6 地球温暖化防止京都会議(COP3)と我が国の取組
本年12月に京都で開催される気候変動に関する国際連合枠組条約第三回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)では、2000年以降の先進国における?温室効果ガスの排出抑制及び削減の数量化された目的と、?その実現のための政策・措置の在り方等について結論を得ることとされている。
我が国としては、地球から大きな恵みを受け、地球環境に大きな影響を与えている国として、また、地球環境保全の分野で世界に貢献していくため、さらには地球温暖化防止京都会議のホスト国という立場からも、京都会議を実りあるものとし、2000年以降の地球温暖化防止のために、地球温暖化防止上効果があり、公平で実行可能な国際約束が結ばれるよう、国を挙げて取り組む必要がある。
以下においては、京都会議を迎えるにあたり、今後どのような基本的な考え方に立つことが必要か、また、これを踏まえて今後我が国はどのような方向の取組が必要かを考えてみる。
(1) 今後の取組の基本的な考え方
地球温暖化は、人類の生存基盤そのものを揺るがしかねない大きな問題であり、これを解決していくためには、社会経済活動やライフスタイルそのものを見直していくことが求められている。
地球温暖化対策として、エネルギー利用に伴うCO2の排出量を抑制していくことが、重要なカギとなっており、そのためにはエネルギーの効率的な利用やCO2を排出しない又は排出量の少ないエネルギーの開発及び導入の促進が必要である。我が国では、2度の石油危機を契機として、脆弱なエネルギー需給構造に対処するためにエネルギー利用の効率化等を進めてきたが、今や環境保全という別の利益からの取組が必要となっており、社会経済活動やライフスタイルを全面的に見直す必要が生じているのである。
社会経済活動やライフスタイルの見直しとは、例えばこれまで自由であった温室効果ガスの排出に何らかのブレーキをかけていくことであり、これまで当たり前であると考えられてきたことの見直しを社会の広範な分野で実施していくことである。換言すれば、これまで既得の利益と考えられてきたことを見直すということである。したがって、その過程では、往々にして何らかの痛みを伴う。しかしながら、この痛みは、将来世代などに被害をもたらす行動によりこれまで得てきた利益が失われることに伴うものであり、痛みがあるからといって何もしなければ、人類、あるいは人類を含む地球上の様々な生物は、かえって大きな被害を被ることになる。
また、既得の利益を失うものの、地球温暖化を防止するための新しい社会システムやライフスタイルが定着すれば、それに応じて新しい産業の発展も生じてくるだろう。こうしたことを通じて、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を構築することが重要である。
京都会議は、人類の英知と行動を問うているといっても決して過言ではない。
現在の世代の人類が将来の世代に対する責任を果たしていくためには、次のような基本的な考え方に立った取組が必要であろう。
? CO2等の排出量を長期的には大幅に削減するとともに、対策を先送りしないこと
地球温暖化による気候変動問題を解決していくためには、大気中のCO2をはじめとする温室効果ガスの濃度を、気候システムに危険な影響を及ぼさない水準で安定化させる必要がある。このためには、CO2等の排出量を長期的には大幅に削減することが必要であり、CO2については、究極的には現在の排出量を半減させる必要がある。
そして、このような排出量の削減は、先送りすればするほど、より大きな対策努力を将来の世代に課すこととなるおそれがある。現在の世代は、可能な努力を怠ってはならないのである。
2000年以降の先進国全体からの排出量については、これらの点を考慮すれば、十分な削減を可能な限り早い時期に実施することが必要であるといえよう。
? 公平な対策の実施
温暖化対策を効果的に各国が協力して取り組むためには、各国の対策余地を適切に反映させて各国が担う努力の公平性を確保することが必要である。また、環境保全上の効果をできるだけ挙げるという観点からも、公平性を確保することが必要である。一方、地球温暖化対策は各国とも何らかの痛みを伴う可能性があることもあって、何が公平かということについて世界的な合意を得ることもなかなか容易ではない。
公平性を確保するため、各国の事情をできるだけ組み込む努力を、各国が知恵を出しあって行う必要がある。その際、世界全体の地球温暖化防止の努力を損なわないようにすることが重要である。
? 対策の確実かつ効率的な実施
環境保全対策は、実施されて初めて意味がある。したがって、世界各国の対策が確実に実施される仕組みを作らなければならない。
そのためには、まず、各国の取組の目標とこれを裏付ける対策が明示されることが必要である。また、各国の努力の成果をしっかりレビューし、努力の成果が相互に比較可能な形で判定できることが重要である。このことによって、努力する国が報われる前提を整えることができるのである。また、国際約束を履行しない国に対する対応も検討する必要がある。
また、各国の対策は、できるだけ効率的に行われる必要がある。各国の年間の温室効果ガスの排出量は、猛暑や冷夏といった政策以外の要因にも左右される。また、最も効率的な対策は各国毎の事情により異なる。したがって、各国の努力の仕方も、ある程度弾力性を認める工夫が必要である。
(2) 我が国の提案の概要
地球温暖化防止京都会議までにとりまとめられることとなっている2000年以降の温室効果ガスの排出の目標については、我が国は、昨年12月に開催されたベルリンマンデート・アドホックグループ(AGBM)第5回会合で以下のような提案を行っている。
先進国は、次のいずれかの削減目標を選択する。
・ (2000+X)年から(5)年間の1人当たりCO2排出量の平均をP炭素換算トン以下にする((5)はとりあえずの案)。
・ (2000+X)年から(5)年間のCO2排出量の平均を1990年の水準からQ%以上削減する。
(X、P及びQの具体的な数字については今後検討を要する。)
我が国がこのような提案を行ったのは、?各国の状況が異なるため、一律の削減目標のみでは、目標達成に向けた努力の公平性を確保することが困難であり、また、?一人当たりの排出量に基づく目標は、全人類の平等を前提とすれば公平であり、将来的に途上国を含めた努力を促し得ると考えられるからである。また、この2種類のオプションに限定されるわけではなく、他のオプションについて提案があれば検討すべきであると主張している。
なお、各国の削減目標、削減率、その他についての主要な論点は、第1-3-3表のとおりであり、今後、京都会議に向け、地球温暖化防止上効果があり、公平で実行可能な枠組づくりに努めることが必要である。
(3) 我が国の国内での対応
各国が努力をして初めて世界全体として効果が生まれるが、我が国は、既に見たように、現状ではCO2の排出量が地球温暖化防止行動計画に掲げられた2000年目標を大幅に上回るなど、これまでの対策は十分とは言えない。
我が国は、京都会議のホスト国としても、京都会議で実効ある上述の枠組の合意がなされるよう努力していく必要があり、そのためには、国内での対策の実施を積極的に推進する等の盛り上がりの中で会議を迎えることが不可欠である。
? 2000年目標の確実な達成
このため、当面、2000年目標の達成に向けて全力を挙げることが必要である。そのための取組が目に見えてくるようにし、排出を削減していく取組に関して各界各層の人達がしっかり手応えを感じる中で、京都会議を迎えなければならない。
? 地球温暖化防止行動計画の総合的な推進と改定の必要性を含めた検討
我が国の地球温暖化防止のための対策については、地球温暖化防止行動計画が定められ、また、これをベースとして、環境基本計画の中で地球温暖化対策が位置付けられている。これらの計画を着実に実施していくことが、目下最も求められていることである。
既に述べたとおり地球温暖化を防止するためには多くの対策の積み重ねと組合せ(ポリシーミックス)が必要不可欠である。一方、これらの対策を各々講じたとしても、必ずしもそれが全体として十分なものになるとは限らない。したがって、目標を確実に達成するためには、対策が全体として十分な効果を発揮できるようにすることが必要となる。
地球温暖化防止行動計画については、中央環境審議会が、環境基本計画の第1回目の点検報告(平成8年6月)の中で、「政策の目標が一覧的に示されているが、目標と具体的な施策の結びつきが不十分」であると指摘した。実際、1994年度の一人当たりのCO2排出量は、1990年度比5.8%増、総排出量では、同7.2%増となっており、現状の対策のままでは目標の達成が困難な状況になっている。また、気候変動枠組条約に基づき、我が国が我が国の政策・措置等について平成6年9月に提出した報告書に対して、同条約事務局が詳細な審査を行ったが、その審査報告書(平成8年6月)においては、日本国報告書には、政策・措置の「目的や手法は定性的には明確に述べられているが、政策・措置により期待される効果や現在の推進状況については十分述べられていない」こと、政策・措置の実施状況と「政策決定とのつながりの有無について触れられていない」こと等が指摘されている。
今後、2000年目標の達成に向け、さらには京都会議での合意を踏まえたその後の一層厳しい対策実施に備え、地球温暖化対策をこれまで以上に強力かつ効果的に進める方法について検討することが必要である。また、京都会議における合意も踏まえ、2000年以降の地球温暖化対策について、対策の在り方や地球温暖化防止行動計画の改定の必要性を含め、早急に検討を進めることが必要である。
? 国民運動の展開
地球温暖化は、通常の事業活動や日々の生活そのものに起因している。したがって、実効ある取組が行われるかどうかは、まさに国民一人ひとりの意識と行動にかかっている。
一人ひとりの行動や個々の事業者の行動を促すために、国民運動を展開しなければならない。京都会議は、その契機ともなるものである。また、国民一人ひとりの行動が結局は国や地方公共団体、事業者の取組を促すことにもなる。
経済社会の主人公である国民が、それぞれ創意を生かし、積極的に行動をして初めて、健全で恵み豊かな環境を将来に引き継ぐことができるのである。