前のページ 次のページ

第3節 土壌環境・地盤環境の現状

(1) 土壌環境の現状

 土壌は環境の面から見ると様々な働きがある。土壌は物質・エネルギー循環の構成要素の一つであり、無機物、有機物、微生物及び動植物は土壌を媒介の一つとして循環している。また、具体的に人間生活の面から考察すると、農業基盤、天然資源、保水能力及び地下水の形成、多様な生態系の維持など人間生活に必須のものといえる。したがって、土壌の機能が損なわれると、人間をはじめとする生物の生存が脅かされたり、生態系の悪化をもたらしたりするおそれがある。
 土壌汚染は、汚染物質が直接土壌に混入するものや、大気汚染や水質汚濁を通じ間接的に土壌に負荷を与える場合がある。土壌汚染は一旦生じると農作物や地下水等に長期にわたって影響を与える蓄積性の汚染であり、改善が困難である。
 農用地の土壌汚染は、明治時代の渡良瀬川流域、戦後の神通川流域の鉱毒による汚染など古くから見られるものである。このため、農用地については、水質汚濁防止法等による汚染発生源対策が行われていることに加え、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律に基づき、カドミウム、銅、砒素について基準値を設け、これを超えて汚染された農用地について客土等の対策事業を行うこととなっている。
 平成6年度の農用地土壌汚染防止対策細密調査では、5年度に引続き新たに汚染が発見された地域はなかった。また、汚染検出面積に対する対策事業等完了面積の割合は、検出面積7,140haに対して72.3%(5年度は68.9%)であった。
 農用地以外の市街地土壌については全国で汚染が顕在化するケースが増加しており、特に工場跡地などの再利用等の土地改変に伴って土壌汚染が判明する例が頻出している。このような市街地土壌汚染については、平成6年度に実施した土壌汚染対策の実施状況等に関する調査において昭和50年以降累計232件の事例が把握されており、近年判明件数は増加傾向にある(第4-3-1表)
 土壌汚染の原因は、製造施設の破損等に伴う漏出、廃棄物処理法施行前の工場敷地内での廃棄物の不適正な埋立、汚染原因物質の不適正な取扱、不法投棄などとなっており、事業種別に見ると化学工業、金属製品製造業、電気機械器具製造業が多い。汚染物質は鉛、六価クロム、水銀等の重金属に加え、近年では、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの増加が著しい。こうした状況を受け、平成6年2月に土壌汚染に係る環境基準項目を今までの10項目からトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素など15項目を加え25項目とした。
 諸外国の状況については、米国では、規制が緩かった時代の廃棄物最終処分場跡地の汚染などが問題となっており、汚染者である関係企業が連帯責任を負って対策を行うか、石油や化学品への課税によって調達した基金で対策を行うスーパーファンド法などにより浄化を進めている。また、欧州諸国においてもドイツやオランダなどで土壌汚染対策が進められている一方、ブルガリアでの金属工場の隣接地の重金属による汚染やポーランドでの工業地帯の廃棄物の不適切な処理による汚染などが問題となっている。
 土壌への負荷は土壌汚染だけでなく土壌浸食がある。土壌は、かつては、生成と流亡を繰り返しながら全体のストックとしては均衡していた。しかし、現在の土壌の流亡は生成を上回っており、土壌浸食を引き起こしている。土壌浸食は水や風の作用によって起こり、浸食量は気候、地形、植生、土壌種類、人為的要因によって影響される。人為的要因とは過放牧、過度の森林伐採、不適正な農業、大規模開発などである。
 我が国は、傾斜地が多く多雨なので浸食を受けやすいが、水田によって、表土流出防止が図られている。しかし、近年の農村の衰退により、水田や森林の保全管理が十分なされなくなることが懸念されており、留意する必要がある。また、開発途上国では過放牧や森林減少及び不適正な農業活動により土壌劣化が生じており、大きな問題となっている。その他にも、世界的に見ると、塩水遡上による塩性化といった問題も生じており国際的な協力が求められている。



(2) 地盤環境の現状

 地盤沈下は、主に地下水の過剰な採取によって地下水位が低下し、粘土層が収縮することによって生じる現象である。すなわち、地下水は雨水や河川水等の地下浸透により供給されているが、この供給にみあう以上の汲み上げによって、帯水層の水圧が低下(地下水位が低下)し、粘土層の間隙水が帯水層に排出されて、粘土層が収縮することによるのである(第4-3-1図)。一旦沈下した地盤はもとには戻らず建造物の損壊や洪水時の浸水被害の増大などをもたらす。
 地下水が良質、恒温の水資源であり、また生活用水、工業用水、農業用水、消雪用などとして容易かつ安価に採取できるため、生活水準の向上、各種産業の発展等による水需要の増大や深井戸さく井技術の発達に伴って大きな地盤沈下が発生してきた。
 古くは戦前から東京都江東区や大阪市西部で地盤沈下が見られ、戦後の一時期、経済の停滞により一旦は沈静化したが、昭和40年代には全国的に発生し、年間20?を超える激しい沈下も見られた。その後地下水の採取制限が行われ、長期的には地盤沈下は沈静化の方向へ向かっているものの、一部地域では依然として著しい地盤沈下が続いている(第4-3-2図)
 平成6年度における年間2?以上の地盤沈下地域の面積は、5年度の11地域276平方キロメートルから21地域902平方キロメートルへと大幅に増加した。これは、同年度の厳しい渇水の影響によるものと見られるが、年間4?以上の地盤沈下地域の面積は5年度の1地域0.5平方キロメートル未満から6地域113平方キロメートルと大幅に増加した。
 地域別に見ると、佐賀県筑後・佐賀平野では年間沈下量が16.0?で全国最大沈下地点となっている。この地域の沈下原因は農業用水の過剰な汲み上げによるものと考えられる。また新潟県南魚沼では、年間沈下量が7.7?で過去5ヶ年の累計では27?で全国最大であった。この地域の沈下原因は主に消雪用の地下水くみ上げによるものと考えられる。その他にも関東平野北部等著しい地盤沈下が生じている地域が依然としてあり、今後も推移を注視し、適切に対応していく必要がある。
 地盤沈下の対策としては、「工業用水法」及び「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」による地下水の採取規制が行われている(第4-3-3図)。また、地盤沈下防止等対策関係閣僚会議において、地盤沈下防止等対策要綱が制定され、昭和60年4月に濃尾平野、筑後・佐賀平野が、また、平成3年11月に関東平野北部地域が対象地域となっている。このうち、濃尾平野、筑後・佐賀平野の2地域については、平成7年9月に目標年次の10年延長等を内容とする要綱の見直しを行った。その外にも、地下水位等の監視及び調査の実施や、地盤沈下対策事業の支援等が行われている。

前のページ 次のページ