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第3節 

5 国際協力の推進

 (アジア地域に重点を置いた国際協力)
 世界のどの地域で発生する温室効果ガスも、地球環境に同じ影響を及ぼす。したがって、特定の国々の対応のみでは十分な効果を挙げにくく、世界が協力して取り組まなければならない。
 開発途上国では、近年の急速な経済成長により、先進国を上回る速度でCO2の排出量が増加しつつある。とりわけ、アジアは世界の成長センターとして経済が拡大しつつあり、このまま成長が続けば世界のエネルギー需要を圧迫し、世界全体の地球温暖化対策を困難にしてしまうことが懸念されるとともに、酸性雨等の他の環境問題を通じた悪影響が広範囲に生じることも懸念されている。
 我が国としては、我が国の置かれた地理的位置、経済的結びつき、地球環境問題におけるアジア地域の重要性等に鑑み、アジア地域に重点を置きながら環境協力を進めていくことが必要である。
 (重要な省エネ技術の移転)
 省エネルギー技術の移転は、一義的には途上国の企業のエネルギーコストの削除による利益を生むものであり、これまでこのような意味での途上国支援の観点、あるいは、我が国のエネルギー安全保障の観点から実施されてきた。
 しかし、省エネ技術の移転は、このような点のみならず、環境保全の観点からも極めて重要であり、二重、三重のメリットを有していると言える。
 これを環境保全の観点から言うと、第一に、今後大幅なエネルギー需要の増加が予想される開発途上国の省エネルギーを進めることは、世界のCO2の発生の抑制に大きく寄与する。
 第二に、省エネルギーの実施は、硫黄酸化物等の地域的な大気汚染の原因物質の排出抑制に直接つながり、地域の環境保全に寄与するのである。
 また、途上国の経済発展という観点から言うと、産業部門で省エネルギーを行うことは、工場のエネルギーコストを低減させ、また省エネの基本である適切なエネルギー管理を行うことに伴って製品自体が安定化する(斑(むら)のない品質の安定した製品ができる)など、省エネを実施した工場に様々なメリットをもたらし、ひいてはその国の健全な経済発展の基盤となるのである。これは我が国を含む先進諸国において、省エネルギー対策や環境規制が強化されたことに伴って企業が環境投資を行った結果、環境関連産業・市場が創出されたという教訓を活かす観点からも重要である。
 さらに、途上国において省エネを実施することによって、その国のエネルギー需給構造の強化や世界のエネルギー需要の安定化にも大きく資する。
 (省エネの3段階)
 工場内における省エネルギー対策は、次に述べる設備の適正管理、小改善、製造工程の更新の三つの段階がある。
 第一段階は、設備の破損箇所を修理するとともに、管理を見直し、エネルギーを適切に利用することである。具体的には、?破損、漏れの修理、?無負荷運転等の防止、?空気比を適正に管理することによる燃料の燃焼の合理化、?設定温度を適正に管理することによる加熱・冷却・伝導等の合理化を行うことであり、新規の投資を全く必要としない対策である。
 これらの対策は、比較的地味ではあるが、一つ一つの積み重ねが大きな省エネルギー効果を生み出すものである。また、この第一段階の対策は、次の第二、第三段階の省エネルギー対策の基礎ともなる最も重要な段階である。
 第二段階は、第一段階の対策の実施後に排熱回収のための熱交換器などの追加的な設備を設置し、排熱利用、断熱強化、電気の損失の防止、電気の動力や熱等への変換の合理化を行うこと等により省エネルギーを推進することである。この段階の対策は、少額の投資が必要となるが、投資回収期間は短く、少しの投資で大きなエネルギー効率の改善が期待できる。
 第三段階は、製造工程を高効率化するために、設備全体を革新工程に更新する方法であり、大規模の投資が必要となるが、省エネルギー効果は非常に大きい。具体例としては、鉄鋼業における連続鋳造設備(工程を連続化して複雑な加熱、冷却工程を省略する設備)がある。
 これらの対策は、いずれも工場の現場でエネルギー管理を行う技術者が日々常にエネルギーの利用施設の維持、点検に努めるとともに、創意工夫を重ねることによって始めて効果があがる性格のものである。
 (求められる省エネ協力の強化)
 開発途上国の省エネルギーを着実に進め、CO2の発生を抑制していくためには、省エネ技術協力に相俟って、エネルギー管理を適切に行える技術者を養成していくこと、さらに移転済技術を途上国の自助努力で導入普及を図っていくことによって途上国の技術基盤を強化していくこと、が不可欠であり、基本である。このため、経験豊富な技術者の多い我が国の技術協力が極めて効果的である。
 我が国の省エネルギーに関する技術協力は、地球温暖化を防止する観点からも、強力に推進していく必要がある。
 (共同実施と共同実施活動)
 一般に、開発途上国では、先進国において対策を行うよりも、少ない費用でCO2の発生を抑制することが可能な発生源が多数存在しているが、対策実施のための技術、資金、ノウハウが不足している。
 このため、国ごとの対策に頼るだけでは、先進国はコストの高い対策を余儀なくされる一方、開発途上国では遅々として対策が進まない可能性がある。他方、複数の国が協力して対策を実施すること(共同実施)が認められれば、世界の技術、資金、ノウハウを費用効果的に活用し、全世界の温室効果ガスの削減を効率的に実施することが可能になる。
 このため、気候変動枠組条約では、締約国が温暖化防止のための政策及び措置を共同して実施することもあり得るとしている。
 共同実施の具体的な進め方については、共同実施によって達成された温室効果ガスの排出削減量を共同実施参加国の間でどのように配分するか等について先進国と途上国の間で議論が収れんしていない。このため、各国は2000年までの試験期間(パイロットフェーズ)において共同実施活動をまず実施して、経験を積むこととされている(第1回締約国会議決定)。共同実施活動とは、共同実施と同様の活動を行うものであるが、各国間の削減量の算入等を念頭に置いたものではなく、純粋に途上国に対して温暖化対策を支援する活動である。この共同実施活動は途上国の具体的な対策プロジェクトに民間事業者、地方公共団体、NGO等が直接に参加できる点がユニークなところである。
 この共同実施活動の実施の提案を受けて、我が国では、共同実施活動を推進するための基本的枠組等を構築するなど国内体制の整備を進め、これに基づき、共同実施活動プロジェクトを関係省庁が認定している。既に「インドネシアにおける太陽電池パネルを利用した地域電化事業」など11のプロジェクトが共同実施活動候補事業として認定されている。

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