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第2節 

5 廃棄物の適正な処理

(1) 廃棄物の処理の在り方
 廃棄物の発生抑制や、リサイクルを行ったとしても、どうしても発生する廃棄物はあり、また、現に廃棄物が生じている状況にある。このような廃棄物については、最終処分される廃棄物の量を減らし、有害廃棄物を無害化するために、焼却、破砕、選別、脱水等の中間処理を行った後、適正に最終処分されなければならない。
 廃棄物は焼却処分すれば減量化されるが、環境庁の推計によると、平成6年度においては、廃棄物の焼却により、地球温暖化の原因物質であるCO2 が総排出量の3.8%に相当する1300万tC(炭素換算トン)排出されており、こうした観点からも、焼却処分を行う場合には、前述のようにエネルギーとしての利用を図ることが求められる。
 廃棄物の最終処分に関する基本的な考え方としては、廃棄物に係る環境への負荷を低減するため、これまで述べたように、まず廃棄物の発生抑制、リサイクルを行い、廃棄物の発生量を最小化した上で適正に処理することを基本とすべきである。発生した廃棄物は、排出から積替え、保管、中間処理を経て埋立処分など最終処分が行われ、埋立て終了後の最終処分場は、跡地利用に供されることとなるが、廃棄物処理に伴う環境への影響に関しては、埋め立てられた廃棄物の長期的な性状変化等の不確実な要因があることに配慮し、その全体を通じての環境への負荷の低減を考慮することが必要である。
 その際、廃棄物処理は一般に、後の段階における対策ほど環境影響の制御に困難性と不確実性が増大するおそれがあることから、前の段階における対策を徹底することに留意すべきである。また、廃棄物対策においては、埋立処分を行わざるを得ないような廃棄物は当初から出さないよう、又はそれが不可能な場合には排出量を減らすよう努力しなければならない。これらを達成するための手段として重要であるのは、何よりも廃棄物の発生抑制とリサイクルの取組である。
(2) 廃棄物の処分費用と埋立て終了後の管理の問題
 最終処分される廃棄物の量は、減量対策の進展、景気の停滞等により近年減少しているものの、第1節第2-1-10図及び第2-1-16図で見たとおり、依然として高い水準で推移している。こうした状況を招いている要因の一つとして、廃棄物の最終処分のための費用に対して、実際に環境に及ぼされる影響の対策費用が十分に反映されていないことが多いことが考えられる。
 例えば、廃棄物の埋立て終了後、浸出液、発生ガス、地盤沈下等による環境影響を防止するためには、排水処理やモニタリング等の埋立て終了後の管理を適正に行うことが不可欠となる。管理に要する年数は長期、場合によっては永続的になるが、こうした管理に要する年数を通しての経費が考慮されていない場合が考えられる。このような廃棄物の最終処分のための経費の不十分な評価が、廃棄物の発生抑制、リサイクル等が進まない一つの背景となっているとともに、埋立て終了後の適正管理を妨げているおそれがある。
 したがって、長期的に廃棄物の最終処分に要する費用をより正確で分かりやすく示すことがまず重要である。特に、埋立て終了後の最終処分場の維持管理に関する経費等も含めて、最終処分に係るすべての経費を最終処分費用に適正に反映させる必要がある。
 このため、例えば、現に最終処分場の関連施設でありながら、支出の費目が廃棄物処理事業経費でないために、その建設改良費や維持管理費が最終処分費用に含まれていない場合には、これを最終処分費用に含めて示すことも必要であろう。また、最終処分場の設置に伴う森林の伐採等の環境影響により社会に生じる費用(環境コスト)についても、貨幣評価することは容易ではないと考えられるが、最終処分費用に反映する工夫が求められよう。
 これらにより、適正な価格で排出業者から処理業者に廃棄物の処理が委託され、適正処理が推進されるとともに、埋立て終了後の管理の適正化が図られることが期待される。あわせて、現在の廃棄物の最終処分経費と、比較的高コストである環境への負荷の少ないリサイクル等の他の処理方法の経費との間の不均衡についても是正されるものと考えられる。
 また、最終処分費用を最終処分に係るすべての経費を適正に反映したものとするためにも、埋立て終了後の適正な管理の在り方を明らかにすることが必要である。この中では、廃棄物最終処分場の跡地であることに関する情報が知られていないことにより、その跡地の利用者等が不適切な利用を行わないよう、必要な情報の提供の在り方についての検討も必要であろう。
(3) 廃棄物の処理に関する国民・事業者の意識
 廃棄物の処理の問題については、処理施設の設置・運用に伴う環境影響への懸念から、住民の間に根強い不安が存在している。それとともに、「目の前から廃棄物がなくなりさえすればいい」というような意識が事業者、国民の間にある一方で、自分の周囲に処理施設ができるのは絶対反対という感情が極めて高くなっているという、NIMBY(Notin My Back Yard=自分の裏庭でなければいい)と呼ばれるような社会的風潮もあり、最低必要な処理施設の確保すら困難な状況となっている。
 こうした中で、廃棄物の処理をめぐっては、不法投棄をはじめとして不適正な処理がなされるケースが跡を絶たない。廃棄物の処理システムは、我が国の消費活動、産業活動を行う上での重要な基盤であり、このままでは日常生活や産業活動に重大な支障を生じかねないという深刻な状態となっている。
 廃棄物処理施設の設置に対して強い抵抗感が生じた背景には、国民の間に処理施設の設置・運用に伴う環境影響への懸念の増大があることから、廃棄物の発生抑制、リサイクルを進めて、既存の最終処分場の延命化を図るとともに、最終処分に関する基準の強化等を通じて適正処理を徹底し、国民の信頼を回復することが急務となっている。
(4) 廃棄物処理法の改正
 このような産業廃棄物の最終処分場の逼迫(ひっぱく)、不法投棄等の問題を踏まえ、廃棄物の適正な処理を確保するため、政府は、平成9年3月に、?廃棄物の減量化・リサイクルの推進、?廃棄物処理に関する信頼性と安全性の向上、?不法投棄対策等を内容とする「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。
 同法律案においては、多量排出事業者における減量化の推進、生活環境保全上の支障がない廃棄物の再生利用についての認定制度の新設、生活環境影響調査の実施や住民の意見聴取の手続を設けることなど廃棄物処理施設の設置手続の明確化、最終処分場維持管理費用を環境事業団に積み立てる制度の新設、最終処分場の廃止の確認制度の導入、処理業者の許可要件の強化、産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度の拡充、不法投棄等に対する罰則の強化、不法投棄に係る原状回復のための措置の導入等の措置を講ずることとしている。
Box22 不法投棄された産業廃棄物の原状回復事例(佐賀県唐津市の廃油不法投棄事件)
 佐賀県唐津市の中間処理業者が、ドラム缶入りの廃油等の処理を受託したものの、その処理ができずに市内数か所に合計1万本余りのドラム缶を放置するとともに、自己所有の中間処理施設敷地内に廃油、正土、石灰を混合する前処理と称して、約850本を不法に埋め立てた。
 平成4年6月に不法投棄が発覚し、これらのドラム缶がつぶれてトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等による土壌汚染が発生していたことから、県は業者に対し、汚染土壌等の早期撤去等の措置命令を行った。
 平成4年12月から翌年3月にかけて、排出事業者による廃油入りのドラム缶の撤去及び廃油の処理が実施され、平成7年3月からは、県の代執行によるトリクロロエチレン等を高濃度に含む汚染土壌の撤去と、市の環境保全事業による比較的汚染度の低い土壌等の処理等の原状回復が行われている。
 なお、当該中間処理業者は、平成4年7月に廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反で告発され、翌年1月には罰金刑が確定しており、産業廃棄物処理業の許可は平成4年9月に取り消されている。
(5) 廃棄物の最終処分の在り方の見直し
 中央環境審議会では、平成8年11月に環境庁長官から「廃棄物に係る環境負荷低減対策の在り方について」の諮問を受け、総合的かつ体系的な廃棄物対策について審議を行っているが、当面の課題として、環境との直接の接点である廃棄物の最終処分の在り方を中心に、平成9年1月に「最終処分を中心とする中間とりまとめ」を行った。
 「中間とりまとめ」においては、最終処分場の類型及び受入廃棄物の見直し、最終処分場の構造・維持管理等の強化、最終処分場への搬入の前段階での対応、埋立て終了後の管理等について提言を行っている。環境庁では、この「中間とりまとめ」を受けて、廃棄物の最終処分等に係る基準の見直し・強化等について検討していくこととしている。
 また、「中間とりまとめ」では、廃棄物・リサイクル対策の目標の設定、リサイクルにおける環境配慮等についても検討を進めることとしている。

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