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第3節 

3 環境影響評価

(1) 我が国における環境影響評価制度をめぐる動き

 現在、我が国においては、昭和59年8月に閣議決定された「環境影響評価の実施について」に基づき、環境影響評価いわゆる環境アセスメントが実施されている。なお、その手続の流れ、実施状況等は、平成7年度において講じた環境の保全に関する施策に記述したところである。平成6年に閣議決定された環境基本計画では、環境影響評価制度の今後の在り方について、内外の制度の実施状況等に関し、関係省庁一体となって調査研究を進め、その結果等を踏まえ、法制化も含め所要の見直しを行うこととしている。平成6年7月に環境庁では、環境影響評価制度総合研究会を設置し、関係省庁一体となって、我が国における国、地方を通した各種の環境影響評価制度の実施状況、諸外国等の環境影響評価制度の内容、背景、実施状況、環境影響評価の技術手法に係る科学的知見の状況等について、環境影響評価制度をめぐる諸課題ごとに横断的、総合的に分析整理している。政府としては、環境影響評価制度について、総合研究会の調査研究結果等を踏まえ法制化も含め所要の見直しを行うこととしている。

(2) 地方公共団体における環境影響評価制度の整備状況等

 我が国の都道府県及び指定都市においては、昭和51年に川崎市が条例を制定したのを始めに、環境影響評価の制度化が逐次図られ、現在に至るまで引き続いている(第3-3-3図)
 この結果、平成7年12月末現在、都道府県・指定都市計59団体中、条例制定団体6、要綱等制定団体44、計50団体が、独自の環境影響評価制度を有するに至っている(第3-3-9表)。また、現在制度を持たない9団体においても、6団体で制度化の予定を有しており、当面制度化の予定がない3団体も環境基本条例等の策定を踏まえ、又は国の動向を踏まえて検討するとしている。このように、国における閣議アセスの導入の後、地方公共団体における制度化がほぼ全国的に広がり、定着してきていると言える。都道府県・指定都市における環境影響評価制度(以下「地方アセス」という。)は、準備書の作成、住民等の意見聴取、評価書の作成といった大きな流れについては、国の制度におおむね準じたものとなっているが、対象事業の規模を閣議決定要綱より小規模としたり、閣議決定要綱で対象としていない事業を対象事業としているものがあり、また、環境影響評価の実施に当たり事前手続を設ける、知事等の意見を述べるに当たり審議会の意見を聴く、環境影響評価の実施後に調査を行う等、それぞれの団体により特徴がみられる。
ア 対象事業
 地方アセスにおける対象事業については、第3-3-10表のとおりである。地方アセスでは、都道府県道・市町村道、二級河川に係るダム等、地方公共団体が実施又は関与する事業や、ゴルフ場等、事業実施に対する許認可等が伴わない事業、発電所、在来鉄道等国の関与が伴う事業であって閣議アセスの対象でない事業を対象とする傾向がみられる。対象事業の規模については、地方アセスでは、閣議アセスより小規模な事業まで対象としている例が多い。例えば、飛行場では34制度中20が2,500m未満の滑走路を有する飛行場を対象としている。
イ 事前手続
 環境影響評価手続の中で早期段階から検討を行うことに資するものとして、準備書の作成を開始する前の段階で何らかの事前手続を設けている例が広まりつつある。例えば、事業者による調査・予測・評価を始める前に、実施計画書、事前調査書、調査計画書、自然概観調査の提出などの事前手続規定を盛り込んでいる団体が、制度を有する50団体中28団体にみられ、また、環境庁調査によれば、規定を持たないが実質的に事前指導を行っている団体を含めれば、50団体すべてで何らかの事前指導が行われている。さらに、地方アセスにおいて、港湾計画や一定地域の開発計画全体を環境影響評価の対象とし、個別事業の実施段階より早期に、行政が全体としての環境影響評価を行いうるようにしている仕組みがある。港湾計画を環境影響評価の対象としている団体は7団体である。また、北海道では、苫小牧東部大規模工業基地等の特定地域について、事業者と協議しつつ、知事が当該地域全体について環境影響評価を行う仕組みをもっている。
ウ 住民関与
 地方アセスにおいても、何らかの形で住民関与を定めており、準備書等について、住民が環境保全(あるいは公害の防止及び自然環境の保全)の観点から意見を述べることができる旨の規定を置いている制度が一般的である。また、地方アセスでは、埼玉県、千葉県、滋賀県、千葉市、名古屋市、神戸市の6団体において、準備書作成前段階の書類を周知の対象としており、このうち、埼玉県では、調査計画書に対する意見の提出を認めている。地方アセスにおいては、準備書に対する知事又は市長の意見が出される前に、2回の住民意見の提出機会を設けている事例がある。例えば、埼玉県、東京都等の9団体においては、意見書に対する事業者による見解書を周知の対象としており、このうち、東京都等の3都県では、見解書について、再度、意見を提出する機会を認めている。
 地方アセスにおいても、関係地域の住民に限って意見提出の機会を与えている団体が多いが、神奈川県、滋賀県、大阪府、兵庫県、川崎市、名古屋市及び神戸市の7団体は、だれでも文書での意見の提出ができることとなっており、東京都及び岐阜県の2団体は、当該地方公共団体の住民ならだれでも意見の提出ができることとなっている。公聴会の規定を置いている団体は、北海道、埼玉県、東京都等の20団体である。
エ 第三者機関
 地方アセスでは、技術委員会、審査会、審議会等の第三者機関を設け、環境影響評価手続に関与させている事例が多くみられる。平成7年7月末現在、制度を有する50団体中、9割(36都道府県・9政令市)が、審議会等の第三者機関を設置しており、約3割(10都道府県・6政令市)が義務的に開催することとしている。
オ 事後手続
 地方アセスにおいては、27都道府県・6政令市の計33団体が事後手続の関係規定を有しており、また、環境庁調査によれば、規定の有無に関わらず何らかの事後手続・指導を行っている団体は延べ40団体となっている。このうち、事後調査計画書の提出を求めている団体は、東京都、岐阜県等の7団体であり、埼玉県では事後調査報告書の提出を求めている。その他の団体では、知事又は市長が必要と認めるときは報告を求めることができることとされている。また、名古屋市、神戸市では、事後調査報告書(神戸市はその概要)を縦覧の対象としており、三重県、滋賀県では、必要に応じてこれらを縦覧している。さらに、東京都では、事後調査報告書の写しを関係市町村に送付するとともにその概要を公示している。



(3) 諸外国における環境影響評価の整備状況等

 61か国を対象として環境庁が調査したところによると、諸外国における環境影響評価に係る法制度の整備年次は、第3-3-4図>

のとおりである。環境影響評価制度を最も早く導入した国は、1969年(昭和44年)に公布され、1970年に施行された国家環境政策法に環境影響評価を位置付けたアメリカである。日本における環境影響評価の実施についての閣議決定(1984年(昭和59年))以前に、環境影響評価制度を整備した国は、アメリカのほか、オーストラリア(1974年)、タイ(1975年)、フランス(1976年)、フィリピン(1978年)、イスラエル(1981年)、パキスタン(1983年)などが挙げられる。1985年(昭和60年)以降、世界各国での環境影響評価制度の整備が急速に進んでいる。1985年には、環境影響評価に関するEC指令が採択され、その履行年限が1988年とされた。この履行年限以降、数年の範囲で、EU加盟国を中心として、ヨーロッパ諸国での環境影響評価制度の整備が進んだ。また、1990年代に入って、東欧諸国を中心として、さらに環境影響評価制度を整備する国が増加している。開発途上国では、アジア諸国において1980年代に制度化が進んだ。一方、中南米諸国では、1980年代の後半から、法制化の動きが始まっている。アフリカの開発途上国には、法制化の動きは、まだ広がっていないものの、環境影響評価制度は世界的に定着してきていることが言える。現在、OECD加盟国26か国中、日本を除く25か国のすべてが、環境影響評価の一般的な手続を規定する何らかの法制度を有するに至っている。OECD加盟国における環境影響評価制度の名称と制定年は、第3-3-11表>

のとおりである。その他の国においても環境影響評価制度の法制化は広がりを見せており、環境庁調査によれば、全世界で50か国以上が関連法制を備えていることが確認されている。我が国と同様に、主に行政指導によって環境影響評価を実施している国は、香港、ナイジェリア、ネパール、チリ、ジンバブエ、バングラデシュが確認されている。諸外国における環境影響評価制度は、その形式において大きく次の四つの類型に分けることができる。?環境に関する法律に基づき環境影響評価の一般的な手続を規定している国、これはまた、環境影響評価に関する単独の法律を制定している国と環境に関する基本的な法律を根拠として下位の法令を整備する等により環境影響評価を実施している国に分けられる。?地域計画・建築法等の中で環境影響評価の一般的な手続を規定している国、?、?と?の混d?^、?環境影響評価に関する一般的な手続を規定する法令を持たず、主に、行政指導によって、環境影響評価を実施している国。このような類型で諸外国の制度を分類すれば、その内訳は前出の環境庁調査によれば第3-3-12表>

のとおりである。制度を有している国の間では、環境に関する法律に基づき環境影響評価の一般的な手続を規定している国が約8割となっている。
 さらに、近年欧米諸国では、個別の建設事業段階の環境影響評価のみならず、政府機関が行う各種の政策立案、計画策定等についての環境影響評価の重要性が認識されつつあり、戦略的環境アセスメント(SEA)の概念のもとで、その実施例がみられつつある。例えば、EUでは、1993年(平成5年)に策定した「第5次環境行動計画−持続可能性に向けて」において、政策及び立法過程での環境影響を評価すること等をうたっており、同年7月の欧州委員会規則改正により、各国の地域開発計画の策定に当たっての環境影響評価を義務付けている。また、カナダでは、1990年(平成2年)に公表された「政策及び計画提案に関する環境アセスメント手続」により、連邦機関が政策又は計画を内閣に提案する場合に環境影響を評価した文書を添付するよう求めている。オランダでは、1995年(平成7年)に環境テストと呼ばれる手続を開始し、新しい法令案を作成する際に、環境影響について検討し記述されることとしている。

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