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第2節 

2 水利用の各段階における負荷の低減

(1) 水質汚濁の要因

 我が国の水質汚濁の状況(1(1)イ「水質汚濁の現況」参照)の背景としては、工場、事業場排水については、排水規制の強化等の措置が効果を現わしている一方、炊事、洗濯、入浴等人の日常生活に伴う生活排水については、下水道整備等がいまだ十分でないなど対策が遅れていることがある。
 特に内湾、内海、湖沼等の水質汚濁については、水が滞留し、汚濁物質が蓄積しやすいという閉鎖性水域の物理的特性も関与していることと、内湾や内海等の臨海部には、人口や産業が集中しているという社会経済的要因が加わっていることも重要な汚濁要因である。
 また、流域に人口、産業の集中している都市内等の河川や、手賀沼、印旛沼などのように流域の都市化が進んでいる湖沼においては、下水道の整備等が人口の増加に追いつかず、排出負荷量のうち生活排水の占める割合が大きい。
 以上述べたように、近年、一般的には有機物による汚濁を中心として、特に生活排水対策の緊要性が高まっている状況にあるが、この他に、面としての広がりをもつ市街地、土地造成現場、農地などから、降雨等により流出するいわゆる非特定汚染源による汚濁や従来からの水質汚濁の結果として沈殿、堆積した底質からの栄養塩類の溶出等による汚濁の実態を把握し、適切な措置を講じる必要がある。

(2) 発生形態に応じた負荷の低減

ア 工場・事業場対策
(ア) 排水規制の実施
 公共用水域の水質保全を図るため、「水質汚濁防止法」により特定事業場から公共用水域に排出される水については、全国一律の排水基準が設定されている。
 また、内湾、内海等の閉鎖性海域の富栄養化を防止し海域環境の保全を図るため、海域について窒素及び燐に係る排水基準を設定し、平成5年10月1日より排水規制を実施している。(3「閉鎖性水域等における水環境の保全」参照)
(イ) 上乗せ排水基準の設定
 全国一律の排水基準では環境基準を達成維持することが困難な水域においては、都道府県が条例でより厳しい上乗せ基準を設定し得るものとされており、昭和50年度以来すべての都道府県において上乗せ排水基準が設定されている。
(ウ) 規制対象の拡大
 「水質汚濁防止法」は昭和46年の法施行当初は、日本標準産業分類の細分類による全産業業種約1,100のうち約500業種を規制対象としていたが、その後、逐次政令の改正により追加拡充され、平成7年度末現在、約600業種を規制対象としている。さらに、総量規制地域内においては、「指定地域特定施設」の制度が創設され、201〜500人槽のし尿浄化槽が規制対象となっている。
(エ) 水の循環利用
 排水規制の拡充等に伴い排水処理による水質改善ばかりでなく、製紙パルプのように生産工程の改善による排水量の低減、ビル等における中水の利用促進など、水の循環利用による排水の改善が図られている。
イ 生活排水対策の推進
 公共用水域の水質の汚濁の原因の一つとして、炊事、洗濯、入浴等人の日常生活に伴う生活排水があげられる。
 この生活排水対策を推進するためには下水道整備を促進するほか、地域の実情に応じ、合併処理浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティプラント等各種生活排水処理施設の整備を進めるとともに、各家庭からの汚濁負荷を削減するため、住民意識の啓発、住民による実践活動の推進等の対策を総合的に推進していく必要がある。
 下水道整備については、平成7年度は、第7次下水道整備五箇年計画(総額16兆5,000億円)の最終年度として、普及が遅れている中小市町村の下水道整備及び未着手市町村における新規着手の推進、水質保全のための高度処理の積極的導入を始め、大都市等における下水道の質的向上、下水道資源・エネルギー等の多目的活用を推進した。
 また、合併処理浄化槽については国庫補助制度が設けられており、平成7年度には、全国の約8割にあたる1946市町村において、約78,000基の整備が図られた。
 一方、浄化槽設置基数の約9割を占める単独処理浄化槽は、し尿のみを処理対象とし生活雑排水が未処理で放流されることから新設を抑制し、既設の単独処理浄化槽についても合併処理浄化槽等に転換するための取り組みを進めている。
 また、農業振興地域においては、農業集落におけるし尿、生活雑排水等を処理する施設を整備する農業集落排水事業1,771地区、緊急に被害防止対策を必要とする地区については、用排水路の分離、水源転換等を行う水質障害対策に関する事業直轄3地区補助54地区を実施した。
 平成2年6月、「水質汚濁防止法」等が一部改正され、?生活排水対策に係る行政及び国民の責務の明確化、?生活排水対策の計画的推進等が規定され、生活排水対策に関する規定が整備された。この改正された「水質汚濁防止法」に基づき、都道府県知事が重点地域の指定を行っており、平成7年度には新たに12都府県13地域16市町村が指定され、8年3月31日現在、40都府県、146地域、384市町村が指定されている。また、環境庁において、これらの市町村による「生活排水対策推進計画」の策定及び生活排水による汚濁が著しい水路等を浄化する施設、廃油回収・石けん再生等設備などの整備に対して助成を行った。
 このほか、生活環境の保全等を図るとともに公共用水域の水質保全に資するため、厚生省及び建設省においては、毎年9月10日を「下水道促進デー」とし、また、環境庁、厚生省及び建設省では、毎年10月1日を「浄化槽の日」とともに、環境庁において毎年「水環境フォーラム」を開催するなど、各種の普及、広報、国民的運動等を展開している。
 さらに、ヨシ等の有する自然浄化機能の活用や木炭等の利用による浄化水路等の整備を行い、湖沼等の公共用水域へ排出される農業用用排水の水質保全対策に関する事業を13地区で実施した。
 また、漁業集落から排出される汚水等を処理し、漁港及び周辺水域の浄化を図るため、漁業集落排水施設整備を139地区で実施した。
ウ 非特定汚染源対策
 市街地、農地等の非特定汚染源については、生活排水対策の推進とともに、都市排水や農業等における対策技術の開発等を実施している。

(3) 負荷低減技術の開発普及

 下水道事業の円滑な推進に資するため、下水道施設の合理的設計施工法、下水道における技術の合理化・効率化、下水汚泥の処理処分法、小規模下水道技術、下水処理の高度化と水環境・水利用、下水道における雨水対策、下水道における資源エネルギーの回収と利用、下水道施設の耐久性の向上、環境の変化に対応した下水道技術、下水道の役割の多様化への対応、下水道の維持管理とその適正化等の諸課題について調査を実施した。また、下水道の新技術、新工法を積極的に導入し、下水道技術の向上と効率的な事業執行のため、新技術活用モデル事業を実施している。また、これまでの下水道整備を支えてきた技術の蓄積を踏まえつつ、21世紀を目指して新たに取り組むべき主要技術の開発への積極的な取り組みを図るべく平成6年度に「下水道技術五箇年計画」を策定した。
 また、水質保全のため合併処理浄化槽の高度処理技術の推進、普及を図ってきており、平成7年12月には、窒素及び燐を除去する等の性能を有するし尿浄化槽の構造基準を追加した。また、平成8年3月には、浄化槽法施行規則を改正し、当該浄化槽に係る維持管理基準を設定した。
 農業集落排水施設については、安価で汎用性の高い、脱窒・脱燐技術の開発・普及のほか、小規模な処理施設について、FRP構造を取り入れた低コストな施設の開発・普及を図った。

(4) 水環境の安全性の確保

ア 有害物質の排水規制等
 全国一律の排水基準のうち、有害物質に係る排水基準については、平成5年3月の人の健康の保護に関する環境基準の拡充・強化を踏まえ、ジクロロメタン等7項目の有機塩素系化合物、シマジン等4項目の農薬など合計13項目について新たに排水基準を設定し、鉛及び砒素について基準値の強化を行い、6年2月1日より排水規制を実施している。改正後の有害物質に係る排水基準は第1-2-5表のとおりである。
 また、こうした環境基準の拡充・強化を踏まえ、ジクロロメタン等15物質を含む廃棄物の最終処分基準の強化を行い、7年4月1日より施行している。
 一方、事故時の措置については平成元年6月に「水質汚濁防止法」の一部を改正し、水質汚濁事故が発生した場合において事業者等が応急の措置を講ずること及びその講じた措置を都道府県知事等に届け出ること等について規定を整備した。
イ 水道水源の水質保全対策
 水道水源の汚濁に対して、水道事業は高度浄水施設の導入等により対処してきているが、水源の汚濁は水道水の安全性確保等の点で水道事業体の大きな負担であり、また、浄水処理コストを上昇させる要因ともなっている。
 水道水に対する国民の関心の高まりに対応して、6年2月に制定された「特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法」(以下「特別措置法」という。)に基づき、同年5月に「特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する基本方針」が閣議決定された。また、平成7年6月にトリハロメタン生成能に係る特定排水基準の範囲等について環境庁告示を行った。
 一方、特別措置法と同時に制定された「水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律」に基づき、平成7年末までに5県10箇所から該当県に対して水道原水水質保全事業の実施の促進の要請がなされ、これらを受けて、4箇所について都道府県計画が策定され、6箇所について計画の策定が進められている。
ウ 地下水汚染対策
 地下水は一度汚染されるとその回復が容易ではないので、汚染が進行しないうちに予防策を講じていかなければならない。このため、平成元年、有害物質による地下水汚染の未然防止を図ること等を目的として「水質汚濁防止法」の一部が改正され、この改正法により同年10月から、トリクロロエチレン等11の有害物質を含む水の地下への浸透の禁止、都道府県知事の地下水の水質の常時監視等の措置がとられた(第1-2-6図)。また、平成5年12月には、1,1,1-トリクロロエタン等13物質を有害物質に追加し、規制の強化を図っている。
 環境庁では、都道府県知事が作成する地下水の水質測定計画に基づく水質調査に要する経費について、平成元年度から助成を行っている。
 地下水汚染問題については、水質汚濁防止法の着実な施行を図り、汚染の未然防止に努めることはもとより、汚染された地下水の汚染機構の把握や浄化対策等の検討が必要である。環境庁では平成6年11月に「有機塩素系化合物等に係る土壌・地下水汚染調査・対策暫定指針」を策定して、地下水汚染が判明した場合における調査・対策の一般的な手法を示すとともに、より一層の技術的な確立を図るため汚染回復対策手法等の現地実証調査を実施するなどの調査研究を進めている。
 さらに、平成8年2月の中央環境審議会の答申を踏まえ、汚染された地下水の浄化制度の導入を内容とする「水質汚濁防止法の一部を改正する法律案」を第136回国会に提出した。
 また、近年、農産物への施肥や畜産排水、生活排水の土壌浸透処理等が原因と考えられる硝酸性窒素による地下水汚染が明らかになり始めており、平成6年度に275自治体が行った調査によれば、3.6%の井戸で硝酸性窒素濃度が要監視項目としての指針値(10?/リットル)を超えていた。このような実態を踏まえ、環境庁では新たに平成7年度から硝酸性窒素による地下水汚染のための調査・検討を実施しているところである。
エ 農薬汚染対策
 農薬については、水質汚濁の未然防止を図る観点から、農薬取締法に基づき登録を留保するかどうかの基準を定めることとしており、平成8年1月現在、63農薬について、水質汚濁に係る基準値を設定している。さらに、ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針、公共用水域等における水質評価指針等の着実な運用を行った。
オ 水銀、PCBによる汚染底質除去対策
 水銀による底質汚染については、調査の結果、暫定除去基準を超え除去等の対策を講じる必要がある水域は全国で42水域であり、平成2年7月末現在で対策を終了している。なお、この他に自然的な要因と思われる底質の汚染が1水域で確認されている。
 PCBによる底質汚染については、調査の結果、除去等の対策を講じる必要がある水域は全国で79水域であった。このうち75水域は平成3年7月末現在で対策を終了しており、佐世保港(佐世保市)等の4水域については底質の除去等の対策又はその検討が進められている。
カ 漁業公害調査
 水銀、PCB、ダイオキシン類等有害化学物質による魚介類の汚染状況等についての調査、新たな汚染物質による魚介類汚染の早期発見と対策検討のための調査、有害化学物質に係る魚介類のための水質環境基準に関する試験方法の検討、有害化学物質による魚介類汚染機構解明のための調査、酸性雨による湖沼の酸性化が内水面漁業に及ぼす影響の調査等のほか、貝類の毒化予知手法の開発等の貝毒対策を行った。
 また、内湾・浅海域に立地する発電所の大量取放水による漁業資源への影響についての検討等を行った。
 このほか、広く海洋に展開している我が国漁船を活用した地球規模の海洋環境モニタリングを実施した。

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