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第2節 水環境の現状

 水環境の保全対策は、これまでは水質汚濁の防止という観点からの対策が中心であったが、我々が水環境から享受する様々な恵沢を考えると、水質だけでなく、水量、水生生物、水辺地及び自然保護等の様々な要素があり、それらを包括的かつ総合的にとらえ、水環境の保全対策を推進していくことが必要である。
 我が国の水質汚濁の状況は、環境基準の設定されている有害物質については、前年度に引続きほぼ環境基準を達成している。また、有機汚濁については、なお全体の3割の水域で環境基準が達成されておらず、特に、湖沼や内海内湾等の閉鎖性水域及び都市内河川の改善が進んでいない状況にある。地下水については、有機塩素系化合物の検出が続いている。また、各地で良好な水辺環境が失われつつある。

(1) 重金属・有害化学物質等

 水質環境基準に係る健康項目については、平成5年3月に環境基準が改正され、平成5年度から新たな環境基準に基づく評価を行っている。平成6年度の調査では、環境基準を超える測定地点は、全国5,516測定地点のうち47地点あり、非達成率は0.85%と、前年度(0.58%)に対し増加している(第4-2-1表)。これは、砒素について自然由来により環境基準を超える地点が増加した影響によるものと考えられる。
 また、一般環境中に残留する化学物質の早期発見及びその濃度レベルの把握を目的とした平成6年度化学物質環境調査結果によると、水系環境中に残留していると予測される22物質のうち8物質が水質から検出されたものの、検出濃度等から見て直ちに問題を示唆するものはないと考えられる。また継続的に行っている水質のモニタリング調査結果によると、平成6年度は、調査対象物質20物質のうち6物質が検出された。
 平成6年度指定化学物質等検討調査の結果によると、対象とした2物質のうち1物質が水質から検出されたが、これまでの調査結果と比較して汚染状況に大きな変化は認められなかった。
 我が国では、昭和40年代から重金属や有害化学物質について環境基準の健康項目の対象として水質測定を行うとともに,排水規制を実施してきたが、近年多種多様な化学物質が広範に使用されてきている状況を踏まえ、化学物質による水質汚濁を未然に防止する観点から、平成5年3月に水質環境基準の健康項目について大幅な拡充強化を行い、新たにトリクロロエチレン等15項目を環境基準に追加するとともに、人の健康の保護に関連する物質ではあるが、公共用水域における検出状況等から見て、引き続き知見の集積に努めるべきと判断されるものを、要監視項目として25項目を設定した。また、追加された環境基準の健康項目の達成を図るため、5年12月には水質汚濁防止法の排出基準の項目追加等を行い、従来の規制項目に加え、水質汚濁防止法の適正な実施を図ることとしている。
 また、水質汚濁防止法において現在規制が行われていない化学物質については、引続き化学物質環境調査等必要なモニタリングを行うことにしている。
 農薬による水質汚濁の状況については、平成6年度のゴルフ場で使用される農薬の水質調査結果によると、平成2年5月に定められた「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針」に示された指針値を超過したものは、約10万7千検体中1検体のみであり、暫定指導指針設定以降着実に改善されている。
 また、公共用水域における農薬による水質汚濁の防止対策としては、これまで「農薬取締法」に基づく水質汚濁に係る登録保留基準の設定等を進めるとともに、空中散布農薬等一時に広範囲に使用されるもので、公共用水域での水質汚濁に関する基準値等が定められていない農薬の水質評価指針等を設定してきたが、今後とも都道府県段階等で関係機関の間での水質調査結果や農薬の散布等に関する情報交換を密にしつつ、水質汚濁の防止の徹底を図ることとしている。
 諸外国の主要河川の鉛及びカドミウムによる汚染状況の推移は第4-2-1図のとおりであり、多くの先進国の河川で改善の傾向にあるが、一部の開発途上国で有害重金属により深刻な汚濁が指摘されている。



(2) 有機汚濁等

 我が国では、生活環境を保全する上で維持することが望ましい環境上の条件として有機汚濁等の水質の環境基準を定めており、河川では5項目、湖沼では7項目、海域では7項目となっている(第4-2-2表)。これらの生活環境項目については、水域ごとに利水状況などを踏まえた類型を指定しており、これにより、各水域の特性を考慮した環境基準となっている。
 水域の生活環境は、有機汚濁により最も大きな影響を受けることから、代表的な有機汚濁の指標であるBOD(河川)及びCOD(湖沼・海域)などの項目について、環境基準の達成率の評価を行っている。BOD(生物化学的酸素要求量)とは、水中の微生物によって消費される酸素量のことで、水中の分解可能な有機物のみを間接的に示したものである。また、COD(化学的酸素要求量)とは、水中に含まれる有機物中の炭素化合物を知る指標であり、一定の強力な酸化剤を用いた時に、消費される酸化剤の量で示したものである。
 平成6年度の生活環境項目(BODまたはCOD)の環境基準達成率は、全体で68.9%(5年度76.5%)、河川で67.9%(同77.3%)、湖沼で40.6%(同46.1%)、海域で79.2%(同79.5%)(第4-2-2図)で、達成率はこれまでわずかずつ上昇していたが、平成6年度は低下となった。これは河川の達成率の低下によるところが大きく、渇水による河川流量の減少が影響したものと考えられる。湖沼の達成率は近年横ばいないしやや改善の傾向が見られていたが、平成6年度には40.6%まで低下し、依然として40%台の低い達成率にある。海域の達成率については、河川や湖沼と比べ高い達成率となっている。
 また、湖沼における全窒素及び全燐の環境基準の達成状況については、平成5年度が33.3%に対し平成6年度は41.7%と改善されたものの、依然として低い水準にある。
 湖沼・内海・内湾等の閉鎖性水域では、外部との水の交換が行われにくく汚濁物質が蓄積しやすいため水質の改善や維持が難しい。特に湖沼は、富栄養化の進行により、水道水の異臭味、漁業への影響、透明度の低下等の問題が生じており、環境基準の達成率も低いことから、水質改善対策が急務となっている。また、湖沼に流入するCOD汚濁負荷の発生源は生活系、産業系、畜産系などの多岐にわたっており、どの発生源が最も大きな影響を与えているかは湖沼流域の土地利用や産業構造によって異なる。環境基準値(COD)からの乖離の著しい手賀沼、印旛沼、霞ヶ浦の近年のCOD濃度の推移を見ると、目立った改善はなく、ほぼ横ばいの状況にある。
 「湖沼水質保全特別措置法」は、湖沼の水質保全を図るとともに、国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的として水質環境基準の確保が緊要な湖沼を指定するとともに、湖沼水質保全計画を策定して水質汚濁発生源に対するきめ細かな規制などの特別な措置を講じている。現在、指定湖沼として、釜房ダム貯水池、霞ヶ浦、印旛沼、手賀沼、諏訪湖、野尻湖、琵琶湖、中海、宍道湖、児島湖が指定されている。
 広域的な閉鎖性海域である東京湾、伊勢湾、瀬戸内海については、「水質汚濁防止法」、「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づいて、CODに係る水質の総量規制が実施されている。平成6年度は第三次の総量規制の目標年度であったが、この3海域においては全般的に一定の水質改善効果は現れていると判断されるがCOD環境基準の達成率の向上に結びつくまでには至っていない(第4-2-3図)ことから、8年1月に中央環境審議会水質部会において、総量規制基準の設定方法の改定について答申が行われた。この答申に基づき、環境庁は、同年3月に総量規制基準の強化に向けた告示改正を行ったところである。
 また、閉鎖性海域では汚濁物質が蓄積しやすく、流入した窒素・燐の濃度が高くなり、藻類その他の水生生物が繁茂して水質が悪化する富栄養化が進行している。これらの海域では赤潮や貧酸素水塊が発生し、漁業被害、レクリエーション障害などが生じている。このため、環境庁では海域の窒素及び燐に係る環境基準及び排出基準を平成5年8月に設定し、有機汚濁防止対策と併せて富栄養化防止対策の推進を図っている。環境基準の水域類型指定については、環境庁長官が行うこととされている海域のうち、平成7年2月に東京湾と大阪湾について、平成8年2月に伊勢湾について指定が行われた。
 都市内河川の汚濁状況は、近年改善傾向にあるものの、一部では依然として汚濁の著しい河川がある。これは都市域の拡大による生活系排水等の増加によって河川への負荷が大きくなっているためであるが、下水道及び地域の実情に応じた合併処理浄化槽等の生活排水処理施設の整備などの生活排水対策や、河川等の直接浄化事業等が行われている(第4-2-4図)。平成6年度の調査によると、BOD高濃度水域上位河川は第4-2-3表のとおりとなっている。
 一方、近年、国民の水道水に対する不安が高まり、公共用水域においても、何らかの対策を求められるようになってきた。とりわけ、公共用水域では無害のフミン質等の有機物が浄水場での処理過程において塩素と反応することにより、発ガン性の疑いのあるトリハロメタンという物質が生成されることが問題となった。このため、平成6年5月から「特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法」が施行され、同時に基本方針が策定された。また、平成7年6月には、トリハロメタンの原因物質に関する排水基準の範囲の設定等について告示を行った。
 先進諸国における主要な河川と湖沼の水質の状況をBOD、全窒素についてみると第4-2-5図のようになっている。総体的には改善傾向にあるが一部横ばいあるいは悪化している河川や湖沼がある。



(3) 海 洋

 海洋は、陸上の汚染が水の働きにより移されて蓄積するなど汚染物質が最終的に行き着く場所となることが多く、広大な海洋ではあるものの人間の活動に伴い、海洋の汚染が世界的に確認されるに至っている。
 平成7年に我が国周辺海域において海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は811件で、6年に比べ79件(約11%)の増加で、5年ぶりの増加となった(第4-2-6図)。このうち油による汚染は497件と全体の約6割と高い割合を占め、油以外のもの(廃棄物、有害液体物質(ケミカル)工場排水等)による汚染は269件、赤潮は45件であった。油による汚染は船舶からのものが約8割を占め、原因別に見ると故意によるものが最も多く、ついで取り扱い不注意、海難と続いている。
 環境庁では日本周辺海域における海洋汚染の実態を総合的に把握し、その汚染機構を解明するための基礎資料を得るため、日本近海海洋汚染実態調査を行っている。平成6年度は、大阪湾から南下するC測量線及び大阪湾内のでO測量線上の合計13測点並びに沿岸主要航路上の2測点において11月に調査した。COD、TOC(全有機炭素)については過年度の平均値より低いものであった。重金属、PCB等については、カドミウム及び亜鉛が内湾域で高い値を示す測点もあった。また、気象庁が実施した日本周辺及び北西太平洋地域における海洋バックグランド汚染観測においても例年と同レベルであった。海上保安庁の実施した5年度における日本海周辺海域等における海洋汚染調査では、海水、海底土中の石油、PCB、重金属等の測定を行い、長期的には毎年多少の増減はあるものの、日本海周辺海域等の海洋汚染はほぼ横ばいまたは減少傾向にあるとの結果を得ている。
 浮遊性廃棄物については、日本近海海洋汚染実態調査において浮遊性廃棄物調査を実施いる。目視調査では陸岸から50海里を境として沿岸と沖合いとに区分してみると、B〜C測線の沖合では比較的多く見られた。浮遊物の内容は、過年度と同様、発泡スチロール、その他の石油化学製品が多く、いずれも大きさ50?未満のものがほとんどであった(第4-2-7図)。他方、微小浮遊物の調査では、各観測点とも10?以下のものが多く見られたが、一部で10?以上の浮遊物も採集された。
 油による汚染については、気象庁の海洋バックグランド汚染観測では、日本周辺海域で浮遊タールボール(油塊)が観測されており、船舶からの故意及び取扱不注意の原因のほか、大規模な被害に結びつくおそれのある海難事故による原油の流出が懸念されている。1989年(平成元年)のアラスカ沖での「エクソン・バルディーズ号」の座礁、1993年(平成5年)のスマトラ沖での「マークス・ナビゲーター号」の事故や、1994年(平成6年)のオマーン、フジャイラ沖での「セキ号」の事故、1996年(平成8年)のイギリス、ウェールズ沖での「シー・エンプレス号」の座礁など依然として積載原油が流出する事故が絶えない状況にある。
 こうした流出原油は自然環境の中で分解されるまでに長い年月がかかり、海洋動植物などの自然生態系に大きな影響を与える可能性が高いため、国際海事機関(IMO)を中心として、「1990年の油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)の採択、「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)の改正(タンカー二重船体構造化)等の取組みが進展している。OPRC条約の締結に際して、平成7年5月、油流出事故を発見した船舶等の最寄りの沿岸国への通報、油保管施設等の油濁防止緊急措置手引書の備置き等を規定するための「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」の一部改正が行われた。また、OPRC条約が8年1月に我が国について発効することに伴い、7年12月に同条約に基づき締約国に義務づけられる「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」が策定された。
 海洋への廃棄物投入については、平成5年11月のロンドン条約の改正により、8年1月から、天然に由来する汚染されていない有機物質等を除いて産業廃棄物の海洋投入が禁止されることを受け、我が国でも「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」等の一部改正が行われ、海洋投入処分基準の改正が行われた。
 その他にも、「北西太平洋の海洋環境モニタリングに関するワークショップ」、「日本海の海洋環境に関する日ロ共同調査」、「陸上活動からの海洋環境の保護に関する政府間会合」など海洋汚染についての国際的取り組みが行われている。
 放射性廃棄物の海洋投棄問題については、1993年(平成5年)4月、ロシア政府が公表した白書により、旧ソ連・ロシアが1959年から1992年にわたって北方海域及び極東海域において放射性廃棄物の海洋投棄を行ってきた事実が明らかになった。また、同年10月にロシア太平洋艦隊が日本海において放射性廃棄物の海洋投棄を実施したために、国内で大きな問題となり、平成6年度の環境白書の中でも採り上げられた。
 このような事態に対し、我が国では、厳重な抗議を申し入れるとともに、さらなるロシアの海洋投棄を防止するために日露核兵器廃棄協力委員会の資金の一部を利用して低レベル液体放射性廃棄物処理施設の建設のための協力を進め、1996年(平成8年)1月に同施設の建設に係る契約が結ばれた。



(4) 底 質

 河川や湖沼及び海域の底質には、様々な経路からもたらされる多くの種類の汚染物質が蓄積している可能性がある。我が国では、かつての著しい産業公害の過程で、水銀やPCBを含むヘドロの汚染などが明らかになった。このため平成7年度末までに、有害物質等の除去を目的として、全国で合計約3,325万立方メートルに及ぶ底質のしゅんせつが行われた。
 一般環境中に残留する化学物質の早期発見及びその濃度レベルの把握を目的とした底質に関する平成6年度の化学物質環境調査では、調査対象21物質のうち6物質が検出されたものの検出濃度から見て直ちに問題となる物質はなかった。また、継続的に行っている底質のモニタリング調査結果によると、20物質全てが検出された。
 また、化学物質の合成過程や燃焼過程などで意図せずに生成されるダイオキシン類などの化学物質による環境汚染が問題となったことから、環境庁では、非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査(平成4年度まで有害化学物質汚染実態追跡調査)を昭和60年度から実施している。平成6年度の調査結果によると、ダイオキシン類による一般環境の汚染状況は、現時点では、人の健康に影響を及ぼしている可能性は少ないものの、低濃度とはいえダイオキシン類は検出されており、今後とも引続きその汚染状況の推移を追跡して監視する必要がある(第4-2-4表)



(5) 地下水

 地下水は、温度変化が少なく、一般に水質が良好である等の特徴を有するため、我が国の水の使用量の約7分の1、生活用水などの都市用水の約3分の1を占めるなど、身近にある重要な水資源として広く活用されている。また、災害時の水源としても重要な役割を有するなど河川、湖沼等の公共用水域と同様に重要な水資源となっている。
 しかしながら、昭和50年代後半より、トリクロロエチレンを始めとする有機塩素系化合物等による地下水汚染が顕在化した。これらは、多くの場合有害物質やこれらを含む排水、廃棄物の不適切な管理が原因と考えられる。
 平成元年度の「水質汚濁防止法」の一部改正により、都道府県知事は地下水の水質汚濁の常時監視しなくてはならないこととなり、国及び地方公共団体は地下水の水質調査を行っている。地域的な地下水の状況を把握する概況調査、概況調査等により新たに発見された汚染について、その汚染の範囲を確認する汚染井戸周辺地区調査、汚染井戸周辺地区調査により確認された汚染の継続的監視等、経年的なモニタリングを行う定期モニタリング調査の3段階の調査が行われることとされている。
 平成6年度の概況調査の結果は第4-2-5表のとおりとなっており、依然として評価基準を超える物質の検出が見られる。こういった地下水汚染が発見された場合には、周辺井戸の調査を行うとともに、井戸の使用方法の指導や有害物質を使用している事業場に対する指導等を行っている。
 しかしながら、地下水は、流速が極めて緩慢であり、希釈拡散も期待できないなどの物理的特性を有しており、一旦汚染されるとその自然回復が非常に困難である。
 このため、地下水の水質の保全のためには、平成元年に措置された未然防止策に加えて、汚染された地下水を浄化するための事後的な対応を講じる必要性が高い。このため、平成8年3月、汚染された地下水について、人の健康の保護のため必要があるときは、都道府県知事が汚染原因者に対して地下水の水質浄化のための措置を命ずることができることなどを内容とする「水質汚濁防止法の一部を改正する法律案」を第136回国会に提出したところである。
 硝酸性窒素による地下水汚染は、多肥集約農業に伴う大量の窒素肥料の使用により1960年代の欧米で顕在化した問題であるが、近年国内においても、硝酸性窒素による地下水汚染が明らかになり始めており、平成6年度に275自治体が行った調査によれば、3.6%の井戸で硝酸性窒素濃度が要監視項目としての指針値(10?/l)を超えていた。一般的に、硝酸性窒素による地下水汚染の原因としては肥料、畜産廃棄物、生活排水等が考えられる。硝酸性窒素は乳幼児への健康影響が報告されているため、看過できない問題であり、実態の把握を含め汚染地域における調査対策が必要となっている。
 地下における健全な水循環を確保し、地盤沈下等環境保全上の支障を防止するためには、地下水の水量の保全を図る必要があることから、「工業用水法」、「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」及び地方自治体の条例等により地下水採取規制等が実施された結果、昭和40〜50年代をピークに地下水位の改善傾向が見られる(第4-2-8図)。しかし、都市化の進展によりコンクリートやアスファルトによって地表が覆われ、地中に水分が浸透しないことや、森林の減少により土壌の保水力が減退しているなど、地下水への水の供給量の減少が懸念されている。



(6) 水辺環境
 河川や水路などの水辺環境は水辺の生物や水生生物の生息地としてだけではなく、多様な動物の繁殖地や生息地である様々な緑地をつなぐ移動ルートであるため、連続した水辺環境が必要である。また、湖岸、河岸には、陸側から水辺に向けて、水辺林、湿性植物、抽水植物、浮葉植物、沈水植物まで、狭い場所に様々な植物の群生が見られる。このような水辺の移行帯はエコトーンと呼ばれ、独特の生態系を形成している。
 人々の生活や社会経済活動との関わりの深い河川や海域などにおいては、都市化の進展などによって埋立等の人工的な改変が行われ、水辺の生き物の生息環境が損なわれたり、過度の森林伐採により土壌の保水能力が減退し、河川の流量の安定が損われるなど、良好な水辺環境が失われつつある。海岸などの公有水面においては、公共的用地や廃棄物の最終処分場を内陸部に求めることは困難になってきているため依然として公有水面埋立の要請は強く、東京湾臨海部では現在も各種の開発が計画され、水辺環境の持つ自然浄化機能・親水機能・豊富な水資源が損なわれるなどの水辺環境への悪影響が懸念されている。
 都市内部では身近な湧水の枯渇や水量が低下する事例が発生しており、湧水を水源とする中小河川の流量が減少する傾向にある。平成4年の東京都の地下水実態調査報告書によると、東京の都心部では、明治期より平成2年の調査時点までに枯渇あるいは消滅した湧水が約180ヶ所以上になるとされ、市街地の中小河川や水路では、平常時の水量が著しく減少し、降雨時以外は水流が消滅したものもある。
 こうした状況下で、近年、水辺環境に対する意識が高まっており保全への取り組みが見られる。環境基準の達成が困難な河川や水路では浄化対策とともに河川水量の確保が必要なことから、清流の復活といった水の流れを保全する動きが見られる。
 また、水辺は古くから個性的な景観をつくりだしており、護岸や河川沿いの空間整備に際して、周囲と調和のとれた親水性の高い水辺環境も求められている。例えば、滋賀県では琵琶湖のヨシ群落を保護するために条例を平成4年に制定し、8年5月現在、ヨシ群落の指定植生面積は240haである。また、東京都も平成5年に「東京都水辺環境保全計画」を策定し快適な水辺環境の保全・創造を目標としている。

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