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第1節 

5 様々な主体をつないで活躍する環境NGO

 我々の社会は様々な利害関係を持つ多数の主体により構成されており、それゆえに持続可能な社会への変革には痛みをも伴う。そのため、地域、企業、時には国家の立場をも越えた共通の利益を明らかにし、様々な主体の間の利害を調整することが必要となる。
 様々な主体のパートナーシップによる取組を進める上で、既存の利害関係に拘束されず、将来世代の声を代弁し、あるいは国家を越える利益の立場から主体相互間の意見調整や代替案の提示、専門的な調査研究、必要な知識の普及等を担う主体として環境NGO(Non-GovernmentalOrganization)に対する期待が高まっている。なお、NGOとは、国連の定義によれば、政府間協力によって設立されたものではない何らかの目的を持つ国際組織とされているが、ここでは、非営利の活動を行う民間、市民による団体一般を指す広い意味でとらえる。

(1) 日本における環境NGO活動の現状

 財団法人日本環境協会が、民間の非営利団体で環境保全活動を実施している団体(いわゆる環境NGO)で、文献等で所在が確認できたものに調査票を送付する形で、平成6年11月から翌年2月にかけて行った調査によれば、環境NGOの数は、全国で4,506団体に上っている。
 活動内容は、美化・清掃、リサイクル、自然保護、消費・生活、環境教育の割合が高く、活動地域も市区町村区域内のものが約7割となっているが、海外を活動地域としているものも283団体あり、約6%を数えている(第3-1-12図)
 環境NGOの活動の状況について、平成7年に1,000団体を対象に行った調査(有効回答510団体)でみると、スタッフは、地域型団体(活動地域が一区市町村内、一都道府県内及び複数の都道府県内の団体を合計)の7割強が常勤有給のスタッフがいない状況となっており、全国型団体(国内全域で活動している団体)、国際型団体(国内及び国外で活動している団体)でも半数以上が10人未満となっている。ボランティアスタッフについても、20人以上のスタッフを有している団体はいずれも1割強にとどまっている。また、予算規模は、地域型団体で6割強が年間100万未満、全国型団体や国際型団体でも半数以上が年間5,000万円未満の規模にとどまっている(第3-1-13図)。法人格の取得状況では、全国型団体、国際型団体のいずれも約6割が法人格を持たずに活動している(第3-1-14図)
 環境NGO活動に対する国民の意識はどうだろうか。平成7年1月に総理府が実施した「環境保全と暮らしに関する世論調査」では、「地球環境保全のため開発途上国で環境保全への協力や植林、さらには国内でリサイクルなどの活動を実施している民間団体があるがどのように評価するか」との問に対して、59.7%が「大変有意義なことである」、29.0%が「役立つこともある」と答えている。このように回答した者に、民間団体の活動への参加意向を聞いたところ、5.2%が「すでに参加している」、11.6%が「参加しようと思っている」と強い意欲を見せ、「できれば参加したいと思っている」と答えたものも43.9%いるが、3割強が「参加したいが事情があってできない」(19.5%)、「参加するつもりがない」(13.7%)と消極的な回答となっており、民間団体の活動に対する評価が具体的な行動の意欲にまでは十分結びついていない(第3-1-15図)



(2) 環境問題への取組における環境NGOの必要性とその活躍

? 国際社会と環境NGO
 国際社会においては、NGOは早くから重要な位置を得てきている。古くは1972年(昭和47年)にストックホルムで開催された国連人間環境会議においては、本会議と並行してNGOの会議が開かれ、それ以後の国連主催の会議において並行してNGOのフォーラムが開催される慣例がつくられた。その後20年を経て、1992年(平成4年)の国連環境開発会議(地球サミット)は、準備段階からNGOの意見が反映され、本会議においてもNGOの公式参加と発言が認められる画期的な会議となった。
 その後、地球サミットのフォローアップの中心機関である持続可能な開発委員会(CSD)における会合においては、地球サミットの方式に準じて定められたNGO参加のルールにのっとり、多くのNGOがオブザーバーとして出席し、様々な問題について意見を述べている。
 我が国においても、近年、国際会議への政府代表団にNGO代表を加える動きが見られる。1994年(平成6年)9月にカイロで開催された「国連人口開発会議」では、政府代表団に初めて3人のNGO代表が顧問の資格で参加し、1995年(平成7年)にコペンハーゲンで開催された「社会開発サミット」においても政府代表団にNGO代表が参加した。
 地球サミットで合意された「アジェンダ21」においては、非政府組織を「アジェンダ21実行のパートナー」と位置付け、「環境上健全で社会的に責任ある持続可能な開発の実行にとって特に重要な分野におけるよく裏打ちされた多様な経験、専門知識及び能力を有している」とし、「社会、各国政府、国際機関は、非政府組織が環境上健全で持続可能な開発の過程において、責任を持って、かつ効果的に協力する彼らのパートナーシップの役割を果たすことができるような仕組みを構築すべき」ことを目標として掲げている。
 このように、地球規模という空間的拡がりと将来世代への影響という時間的拡がりを有する環境問題については、特定の利害に拘束されることなく地球益の立場から、また、将来世代を代弁する立場から協力を成し得る環境NGOは、これまで、地域や国家を越えた協力関係を構築し、連携を進めることによって影響力を強め、国際舞台でも積極的に認められるに至っている。
? 環境協力の分野における環境NGOの活躍
 環境NGOは、環境協力の分野においては、現地の持続可能な開発を目指す民間団体と協力して、持続可能な開発にとって不可欠な地域社会に密着した事業に直接携わり、また現地の人のニーズの高い事業にきめ細かい対応ができる、国、地方公共団体による対応ではカバーできない分野での活動や住民のニーズに迅速に対応した活動などを展開しうるという特色も持っている。
 このような背景から、NGOの海外協力活動に対する支援も行われている。外務省では平成元年度から「NGO事業補助金制度」を設け、NGOが企画実施する開発途上国における経済社会開発事業に係る事業費総額の2分の1以内を補助している。郵政省においても、平成3年度より国際ボランティア貯金によって民間の発意に基づく開発途上国の住民の福祉向上に寄与する援助に関する事業に対する助成が行われている。これらの助成の対象の一部として民間団体の環境保全がとりあげられている。
 環境事業団では、平成5年5月に政府の出資及び民間の出えんにより開設された「地球環境基金」により、内外の民間団体が開発途上地域において行う環境保全活動に対する助成を行っており、平成7年度は、国内民間団体の開発途上地域環境保全プロジェクト76件と海外民間団体の開発途上地域環境保全プロジェクト18件に対し、それぞれ3億4,800万円、5,900万円の支援を行っている。
? パートナーシップ構築における環境NGOの役割
 平成7年1月の阪神・淡路大震災では、その直後から、多くの団体や個人が全国各地から被災地に駆け付け、物資の搬出・搬入、避難所の運営、炊き出し、被災者の安否確認、介護や医療救護活動等広範なボランティア活動が展開された。それぞれの活動は、規模も活動地域も限られたものであったが、それが集まり、ネットワークを形成して全体として大きな力となり、被災者の生活を支えた。人間としての共感に支えられた人と人との結びつきが、行政だけでは成し得ない多くの支援を実現した。
 経済的な利益を追求する企業、公平性の原理で活動する行政と異なり、NGOの活動は、個人の人間としての共感によって支えられており、それゆえに、我々が共有する環境の保全に関して、様々な人と人とを結びつけ、あるいは将来世代の利益も考慮する力を秘めているといえる。
 環境保全を目指すパートナーシップの形成は、人間と環境との間に新しい関係を築くと同時に、環境の恵みを通じた人と人の結びつきを作っていく要素を持っている。利害関係も経験も知識も異なる人と人を結びつけていくためには、それぞれの立場と経験を踏まえた説明、意思疎通、調整が必要となる。既存の利害関係に拘束されず、地域に根差した主体として、また、将来世代の声を代弁する立場から活動する環境NGOがこのような役割を果たし、様々な立場の人々にこれまでの生活の中で認識されていなかった環境問題の存在を認識させ、解決法を共に考え、専門的な立場から助言し、様々な主体の参画、支援を引き出していくことが重要であると考えられる。

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