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第2節 

3 閉鎖性水域等における水環境の保全

(1) 閉鎖性水域の現状

 近年における我が国の公共用水域の水質汚濁の状況をみると、特に後背地に大きな汚濁源を有する内湾、内海、湖沼等の閉鎖性水域では、流入する汚濁負荷が大きい上に汚濁物質が蓄積しやすいため、他の水域に比較して環境基準の達成率が依然として低い。これに加えて、窒素、燐等を含む物質が流入し、藻類その他の水生生物が増殖繁茂することに伴い、その水質が累進的に悪化するという、いわゆる富栄養化の進行がみられる。
 これら閉鎖性水域における平成6年度の環境基準の達成率を有機汚濁の代表的な指標であるCODでみると、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の大阪湾等は依然として低い状況である。また、湖沼は40.6%と特に低い状況にある(第1部第1-1-20図第1-1-21図参照)。
 また、赤潮の発生状況をみると、6年度は東京湾56件、伊勢湾34件、瀬戸内海については、6年に96件(水産庁調べ)となっており、東京湾等では青潮の発生もみられる。湖沼についてもアオコや淡水赤潮の発生がみられるものが少なくない。このような状況に対処するため、閉鎖性水域の水質保全対策の一層の推進を図る必要がある。

(2) 水質改善の進まない水域等における調査

 総量規制の対象としている水域(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海)においては、当該水域の水質等を調査、解析する広域総合水質調査や当該水域に係る発生負荷量及び削減対策状況等を総合的に調査解析する調査を実施した。また瀬戸内海においては、赤潮発生機構の解明及び富栄養化対策の検討等のための調査を行った。

(3) 水質汚濁の著しい都市内河川及び水道水源水域

 水質汚濁の著しい都市内河川や水道水源として利用されている水域等の水質改善を図るため、各都道府県により上乗せ規制等を実施した。また、市町村や地域住民等の取組と一体となって河川事業、下水道事業を重点的に実施したほか、流域においても浄化事業を実施した。

(4) 湖沼

 湖沼は閉鎖性の水域であることから汚濁物質が蓄積しやすく、河川や海域に比して環境基準の達成状況が悪い。また、富栄養化に伴い、各種の利水障害が生じている。このような湖沼の水質保全のためには、従来からの「水質汚濁防止法」による規制のみでは十分でないこと等にかんがみ、昭和59年に「湖沼水質保全特別措置法」が制定され、60年3月から施行されている。この法律は、湖沼の水質保全を図るため、水質環境基準の確保の緊要な湖沼を指定して、当該湖沼につき湖沼水質保全計画を策定し、下水道整備等の水質保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制等の措置、更には湖辺の自然環境の保護等の対策を総合的・計画的に推進しようとするものである。指定湖沼に指定された湖沼は10湖沼あり、その概要は第1-2-6表のとおりである。なお、窒素、燐の削減対策を盛り込んだ第2期の湖沼水質保全計画が、4年3月に琵琶湖、霞ケ浦等5湖沼について、5年3月に釜房ダム貯水池及び諏訪湖について、7年3月に中海及び宍道湖について、それぞれ策定されたところである。



(5) 閉鎖性海域

 広域的な閉鎖性海域の水質改善を図るためには、その海域に流入する汚濁負荷量の総量を効果的に削減することが肝要である。
 このため、昭和53年の「水質汚濁防止法」等の改正により、広域的な閉鎖性海域について、水質環境基準を確保することを目途として、当該水域への汚濁負荷量を全体的に削減しようとする水質総量規制を制度化した。これまで東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海について化学的酸素要求量(COD)を指定項目として総量規制を実施してきた。
 第一次の総量規制は昭和59年度を目標年度として実施され、引き続き平成元年度を目標年度とする第二次の総量規制及び平成6年度を目標年度とする第三次の総量規制が実施された。
 第三次総量規制に係る総量削減基本方針及び総量削減計画においては目標年度における発生源(産業系、生活系、その他)別の削減目標量等について定められており、平成元年度の負荷量に対し東京湾で13%、伊勢湾で8%、瀬戸内海で9%、3水域全体では10%の削減を図り、また発生源別にみると生活系12%、産業系9%、その他2%の削減を図ることとなっている(第1-2-7図)。その達成のため、下水道整備の促進を図るとともに、地域の実情に応じ、合併処理浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティプラント等の整備等の生活排水対策、工場等の総量規制基準の強化等の産業排水対策、その他の諸対策を総合的に推進してきた。
 このため、全般的には総量規制の実施により一定の水質改善効果が現れているものと判断されるが、環境基準の達成率の向上に結びつくまでには至っていないことなどから、これらの水域の水質改善のために汚濁負荷量の計画的な削減が必要であるため、第四次総量規制の実施に向けた作業を進めているところであり、平成8年1月の中央環境審議会答申を踏まえ、平成8年3月に「化学的酸素要求量についての総量規制基準に係る業種その他の区分及びその区分ごとの範囲」について、新たに告示したところである。



(6) 富栄養化対策

 富栄養化は、元来、流域からの窒素、燐等の栄養塩類の供給により湖沼が徐々に肥沃化される現象を指すものであったが、近年、人口、産業の集中等により、湖沼に加えて内湾等の海域においても窒素、燐等の栄養塩類の流入が増大し、藻類等が増殖繁茂することに伴い、その水質が累進的に悪化する現象がみられるところがあり、水質保全上問題となっている。
 このため、湖沼においては透明度の低下や水色の変化による美観の劣化のほか、水道におけるろ過障害や異臭味問題等種々の障害が生じている。また、海域においては赤潮や青潮による漁業被害等が問題となっている。
 このような富栄養化に伴う障害の発生にかんがみ、その原因物質である窒素及び燐について、次のような施策が講じられている。
 湖沼については、昭和57年に窒素及び燐に係る環境基準を設定し、平成6年度までに、琵琶湖(2水域)等合計48水域(44湖沼)について類型指定が行われている。また、窒素及び燐に係る排水基準は、60年に設定され、現在、燐については1,066湖沼、窒素についても、そのうち78湖沼で排水規制が行われている。この他、琵琶湖等10指定湖沼については、湖沼水質保全特別措置法に基づき窒素・燐に係る汚濁負荷量規制が実施されている。(釜房ダム貯水池及び野尻湖については燐のみ)
 海域については、昭和55年から、瀬戸内海において関係府県が「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づき燐及びその化合物に係る削減指導を行っている。東京湾、伊勢湾においても、57年から関係都県等による富栄養化防止対策が始められ、第三次の栄養塩削減指導が平成3年度から行われてきた。5年8月には海域の窒素及び燐に係る環境基準及び排水基準を設定し、閉鎖性が高く富栄養化のおそれのある88海域とこれに流入する公共用水域について排水規制を実施している。なお、7年2月には、東京湾及び大阪湾について8年2月には、伊勢湾について海域の窒素及び隣に係る環境基準の類型指定が行われた。
 これを受け、当てはめ水域において、下水道等の生活排水処理の高度化が図られるなど、環境基準達成に向けた取組が行われた。

(7) 瀬戸内海の環境保全

 瀬戸内海は、優れた自然の景勝地であるとともに貴重な漁業資源の宝庫であるという恵まれた自然条件を有している。しかし、周辺に産業及び人口が集中し、閉鎖性水域であることから昭和40年代に水質の汚濁が急速に進行した。そのため、水質保全対策等を強力に推進することが要請され、48年に「瀬戸内海環境保全臨時措置法」が制定された。さらに、53年には新たな施策が加えられた恒久法「瀬戸内海環境保全特別措置法」に改正され、総合的な施策が進められてきた。また、瀬戸内海の環境保全を推進するに際して、地域住民、事業者等による理解と協力が不可欠であることから、研修会、講演会等の環境保全に関する思想の普及活動事業も推進してきた。
 その結果、瀬戸内海の水質の状況は、CODについて見ると、全般的には相当の改善が見られるが、大阪湾等の海域では、なお達成率は低い。さらに、瀬戸内海は、富栄養化の状態を呈しており、それに伴う現象の一つでもある赤潮は、なお広域的に発生が確認されている。
 「瀬戸内海環境保全特別措置法」等に基づき瀬戸内海関係13府県の区域において講じられた環境保全対策の概要は次のとおりである。
ア 府県計画の推進
 関係府県知事は、瀬戸内海の環境の保全に関し実施すべき施策を定めた府県計画に基づき、各種環境保全対策を実施している。
イ 特定施設の設置等の許可
 特定施設の設置等については許可制が採られており、平成6年度の設置許可件数は329件、変更許可件数は373件であった。
ウ 水質総量規制の推進
 現在、第四次総量規制について所要の検討を行っている。(「(5)閉鎖性海域」参照)
エ 指定物質に係る削減指導
 富栄養化防止対策としては、昭和55年度より三期にわたり指定物質である燐及びその化合物に係る削減指導が行われてきたが、これまでの指導の実績と瀬戸内海の水質の現状を踏まえ、平成7年度からの燐及びその化合物ならびに新たに指定物質とされた窒素及びその化合物に係る削減指導の実施のため、平成8年3月に削減指導方針の策定を関係府県に指示した。
オ 自然海浜の保全
 瀬戸内海沿岸は、人口及び産業の集中に伴う開発等により、全国的に見ても海岸の人工化が進んだ地域である。残された自然海浜は、海水浴、潮干狩り等海洋性レクリエーションの場として利用されてきており、平成6年における主要海水浴場65か所の利用者数の合計は、約907万人であった。
 関係10府県はこれらの自然海浜を保全するため、自然海浜保全地区条例等を制定しており、平成7年12月末までに91地区の自然海浜保全地区を指定している。
カ 埋立てに当たっての環境保全上の配慮
 瀬戸内海における公有水面埋立の免許又は承認に当たって、関係府県知事は、瀬戸内海の特殊性に十分配慮しなければならないこととされており、本規定の運用の基本方針については、昭和49年5月に瀬戸内海環境保全審議会より答申がなされている。瀬戸内海環境保全臨時措置法施行以降平成7年11月1日までの間に3,934件、9,743ha(うち6年11月2日以降の1年間に130件、570ha)の埋立ての免許又は承認がなされている。

(8) 閉鎖性水域の浄化対策

 湖沼においては汚泥のしゅんせつと湖周辺の環境整備とを一体的に実施する「レイクタウン整備事業」を湖沼において実施した。また、汚染の著しい海域においてヘドロの除去等を行うため海域の浄化対策事業を実施した。
 港湾及び周辺海域の環境保全のため、平成7年度には港湾公害防止対策事業(有機汚泥等のしゅんせつ等)を大阪港、福山港等12港で行ったほか、港湾区域外の一般海域におけるごみ・油の回収事業を行った。
 さらに、閉鎖性が強くヘドロの堆積した海域の環境改善を目的として海域環境創造事業(覆砂や海浜整備)を瀬戸内海等の2海域及び横浜港等8港において実施した。

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