゴリーごとに設定される認証基準により第三者が認証する任意参加の環境ラベル制度である。我が国のエコマークやドイツのブルーエンジェルはこのタイプに含まれる。
 タイプ?は、製造業者、小売業者等が製品やサービスの環境側面について、自らがいかに配慮しているかを宣言する自己宣伝型のものである。主張する項目としては、リサイクル可能など12項目が例示としてあげられている。製品やパッケージなどにこれらの項目を表示する場合がこれに該当する。
 タイプ?は、製品が環境に与える負荷について製品のライフサイクルに基づいて定量的に表示するラベルをいう。このタイプのラベルの定義等は、現在のところ未定であり、今後の検討が待たれるところであるが、考えられる特徴としては、?ラベルを見る人にとって環境上重要な環境指標について情報提供がなされる、?定量的なデータがそのまま表示され、見る人がそのデータを観て購入の判断の参考とできる、等が挙げられる。
 現在のところ、タイプ?及びタイプ?については、ISO規格発行に向けて手続が進んでいるが、タイプ?については各国の主張になお隔たりがあり、今後の動向が注目される。
 一方、こうした環境に配慮した商品が市場において優位性を得るためにはこれらの商品を購入する消費者や企業の意識と行動が必要となってくる。消費者の側のこうした商品を求める動きを見てみよう。
(5) グリーン購入、グリーン調達
 前項で述べたように、環境保全型商品が普及するためには、消費者や事業者が物品を購入するに当たって、環境保全型商品を優先的に選択することが最も重要である。環境への負荷の少ない製品・サービス等を優先的に購入することを「グリーン購入」といい、このような考え方に基づく事業者による物品・サービスの調達を「グリーン調達」という。
 こうした取組を積極的に行い、環境保全型商品、原材料等の市場形成を促進するため、平成8年2月にグリーン購入ネットワークが設立され、平成10年1月現在その会員数は、企業約750社、行政約200機関、民間約150団体、合計約1100団体となっている。
 グリーン購入ネットワークでは、商品の購入に当たって環境面で考慮すべき事項を、商品カテゴリーごとに購入者・消費者向けの購入ガイドラインとしてまとめることとしており、これまでにOA・印刷用紙、コピー機等、パソコン、トイレットペーパーなどについて購入ガイドラインを作成している。OA・印刷用紙に関する購入ガイドラインを見てみると、考慮すべき事項として、?古紙を多く配合していること、?白色度が低いこと、等が挙げられている。ネットワークの購入ガイドラインは、環境負荷の少ない商品を認定するためのものではなく、環境の観点から望ましい方向を示し、購入者がその方向にしたがって可能な限り環境にやさしい商品を選択することを奨めるものである。さらに平成9年には、OA・印刷用紙とコピー機等について「商品選択のための環境データブック」を作成するとともに、その内容がホームページで公開されている。これは、具体的に個別商品について、購入ガイドラインに挙げられた事項を中心とした環境情報を提供したもので、先のガイドラインとともにグリーン購入を情報面から支援するツールである。
 グリーン購入ネットワークが、平成9年7月に会員団体、会員外の都道府県市、主要上場企業に対して行ったグリーン購入に関するアンケート調査よると、回答者の86%までが、グリーン購入に取り組んでいるかまたはその予定としており、グリーン購入に対する関心が社会的に広がってきていることが分かる(第1-3-11図)。また、グリーン購入の対象に「包装材」や「部品・原材料」など生産用資材を挙げた企業もそれぞれ11%、17%あり、オフィス用品にとどまらず、生産用資材のグリーン調達の取組が浸透してきていることをうかがわせる結果となっている(第1-3-12図)。
 また、環境庁と国連大学が共同で運営している地球環境パートナーシッププラザでは、消費者が製品を購入する際に使用時の二酸化炭素排出量を考慮して商品選択を行うことを促すため、電気製品及び自動車について、製品のカタログ・パンフレットから電力消費量又は燃費に関する情報を収集し、各製品を二酸化炭素排出量により順位づけした結果をデータ集(ChoCO2:チョコツー)としてとりまとめた。一方、運輸省は、自動車の燃料消費率の審査をしており、その数値を逐次公表するとともに、自動車の燃費及び二酸化炭素排出量を掲載した「乗用車等燃費一覧」に取りまとめ、消費者が自動車を購入する際に使用時の燃料消費率及び二酸化炭素排出量を考慮して自動車の選択ができるようにしている。地球温暖化対策としては、近年増加基調にある民生・運輸部門の二酸化炭素排出量を抑制することが求められており、こうした部門で地球温暖化の防止を進めていくためには、不要なエネルギー使用を控えるとともに、使用時に二酸化炭素排出量の少ない製品を優先的に購入することが重要となる。本データ集等を活用して、製品選択を行う際に、少しでも環境配慮を織り込んでいくことが望まれる。ChoCO2は、その情報がインターネット上にも掲載されており、今後も年2回を目途にとりまとめ、データを更新していく予定である。また、自動車燃費については運輸省のインターネット上にその情報を掲載(毎月データを更新)するとともに、「乗用車等燃費一覧」を引き続き発行する予定である。
 環境負荷の少ない製品の市場が拡大していくよう、企業や消費者、行政が連携し、さらなる活動の展開が望まれる。

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