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第1節 

6 パートナーシップを構築し未来につないでいくために

 関係者が多数にわたる問題については、問題に対する認識や理解、利害関係が関係者ごとに異なるのが一般的である。このような場合、単一の者の努力では、関係者の相違を踏まえて問題を多角的に捉え、それを的確に解決策に結びつけていくことには限界がある。また、関係者間で問題の認識や理解が異なったままでは、専門的な知見に基づく解決策であっても、すべての関係者に受け入れられ、自ら責任を持って実行されることは難しい。問題解決に役立つ資金、技術、ノウハウその他の資源も、関係者それぞれによって種類が異なり、大きさにも限りがあることが多く、一関係者が単独で対応を図ろうとすると、社会的にも非常に大きなコストを要することになる。
 これに対して、一つの問題に対し、様々な種類の努力を持ち寄り、それらを組み合わせていくことを考えてみよう。問題に関係する者が集い、それぞれの問題の認識を相互に理解し、問題に関する情報を共有し、その中からその問題を通じて互いが依存、関連していることを認識し、問題に対する共通の認識をつくることができれば、その認識を基礎として、互いにそれぞれの立場を考慮に入れた解決案の立案が可能となる。また、こうして得られた解決策は、関係者が共通の問題認識を持ち、また調整過程にそれぞれが参画していることによって、それを自分のものとして受け入れ、自発的積極的に行動に移していくことができる。さらに、それぞれの関係者の持つ問題解決のための様々な種類の資源をうまく解決につなげることにより、単独の努力に比べ対応能力を高め、全体のコストを下げることも可能となる。
 これを、本節の冒頭にとり上げた地域における様々な主体が連携した取組に見てみよう。まず、地域の環境が地域の生活にもたらす恵沢について、また、恵沢をもたらしてくれる地域の環境の状況やその保全の必要性について、行政、地域の事業者、住民等地域の関係者に共通の理解がつくられている。
 そして、その共通の理解をもとに、その地域の環境の保護と利用を地域外の主体に委ねたり、行政のみに任せるのではなく、地域の中から主体的に計画を立案し、自ら実践し管理したり、地域内外の他の主体に働きかけを行う動きがみられる。
 これらの過程には、専門家が参画し、計画立案の過程で生態系や生活文化に対する正しい理解を学習したり、水路管理など正しい技術を学習したりして、取組の持続性を高めている。ただし、専門家は特定の結論を決めてしまうわけではない。専門家の参画を得て各主体が十分な学習を行い、外来種の持込みなどの人間の思い込みによる生態系の破壊、自然の復元による虫の発生や鳥の糞等の影響に対する無理解などによって取組が行き詰まってしまうことを防いでいるのである。
 環境基本計画においては、持続可能な社会を構築する取組を進めるための国の役割及び地方公共団体、事業者、国民、民間団体に期待される役割を明らかにしているが、本節でこれまで取り上げた事例に共通して見られることは、これらの役割分担による連携、パートナーシップは、単にそれぞれの主体が期待される役割の部分を果たすことのみならず、各主体相互間の働きかけ、相互作用によって形成、維持されているという点である。この主体相互間の働きかけの中で、環境からの恵沢と環境の状況、その保全の必要性についての共通意識が生まれ、互いに互いの立場を知り、専門的な事項について学び、解決策を共に探ることが行われている。そして、そのような形で行われた合意形成については、各主体がそれぞれ強く責任を持つことができ、役割の分担と連携が社会に根付き、環境の持続的な管理につながっているということができる。
 では、各主体がパートナーシップを構築し、持続可能な生活様式や経済社会システムへの変革に向けての取組を進めるためには、どのようなことが必要になってくるだろうか。
 すべてのことを公共部門が計画し、実施するといったことは効率的でなく、また、実際上も不可能であり、個々の経済社会主体、社会の構成員が自らの発意と工夫で、経済社会システムの変革に向けた取組を担っていくことが欠かせない。このような取組を成功に導く鍵を明らかにし、その活用を促していくことが有益である。こうした鍵は、せんじ詰めてみると、自己の行為とその結果についての関係を認識できるようにすることであり、また、このような行為と結果との関係に他の主体がどのようにかかわっていくかを知ることであると言えよう。
 生活の場と自然が密着していた時代の社会においては、環境への負荷の増大や不適切な自然資源の利用が、自らまたは自ら子孫の生活にどのような影響を及ぼすかが目に見えやすかったため、生活文化や社会の規範の中に持続可能な人間活動に関する様々な知恵や行動様式が組み込まれていたものと考えられる。そして、これらは、社会における生活の中で会得され、世代を超えて受け継がれ、この中で、自然の偉大さと貴重さ、自然に対する感動や畏敬の念、自然を慈しむ心、思いやり、節度といった自然観、環境観が育まれていったものと考えられる。
 ひるがえって現代では、都市・生活型公害や地球環境問題は日常生活や通常の事業活動が与えている環境への負荷に起因しているが、我々は生活実感として自らの生活による環境への負荷をどこまで感じて生活していると言えるだろうか。環境に配慮した行動を行っていない理由として、約3分の1の人は、1人だけで環境に配慮した生活をしても本当に効果があるとは思えないと答えている(第3-1-16図)。また、国民が環境問題に一層取り組もうとする際の障害についても、「基礎的知識・情報の不足」と並んで、「住民全体で取り組めるような合意等がない」、「一緒に努力する仲間が少ない」といった要因が挙げられている(第3-1-17図)。一人ひとりの取組が重要であることは言うまでもないが、一生活者の努力が目に見えるような形で成果として現れることは期待できず、また、社会経済システムとの関わりなど環境問題の構造を理解することも難しい。
 この状況を変えていくためには、単に知識としてだけではなく、日々の生活の中で自ら問題に気付き、その問題がどのようなものであるかを自分の生活と社会経済システムとのかかわりも含めて理解し、そして問題の解決に向けて様々な他の取組と手を携えつつ自ら行動していけるような仕組み、相互作用を触発、醸成するような仕組みが必要となる。これらの気付きや理解と相互作用の触発・醸成の重要な基礎となるのが、環境教育・環境学習、情報基盤の整備、環境保全活動促進拠点、環境にかかわる意思決定における市民参画である。これらについて考えてみたい。

(1) 環境教育・環境学習

 1975年(昭和50年)にベオグラードで国際環境教育会議が世界で初めて開催され、「ベオグラード憲章」が採択された。これには、環境教育の目標として、個人と社会集団が、環境とそれにかかわる問題について関心と感受性を身につけること(関心、Awareness)、人類の重大な責任ある状況と役割に関して基本的理解を持ち(知識、Knowledge)、環境の保護と改善に実際に参加する意欲(態度、Attitude)と解決するための技能(技能、Skill)を身につけること、環境の状況や教育プログラムを生態学的、政治的、社会的、美的にそして教育的要素から評価できること(評価能力、Evaluation)、環境問題についての責任と事態の緊急性を認識し、それを解決するために適切な行動をすることができるようにすること(参加、Participation)の6つがあげられている。
 また、昭和63年3月に発表された環境庁の環境教育懇談会の報告においては、環境教育は、「人間と環境との関わりについて理解と認識を深め、責任ある行動がとれるよう国民の学習を促進すること」としている。
 いずれも、環境教育は単に関心、知識を与えるものではなく、自分の生活の中に実践的に環境への配慮を組み込んでいくことができる人づくりを目指している。
 環境教育・環境学習は、持続可能な生活様式や経済社会システムの実現に向けた各主体の関心、理解、態度、能力を育成することを目指しており、幼児から高齢者までのそれぞれの年齢層に対して、学校、地域、家庭、職場、野外活動等様々な場において展開されなければならないが、とりわけ、次世代を担う子どもに対しては、人間と環境とのかかわりについての関心と理解を深めるための自然体験や生活体験の積み重ねが重要である。
 このため、平成7年の環境の日(6月5日)に、子どもたちが地域の中で仲間と一緒に主体的に地域環境、地球環境に関する学習や具体的な取組・活動が展開できるよう支援することを目的として「こどもエコクラブ」が発足した。
 こどもエコクラブの活動は、それぞれのクラブのメンバーの興味・関心に基づき、自ら活動内容を決めて自主的に行う環境活動(「エコロジカルあくしょん」)が基本となっており、ごみ探検、水生生物調査、自然・歴史観察、環境家計簿による生活の点検、昆虫分布調査、身近な野草地図づくり、リサイクル活動など日常の生活と地域の環境に密着した形での活動が展開されている。
 そしてこれらの活動が「より主体的で、遊び心いっぱいの実り多いものとして継続的に機能すること」を支援するため、全国の活動の状況を紹介したり、新しい情報を提供したりするニュースレターを発行したり、全国フェスティバルを開催するなど、活動に新しい視点を提供し、仲間との連帯感を醸成して活動を継続していく工夫もされている。(第3-1-2表)
 こうした活動は地域を越えて展開してきている。発足から1月後の平成7年7月には、滋賀、兵庫、大阪のこどもエコクラブが琵琶湖をテーマに交流会を開催している。さらに、気温観測を毎日行うなど一定の活動を行っているクラブは、国際的な環境科学及び環境教育のプログラムであるGLOBE(環境のための地球規模の観測及び学習)プログラムに参加し、地球規模での連携の中で環境を学んでいくことができるようになっている。GLOBEプログラムは、世界各国の児童・生徒が、気温、降水量等の各種の環境観測を行い、そのデータをインターネットにより米国のGLOBEデータ処理センターに提供し、アメリカにおいてデータを加工して画像処理した「地球環境イメージ」を作成し、科学者やこどもたちに提供することにより、こどもたちの地球環境の学習の促進やこどもたちに地球環境の保全に参画する機会を提供することを目的としたもので、アメリカのゴア副大統領の提唱により1995年(平成7年)4月にスタートしたものである。これまでに、オーストラリア、ロシア、オランダ、ノルウェー、韓国等約30か国の参加が決定しており、我が国も同年8月にアメリカ政府と交換公文を締結して正式に参加し、平成7年度末現在、「環境のための地球学習観測プログラムモデル校」(文部省事業)の21中学校とともに、板橋区、山梨県(甲府市、須玉町、忍野村)、福岡市等のクラブが参加している。
 このようなプログラムへの参加により、地域活動の地道な積み重ねが地球全体の環境保護につながっていくことを体験することが可能になり、世界のこどもたちとの環境ネットワークができることも期待できる。



(2) 情報基盤の整備

 的確な情報は、人間が主体的判断をするために必要不可欠の要素であり、各主体の責任ある行動を促すためにも、各種情報の入手を容易にするような基盤の整備が求められる。特に、広範な社会経済活動の積み重ねに起因する今日の環境問題は日々の生活の中では実感しにくくなっており、環境教育・環境学習の促進の観点からも、環境に関する適切な情報を問題が理解できるような形で発信する必要がある。
 国連環境開発会議(地球サミット)で合意されたリオ宣言の第10原則において、「各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している環境関連情報を適切に入手し、そして、意思決定に参加する機会を有しなくてはならない。」と環境問題に対する取組への市民の参加のための情報基盤の必要性を明らかにしている。
 我が国においても、環境基本法第27条において情報の提供について定め、環境基本計画においても、「環境教育・環境学習の振興や事業者、国民、民間団体による自発的な環境保全活動の促進に資することを含め、環境保全に関する様々なニーズに対応した情報が各主体に正確かつ適切に提供されることが不可欠である。」と情報基盤の整備の必要性を述べている。
 このような観点に立って、環境に関する情報基盤の整備には、次のような方向が求められている。
ア アクセスの確保
 これまでの環境情報システムは、行政の業務を支援する形で構築され、測定データのコンピューター管理など様々な分野にわたるデータを管理し、検索、グラフ化、地図表示、シミュレーション等の形で有効に利用するところまでは可能になっている。しかし、様々な主体の意思決定に必要な情報へのアクセスという観点からは、必要なときに必要な人間がアクセスできることが必要である。また、数値情報等については、最新の情報が整備されることが鍵となるため、最新情報を提供できる体制の整備が必要である。
イ 利用者のニーズに合わせたデータの集約、加工
 様々な主体の意思決定に必要な情報のレベルは様々であり、データベースによる基礎的な情報の蓄積が必要であることは言うまでもないが、データの適切な集約・加工により、数字では理解しにくい情報のグラフ化等により、住民が理解しやすい形、利用しやすい形での環境情報の提供が必要となる。
ウ 各種環境保全活動に係る情報交換の促進
 行政の情報のみならず、NGO等による環境保全活動に関する情報を収集、整備し、提供する情報システムが構築され、利用されることによりNGO等の間での情報交換が促進され、環境保全活動への参加意識が高まり、活動の輪が大きく広がっていくことが期待される。
 環境庁においては、環境教育・環境学習の振興並びに民間の環境保全活動の促進に資するため、一般国民からの照会に対し迅速に対応することを目的とし、情報通信技術を活用した環境情報提供システムを構築し、平成8年3月より運用を開始している。
 このシステムにおいては、環境庁をはじめとする関係行政機関等から発表される環境の状況や行政の取組に関する情報、環境教育や環境保全活動等に関する情報及びこれらに関する情報源情報を収集、整備し、パソコン通信を活用して提供している。また、このシステムと併せて、財団法人環境情報普及センターが、各種イベントに関する書込み可能な掲示板や環境関係団体の情報提供コーナーを設置し、一括した情報の提供や情報交流が図られるような事業を行うこととしている。(第3-1-18図)
 このほか、社会経済活動の主体が、日々の意思決定において参考とする幅広い情報の中に適切な環境情報が含まれていることが大切である。こうした観点からは、消費者が購入する製品・サービスについて環境への負荷の少ないことを示すエコ・マーク、国際エネルギースターロゴ等のエコ・ラベリングは重要な手法である。



(3) 環境保全活動促進拠点

 これまでみてきたように、住民の環境保全活動を促進するためには、行政から住民への一方的な知識や情報の提供にとどまらず、個々の住民の関心やニーズに応じた相談に答え、情報や学習機会を提供し、住民の自主的な学習や生活の中での実践活動に対して支援を行う機能がますます重要になっている。
 これらの機能を担う重要な柱として、「環境学習センター」等の環境保全活動促進拠点の整備が各地で進められている。全国の都道府県・指定都市に対して行った平成6年度のアンケート調査によれば、59団体中20団体が環境保全活動の促進拠点を整備しており、より住民に身近な市区町村のレベルにおいても拠点の整備が進められている。
 東京都板橋区では、住民が環境問題に積極的に関わる拠点として、平成7年4月にエコポリスセンターを開設した。エコポリスセンターの運営は、住民が環境について「『知る』→『考える』→『行動する』」という自然な流れの中に参加できるよう、地域から地球環境に至る情報を環境学習展示コーナーやマルチビジョンを備えた視聴覚ホールを使用して紹介する(『知る』)、環境実験室や環境学習室等の施設を利用しながら板橋エコクラブ、板橋エコロジー教室、子供環境教室など誰でも参加できる講座やワークショップを開催する(『考える』)、環境学習室やコミュニティコーナー等の施設を開放し、住民一人ひとりが主体となった環境問題への取組を支援する(『行動する』)といった活動が展開されている。また、エコポリスセンターの建物そのものも、太陽光発電、燃料電池施設、雨水利用システム等の導入や太陽光と自然換気を取り入れた設計など環境への負荷の少ない構造となっており、環境への負荷の少ない新しい技術の体験と普及の場となっている。
 環境庁においては、市民や子ども、事業者など様々な主体のパートナーシップによる環境活動への参加を積極的に支援するための環境パートナーシップ推進拠点に関する検討を進めている。

(4) 環境にかかわる意思決定への市民参画

 地球環境問題への関心が高まるにつれ、多くの人々が環境に関心を持つようになり、また、環境にやさしいライフスタイルについて語られることが増えている。しかし、自分の生活と環境との関係があいまいなままでは、環境の保全のために心がけることについての自分なりの意味づけができず、本当のライフスタイルの見直しには結びつかない。今日では、行政が望ましい生活を呼び掛けて、それに住民がこたえるという単純な形では十分普及しない。
 これまでのパートナーシップの事例から、地域の住民がその地域の環境から恵みを享受し、それによって生活が成り立っていることを知り、その地域の環境に対して責任があることを理解し、そして、地域の環境の保全と賢明な利用のために自ら考え、自ら学び、主体的に意思決定し、自ら実践していることが示されている。
 すなわち、今日の環境問題の解決のために、責任を持つ主体としての参画を求めるということは、住民が、責任ある主体としてその地域の環境をどのようにしていくか考え、そのために必要な知識を学び、他の立場の人の考えも聞き、地域の環境に対する意思決定にかかわっていくことにつながる。
 まちづくりの主要な施策として森づくりを市民の手で進めている北海道帯広市の取組と、市民参加によるワークショップ方式を取り入れて環境基本計画策定を進めた神奈川県鎌倉市の取組にこれを見てみよう。
 帯広市では、昭和50年から、市街化区域と市街化調整区域の間に幅500〜1,000mのグリーンベルトを設け、市街地をグリーンベルトと十勝川、札内川の河川緑地で取り囲み、無秩序な市街化を防ぎ、自然とふれあえるまちづくりをめざす「帯広の森」構想を進めている。(第3-1-19図)
 この構想は、昭和46年に策定された市の第二期総合計画の中で、まちづくりの主要な施策として打ち出され、48年に事業計画として決定された。当時は、道路、下水道等の生活基盤整備に対する要望が強く、森づくりの必要性について市民の間に十分理解されていたわけではなかったが、発案者である市長自らが様々な機会を通じて市民への説明を繰り返す中で、100年後、200年後の将来の市民のために現在の市民が総参加して様々なことを学びながら自然を育てるという先駆性が市民の側でも受け止められていった。様々な市民団体がこれに参画し、50年に市と市民が共催する形で「第1回帯広の森市民植樹祭」が実行された。
 この森づくりは、様々な市民団体が参画した「帯広の森市民植樹祭実行委員会」の手によって支えられているが、その中核には十勝の地域づくりを考える自主研究グループの存在が大きい。地域企業の若手経営者を中心として構成されたこのグループは、帯広の森構想が発表されたとき、構想を専門家も交えて自主的に研究し、この構想を単に市民公園の整備にとどまらず、「森づくりを通じた十勝の人づくり」、「市民運動」として受け止め、これに積極的に参画し、その後もこのグループのメンバーが実行委員会の事務局を担うなど主導的な役割を担っている。
 このように実行委員会が、運動の中核となって地域の様々な主体に働きかけ、地域の様々な力を森づくりにつなげる重要な役割を果たしている。植樹祭の参加人数も第1回の500人から近年では6〜7千人となるなど拡がりを見せ、地域の自然保護団体は、森の野鳥や小動物、樹木や草花の変化について観察を続けている。後述する育樹祭に当たっては、造園建設業協会支部や営林署のメンバーのインストラクターとしての参加も得られている。また、継続的に森づくりにかかわる市民を育成するため、行政と協力して、小学校5、6年生を対象に「帯広の森少年隊」を組織している。子どもたちによって、どんぐり拾い、苗木育て、自然学習キャンプ等を通じて森づくりにかかわる活動が行われており、少年隊卒業後も後輩のリーダーとして活躍する、森とのかかわりが親子や友達の関係を通じて広がるなど、市民の森へのかかわりの核となっている。さらに、営林署等で永年森林にかかわり定年を迎えた人達のグループの協力も生まれている。
 森づくりも20年を経て植樹の時期から育林の時期にさしかかっており、健全な森林の育成のためには除間伐、下枝払いが必要になっている。一方で、結婚や入学・卒業など人生の様々なステージの記念として植樹に参加してきた市民の思い出もあり、これまで森づくりに植林という形でかかわってきた市民自身が森の現状を認識し、今後の森づくりの方向を見いだしていく必要があった。実行委員会では、専門家の協力も得て森の利活用の今後の計画案を策定する一方で、市民参加による育樹の可能性を探るため、実行委員会関係者や森の少年隊の参加を得てプレ育樹祭を実施したり、育樹を含めた今後の森づくりの方向性について市民環境シンポジウムを開催して市民の側で議論を重ねるなど、市民が参加する形で除間伐を実施していくことについて合意を形成していった。この結果、平成3年10月に市民約450人が参加して「第1回帯広の森市民育樹祭」が開催され、間伐、下枝払い、ごみ拾い、間伐した樹へのキノコの駒菌打ちが行われるに至り、現在では、帯広の森づくりは、植樹祭と育樹祭が市と市民団体で行われることが定着している。
 行政が多額の土地取得と森林管理のための費用を負担する一方、森づくりの進め方については特定の結論を市民に押しつけることなく、市民との対話を重ねて市民とともに森づくりの方向性を見いだしている。また、市民の側でも、地域づくりの自主研究グループや自然保護団体が中核となって、森づくりに関して市民の各層の参加を引き出す工夫を重ねる一方、森の現状を認識し、一般市民も交えて森づくりの方向性を模索し、一般市民も植樹や育樹、自然観察など様々な機会を通じて森とかかわり、自然生態系についての理解を深め、それらの経験と理解のうえに立って森づくりの議論に参加している。この取組の特筆すべき点は、単に都市に緑地を整備するにとどまらず、長期間にわたる市民の学習と実践を内在した、まさに「ひとづくり」の要素を持った取組である点であろう。
 鎌倉市では、地球環境問題を含む今日の環境問題に対応して、平成6年に環境基本条例を制定するとともに、環境保全施策を総合的・計画的に推進するため、8年2月に環境基本計画を策定した。策定の過程で7年7月に公表された「中間とりまとめ」では「地球環境保全」、「生活環境等」、「歴史環境」、「都市環境」、「生態系」、「循環型社会」の6つの柱を立て、1人当たり二酸化炭素排出量の20%削減や廃棄物の発生量の20%削減など18の具体的目標を掲げ、目標を達成するための施策について、市民参加によるワークショップ方式で提案を得る方式をとった。
 ワークショップは、全参加者が小グループで討議し、一緒に作業をして目標に向かって意見を積み上げ、提案をまとめていく方法で、全参加者が自分の意見を述べるにとどまらず、多様な人々の意見を知り、その中で新しい提案を行うことが求められる。
 もちろん、計画策定は、幅広く複雑な問題を含むものであり、これだけで様々な人々の意見を集約できるわけではないが、これを通じて学習、提案、調整という過程を各主体が共有することにより、各主体が地域の環境に対する意思決定を自分のものとしてとらえ、具体的な環境行動の実践につなげていく要素を内在しており、地域の環境施策の大綱となる環境基本計画の策定過程にこのような要素を取り入れた試みは注目できるものである。
 国においては、環境基本計画の策定過程の中間段階で「環境基本計画検討の中間とりまとめ」を公表し、これについて広く国民各界各層からの意見を聴くため、全国9ブロックで公開ヒアリングを開催するとともに、郵送及びファックスによる意見を受け付け、寄せられた意見をとりまとめて中央環境審議会に報告し、審議が行われた。また、基本計画策定後に中央環境審議会が毎年行う環境基本計画の進捗状況の点検に当たっては、国民各界各層の意見も聴いて行うこととされており、最初の点検となる平成7年度に係る点検においては、環境基本計画に照らして各主体の取組状況についてそれぞれ把握してもらい、その生の声を聞くために平成8年3月までに全国4か所で公開ヒアリングが行われ、郵送等による一般公募意見の募集も行われた。また、環境庁においては、今後の地球温暖化対策に関して、問題意識と意見をいただきたい点を整理して公表し、各界各層からの意見を求める形で検討を進めている。

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