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第1節 

3 既に生じている地球温暖化の影響

 IPCC第2次評価報告書は19世紀以降の気候を解析し、産業革命以後の温室効果ガスの発生量の増大等の人為的影響によって、地球温暖化が既に起こりつつあることを確認している。
(1) 世界的な影響
 以下、IPCC第2次評価報告書により温暖化の影響を見てみよう。
Box4 IPCC(気候変動に関する政府間パネル; IntergovernmentalPanel on Climate Change)について
 IPCCとは、地球温暖化問題に関する初めての政府レベルの検討の場として、WMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)が共同して1988年(昭和63年)11月に設立した国連の組織の一つである。
 地球温暖化に関する最新の自然科学的及び社会科学的知見をとりまとめ、地球温暖化防止政策に科学的な基礎を与えることを目的としており、現在、3つの作業部会(第1作業部会:温暖化の科学、第2作業部会:温暖化の影響・適応策・対応策、第3作業部会:温暖化の社会経済的側面)が設置されている。
 IPCCは、1990年(平成2年)に第1次評価報告書を、1995年(平成7年)にはこれを大幅に改定した第2次評価報告書を作成している。IPCC報告書で述べられている科学的知見は現時点で人類が入手しうる最も確からしい知見であり、今後人類が温暖化防止のための施策を検討するに当たり重要な科学的基礎となるものである。
ア 温室効果ガスの濃度の上昇
 産業革命(1750〜1800年)以前の1000年間は、温室効果ガスの大気中濃度は比較的一定の水準であった。産業革命以後、温室効果ガスの大気中濃度は著しく増加しており、1994年(平成6年)までにCO2濃度は約280ppmvから358ppmvに、メタン濃度は700ppbvから1720ppbv(ppbvは10億分の1、容積比)へ、亜酸化窒素濃度は約275ppbvから約312ppbvに上昇している。これら温室効果ガスの濃度は、特に最近20〜30年に著しく増加しているものが多い。
 こうした傾向は大部分人間活動に起因するものであり、その多くは化石燃料使用、土地利用変化及び農業によるものである。この他、産業革命以前には存在しなかったフロン等の人為的温室効果ガス濃度も増加している(第1-1-5図)。
イ 気候変動や海面上昇等
 第1-1-6図に示すとおり、地球表面の平均温度は、19世紀末からの100年間に0.3〜0.6℃上昇したが、この変化は、その全てを気候系の自然変動によるものと考えることはできない。
 地球規模での海水面の上昇は過去100年間に10〜25cmであり(第1-1-7図)、これらの変化の多くは地球の平均気温上昇に関連していると見られる。
 また、今世紀になって、全球的に氷河が衰退していることが観測データによって示されており、さらにいくつかの地域において、極端な高温現象、洪水や干ばつの増加といった深刻な問題となりうる変化が現われている。
Box5 気温の上昇が海面の水位を上げる理由
 過去100年に気温は0.3〜0.6℃上昇し、海面は10〜25cm上昇した。
 海面が上昇する要因には、海水の熱膨張、氷河の融解、南極やグリーンランドの氷床の融解、陸水の増減などがあると考えられているが、過去100年の海面上昇の理由は以下の表のように推測されており、中位の推計では海水の熱膨張とヨーロッパアルプス等の山岳氷河の融解の2つが主要因で、ほぼ半々の割合で寄与しているとされている。
 実際、今世紀に入って北半球各地で山岳氷河が著しく後退したことが知られている。


(2) 我が国における影響に関わる事実
ア 気温上昇
 気象庁の観測によると、我が国においても、年平均気温はこの100年間で約0.9℃上昇している。特に、1980年代後半から急速に気温が上昇している(第1-1-8図)。
イ 海面上昇とその影響
 環境庁の委託による地球温暖化問題検討委員会(座長:北野康名古屋大学名誉教授)が平成9年4月にとりまとめた「地球温暖化の日本への影響1996」によれば、我が国周辺の海面水位は、過去数十年の観測結果によると、地域的なばらつきは大きいが、北日本から中部にかけて1.5〜1.8mm/年の上昇傾向、西日本では1.0mm/年程度の下降傾向を示している。 
 また、我が国の砂浜では、過去70年間に125km
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が侵食されており、現在も侵食問題に悩まされている。
ウ 異常気象等
 また、近年の主な異常気象を整理すると第1-1-3表のようになる。1994年(平成6年)の猛暑はかつてない規模のものであり、年平均気温でみると平年より約1℃高かった。このことからも後述するIPCC予測の2℃の平均気温上昇による影響は非常に大きいものと考えられる。我が国では、少雨による激しい渇水や冷夏による農業被害、猛暑による電力需要の増大や熱射病の頻発等、年々の気候の変動により産業活動や日常生活に大きな影響があった。

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