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第2節 

1 環境保全上健全な水循環の確保

(1) 環境基準等の目標の達成・維持等

ア 環境基準の設定
 水質汚濁に係る環境基準は、水質保全行政の目標として公共用水域の水質について達成し、維持することが望ましい基準を定めたものであり、人の健康の保護に関する環境基準(以下「健康項目」という。)と生活環境の保全に関する環境基準(以下「生活環境項目」という。)の二つからなっている。
 前者の健康項目については公共用水域一律に定められているが、後者の生活環境項目については、河川、湖沼、海域ごとに利用目的に応じた水域類型を設けてそれぞれ基準値を定め、各公共用水域について水域類型の指定を行うことにより水域の環境基準が具体的に示されることになっている。
 健康項目は、平成5年3月に大幅な改正を行い、現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素化合物、シマジン等の農薬など合計23項目を設定している。加えて、要監視項目について指針値を設定し、一層の水質データの把握に努め、水質汚濁の未然防止を図ることとしている。
 生活環境項目については、BOD、COD、DO等の基準が定められており、さらに、富栄養化を防止するため、従前からの湖沼に加えて、平成5年8月に新しく海域についても全窒素及び全燐に係る環境基準を定めた。
 なお、環境基準の水域類型指定後に、利水目的の変化等が認められる水域については、水域類型指定の見直しを計画的に進めることとしている。
 また、有害物質を含む底質の除去に関しては、水銀を含む底質及びPCBを含む底質について、それぞれ暫定除去基準が設定されている。
イ 水質汚濁の現況
(ア) 公共用水域
 平成6年度全国公共用水域水質測定結果によると、カドミウム等の人の健康の保護に関する環境基準については、平成5年3月に環境基準が改正されたのに伴い、平成5年度から新たな環境基準に基づく評価を行っている。環境基準を超える測定地点は、全国5,516測定地点のうち47地点あり、非達成率は0.85%であった。(第1-2-1表)
 なお、平成6年度は前年度に比べ環境基準を超える地点数の割合(非達成率)が0.58%から0.85%へと増加している。これは、砒素について自然由来により環境基準を超える地点数が増加した影響によるものと考えられる。(第1-2-1図参照)
 一方、BOD、COD等の生活環境の保全に関する項目に関しては、平成5年度までに環境基準類型のあてはめられた3,156水域(河川2,447、湖沼128、海域581)について、有機汚濁の代表的な水質指標であるBOD(又はCOD)の環境基準の達成水域は全体の68.9%(5年度76.5%)であり、全体の31.1%の水域においては、環境基準が達成されていない。これは河川の達成率の低下によるところが大きく、渇水による河川流量の減少が影響したものと考えられる。また、これを水域別にみると、河川67.9%(5年度77.3%)、湖沼40.6%(同46.1%)、海域79.2%(同79.5%)であり、特に、湖沼、内湾、内海等の閉鎖性水域や都市内の中小河川で依然として達成率が低い。
 (第1-2-2図第1-2-3図第1-2-4図第1-2-5図第1-2-2表。)
 なお、その他の水質汚濁の態様としては、トリクロロエチレン等による地下水の汚染、有機スズ化合物による河口、内湾域を中心とした広範な汚染、事故による有害物質や油の流出による公共用水域の汚濁、一部の水域についてではあるが、ダムの築造に伴う長期濁水、火山地帯における河川又は湖沼の自然的要因による酸性化、大規模発電所の温排水による環境への影響等がある。
(イ) 地下水
 昭和50年代後半からトリクロロエチレン等による地下水汚染が各地域に広がっていることが明らかとなってきたことから、平成元年度より、「水質汚濁防止法」に基づき地下水質の汚濁状況を常時監視することとなり、都道府県ごとの地下水質測定計画に従って国及び地方公共団体による地下水質の測定が行われることになった。
 平成6年度の地下水質測定結果によると、概況調査(地域の全体的な地下水質の状況を把握するために実施する調査)は、1,498市区町村で実施され、評価基準を超過した井戸の割合(超過率)は、鉛0.1%(2本/2,523本)、砒素3.1%(91本/2,914本)、四塩化炭素0.1%(2本/2,808本)、1,2-ジクロロエタン0.04%(1本/2,643本)、1,1-ジクロロエチレン0.2%(5本/2,671本)、シス-1,2-ジクロロエチレン0.3%(9本/2,670本)、1,1,1-トリクロロエタン0.03%(1本/3,868本)、トリクロロエチレン0.3%(11本/3,996本)、テトラクロロエチレン0.7%(29本/3,998本)であった(第1-2-3表)
 また、汚染井戸周辺地区調査(概況調査等により新たに発見された汚染について、その汚染範囲の確認を目的とした調査)では、砒素30.6%(211本/689本)、四塩化炭素0.2%(1本/580本)、1,1-ジクロロエチレン1.7%(5本/299本)、シス-1,2-ジクロロエチレン3.8%(17本/444本)、1,1,1-トリクロロエタン0.1%(2本/1,440本)、トリクロロエチレン2.0%(32本/1,574本)、テトラクロロエチレン16.7%(274本/1,643本)、ベンゼン0.8%(1本/124本)の超過率であった。
 定期モニタリング調査(汚染井戸周辺地区調査により確認された汚染の継続的な監視等を目的とした調査)では、鉛0.9%(6本/700本)、六価クロム1.1%(8本/717本)、砒素14.2%(130本/913本)、総水銀2.3%(17本/726本)、四塩化炭素1.6%(26本/1,594本)、1,1-ジクロロエチレン1.1%(13本/1,219本)、シス-1,2-ジクロロエチレン6.6%(81本/1,232本)、1,1,1-トリクロロエタン0.2%(7本/3,663本)、トリクロロエチレン8.3%(321本/3,887本)、テトラクロロエチレン18.3%(713本/3,903本)の超過率であった。
 なお、いずれの調査においても、他の物質については、評価基準を超過した井戸はなかった。
ウ 水質汚濁による被害状況
(ア) 水道水源の汚濁
 水道水源の約7割は河川等の表流水であり、公共用水域における水質汚濁によって受ける影響は大きい。水源の約3割を占める地下水は、従前は良質の水源とされてきたが、トリクロロエチレン等による汚染が顕在化している。水道水源の汚染事故により影響を受けた水道水は平成4年度には79か所であった。
 また、近年、貯水池等の富栄養化による藻類等の異常な増殖により、異臭味の発生等が生じており、4年度には、106の水道事業等(被害人口の合計約1,580万人)において異臭味による影響が生じた。
(イ) 工業用水の汚濁
 工業用水は、その淡水補給水量のうち、約70%を地表水、伏流水といった河川水(うち約半分は工業用水道)に依存しており、原料用、製品処理用、洗浄用等様々の用途に使用されるため、河川水の水質汚濁により影響を受ける場合がある。
 また、工業用水道事業では、一般的に薬品沈殿による水質処理を行っているが、河川水の汚濁物質除去により発生する処理汚泥の処理が問題となる場合がある。
(ウ) 農業、漁業被害
 近年、都市化の進展等に伴い、都市汚水等の農業用水への流入により、農業生産、農村の生活環境等の上で看過し得ない問題が生じている。
 農業用水の汚濁による農業被害の現状をみると、全国で被害地区数(5ha以上)約1,175地区、被害面積約8万6,200haとなっている。このうち、都市汚水(農村における生活排水を含む。)による被害が最も大きく、被害面積の84%を占めている。(第1-2-4表)
 平成元年度から2ヶ年にわたり実施した調査結果を昭和60年度の結果と比較してみると、被害地区数は10%増で、被害面積は2.9%の減となっている。また、新たな被害発生面積は約2万4,000haあり、そのうちの91%が都市汚水によるものである。
 水質汚濁による漁業被害の態様としては、?水面の浮遊物、廃棄物の堆積等に伴う漁場環境の悪化及び漁船・漁具の損壊、?油濁・赤潮等の発生による水産生物の死滅、生育不能等、?重金属、PCB等の有害物質の蓄積、付着等による漁獲物の販売不能又は魚価低下、?油濁等による漁船及び漁具の汚れ、腐食等がある。
 平成6年度において発生した水質汚濁等による突発的漁業被害は、都道府県の報告によると、発生件数が、215件(5年度176件)、被害金額は26億2,813万円(5年度24億7,593万円)で、5年度より件数は増加し、金額も増加した。このうち、海面の油濁による被害が、46件、2億2,055万円(5年度39件、11億6,669万円)、赤潮による被害は31件、11億613万円(5年度31件、3億3,810万円)である。
 なお、水銀、PCB等による魚介類の汚染に関しては、汚染が確認された水銀に係る9水域、PCBに係る1水域及びドリン系殺虫剤に係る6水域において、継続して漁獲の自主規制又は食事指導が行われている(平成7年12月末現在)。
(エ) その他
 環境庁の海水浴場等の水質調査(平成7年度)によれば、調査対象とした411水浴場すべてが水浴場として適当な水質を維持しているが、大腸菌に関し何らかの改善対策を行うことが望ましいものが2か所あった。



(2) 健全な水循環機能の維持・回復

 健全な水循環機能の維持確保を図るため、森林については、森林計画制度に基づき、複層林施業や育成天然林施業等の適正な森林整備を通じて保水能力の高い森林の育成に努めるなど適切な維持管理を進めた。また、水を貯留するとともに地下水かん養能力等を有する水田等の農地の適切な維持管理を進めた。
 水質、水量、水生生物、水辺地等の保全を進めるため、ヨシ、木炭等を利用した浄化水路等の整備を行い、河川、湖沼等の自然浄化能力の維持・回復を図った。また、都市域における健全な水循環を確保するため、水循環・再生下水道モデル事業、再生水利用下水道事業等による下水処理水等の効果的利用及び緑化を図り、透水性舗装や浸透ますの設置等による雨水の適正な地下浸透を進めた。海域においては、自然海岸、干潟、藻場、浅海域の適正な保全を推進するとともに、自然浄化能力の回復に資するよう、海岸環境整備事業等により人工干潟・海浜等を適切に整備した。

(3) 地域の実情に即した施策の推進と公平な役割分担

 地域において、健全な水環境を確保するため、地域の実情に即し、地域の住民・事業者等の参加・協力を得つつ、水質、水量、水生生物、水辺地等を含めた水環境を総合的に評価する手法について調査検討を始めた。
 水環境保全のための流域の地方公共団体間の協力、住民の自主的、積極的取組の促進等各主体の公平な役割分担の下での施策の推進方策の調査検討を始めた。この一環として環境庁では、水環境ビジョン懇談会を開催し、今後の水環境保全のあり方について報告書を取りまとめた。
 また、地域住民の参加を得て、全国水生生物調査を実施したほか、水生生物による水環境評価手法の検討を始めた。

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