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第2節 

4 海洋環境の保全

(1) 海洋汚染の現状

 環境庁では、海洋汚染の状況を把握するとともに海洋汚染の機構解明に資するため、我が国の沿岸から我が国の廃棄物の海洋投棄海域に向けて設定した測定線上の測定点において、一般海洋観測項目のほか、海水及び底泥中の重金属濃度等について調査する日本近海海洋汚染実態調査を実施している。
 海上保安庁では、海洋環境の保全のための基礎資料を得ることを目的として、我が国の周辺海域、A海域、閉鎖性の高い海域等において、海水及び海底堆積物中の油分、ポリ塩化ビフェニール(PCB)、重金属等について海洋汚染調査を実施し、汚染の進行は認められないことを確認した。
 また、我が国の周辺海域において、定期的に廃油ボールの漂流・漂着調査を実施しており、平成7年の調査結果によれば、漂流は前年に比べ大幅に減少したが、漂着については前年に比べ多少増加した。
 さらに、海上漂流物の実態を把握し、適切な対応を行うため、定期的に目視による調査を実施しており、7年の調査結果によれば、確認された漂流物の約70%を発泡スチロール、ビニール類等の石油化学製品が占め、それらは前年と同様に本州南岸海域で多く認められた。
 一方、海上保安庁が確認した最近3か年の我が国周辺海域における海洋汚染の発生件数は(第1-2-7表)のとおりで、7年においては811件と6年に比べ79件増加した。7年における油による汚染を排出源別にみると、船舶からのものが386件と大半を占めており、原因別にみると故意によるもの133件、取扱不注意によるもの124件、海難によるもの109件となっている。また、油以外のものによる汚染についてみると、陸上からのものが146件となっており、そのほとんどが故意によるものである。
 気象庁では、海洋における汚染物質の全般的濃度を把握するための海洋バックグランド汚染観測を日本周辺及び北西太平洋海域で実施している。それによると、水銀及びカドミウムは例年と変わらない濃度レベルで推移しており、廃油ボールは昭和57年以降低いレベルにあったが、平成7年5月には四国沖で多くが認められた。また、プラスチック等の海面漂流物は外洋においては横ばい状況にあるが、日本近海では高密度に分布している。油膜については日本周辺海域で6年に1例確認されたが7年には確認されていない。
 水産庁では、全世界の海洋に展開する我が国漁船等を活用した漁船活用型地球環境モニタリング事業による海洋汚染調査を実施した。



(2) 海洋汚染防止対策

ア 未然防止対策
(ア) 船舶等に関する規制
 海防法に基づき、油、有害液体物質等及び廃棄物の排出規制、焼却規制等について、その適正な実施を図るとともに、船舶の構造・設備等に関する技術基準への適合性を確保するための検査、海洋汚染防止証書等の交付を行っている。
(イ) 未査定液体物質の査定
 有害液体物質に関する規制が実施されたことに伴い、環境庁では昭和62年から未査定液体物質の査定を行っており、これまでに査定、告示した物質は128物質(平成8年3月末現在)となっている。
(ウ) 海洋汚染防止指導
 運輸省及び海上保安庁では、海洋汚染防止講習会を通じ、海防法の油、有害液体物質及び廃棄物に関する規制等を中心として、その周知徹底及び海洋環境の保全に関する意識の高揚に努めた。特に、条約等の基準に適合していない外国船舶に対して海洋汚染防止指導を実施した。
 また、海上保安庁では、環境の日を初日とする一週間を「海洋環境保全推進週間」として、集中的な訪船指導等を実施するとともに、「海洋環境保全講習会」を開催したほか、海洋汚染モニター制度を活用し、海洋環境保全思想の普及及び海上環境関係法令の周知徹底を図った。
 その他、特に、社会問題となっているFRP廃船等の不法投棄については、廃船の早期適正処分を指導する内容が記載された「廃船指導票」を廃船に貼付することにより、投棄者自らによる適正処分の促進を図り、廃船の不法投棄事犯の一掃を図った。
(エ) 廃油処理施設の整備
 船舶廃油を処理する廃油処理施設のうち公共のものの改良を行った。民間を含めた廃油処理施設は平成7年12月現在、81港131か所で整備されており、このうち、廃軽質油を処理するものは、36港50か所である。
イ 排出油等防除体制の整備
 「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)の平成8年1月17日の我が国についての発効に先立って、平成7年5月に、関係省庁の申し合わせにより、油汚染事件への準備及び対応に関し、必要な連絡、調整等を従来以上に一層緊密に行うための「油汚染事件に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議」(18省庁で構成)を設置し、我が国周辺海域において油汚染事件が発生した際に、海洋環境の保全並びに国民の生命、身体及び財産の保護を図るため、国、地方公共団体及び民間の関係者が一体となって迅速かつ効果的な措置をとるため我が国全体の取組を包括的に定めた「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」の取りまとめ等を推進した。同計画は平成7年12月15日に閣議決定され、これにより地方公共団体や関係団体を含んだ、官・公・民各界の様々な観点から連携協力体制の強化を図っていくための方向付けが明示された。
 海上保安庁は、海上における油等の排出事故に対処するため、巡視船艇・航空機の常時出動体制を確保し、防除資機材を整備するとともに、全国各地において、官民合同の大量の油等の排出事故対策訓練を実施したほか、高度な専門的知識及び技術を活用して、海上に排出された油等の防除措置及び油等の排出に伴う海上火災の消火並びにこれらの措置に係る指導、助言及び調整などを行う機動防除隊を編成し、東京湾をはじめ全国各地で発生する排出油事故に迅速に対応する体制を整備した。
 また、海防法等が一部改正されたことを受け、油濁防止緊急措置手引書の基準の策定・作成の指導、官民の関係者で構成される排出油の防除に関する協議会の組織化の推進等を実施したほか、海上防災措置の実施に関する民間の中核機関である海上災害防止センターの訓練施設の充実強化等、同センターの指導・育成など排出油防除体制の一層の強化を図った。
 通商産業省は、大規模石油災害時に災害関係者の要請に応じ油濁災害対策用資機材の貸出しを行っている石油連盟に対して、当該資機材整備等のための補助を引き続き行った。
ウ 油濁損害賠償保障制度の充実
 タンカーによる油濁事故は被害が巨額にのぼることから、我が国では損害賠償をより充実するため、「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」及び「油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(1969年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約の補足)」の2条約を締結するとともに、これらを国内法化した「油濁損害賠償保障法」を昭和50年に制定し、タンカーから流出した油による汚染損害に関して、?船舶所有者に厳格責任を課すこと、?船舶所有者の責任限度額を設けること、?2,000tを越える油を輸送するタンカーに責任限度額をカバーする保険契約の締結を義務付けること、?油濁損害の被害者が、船舶所有者等から十分な賠償を受けられない場合、国際基金から一定の限度額の補償を得られること等を定めている。
 なお、両条約については、平成4年に、船舶所有者の責任限度額及び国際基金の補償限度額の引き上げ等を内容とする4つの改正議定書が採択され、我が国においても、6年8月24日に油濁損害賠償保障法を改正し、これらの改正議定書を締結したところであるが、7年5月30日にデンマークが批准したことにより、その発効要件が充足され、8年5月30日からこれらの改正議定書が発効することとなった。現在のところ、締約国は日、英、仏、独等16カ国となっている。
 また、油濁による漁業被害のうち、相当部分を占める原因不明の油濁被害については、(財)漁場油濁被害救済基金が実施する被害漁業者への救済事業救済金の支給及び防除費の支弁等に助成した。なお、平成6年度における実績は、総件数21件、総救済額4,999万円であった。
エ 海洋汚染防止技術の研究開発
 運輸省においては、海洋汚染の防止を推進するため、船舶からの油流出防止技術及び排気ガス浄化のための研究開発、礫間処理、曝気・導水等による水質浄化技術の研究開発を行った。
 海上保安庁では、海洋に排出された油類に含まれる有害液体物質のうち揮発性物質を迅速に特定するための体系的分析手法に関する研究を実施したほか、閉鎖性水域である伊勢湾において、赤潮等の発生に影響を与える海水流動及び物質循環を解明するため、海水流動モデル及び水温、塩分等の成層消長モデルの開発・研究を行った。
 水産庁では、流出漁具による海洋環境への悪影響を軽減する等のため、生分解性プラスチックを用いた漁具の開発を実施した。
 赤潮の発生及び被害の防止対策として、赤潮発生状況等の調査及び赤潮関係情報の伝達体制の整備等を行うための貝毒成分・有害プランクトン等モニタリング事業に助成した。また、赤潮生物の増殖速度と海水交換速度との関係を解明するための調査及び赤潮ネットワークシステムの開発のほか、赤潮発生防止技術の開発を行う事業等を実施した。また、漁場の効果的な富栄養化対策として、漁場として望ましい栄養塩等の指針の作成等を行う事業を実施した。
オ 監視取締りの現状
 海上保安庁は、海洋汚染事犯の一掃を図るため、我が国周辺海域における海洋汚染の監視取締りを行っており、特に汚染発生の可能性の高い東京湾、瀬戸内海等の船舶ふくそう海域、タンカールート海域等にはヘリコプター搭載型巡視船及び航空機等を重点的に配備し、監視取締りを行うとともに、期間を定めて全国一斉に集中的な取締りを実施した。さらに、監視取締用資器材の整備等により監視取締体制の強化を図った。
 海上保安庁が送致した最近3か年の海上環境関係法令違反件数は第1-2-8表のとおりで、平成7年に送致した859件のうち、海洋汚染に直接結びつく油、有害液体物質及び廃棄物の排出等の実質犯は758件と全体の約88%を占めている。(第1-2-8表)

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