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第1節 

4 多様な有害物質による健康影響の防止

(1) 多様な有害物質による大気汚染の現況

 近年、粒子状物質については、単にその量だけでなく、成分等その質的な面で注目されている。全国の主要地域に設置されている国設大気汚染測定所においては、前述の常時監視測定されている物質以外に、ハイボリウムエアサンプラーにより採取した浮遊粉じん中の成分(ベンゼン可溶性物質、硫酸根、硝酸根、バナジウム等重金属、ベンゾ(a)ピレン等)及びローボリウムエアサンプラーにより採取した浮遊粒子状物質中の成分(アルミニウム、バリウム等31元素)の分析を行っている。
 また、その他に大気中から検出される多様な有害物質で長期的に推移を把握していく必要のある物質については、昭和60年度から未規制大気汚染物質モニタリング調査を実施している。平成6年度においては、4年度に引き続き、ホルムアルデヒド及びダイオキシン類について調査を実施している。
 平成6年度の調査結果では、ホルムアルデヒドについては、前回の調査結果と比較すると幹線道路周辺で高い値が検出されたが、その他の地域では概ね同程度であった。また、ダイオキシン類についても、前回と比較すると概ね同程度であった。今後とも引き続きモニタリングを実施するとともに多様な有害物質について大気中の濃度の的確な把握が必要である(第1-1-11表)



(2) 対策

ア 石綿対策
 石綿(アスベスト)は耐熱性等にすぐれているため多くの製品に使用されているが、発ガン性などの健康影響を有する。
 このため、平成元年の大気汚染防止法改正により、粉じんのうち石綿を特定粉じんとし、石綿製品等の製造施設を特定粉じん発生施設とした上で、特定粉じん発生施設の設置等の届出、計画変更命令等、特定粉じんの規制基準の遵守義務、改善命令等、特定粉じんの濃度の測定等の規定による規制が行われている。さらに、環境庁では、石綿測定技術者の育成事業及び石綿代替品の使用状況に関する調査等を実施している。
 また、先の阪神・淡路大震災において被害を受けた建築物の解体等に伴うアスベストの飛散が懸念され、対策の徹底が求められたことや、アスベスト使用建築物が建設され始めて既に30年程度が経過し、今後その建て替えのための解体等の増加が見込まれることを踏まえ、吹き付けアスベスト等を使用する建築物を解体する作業等について、その作業の方法に関する基準の設定等の所要の措置を講ずるため、大気汚染防止法の一部を改正する法律案を平成8年3月に第136回国会に提出した。
イ 有害物質に対する対策
 大気汚染防止法では、ばい煙発生施設から発生する「有害物質」として、窒素酸化物のほかに、?カドミウム及びその化合物、?塩素及び塩化水素、?ふっ素、ふっ化水素及びふっ化けい素、?鉛及びその化合物を規制している。?〜?の有害物質に係る排出基準は、有害物質の種類ごとに限られた種類のばい煙発生施設に対して設定されているが、これは、有害物質の発生が特定の原料に起因しているためである。
ウ 未規制の有害物質対策
 大気汚染を未然に防止する観点から、有害性の懸念されている未規制の有害物質の中から逐次物質を選定し、排出濃度、環境への影響等に係る調査を行っている。
 トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンによる大気汚染の防止については「有機塩素化合物対策検討会」の報告を踏まえ平成5年4月に、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい指針として「大気環境指針」(暫定値)(年平均値でトリクロロエチレンは250μg/立方メートル以下、テトラクロロエチレンは230μg/立方メートル以下)を定め、また、「トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンの大気中への排出に係る暫定対策ガイドライン」をとりまとめるとともに、都道府県知事、政令指定都市市長を通じて実態の把握等を行った。
 さらに、近年の我が国の大気環境の調査結果によると大気中から低濃度ではあるが発ガン性等の有害性が問題とされる物質が種々検出されており、物質によってはその長期暴露による国民の健康への影響が懸念される状況に至っている。このため、平成7年9月に中央環境審議会に「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について」諮問を行い、平成8年1月に同審議会において中間答申がとりまとめられた。同答申においては、健康影響の未然防止の観点から「本答申に基づいて施策推進のための法的枠組みも含む制度づくりを急ぐとともに、対象物質の確定、環境目標値の設定、排出抑制対策の具体化等の作業を関係各界の意見を幅広く聴取しつつ進めること」とされたところである。このため、この中間答申を踏まえ、有害大気汚染物質対策推進に関する各種の規定を盛り込んだ「大気汚染防止法の一部を改正する法律案」を平成8年3月に国会へ提出したところである。法案においては、?有害大気汚染物質の排出抑制に係る事業者の責務、?地方公共団体による、有害大気汚染物質による大気汚染状況の把握、健康被害のおそれの程度の評価・公表、事業者に対する情報の提供及び住民に対する知識の普及、?ベンゼン等の早急な排出抑制対策を講ずべき物質について、当面、排出抑制基準を示し、より確実な排出抑制の取組を事業者に求めること、?以上の仕組みについて、今後の科学的知見の充実の程度、事業者による取組の成果等を総合的に勘案し、健康被害の未然防止の観点からより一層の対策の充実を図るため、本法律案の施行後3年を目途として検討を加え、その結果に基づいて、制度の見直しを含め所要の措置を講ずることなどを規定している。

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