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第3節 

4 観測監視の実施と科学技術の振興

 地球温暖化をはじめとする環境問題に適切に対処していくためには、第2部第4章第5節で述べるとおり、環境の状況を正確に把握するための観測・監視を継続的に実施するとともに、将来の環境への影響等を的確に予測するための調査研究を推進していくことが必要である。また、地球温暖化対策は、息の長い長期的な取組が必要であるが、そのためには、対策実施の基盤となる技術開発を促進していくことが極めて重要である。
 このため、政府は、平成元年から毎年度当初に「地球環境保全調査研究等総合推進計画」を策定し、これに基づいて総合的な取組を行っている。また、上記の推進計画を踏まえ、環境庁において「地球環境研究総合推進費」により、関係省庁の国立試験研究機関等の広範囲な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下に地球環境保全に関する調査研究を学際的、国際的に推進している。
(1) 観測監視の推進
 地球全体のCO2濃度の動向に関する測定点(バックグラウンドの測定点。特定の発生源の影響を受けない。)としては、ハワイのマウナロアや南鳥島などがあるが、発生源と環境濃度との関係を明らかにするためのデーターは、世界的に不足している。
 このため、世界が協力して、必要なデーターの収集に努めていくことが必要であるが、我が国は、極東に位置する先進国として特に東アジア地域、西太平洋地域、北太平洋地域におけるモニタリングを行っていくことが求められている。
 このような状況から、我が国では気象庁が岩手県綾里、東京都南鳥島及び沖縄県与那国島に観測所を設置し、定常的な観測を行っている。また、国立環境研究所では、沖縄県波照間島及び北海道根室市落石岬に測定所を設け、温室効果ガス濃度のモニタリングを行っている。また、航空機を利用したシベリア上空における温室効果ガスの分布調査(ロシア共和国の中央大気観測所との共同調査)、日豪間の定期航路を利用した西太平洋地域の温室効果ガスの分布調査、日加間の定期航路を利用した大気・海中のCO2濃度の観測等を行っている。気象庁及び運輸省おいては、民間団体との協力により日豪間における定期航空機による温室効果ガスの観測を、また、気象庁においては、海洋気象観測船により西太平洋において洋上及び海洋中の温室効果ガスの観測を行っている。
 また、環境庁は、地方公共団体に対し、温室効果ガス等の統一的な測定方法を示し、協力を依頼している。
 観測・監視による地球環境の変動メカニズムの一層の解明は、温暖化対策の基礎となるものであり、今後ともその推進に努めていく必要がある。
(2) 機構の解明と将来の予測
 地球温暖化による気候変動についての機構の解明や、それが世界に及ぼす影響に関しては、本章第1節で述べたとおり、IPCCにおいて世界の知見を結集して検討が行われている。温暖化が環境に及ぼす影響を明らかにしていくことは地球温暖化問題への国民の関心を高め、対策への取組を促進させることに資する点からも重要である。また、今後、研究を積み重ねることによって、より精度の高い予測を行い、その結果に応じて対策を機動的に修正、向上していくことが重要であることは言うまでもない。
 我が国としては、この面で世界に貢献をしていくとともに、我が国を含めたアジア太平洋地域に及ぼす影響についても、十分研究しておく必要がある。このため、様々な研究機関で研究が実施されている。
 国立環境研究所等では、地球環境研究総合推進費により、アジア太平洋地域の各国において排出される温室効果ガス量を予測し、その社会経済への影響や抑制対策の評価が行える統合評価モデルをこの地域の研究機関と共同で開発し、温暖化対策の推進に貢献している。
(3) 技術の開発・普及
ア 既存の技術の普及
 温暖化対策を技術の側面から考えると、まず第一に既存のCO2削減に寄与する技術を適切に評価し、普及可能と考えられる技術を積極的に普及していくことが重要である。
 そのような技術評価は、各方面において進められているが、環境庁では、平田賢東京大学名誉教授を座長とする地球温暖化対策技術評価検討会を開催し、平成8年5月時点において概ね2000年までに導入・普及が可能であると同検討会が考えていたCO2排出抑制対策技術について検討した。この技術評価は地球温暖化防止行動計画の目標達成のための対策立案の基礎とするため、対策技術等により、CO2排出量がどの程度削減され得るかを検討しようとしたものであるが、長期エネルギー需給見通しは、その中に織り込まれている対策実施量が必ずしも明らかでない対策を含んでいること、加えて平成8年5月以降、第26回総合エネルギー対策推進閣僚会議において長期エネルギー需給見通し達成のための「2000年に向けた総合的な省エネルギー対策について」をとりまとめ(平成9年4月1日)たほか、新エネルギー法を制定する等、その後、長期エネルギー需給見通しの中に織り込まれている対策自体が追加されていることから、検討した対策技術の中には、長期エネルギー需給見通しに既に織り込まれている対策も含まれている。
 今後、長期的には、既存技術のより一層の普及に向けて、技術開発によるコストの低減などが期待されるところである。
イ 革新的な技術の開発・普及
 第二に、CO2発生抑制のための革新的な技術の開発・導入を図っていくことが重要である。IPCCによれば、CO2濃度を産業革命前の2倍にあたる560ppmで安定化させるためには、世界の排出量を現状レベルの50%以下にしなければならないとしていることからもわかるとおり、人の活動によって生じる温暖化が危険な影響を及ぼさない水準で温室効果ガス濃度を安定化させるためには、長期的には相当量のCO2発生量の削減を図ることが必要である。このためには、革新的な技術を開発し、その普及を図っていくことが不可欠である。我が国は他の先進国に比べてもエネルギー効率に優れた生産を行っているが、例えば、21世紀の末に世界全体が今日の我が国と同様の効率に達したとしても、なお地球の温暖化は防ぎ得ない。このことから明らかなように、現行の省エネ技術の水準ではなお不十分であり、我が国はもとより、先進国が先頭に立って一層環境保全的な技術を開発し、普及していくことが必要である。
 このような技術の開発・導入は、通常、長期間を要すると考えられ、できるだけ早い段階から取り組むことが必要である。
 今後技術開発が期待される分野としては、CO2を発生しない、あるいは排出量の少ないエネルギーに関する技術、省エネルギーに関する技術、廃棄物の再生利用に関する技術、人工光合成等を利用した温室効果ガスの吸収・固定化のための技術などが挙げられる。 
 国立環境研究所においては、地球環境研究総合推進費等により、前節でも述べたとおり、高性能電気自動車「ルシオール」を開発するとともに、その実用化及び普及に向けた社会的受容性に関する研究を行っている。
 我が国は、平成2年、世界に「地球再生計画」を提唱した。これは、産業革命以来200年間かけて変化した地球を今後数十年かけて再生することを目指すものであり、前半の50年間において、科学的知見の充実を図りつつ、短期的及び長期的対策技術を、実現可能なものから遅滞なく連続的に講じ、後半の50年間において、それらの対策の総合により、温室効果ガスの大幅な削減・抑制を行おうとするものである。今後先進国等に働きかけ、この計画の実行手段の確保を含め、同計画を具体化していく必要がある。
 また、この地球再生計画を推進していく上では、我が国としても国内において具体的なプロジェクトを推進し、積極的に貢献していくことが必要である。

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