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第1節 

4 国境を越えるパートナーシップ

 視点を国レベル、地球レベルに広げて考えてみると、時間や場所の違いを超えて同じような環境の状況にあり、同じような環境問題に悩む地域が世界各地に存在し、様々な環境保全についての対応がなされている。
 地球環境の保全は国境を越えた人類共通の課題であるが、地域の利害に直結しないことから地域住民に理解しずらい問題であることも事実である。そのため、このような環境の保全を共通の課題として認識し、同じ地球を共有しているものとしての共感を働かせ、連携していくことが求められよう。いくつかの地方公共団体においては、共通の問題の存在をきっかけとして、その地域の利益にとどまらない、地球全体の利益につながる独自の施策が打ち出されて、そのような活動に対する国の支援も始まっている。

(1) 自治体間の環境国際協力とその支援 −北九州市と中国大連市とのモデル事業−

 北九州市は、高度経済成長期の激甚な環境汚染の克服の過程で蓄積された豊富な技術と経験を開発途上国の環境問題の解決等に役立てるため、昭和56年から専門家の派遣を、昭和61年度からは研修員の受入れを行ってきた。研修の受入れや技術協力に当たっては、市が取り組むだけでなく、市内の多くの企業、大学が実習の場を提供し、市民も研修員の家庭滞在を受け入れるなど、行政、企業、市民がそれぞれの能力、特質をいかして国際環境協力に貢献しているのが特徴である。
 北九州市では、これまでの研修員受入れや専門家派遣等の国際環境協力を一歩踏み越えて、市民、企業が環境国際協力にかかわっていける効果的、効率的な仕組みづくり、基盤整備を行い、より新しい次元の協力を目指して、友好都市中国大連市との環境協力モデル事業に取り組んでいる。平成5年12月に北九州市側から「大連環境モデル地区計画」を中国側に提案し、翌6年初めに中国政府は大連市を環境モデル地区とすることを決定し、同年の国家の環境保護重点事業に組み込んだ。その後、両市の実務者で協議が重ねられ、平成7年1月に基本的な計画案をまとめるまでに至っている。
 「大連環境モデル地区計画」は、一定地域を対象とした総合的な環境対策を行い、ハードとソフト(政策、制度)の統合を図り、開発と環境保全の両立した都市を建設しようとするものであり、大気汚染、水域汚染等への対策等旧市街地を中心とした緊急的な環境対策、自然保護区の強化等自然生態系の保全・保護対策、住工分離等環境政策からの都市開発のコントロールが主な内容となっている。(第3-1-8図)
 この計画を中国政府及び大連市が主体的に実行し、日本の協力を得て実現期間の短縮を図ることとしている。そして、北九州市では、このプロジェクトにおける経験と成果を中国全土はもとより、東アジア諸国さらには世界の途上国の環境改善のために普及させていくことができれば、地球規模の環境問題の解決のために大きく貢献できると考えている。
 北九州市では、地方公共団体が行う国際環境協力の意義について、「地方主導の国際協力」、「住民生活の向上」、「地域経済活性化」の3点にまとめているが、その中では、海外で起こっている公害事例を自らの地域と無関係のこととせず、当該地域の環境改善への参画や協力が、結局は自らの環境を良いものにしていくことにつながると認識されており、さらに地域の発展の方向性をその点に見いだしていることを読みとることができる。言い換えれば、地域の持続可能な発展の方向性を国際環境協力に見いだしているといえる。
 以上のような環境保全に関する自治体間の国際協力の動きに対する支援も始まっている。北九州市の取組に対しては、政府開発援助(ODA)によって、約2年間の計画で、大連環境モデル地区建設に向けた環境汚染の現状把握・解析、環境保全基本計画の策定等の調査に対する協力が行われることが決まっている。政府開発援助大綱では、ODAの効果的な実施のために地方公共団体との適切な連携・協調を図ることが掲げられており、地方公共団体が主体的にかかわって築いていく国際環境協力の枠組みをいかしていくことも有効と考えられる。
 また、環境庁では、このようなアジアの途上国の自治体と我が国の自治体との国境を越えた環境協力を支援する「アジア地域地方公共団体環境イニシアティブ推進事業」を平成6年度から進めている。この事業には、中国、インド、インドネシア、フィリピン及びタイの5か国を参加国とし、各国の自治体について、環境問題の現状と課題の概要調査を行った上で、我が国の自治体がこれらの自治体と協力して取り組むことが可能なモデルプロジェクトの具体化を探り、今後の自治体間における国際環境協力の在り方について共通の認識を確立しようとするものである。これを受けて1996年(平成8年)2月には、三重県津市でシンポジウムが開催され、具体的な協力事業の検討が行われ、3件のモデルプロジェクトを実施していくことが確認されている。



(2) 滋賀県と財団法人国際湖沼環境委員会の取組、「世界湖沼会議」の開催

 湖沼は、陸水域の中で水を貯える器としての役割を果たし、古来から人々の生活と生産活動に多様な恵沢をもたらしてきた。水資源の安定的な確保に重要な役割を果たすとともに、豊かな水産資源を育んできた。また、周辺の自然環境と一体となって良好な景観を構成し、文化的、精神的な生活の基盤として存在するとともに、治水等の面でも重要な役割を果たしてきた。固有の生態系を形成する等学術上も価値の高いものも少なくない。
 その一方では、外部との水の交換が行われにくく汚染物質が蓄積しやすいため水質の改善や維持が難しく、その固有の生態系は集水域の変化に非常に敏感に反応する。
 我が国では、湖沼の水質環境基準の達成率が低く、水質改善対策が急務となっているが、世界的にも、富栄養化、有害化学物質による水質汚濁、水位の低下、固有な生態系の破壊、酸性化等人間活動と環境との間での深刻な問題を抱えている。
 我が国最大の湖である琵琶湖では、戦後の急速な工業化と人口増加によって水質悪化が進んだ。昭和52年の夏には淡水赤潮の発生をみることとなり、これが契機となって「石けん使用運動」など市民の運動も活発に展開され、この住民の動きを受けて滋賀県も有リン合成洗剤の使用及び販売の禁止を含む画期的な「琵琶湖富栄養化防止条例」を54年に制定するなど、市民と行政が一体となって琵琶湖の環境保全に取り組んできた。
 このような経験の中で、世界の各地で湖沼の環境保全に努力を重ねている研究者、行政、住民と情報や意見を交換し、今後とるべき方向を見いだしていくことを目的として、1984年(昭和59年)8月、第1回世界湖沼会議(当時の名称は「世界湖沼環境会議」)を開催した。4国際機関、海外28か国からの参加者を含め2,400人あまりの参加を得たこの会議は、湖沼の環境保全を単独で取り上げた初めての国際会議であると同時に、研究者、行政、住民の三者が集うものであったことに特徴があった。
 この会議におけるトルバ国連環境計画事務局長(当時)からの呼びかけにこたえ、世界の湖沼環境の健全な管理及びこれと調和した開発のあり方に関して、調査研究を行うとともに、国際的な知識の交流を図ることにより、国内外の湖沼環境の保全及び湖沼環境保全に関する国際協力を推進することを目的として、1986年(昭和61年)に国際湖沼環境委員会(ILEC)が設立された。
 ILECには、世界各国の湖沼環境問題に係る著名な研究者、計画及び政策の専門家19名の参加を得た科学委員会が設けられ、この世界的なネットワークを活かして、世界の湖沼の現状に関するデータの収集・編集、発展途上国の地域開発と湖沼環境保全に関する研修、湖沼環境管理のためのガイドラインの作成、湖沼環境教育等の事業を展開している。1994年(平成6年)には、湖沼の科学データと湖沼を取り巻く社会状況を記した「世界湖沼データブック」を発刊している。
 また、1992年(平成4年)からは先進国等が蓄積してきた環境保全のための経験、技術や知識を発展途上国等に対して移転することを目的として大阪市と滋賀県に開設された国連環境計画(UNEP)の国際環境技術センターの支援団体として経済界や地元自治体の支援をつなぐ役割も果たしている。
 世界湖沼会議は、ILECの企画協力(第4回以降は共催)の下、2年に1回の割合で開催されており、科学者、行政、住民が一体となって湖沼環境問題を協議する場という基本的な性格は保持されている。専門的な会議に世界中から市民が参加し、地元の市民がそれを受け入れ、交流の場を持つという、近年の国際会議においてはかなり定着してきた形が、第1回の湖沼会議から見られる点は特筆すべき点である。(第3-1-1表)
 1995年(平成7年)10月、茨城県の霞ヶ浦を舞台として、「人と湖沼の調和 −持続可能な湖沼と貯水池の利用をめざして−」をテーマに、海外からの76か国、4国際機関からの参加者を含め、約8千人の参加を集めて、第6回世界湖沼会議が開催された。会議では、7つの分科会での討議や世界各国の自治体の責任者が一堂に会した国際湖沼環境政策フォーラム、霞ヶ浦セッション、周辺の視察や「こども環境会議」等の各種行事が行われ、人口と生物多様性、開発計画が環境に与える影響、知識と技術の移転、パートナーシップ、環境教育、総合的な流域管理、共通の理解の7事項に関する「霞ヶ浦宣言」が参加者の同意を得て採択された。
 地域の住民と行政が一体となった琵琶湖の環境の保全への取組から発展して、自治体のイニシアティブによって、湖沼環境保全を巡る世界的な交流の場を生んだ先例を我々はここに見ることができる。



(3) 地球規模の環境問題に対する国際的な地方自治体のネットワークの形成とその活動

 地球環境問題を解決していくためには、各地域に住む住民一人ひとりが自らの住む地域において環境への負荷の少ない生活、行動をすることが必要であり、地域住民の生活に直結する行政を担当し、住民と国家・国際社会をつなぐ位置にある地方自治体の果たすべき役割は大きい。1994年(平成6年)5月にデンマークで採択された「持続可能な社会に向けてのヨーロッパ自治体憲章」には、自治体は社会や国家の基本であり、持続可能な方法による問題解決のための最小単位であることがうたわれている。
 1990年(平成2年)5月にブラジルのクリチバで国連の主催により開催された「持続可能な未来のための地方自治体世界会議」において、参加42か国、200以上の地方自治体と国連環境計画(UNEP)、国際地方自治体連合(IULA)の提唱で、地方自治体による地球環境の保全を目的とする世界唯一の国際協議機関である国際環境自治体協議会(ICLEI)が設立された。現在、世界50か国、194の地方自治体をはじめとして、会員は212団体、人口にして1億8,000万人近くの自治体をつなぐ組織となっている。
 ICLEIは、積極的に地球環境保全に取り組む地方自治体に対して、地域レベルで実施される持続可能な開発と環境保護に関する政策、プログラム、技術などの国際的な情報交換や新しい政策の作成・実行に向けた加盟自治体の参加を得た共同プロジェクトやキャンペーンの実施により支援を行っている。また、国際機関等に対して、地球環境問題の解決に向けた地方自治体の役割と位置づけの強化、活動への理解と支援を働きかけている。1992年(平成4年)の国連環境開発会議(UNCED)においても、世界の自治体のネットワークをつくり、環境問題に取り組む地方自治体の声をまとめ、地球環境問題の解決のために地方自治体の役割と位置づけの強化を働きかけ、アジェンダ21の第28章に地方自治体の役割が掲げられて、ローカルアジェンダ21の策定や環境協力など地方自治体のイニシアティブが強く求められたことにつながっている。
 ここでは、グローバルな問題に対する取組として、地球温暖化対策への取組をとりあげてみたい。
 ICLEIでは、地球温暖化対策に取り組む地方自治体の役割の重要性と国際的な情報交換、協議の必要性を踏まえて、1993年(平成5年)1月に「気候変動と都市環境に関する第1回自治体リーダーサミット」を開催して、世界の地方自治体がより積極的に気候変動問題と取り組むよう呼び掛ける「気候変動・都市キャンペーン」をスタートさせた。このキャンペーンは、地方自治体が温室効果ガスの数量的な削減目標を持つ行動計画を作成し、実施することを自主的に約束し、これを実施するものであり、すでに100以上の世界の地方自治体が参加し、温室効果ガス排出削減のための行動計画づくりに取り組んでいる。参加地方自治体における温室効果ガス排出量は全体で世界の1割にも相当する規模の世界的な取組となっている。ICLEIは、ワークショップの開催や技術支援プロジェクトの実施によりこれらの取組をサポートしている。(第3-1-9図)
 さらに、1995年(平成7年)3月には、第1回気候変動枠組条約締約国会議(COP1)に合わせて、「第2回気候変動に関する自治体リーダーサミット」を開催し、2005年までに、世界の地方自治体に対して温室効果ガスの排出を1990年レベルより20%削減する行動計画を作成することを勧めるとともに、COP1に自治体の出席が実現することなどを呼び掛けるベルリンコミュニケを採択し、同会議に提出した。
 1995年(平成7年)10月には、埼玉県において、海外54か国から160自治体、国内から42自治体の合計202の自治体が参加し「第3回気候変動に関する世界自治体サミット」が開催された。会議では、地球温暖化対策の先進事例の紹介や意見交換が行われ、最終日には、「気候変動に関する世界自治体宣言(埼玉宣言)」が採択された。この宣言の中で、「気候変動・都市キャンペーン」への参加を呼び掛けるとともに、先進国の地方自治体に対しては行動計画の中で2005年から2010年までの期間内に1990年レベルより20%温室効果ガスの排出を削減するといった具体的な目標を設定することを、また、途上国の地方自治体に対しては温室効果ガス排出の少ない開発パターンの積極的な推進をそれぞれ呼び掛けている。さらに、アジア地域が急速な経済の発展に伴い二酸化炭素の排出が急増することが予測され、温暖化対策への取組が急務となっていることにかんがみ、アジア地域における「気候変動・都市キャンペーン」(CCP・アジア)の発足を提案するとともに、埼玉県から提案のあった環境情報センター機能の創設及び「国際環境賞」(仮称)の創設を支持した。
 我が国で最初に「気候変動・都市キャンペーン」に参加したのは、熊本市である。熊本市においては、1994年(平成6年)9月、友好都市ハイデルベルグ市で「地球温暖化防止に向けた地方からの取組」をテーマに開催されたOECD環境委員会のワークショップへの参加をきっかけに、地球温暖化に対する積極的な取組を進め、平成7年3月に、二酸化炭素排出量を2005年までに1990年レベルから20%削減する目標を掲げた「熊本市地球温暖化防止地域推進計画」を策定し、この計画に基づいて温暖化防止キャンペーンの実施と環境教育の推進、公共交通機関の利用拡大(市電の利用)、自転車の普及促進や電気自動車の活用、省エネルギー対策(特に市役所をモデルとしたケーススタディ)、ごみ焼却熱の利用や太陽光、太陽熱利用の推進、緑化の推進と緑地の保全(特に環境保護地区指定制度)などの施策を展開している。また、熊本市においては、目標達成のための施策と削減効果についての試算や、環境にやさしい生活を実践してもらい効果を確認する「エコ・コミュニティモデル地区」の指定など、市民の努力が目に見えるような工夫も講じられている。
 埼玉県で開催された「第3回気候変動に関する世界自治体サミット」において、アジア地域の18自治体を含む内外の49自治体(国内では、埼玉県、越谷市、鎌倉市)が気候変動・都市キャンペーンの参加を表明し、署名を行っている。
 地方自治体は、持続可能な社会づくりを推進していく基礎単位であるが、それは長期的なまちづくりを通じて実現されていくものといえよう。1995年(平成7年)11月には、地球サミットのフォローアップの一環として、横浜市において、環境庁、神奈川県及び神奈川県内市町村の主催、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)の共催により、持続可能な都市の実現に向けて、地方自治体の役割、協力の在り方等について協議する「環境にやさしい“まち・くらし”世界会議 −持続可能な開発に向けた地方自治体の役割−」が開催された。この会議には、世界62の国・地域から70名の首長を含む192の地方自治体の代表者、政府・国際機関の代表者、NGO等1,031名が参加し、「持続可能な都市」の実現に向け、各地方自治体の経験を交換し、地方自治体の役割、協力の在り方について議論が行われた。
 この会議で採択された「環境にやさしい“まち・くらし”神奈川宣言」においては、持続可能な都市の実現に向け、家庭ごみの20%削減、緑地の20%増加、環境にやさしい交通の20%増加、産業汚染物質排出量の20%削減など5年間で達成すべき目標を掲げた「持続可能な都市のための20%クラブ」の結成がうたわれ、現在クラブ結成に向けての準備が進められている。
 これらの取組には、グローバルな問題に対する地域の取組が、同様の取組を進める地域との連携を深めることにより、その取組が世界的なレベルで展開することを促進する可能性を持つことが示されている。




(4) 地球温暖化問題に対する「共同実施活動」の展開

 地球温暖化問題のようなグローバルな問題に対して、地方自治体が連携して目標を掲げて取組を進めていることを紹介したが、さらに一歩進んで、先進国と途上国が協力して地球温暖化問題に取り組む「共同実施活動」と呼ばれる動きが始まっている。
 気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)においては、先進締約国が地球温暖化防止のための政策及び措置を他の締約国と共同して実施(共同実施)することもあり得る旨規定されている。この「共同実施」は、複数の国が協力して先進締約国が有する地球温暖化防止に関する技術、ノウハウ及び資金等を組み合わせることによって、世界全体として地球温暖化対策を費用に対して効果の高いものとして行おうとするものである。
 しかしながら、この仕組みによって達成される温室効果ガスの削減量を先進国の削減成果にカウントすることを認めれば、先進国の約束履行の逃げ道になるなどの理由で開発途上国の反発が強く、1995年(平成7年)3〜4月にベルリンで開催された第1回気候変動枠組条約締約国会議(COP1)では、各国が2000年までの試験期間(パイロット・フェーズ)において、締約国の自主的な参加の下に「共同実施活動」を実施して経験を積み、その進捗について国際的な検討作業を行い、今世紀末までに2000年以降の「共同実施」に関する進展について包括的な検討を行うことを決定した。この「共同実施活動」は、第1回締約国会議において、上記パイロット・フェーズの期間はこの活動による温室効果ガスの排出抑制・削減量を先進締約国の排出削減量としてカウントしないとの整理の下で導入された新たな考え方である。(第3-1-10図)
 この第1回締約国会議の決定を受けて、我が国は、平成7年11月に「気候変動枠組条約に係るパイロット・フェーズにおける共同実施活動に向けた我が国の基本的枠組み(共同実施活動ジャパン・プログラム)を申し合わせた。この申合せの中では、「「地球温暖化防止行動計画」に定めた温室効果ガスの排出量に係る目標を達成することはもとより、共同実施についても、世界全体の温室効果ガス排出抑制・削減を図るに当たり、費用対効果の観点から有効であるとの認識の下、その試行段階ともいえる「共同実施活動」を積極的に検討、推進していくことが重要である」とし、「このため、今後気候変動枠組条約締約国会議において共同実施のための基準が決定されるまでの間、パイロット・フェーズにおける「共同実施活動」を推進することにより、基準の決定に貢献し、世界全体での温室効果ガスの排出抑制に貢献すべく取り組む必要がある」としている。(第3-1-11図)
 「共同実施活動」として想定されるプロジェクトとしては、例えば、植林事業協力による二酸化炭素吸収源の増大、省エネ技術協力による化石燃料使用量の削減等が考えられている。
 既に、先進各国の一部では、「共同実施活動」となるプロジェクトが始まっている。アメリカでは、1993年(平成5年)11月に「気候変動行動計画」が策定されたが、この計画において、気候変動枠組条約に定められた共同実施の確立に寄与する「アメリカのイニシアティブによる共同実施」(USIJI)をパイロットプログラムとして開発することが盛り込まれた。このUSIJIは、1994年(平成6年)6月に設立され、同年11月からプロジェクトの申請の受付を開始し、1995年(平成7年)2月にコスタリカにおける風力発電所建設事業やロシアにおける植林事業等7プロジェクトが第1次の認定を受けた。また、同年12月には、コスタリカの林業プロジェクトやニカラグアの地熱プロジェクト等8プロジェクトが第2次の認定を受けている。
 また、オランダでは、6か国18万haにおける植林プロジェクトやメタンガス回収プロジェクト等を実施しているほか、ハンガリーとの共同プロジェクトとして、バスの燃料転換事業を実施している。ノルウェーでも、メキシコにおける高効率照明普及プロジェクト等が実施されている。
 この共同実施活動が民間・地方公共団体等の自主的な幅広い参加を得て、地球規模での温室効果ガスの排出削減・吸収増大のための国際協力プロジェクトが積極的に推進されることは、条約の究極的目的に向けて不可欠であると考えられる。
 「第3回気候変動に関する世界自治体サミット」においては、共同実施活動に自治体が取り組むことなどを呼び掛けた宣言が発出されており、この会議を通じて、先進国の地方自治体が途上国の地方自治体との協力により二酸化炭素の削減等を行うプロジェクトなどの新しい対策の芽が出てきたことは、今後の地球温暖化対策を進めていく上で大きな意義を有するものと評価できる。
 また、1996年(平成8年)1月に環境庁、宮城県及び仙台市の主催により開催された「第5回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー」においては、IPCC第二次評価報告書等を踏まえたアジア太平洋地域における地球温暖化対策の必要性と実効のある対策のための地域協力について意見交換が行われ、開発途上国における温暖化防止のための取組や国別報告書の作成の支援の重要性、技術移転に当たっての「共同実施活動」の有効性等に関する各国政策担当者の声が議長サマリーとしてとりまとめられた。
 さらに、1996年(平成8年)2月に通商産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主催で開催された「気候変動に関する適応・緩和技術国際会議」においても、アジア地域における今後の共同実施活動の進め方等について活発な意見交換を行った。
 国際的な環境保全技術協力や植林事業協力等の実績・経験を有する地方公共団体や民間企業などは、このプロジェクトの担い手として大きく期待されている。

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