前のページ 次のページ

第4節 

4 ドイツの「循環経済・廃棄物法」に見る新たな取組の展開

 ドイツでは、深刻さを増す廃棄物問題に対処するため、従来の「廃棄物の発生抑制及び適正処理に関する法律」を抜本的に改正する「循環型経済の促進及び廃棄物の環境に適合した処理に関する法律」(循環経済・廃棄物法)が1994年(平成6年)に制定され、1996年(平成8年)10月に施行された。この法律は、先進諸国における従来の廃棄物法から一歩進んだ先駆的な取組として、法案の議会提出時より各国から注目されていた法律であり、その内容は非常に革新的なものである。本項では、この法律の内容を見ることによって、我が国における取組の今後の参考とすることとしたい。
(1) 循環経済・廃棄物法の概要
ア 基本理念
 循環経済・廃棄物法の基本理念は、将来の持続可能な経済社会の構築を目指し、生産から廃棄まで廃棄物発生の少ない循環を基調とする経済活動を推進していこうというところにある。
イ 循環型経済の基本原則
 循環経済・廃棄物法では、「廃棄物」を性状に基づき客観的に定義しており、産業活動や消費活動に伴って発生するあらゆる原材料や製品等であって、その占有者が自ら処分し、処分しようとし、又は処分しなければならないすべての動産を「廃棄物」としている。そして、特定のリサイクルに供される廃棄物を「リサイクル用廃棄物」、特定の処分が行われる廃棄物を「処分用廃棄物」として、我が国のように市況によって廃棄物か否かが決まるのではなく、性状と用途に応じて廃棄物として扱われ、「リサイクル用廃棄物」についても、この法律に基づく行政規則に従って有害性がないようにリサイクルされることが求められている。
 さらに、エネルギーとしての有効利用については、法律に定める条件を満たした場合のみ許され、基本的にはマテリアル・リサイクルが優先されるとされている。
ウ 製品等に関する事業者の責任
 循環経済・廃棄物法においては、このほか、?製品等に関する事業者の責任、?廃棄物の処分は廃棄物の排出者又は占有者が責任を有し、その責任は第三者に委託しても免れないこと、?廃棄物の排出事業者が発生廃棄物の種類と量の見積り及び実績を報告すべきこと、?廃棄物処分施設の許可及び操業停止についての規定、?公共機関におけるリサイクル品の需要の拡大、?廃棄物に関する情報提供、?有害な物質を含む「リサイクル用廃棄物」及び「処分用廃棄物」の監視、?廃棄物処分業者、?事業所における廃棄物責任者――など広範な分野にわたる施策が規定されている。
 その中でも特徴的な規定は、引取り義務や表示義務を中心とする事業者の「製品等に関する責任」の規定であり、大量生産される製品又は環境に有害な成分を含む製品については、繰り返しの利用と環境に適合したリサイクルが保証されるよう製造者が責任を有するとしている。
 このような責任は、既に旧廃棄物法において容器包装及び有害物質を含む製品については明確に規定されており、1991年(平成3年)の容器包装政令では、事業者の責任を明確に定めた上で、事業者の自主的な取組により個別の責任を免除することを認めている。
 循環経済・廃棄物法の施行に当たっては、?EUの廃棄物リストの実施政令、?要特別監視廃棄物及びリサイクル用要監視廃棄物を定める政令、?処分及びリサイクルに関する証明についての政令、?廃棄物運搬の許可についての政令、?排出事業者の廃棄物見積り(コンツェプト)及び実施記録(ビランツ)についての政令、?処分業者等に関する政令が新たに制定されたほか、旧廃棄物法に基づく容器包装政令、汚泥政令等が引き継がれている。なお、これらの政令は、旧廃棄物法、循環経済・廃棄物法のいずれにおいても、政府案に対する関係団体のヒアリング及び各州の代表から成る連邦参議院の同意が義務付けられており、その意味では、議会の審議を経たものとなっている。
 現在では、さらに、廃車、廃電池、電機・電子機器、コンポストなどの政令等が、公開のヒアリングに付せられるなど制定の手続が進められている。
(2) 循環型の経済社会システムの構築に向けて
 平成6年12月に策定した環境基本計画においては、「循環を基調とする経済社会システムの実現」を四つの長期的な目標の一つとして掲げているが、平成8年6月に中央環境審議会がまとめた環境基本計画の進捗状況についての第1回の点検報告においては、「廃棄物・リサイクル対策については、各省庁、各主体の取組がそれぞれ進んではいるが、それらの取組が効果的に進められる経済社会システムが未成熟であるため、これらの取組を有機的に結びつけていくことが必要である。」と指摘されているところである。「循環経済・廃棄物法」は、我が国において、このような経済社会システムの構築について考える上で、一つの参考となるものであろう。

前のページ 次のページ