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第1節 

5 地域の生活環境に係る問題への対策

(1) 騒音・振動対策

ア. 総説
(ア) 騒音・振動の現況
 騒音は、各種公害のなかでも日常生活に関係の深い問題であり、また、その発生源も多種多様であることから、例年、その苦情件数は公害に関する苦情件数のうちで最も多くを占めている。
 騒音発生源の種類ごとに苦情件数をみると、工場・事業場騒音が最も多く、建設作業騒音、営業騒音、家庭生活騒音がそれに次いでいる(第1-1-14図)
 騒音苦情の件数は、ここ数年減少傾向にあったが、平成6年度は前年度に比べ増加した。そのうち、家庭生活騒音は、わずかながら増加している。
 一方、振動は、各種公害のなかで騒音と並んで日常生活に関係の深い問題である。苦情件数の推移をみると、ここ数年減少傾向にあったが、平成6年度は2,547件で前年度と比べ増加した。
 その内訳をみると、建設作業振動に係る件数が最も多く、工場、事業場振動に係るものがそれに次いでおり、苦情原因として依然大きな割合を占めている(第1-1-15図)
(イ) 騒音に係る環境基準
 環境基本法第16条の規定に基づき、「騒音に係る環境基準」が定められている。同基準では基準値を、一般地域及び道路に面する地域の2つに分け、それぞれにおいて地域の類型別、時間の区分ごとに設定している。
 基準値は、一般地域については「とくに静穏を要する地域」における「夜間」の「35デシベル以下」から「相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域」における「昼間」の「60デシベル以下」の間で、地域の類型及び時間の区分ごとに設定されている。都道府県知事は、類型をあてはめる地域の指定を行うこととなっており、平成6年度末現在で47都道府県において、605市、883町、102村、23特別区について地域指定が行われている。
(ウ) 騒音規制法による規制等
 「騒音規制法」では、騒音を防止することにより生活環境を保全すべき地域を都道府県知事(政令指定都市にあってはその長に委任)が指定し、この指定地域内にある工場・事業場における事業活動と、建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音を規制するとともに、環境庁長官が自動車から発生する騒音の許容限度を定め、さらに、都道府県知事は、都道府県公安委員会等に対して道路交通に起因する自動車騒音について対策の要請等ができることとされている。
 都道府県知事(政令指定都市にあってはその長に委任)による地域指定は、平成6年度末現在で、47都道府県において、661市、1,238町、175村、23特別区について行われており、全市区町村数の約64.4%である。
(エ) 振動規制法による規制等
 「振動規制法」では、都道府県知事(政令指定都市にあってはその長に委任)が振動を防止することにより住民の生活環境を保全する必要があると認める地域を指定し、この指定地域内において工場及び事業場における事業活動並びに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる振動について必要な規制を行うとともに、道路交通振動について都道府県公安委員会等に対する要請を行うよう定めている。
 都道府県知事(政令指定都市にあってはその長に委任)による地域指定は平成6年度末現在で、47都道府県において651市、868町、98村、23特別区について行われており、全市区町村数の50.4%である。
イ. 工場・事業場及び建設作業による騒音・振動対策
(ア) 工場・事業場及び建設作業による騒音・振動の現況
 騒音については、騒音規制法の指定地域内にあって金属加工機械等の政令で定める特定施設を設置している工場・事業場(以下「特定工場等」という。)が規制の対象となるが、指定地域内の特定工場等の総数は平成6年度末現在で20万4,838である。
 指定地域内において行われる建設作業であって政令で定めるくい打作業等の特定建設作業が規制対象となるが、平成6年度の特定建設作業実施の届出件数は3万8,568件である。
 振動については、振動規制法の指定地域内にあって、金属加工機械等の政令で定める特定施設を設置している工場及び事業場(以下「特定工場等」という。)が規制の対象となるが、指定地域内の特定工場等の総数は平成6年度末現在で11万7,730である。
 指定地域内において行われる建設作業であって政令で定めるくい打作業等の特定建設作業が規制対象となるが、平成6年度の特定建設作業実施の届出件数は、2万5,577件である。
(イ) 対策
i) 工場・事業場
 騒音については、指定地域内の特定工場等には、規制基準の遵守義務が課せられており、都道府県知事(市町村長に委任。以下同じ。)は、特定工場等から発生する騒音が規制基準に適合しないことにより、周辺の生活環境が損なわれると認められる場合に、計画変更勧告や改善勧告、さらに改善命令を行うことができる。平成6年度中には、改善勧告が3件行われた。また、これらの騒音規制法に基づく報告徴収等の調査後における騒音防止に関する行政指導が1,038件行われた。
 また、急激な都市化に伴い、大都市近郊で以前から操業していた工場の周囲に住宅地が形成されるなど、近年郊外での工場騒音問題が顕在化しており、これらの騒音対策に係る調査検討を行った。さらに、法規制対象外の施設等からの騒音防止対策の検討等を行った。
 一方、振動については、指定地域内の特定工場等には、規制基準の遵守義務が課せられており、都道府県知事(市町村長に委任。以下同じ。)は、規制基準に適合しない振動を発生することにより周辺の生活環境が損なわれると認めるときは、振動の防止の方法等に関し、計画変更勧告や改善勧告及び改善命令を行うことができる。平成6年度中においては、改善勧告が1件行われた。なお、苦情に基づく報告徴収等の調査後における振動防止に関する行政指導が176件行われた。
 また、振動に係る苦情のうち、法規制対象外の施設や建設作業を発生源とするものの割合が半数以上を占めている。そのため、未規制施設について振動実態調査を行った。
 なお、住工混在の土地利用により、現に騒音・振動公害が発生し、問題となっている地域では、遮音壁や振動防止施設の設置等の騒音・振動防止対策、当該地域からの工場・事業場の移転等が公害対策の重要な手段となっている。しかし、騒音・振動が問題となる工場・事業場の多くは中小規模であり、資金的な面等から移転が困難な場合が多いので、中小企業金融公庫等による工場移転についての融資、環境事業団による集団設置建物の建設が行われている。
ii) 建設作業
 都道府県知事は、特定建設作業に伴い発生する騒音が一定の基準に適合しないことにより生活環境が著しく損なわれると認める場合においては、騒音の防止の方法等に関し改善勧告又は改善命令の措置を行うことができる。平成6年度においては、改善勧告、改善命令ともに行われていない。また、苦情に基づく報告徴収等の調査後における騒音防止に関する行政指導が540件行われた。
 都道府県知事は、特定建設作業に伴い発生する振動が一定の基準に適合しないことにより生活環境が著しく損なわれると認める場合においては、振動の防止の方法等に関し改善勧告又は改善命令の措置を行うことができる。平成6年度中においては、改善勧告等は行われなかった。なお、苦情に基づく報告徴収等の調査後における振動防止に関する行政指導が274件行われた。
 また、建設作業の騒音・振動については、低騒音型建設機械・低振動型建設機械の開発・普及が進められている。
 ウ 自動車交通騒音・振動対策
(ア) 自動車交通騒音の現状
 自動車騒音について、当該地域の騒音を代表すると思われる地点又は騒音に係る問題を生じやすい地点において、平成6年度中に都道府県、市町村及び特別区が実測した4,801測定点(「騒音規制法」に基づく指定地域内で測定されたものに限る。)の測定結果を見ると、第1-1-16図のとおりである。騒音に係る環境基準が達成されなかった地点は全国で4,152地点、また、要請限度(「騒音規制法」第17条第1項の限度)を超過した地点は全国で1,495地点となっている。
 また、測定期日・時間が年によって必ずしも一致していないため、単純に比較することはできないが、平成2年から5年間継続して同一地点で測定している1,737測定地点で見ると、第1-1-17図のとおりであり、平成6年環境基準が達成されなかった地点は1,505地点と、引き続き高い水準で推移している。
 さらに、環境基準の達成状況等について、大都市域(東京都23区及び12政令指定年)とそれ以外の地域で見ると、4時間帯の全てにおいて環境基準が達成されなかった測定地点の割合は、大都市域が70.4%であり、それ以外の地域の50.4%に比べてかなり高くなっており(第1-1-18図)、また、道路の種類別に見ると、4時間帯の全てのにおいて環境基準が達成されなかった測定地点の割合は、都市内高速道路、一般国道、主要地方道の順に高くなっている(第1-1-19図)
(イ) 対策
 自動車本体からの騒音は、エンジン、吸排気系、駆動系、タイヤ等から発生するが、沿道においては、自動車本体から発生する騒音に、交通量、通行車種、速度、道路構造、沿道土地利用等の各種の要因が複雑に絡み合って自動車騒音として問題となっている。また、道路周辺における振動についても、自動車重量、走行条件及び路面の平坦性、舗装構造、路床条件等の道路構造等の要因もあいまって道路交通振動問題となっている。これらの騒音・振動問題を抜本的に解決するため、自動車構造の改善による騒音の低減に加え、走行状態の改善等の発生源対策、交通流対策、道路構造の改善、沿道対策等の諸施策を総合的に推進している(第1-1-20図)
 なお、自動車騒音に関して道路管理者等に対して意見陳述を行った件数は、平成6年度は16件であった(第1-1-12表)。また、交通振動に対する要請は、ここ数年においては、3年度及び5年度にそれぞれ1件づつ行われた。
i) 自動車構造の改善
 自動車構造の改善により、自動車単体から発生する騒音の大きさそのものを減らす発生源対策として、自動車騒音規制が実施されている。
 騒音規制としては、市街地を走行する際に発生する最大の騒音である加速走行騒音、一定の速度で走行する際の騒音である定常走行騒音、使用過程車の街頭での取締りなどに適した近接排気騒音の3種類について規制を実施している。
 新車に対しては、加速走行騒音規制が開始された昭和46年以降、数次にわたる規制の強化が行われてきた。このうち54年以降の規制強化は、51年6月に中央公害対策審議会の答申で示された加速走行騒音における許容限度の設定目標値に沿って行われたものであり、最新規制は、46年規制と比較して6〜11デシベルの大幅な規制強化となっている。
 また、街頭における測定が容易である近接排気騒音規制が、昭和61年6月から使用過程車も含めて実施され、不正改造車等の取締りに対して効果をあげているところであり、これらの措置は、騒音防止上重要な役割を果してきている。特に、暴走族の深夜、住宅地等における爆音暴走が多発し、大きな社会問題となってきたことから、消音器不備、近接排気騒音、空ぶかし運転等の取締りを強化している。平成7年中の暴走族の消音器不備等に係る取締り件数は10,434件であった。
 しかし、これまでの規制強化にもかかわらず、自動車交通量の増加等により幹線道路の沿道地域を中心に環境基準の達成率は依然として低く、一層の騒音低減が必要であるため、平成3年6月、中央公害対策審議会に対して、「今後の自動車騒音低減対策のあり方について」を諮問し、4年11月、加速走行騒音を1〜3デシベル低減する目標値の設定を中心とした中間答申がなされ、さらに7年2月、定常走行騒音を1〜6.1デシベル、近接排気騒音を3〜11デシベル低減する目標値の設定を中心とした答申がなされた。これらの答申に盛り込まれた目標値は、世界的に見ても最も厳しいものであり、環境庁としては、これらの答申に沿って、目標値の早期達成を図ることとしている。
ii) 総合的施策
 総合的な道路交通騒音対策の推進として、平成7年3月の中央環境審議会答申等に示された方針に沿い、地域の状況に応じて、道路構造対策、交通流対策、沿道対策等の各種対策の推進を図るため、地方自治体による計画の策定等の取組の指導支援を実施している。
 また、国道43号・阪神高速神戸線の道路騒音等について国の責任を認めた「国道四三号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等請求事件」の最高裁判所判決(平成7年7月7日)を関係省庁は重く受け止め、道路交通公害対策関係省庁連絡会議(警察庁、環境庁、通商産業省、運輸省及び建設省で構成)を集中的に開催し、関係省庁の施策として、7年8月30日に「国道43号及び阪神高速神戸線に係る道路交通騒音対策について」を取りまとめ、同地域における対策の枠組みを示した。
 さらに、全国的に見ても道路交通騒音の環境基準の非達成測定点が多く存在し、特に都市部幹線道路沿道においては多くの測定地点において騒音規制法に基づく要請限度をも超過する等道路交通騒音が深刻な状況が続いており、周辺の土地利用、交通特性から見て国道43号沿線地域と同様に対策の早期実施が求められる地域が存在している。このため、関係省庁においては、前記連絡会議において、平成7年12月1日に「道路交通騒音の深刻な地域における対策の実施方針」を取りまとめ、関係省庁の局長連名で地域レベルで各施策実施主体が協力して地域に応じた取組を行うよう全国の都道府県等に通知したところであり、関係省庁としても一致協力して道路交通騒音対策を鋭意推進していくこととしている。
iii) 道路構造の改善
 道路構造の面からの対策としては、環境施設帯や遮音壁等の整備、道路緑化を推進している。また、高架裏面吸音板、低騒音舗装の試験的な導入等を推進しているほか、低騒音舗装の騒音低減効果の持続性の向上を図るための技術開発等を行った。
iv) 物流の効率化等
 幹線物流の分野においては、中長距離の物流拠点間の輸送において鉄道・海運の積極的活用を通じた適切な輸送機関の利用を促進する等の施策を推進する。また、地域内物流の分野において、積合せ輸送、地域内共同集配システムの整備等を推進している。
 さらに、港湾、空港といった主要な物流拠点とのアクセス道路の整備、倉庫、トラックターミナル等の物流拠点の集約化・適正配置等を積極的に進め、効果的な物流システムの構築を図っている。
v) 交通流対策
 交通流対策としては、バイパス、環状道路をはじめとする道路網の体系的整備により道路交通を分散、円滑化するとともに、交通管制システムの整備、旅行時間計測提供システムをはじめとする交通情報収集・提供機能の拡充による交通流の集中の抑制、駐車場・駐車場案内システムの整備、交差点の改良及び信号機制御の高度化等による交差点等での交通渋滞の解消等により交通混雑を緩和し、環境への負荷の軽減を図っている。
 また、高速走行に起因する騒音の防止のために高速走行抑止システムの整備を図るほか、生活区域に各種生活ゾーンを設定し、その特性に応じて大型車通行止め等の各種交通規制を行う生活ゾーン規制の実施、道路の中央寄りに走行させるなどの大型車の通行区分の指定等による各種交通規制を行っている。
 さらに、都市内における円滑な交通流を阻害している違法駐車を排除するため、違法駐車抑止システム、駐車誘導システム等の整備、悪質・危険性、迷惑性の高い駐車違反に重点を置いた取締り等を推進している。
 過積載運転に対しては、荷主等の背後責任追求を積極的に実施するなど、取締りを一層強化している。警察による平成7年中の過積載に係る取締り件数は48,293件、道路管理者による平成6年度の車両制限令違反車両に係る指導取締り回数は8,218回であった。
vi) 沿道環境の整備
 沿道対策としては、「幹線道路の沿道の整備に関する法律」に基づく沿道整備道路が、平成6年度末現在で7路線延べ約112?指定されている。このうち環状7号線20地区を始めとして、27地区、65.0?について沿道整備計画が決定され、その実現を支援するため、緩衡建築物の建築費の負担、防音工事の助成、市町村の土地買入れ資金の無利子貸付けを実施している。
 さらに、道路交通騒音の著しい幹線道路の沿道において、建築物の容積を適正に配分することが必要なときに区域を区分して容積率の最高限度を定めることができることとする等の沿道整備計画の拡充及びそれに伴う沿道地区計画への改正、適正かつ合理的な土地利用を促進するための土地に関する権利の移転等を市町村の定める計画によって一体的に行う制度の創設、市町村が沿道整備推進機構に対し緩衝建築物用地等の取得費用の無利子貸付を行う場合における、国による当該市町村に対する無利子貸付に係る規定の整備等を内容とする「幹線道路の沿道の整備に関する法律」等の一部を改正する法律案を第136国会に提出したところである。
 なお、高速自動車国道等の周辺の住宅で騒音による影響が著しいものに対して、緊急的措置として防音工事の助成等を行っており、平成6年度末までに実施した戸数は約49,700戸である。
 また、昭和60年度より発足した道路開発資金制度において、沿道環境の向上に資する建築物の建築等に対する長期の低利融資を実施している。
vii) その他の対策
 自動車NOx法総量規制計画に盛られた施策は、NOx削減効果と併せて自動車騒音低減効果をも有するため、関係都府県を指導し、その円滑な実施を図ったほか、環境負荷の少ない自動車の使用法等の普及啓発活動を行った。(第1章1節3項 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策参照)
エ 航空機騒音対策
 航空機のジェット化の進展等は交通利便の飛躍的増大をもたらした反面、空港周辺地域において航空機騒音問題を引き起こした。特に空港周辺の市街化とあいまって、民間空港の大阪国際空港及び福岡空港や、防衛施設である小松飛行場、横田飛行場、厚木飛行場及び嘉手納飛行場においては、夜間の発着禁止、損害賠償等を求める訴訟が提起された。これらのうち、過去に終結した訴訟においては、過去分の損害賠償を認め、将来分の損害賠償及び夜間の発着禁止については認めないという判決が出されている。また、小松飛行場(3次)、横田飛行場(4次)、厚木飛行場(2次)、嘉手納飛行場(1次・2次・3次)に係る訴訟については現在も係争中である。このような航空機騒音問題を防止するため、発生源対策、空港周辺対策等の諸対策を推進している。
(ア) 環境基準及びその達成状況等
 航空機騒音公害防止のための諸施策の目標となる「航空機騒音に係る環境基準」(昭和48年12月27日)は、地域類型の当てはめに従い、WECPNL(加重等価平均感覚騒音レベル)の値を専ら住居の用に供される地域については70以下、それ以外の地域であって、通常の生活を保全する必要がある地域については75以下になるようにするというものである。地域の類型の当てはめは、都道府県知事が行うこととなっており、平成6年度末現在で、33都道府県61飛行場周辺において行われている。
 昭和58年12月末に環境基準の達成期限が到来した飛行場については、一部を除き環境基準が達成されるまでには至っていないものの、東京国際、大阪国際、福岡等の空港周辺においては、環境基準制定当時に比べて騒音の状況は全般的に改善の傾向にある。
 また、コミュータ空港、ヘリポート等については、環境基準が適用されない小規模なものが多く、これらの騒音問題の発生の未然防止を図るため、環境庁では平成2年9月に、ヘリポート等の整備にあたって必要な環境保全上の指針を地方公共団体あて通知している。
(イ) 発生源対策
 発生源対策は、航空機の騒音をその発生源である航空機の段階で極力低減させるもので、騒音対策上、最も基本的かつ効果的な施策である。これまで、低騒音型機の導入、騒音軽減運航方式の実施等の発生源対策を推進することにより、航空輸送量の増大に対応しつつ、騒音の及ぶ地域を縮小してきた。
i) 低騒音型機の導入等
 一定の基準以上の騒音を発する航空機の運航を禁止する航空機騒音基準適合証明制度を昭和50年に制度化し、53年には基準の強化を行った。また、騒音問題の深刻な大阪国際空港をはじめとする主要空港を中心として低騒音型機(B767等)を積極的に導入するとともに、騒音の大きな機材の退役を進めており、高騒音機であるB707、DC8等は、63年1月以降我が国における運航が原則として禁止され、B727は、平成2年4月以降国内線から退役した。
 さらに、平成6年の航空法の改正により、昭和53年に強化された基準に適合しない航空機については、平成7年4月1日以降段階的に運航を制限し、14年4月1日以降その運航を禁止することとなった。また、騒音基準適合証明を耐空証明に一本化し、あわせて騒音基準に適合している航空機について型式証明を行う等を内容とする航空法の改正案が、第136国会に提出された。
ii) 発着規制
 緊急時等を除き、新東京国際空港及び東京国際空港については午後11時から午前6時までの間、大阪国際空港については午後10時から午前7時までの間、ジェット機の発着を禁止している。さらに、大阪国際空港においては、午後9時以降定期便のダイヤを設定しないこととしている。
iii) 騒音軽減運航方式
 各空港の立地条件等に応じて、優先滑走路方式、優先飛行経路方式、急上昇方式、カットバック上昇方式、低フラップ角着陸方式及びディレイドフラップ進入方式が採用されている。
(ウ) 空港周辺対策
 発生源対策を実施してもなお航空機騒音の影響が及ぶ地域については、「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」等に基づき周辺対策を行っている。同法に基づく対策を実施する特定飛行場は、東京国際、大阪国際、福岡等15空港であり、これらの空港周辺において、学校、病院、住宅等の防音工事及び共同利用施設整備の助成、移転補償、緩衝緑地帯の整備、テレビ受信料の助成等を行っている(第1-1-13表)
 また、大阪国際空港及び福岡空港については、周辺地域が市街化されているため、同法により計画的周辺整備が必要である周辺整備空港に指定され、国及び関係地方公共団体の共同出資で設立された空港周辺整備機構が関係府県知事の策定した空港周辺整備計画に基づき、上記施策に加えて、これまでに再開発整備事業、代替地造成事業等を実施している。
 周辺対策事業を推進してきた結果、住宅防音工事は昭和60年度に概ね完了し、「航空機騒音に係る環境基準」の目標に定める屋内環境が保持されることとなった。一方、移転跡地を活用しつつ、空港と周辺地域との調和ある発展を図っていく必要があるため、次の施策を講じている。
 i) 大阪国際空港周辺の大阪府側地域については、運輸省及び大阪府が約50ヘクタールの緑地を整備することとしており、昭和62年2月に都市計画決定、63年1月に一部区域の事業承認・認可を受け、平成6年9月に事業区域の拡大等を行い計画的な整備を進めている。また、兵庫県側地域においても、5年3月に約8.6ヘクタールの緑地が都市計画決定され、同年9月に事業承認認可を受け、計画的な整備を進めている。
 ii) 函館、仙台、新潟、大阪国際、名古屋、松山、高知、福岡及び宮崎空港においては、地方公共団体が住宅の移転跡地等を利用して行う公園、緑道等の周辺環境基盤施設の整備に対して補助が行なわれている。
 また、「特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法」に基づき、新東京国際空港では、空港と調和のとれた土地利用を図るため、昭和57年千葉県知事により航空機騒音対策基本方針が決定され、これに基づき航空機騒音障害防止地区等に関する都市計画の策定が進められている。
(エ) 防衛施設周辺における航空機騒音対策
 自衛隊等の使用する飛行場周辺の航空機騒音については、自衛隊機等の本来の機能・目的からみて、エンジン音の軽減・低下を図ることは困難であるので、音源対策、運航対策としては、消音装置の使用、飛行方法の規制等についての配慮が中心となっている。この場合の駐留米軍における音源対策、運航対策については、日米合同委員会等の場を通じて協力を要請している。これまでに、厚木及び横田の両飛行場周辺における航空機の騒音規制措置について、日米合同委員会において合意されており、さらに、平成8年3月には嘉手納及び普天間の両飛行場周辺における騒音規制措置についても合意されたところである。
 自衛隊等の使用する飛行場に係る周辺対策としては、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」を中心に、学校、病院、住宅等の防音工事の助成、建物等の移転補償、土地の買入れ、緑地帯等の整備、テレビ受信料に対する助成等の各種施策が実施されている(第1-1-14表)
 なお、平成7年度末現在26飛行場周辺について同法に基づく第1種区域等が指定されており、住宅防音工事の助成等が実施されている。
オ 新幹線鉄道騒音・振動対策
 新幹線鉄道は、昭和39年の東海道新幹線開業以来、大量高速輸送機関として発展してきたが、一部の沿線地域において騒音・振動が環境保全上大きな問題となった。
 このうち名古屋地区においては、昭和49年3月に東海道新幹線に係る騒音・振動公害の差止め及び損害賠償を求める訴訟が提起されたが、61年4月、発生源対策の一層の推進等を内容とする和解が成立している。
(ア) 環境基準の設定とその達成状況
i) 環境基準
 新幹線鉄道騒音対策の目標となる「新幹線鉄道騒音に係る環境基準」(昭和50年7月29日)は、地域の類型に応じ、主として住居の用に供される地域については70デシベル以下、商工業の用に供される地域等については75デシベル以下としており、これが達成され、又は維持されるよう努めるものとしている。
 地域の類型の当てはめは、都道府県知事が行うこととなっており、新幹線鉄道の運行している21都府県のすべてにおいて行われている。
 政府はこの環境基準の円滑な達成に資するため、昭和51年3月に音源対策及び障害防止対策等の基本的事項を定めた「新幹線鉄道騒音対策要綱」を閣議了解していたが、国鉄の分割・民営化に先立ち、国鉄の事業を引き継ぐ承継法人及び日本鉄道建設公団において同要綱に定める施策の実施を確保し、引き続き騒音対策を推進するため、62年3月に「国鉄改革後における新幹線鉄道騒音対策の推進について」を再度閣議了解した。
 また、新幹線鉄道振動については、昭和51年3月に環境庁長官から運輸大臣に対し、「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」が勧告されている。
ii) 環境基準等の達成状況
 騒音については、東海道・山陽新幹線及び東北・上越新幹線について、それぞれ環境基準の達成目標期間の最終年の経過後においても、環境基準未達成の地域が相当見られた状況であった。このため、環境庁では、東海道・山陽新幹線の住宅密集地域が連続する地域、東北・上越新幹線の住宅集合地域(以下「75ホン対策区間」という。)において、平成5年度末を目途に75デシベル以下とすることなど対策の一層の推進を図るよう関係機関に対し要請を行った。6年度において達成状況の把握を行った結果、大幅な改善が見られ、75デシベル以下が概ね達成され(第1-1-15表)、引き続き環境基準の達成に向けて対策に努めている。また、当該対策区間以外についても、3年度に新たに設定した75ホン対策区間において音源対策を推進すること等、所要の対策を講じるよう関係機関に対し要請を行っている。
 振動については、環境庁長官の勧告(昭和51年3月)に基づく振動対策指針値(70デシベル)の達成状況等を把握したところ昭和61年11月のダイヤ改正後の東海道・山陽新幹線においては、軌道に近い一部の地点を除き大部分の地点で達成されており、また、東北・上越新幹線においては、すべての地点で振動対策指針値(70デシベル)が達成されていた。
(イ) 対策の実施
 東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社及び西日本旅客鉄道株式会社は、前述の「新幹線鉄道騒音対策要綱」(昭和51年3月閣議了解)及び環境庁長官の勧告(昭和51年3月)等に基づく運輸大臣の通達を受けて、音源対策、振動源対策及び障害防止対策を実施した。
i) 音源・振動源対策
 東海道・山陽新幹線においては、住宅密集地域が連続する地域について、東北・上越新幹線においては住宅集合地域について、新型防音壁の設置、バラストマットの敷設等各種の対策を組み合わせた総合的な音源・振動源対策を実施してきたが、平成4年度以降は、これまでの対象を一歩拡大し、東海道・山陽新幹線においては住宅集合地域について、東北・上越新幹線においては住宅集合地域に準じる地域についても、防音壁のかさあげ、改良型防音壁の設置、レールの削正の深度化、パンタカバーの取付等各種の音源・振動源対策を実施している。
ii) 障害防止対策
 騒音レベルが75デシベルを超える区域に所在する住宅及び70デシベルを超える区域に所在する学校、病院等に対し従来から防音工事の助成等を実施し、申出のあった対象家屋についてはすべて対策を講じている。
 また、東海道・山陽新幹線において、振動レベルが70デシベルを超える区域に所在する住宅等の防振工事の助成及び移転補償等を実施しており、申出のあった対象家屋についてはすべて対策を講じている。
(ウ) 騒音・振動防止技術の研究開発
 音源対策及び障害防止対策をより効果的に実施するため昭和61年度まで国鉄において計画的に推進してきた技術の研究開発は、国鉄分割・民営化後も国鉄の試験研究に関する業務を承継した(財)鉄道総合技術研究所を中心として引き続き推進している。
 平成7年度は、新幹線鉄道騒音を更に低減させるため、引き続き空力音対策の研究等を行った。
カ 在来鉄道騒音・振動対策
 新幹線鉄道以外のいわゆる在来鉄道についても、騒音・振動に係る苦情・要請が寄せられているなど問題が生じた場合は、個別の事例ごとに所要の対策が実施されたきた。
 環境庁では、昭和63年の津軽海峡線、瀬戸大橋線の開通に伴い鉄道騒音・振動問題が発生したことから、環境が急変する新線建設及び大規模の改良工事(高架化、複線化等)による騒音問題の発生を防止するため、必要な対策について検討を行い、平成7年12月、新設又は大規模改良に際して、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を定めるとともに、これを達成していく上での騒音対策の適切かつ円滑な実施について、関係機関に対して協力を求めた。
 この指針では、新線については「等価騒音レベル(LAeq)として、昼間(7〜22時)については60dB(A)以下、夜間(22時〜翌日7時)については55dB(A)以下とする。なお、住居専用地域等住居環境を保護すべき地域にあっては、一層の低減に努めること。」とし、大規模改良線にあっては「騒音レベルの状況を改良前より改善すること。」としたところである。
キ 近隣騒音対策
 近年、深夜等の営業騒音、拡声機騒音、生活騒音等のいわゆる近隣騒音は、騒音に係る苦情全体の4割近くを占めており、重要な対策課題となっている。
 このため、都市における快適な環境(アメニティ)の向上の一環として住民等の生活騒音防止活動を積極的に支援する観点から、サウンドスケープ的手法をとり入れたモデル事業(音環境モデル都市事業)や各種の啓発普及活動を行った。
 また、「環境基本計画」の趣旨を踏まえ、各地域において、地方公共団体、住民等の協力により良好な音環境を保全しようとする取組を支援するため、「残したい“日本の音風景100選”」の事業を行うこととし、都道府県等を通して公募を行った。
 なお、騒音規制法では、飲食店営業等に係る深夜における騒音、拡声機を使用する放送に係る騒音等の規制については、地方公共団体が必要な措置を講ずるようにしなければならないとされており、平成6年度末現在、深夜営業騒音については39都道府県・指定都市、また拡声機騒音についても41都道府県・指定都市で条例による規制がなされている。
ク 低周波音(低周波空気振動)対策
 人の耳には聞き取りにくい低い周波数の音(空気振動)がガラス窓や戸、障子等を振動させたり、人体に影響を及ぼしたりするとして、平成6年度は全国で33件程度の苦情が発生した。
 この現象は、低周波音又は低周波空気振動と呼ばれており、これまでの調査研究では、一般環境中に存在するレベルでは人体に及ぼす影響を証明しうるデータは得られていない。



(2) 悪臭対策

ア 悪臭の現状
 悪臭苦情の件数はここ10年ほど減少傾向にあったが、平成6年度は11,946件で、前年度に比べ19.8%増加した。発生源別では、畜産農業や各種製造工場に係る苦情の割合は減少傾向にあり、サービス業・その他等いわゆる都市・生活型に分類される苦情の割合が増加する傾向にある(第1-1-21図)
イ 悪臭防止対策
(ア) 「悪臭防止法」による規制の実施
 悪臭防止法では、都道府県知事(政令市においてはその長)が規制地域の指定及び規制基準の設定を行うこととしており、平成6年度末現在、全国の51.2%に当たる1,666市区町村(608市、913町、122村、23特別区)で規制地域が指定されている。
 都道府県知事(市町村長に委任)は、規制地域内の工場・事業場の事業活動に伴って発生する悪臭について、特定悪臭物質又は臭気指数の規制基準に適合せず、その不快なにおいにより住民の生活環境が損なわれていると認めるときは、事業者に対して悪臭防止の措置を講ずるよう改善勧告、改善命令を発することができる。平成6年度中は改善勧告が6件で、改善命令に至ったものはなかった。このほか、規制地域内の悪臭発生事業場に対して5,375件の行政指導が行われた。
(イ) 悪臭防止対策の充実
 従来の特定悪臭物質(政令で指定するアンモニア、メチルメルカプタン等22物質)ごとの排出濃度の規制措置では、複数の物質が相加・相乗されるなどして人の嗅覚に強く感じられる複合臭が原因であるような悪臭苦情等には的確に対応できないという問題があった。
 また、近年、国民の日常生活に伴う悪臭による苦情の割合が増加する傾向にあることから、これへの適切な対応が必要となってきた。
 このため、平成7年4月に悪臭防止法の一部改正が行われ、複合臭等が問題で従来の特定悪臭物質ごとの排出濃度の規制によっては対応が困難な区域については、これに代えて、人の嗅覚を用いた悪臭の測定法(嗅覚測定法)による「臭気指数」を用いた規制基準を導入できることとされ、併せて、国民の日常生活に起因する悪臭の防止に関する国民の責務等が設けられた。
 また、平成7年9月には、関係する政令、総理府令及び環境庁告示の整備により、臭気指数の規制基準の範囲の設定、地方公共団体の委託を受けて臭気指数の測定を行う者の要件である「臭気判定士」の資格制度、臭気指数の算定の方法等が定められた。
(ウ) におい環境保全総合対策
 都市・生活型の悪臭苦情が年々増加する傾向にあることから、快適なにおい環境の保全に係る施策として、平成7年度から地域住民の参加と協力を得て、においマップの作成などを通じて街のにおい環境の大切さへの認識を高め、都市生活に伴う悪臭を減らすための具体的な市民行動を喚起することを目標としたかおり環境都市モデル事業(クリーンアロマ推進計画)を実施している。また、一般環境大気におけるにおいに関する目標設定のための調査検討を行っている。
(エ) 悪臭防止技術の改善
 各地方公共団体の担当者が、悪臭発生源事業場に対し、発生源の種類、周辺状況に応じ適切な改善措置を指導できるようにするため、有効な悪臭防止技術に関する知見を収集し、その全国的な普及を図る事業を行っている。



(3) その他大気にかかる生活環境対策

 ア 日々の生活において国民がさわやかで澄んだ空気などよりよい大気環境を享受するためには、健康に直接影響する大気汚染物質の削減などを推進することはもとより、光害やヒートアイランドなど新たな問題も視野に入れつつ、生活環境の保全の観点から良好な大気環境の確保を図ってゆくことが今後重要となる。このため、良好な大気生活環境のあり方とその実現方策等に関する調査検討を開始した。
 また、良好な大気環境の保全のためには国民一人一人の正しい認識とライフスタイルの変革が不可欠であることから、平成7年4月に改正された大気汚染防止法及び悪臭防止法においても、このような観点からの国民等の責務が規定されたところである。
 イ 大気汚染地域等の公立義務教育諸学校の児童生徒の学習能率向上と積極的な心身の健康促進を図るため、学校環境緑化促進事業を、児童生徒の健康増進特別事業(平成7年度予算額9億6,774万円)のメニューの一つとして実施した。
 また、騒音等の公害により著しく不適当な教育環境となっている公立学校の公害防止工事に要する経費について補助を行い、平成7年度には10億9,300万円を計上した。また、私立学校の公害防止事業に対しては、日本私学振興財団が行う貸付事業において、平成7年度は貸付計画額5億円を計上した。

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