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第1節 

3 業種を越えた連携 −清涼飲料自動販売機への太陽電池大量導入に向けた関係業界の合意形成−

 我が国の事業者は、これまで激甚な産業公害の克服や省エネルギーのための取組を進めてきたが、それは主として特定の汚染発生源での汚染防止や製造プロセスにおける効率的運転管理・省エネ型への改善などによってなされてきたものであった。しかし、今日の環境問題は、多数の経済主体のかかわる通常の事業活動や国民の日常生活が積み重なり、巨大化していくことから生じるものであり、いわば経済社会の在り方そのものに起因しているものであるといえる。
 このような状況の中で、環境基本計画では、持続可能な社会の構築に向けて事業者に期待される役割として、事業活動に伴う環境への負荷の低減、環境への負荷の低減に資する原材料の利用、製品等の生産、流通、消費、廃棄の各段階における環境への負荷低減のための製品開発等を掲げている。しかしながら、環境への負荷の少ない製品の利用一つをとって考えても、コストの壁に突き当たるなど、各々の事業者がそれぞれ独立して努力していくには限界がある。この限界を打破して取組を進めるためには、関係する業種が連携して、公平な役割分担の下でシステム全体としての環境への負荷を低減していくことが必要となっている。
 関係業界が連携して環境への負荷の低減に向けて取組を進めている事例を清涼飲料自動販売機への太陽電池大量導入に向けた関係業界の連携にみてみよう。
 地球温暖化対策としては、再生可能なエネルギー源である太陽エネルギーの利用、太陽電池の導入促進が重要であるが、現状では設置コストが高いため、普及は順調に進んでおらず、量産効果によるコスト削減を図るため、一定規模の初期需要を創出することが課題となっている。
 このような状況の下、個人住宅用太陽光発電システムの促進を図るためのモニター事業が行われ、これにより消費者の太陽光発電システムに対する理解も進み、コスト低減も図られているところであるが、一定規模の初期需要を創出するためには、これに加えて事業者サイドからの理解と協力による大規模な導入が求められている。
 清涼飲料自動販売機は、全国に約190万台あり、その1台当たりの電力消費量は、標準的なケースで一般家庭1世帯当たりの電力消費量に匹敵するものとなっている。太陽電池との関係で考えると、冷蔵機能に係る電力消費パターンが太陽電池の特性と合っていること、普及台数が多いことなど導入対象として有利な条件にある。また、一般市民の目に触れやすいところに設置されていることから、太陽電池装着による啓発的な効果も期待できる。
 このため、環境庁では、関係業界を交えた検討会を発足させ検討を進めてきたが、平成8年2月に、自動販売機の設置状況に基づき太陽電池装着の経済性が成立する導入規模を考慮し、清涼飲料製造者、太陽電池製造者、自動販売機製造者等が互いに協力し、清涼飲料自動販売機の全数の1割に相当する19万3千台を目標として太陽電池の導入を図る方針について合意された。
 この検討会における試算によると、太陽電池(別置型、150W)が導入された場合の二酸化炭素排出削減量は年間3,300トン(炭素換算)と必ずしも大きいものではない。しかし、太陽電池製造量増加に伴う量産効果による製造単価の低下が実現され、この価格低下に伴う太陽電池普及拡大も含めた効果や、夏季の電力需要のピークカットに対する効果が期待できるとしている。
 これを受けて、環境庁では、関係業界の協力を得つつ、太陽電池装着型自動販売機の設置・運営に係る技術的な事項の検討とともに、関係者間の最適な協力関係と費用負担を実現するような社会システムの構築・合意を目指してフィールドテストを実施していくこととしている。
 今回の自動販売機における太陽電池導入の方針についての合意形成では、各方面が役割を分担すること(第3-1-7図)によって、対策全体を進める道が開けることが示された具体例といえる。

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