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第2節 

3 持続可能な生産と消費の様式を広めるために

(1) 企業の環境保全への取組

 企業が経済活動を行う上での環境保全に対する取組について、環境にやさしい企業行動調査で見ると、まず、環境に対する意識について上場企業では、「関係する法規制等を遵守するとともに、日常的に省エネ、省資源、廃棄物の削減等の環境配慮に努めている」との回答が最も多く76.4%、次いで「関係する法規制等はないが、日常的に省エネ、省資源、廃棄物の削減等の環境配慮に努めている」との回答が8.8%となっているのに対し、非上場企業でも同様の回答であるが、回答率はそれぞれ58.4%、17.5%となっている(第2-2-11図)。この回答率の差は、上場企業は環境関連の法規制の対象である製造業(64.3%)の比率が高いのに比べ、非上場企業は製造業(38.0%)のほか、サービス業(11.4%)、小売業・飲食店(9.0%)などの業種も比率が高く、業種にばらつきがあることを反映していると考えられるが、概してどちらも環境に対する意識が高いと言える。自社の事務所・工場等における事業活動に伴って日常的に発生する重要な環境への負荷(例えば、二酸化炭素排出量、廃棄物排出量等)については、上場企業では「把握している」又は「一部把握している」と回答した企業が84.1%、「把握していない」と回答した企業が13.3%であるのに対して、非上場企業ではそれぞれ79.9%、16.8%となっており、上場企業、非上場企業ともに排出している環境への負荷をよく把握しているといえる。把握している環境への負荷の内容については、上場企業においては廃棄物排出量、燃料使用量が特に多い。また、環境保全や環境への負荷の低減のための具体的取組については、業種別に製造業及び電気・ガス供給業、建設業、金融・保険業、運輸業、流通・サービス業等、さらに全業種共通の6つに分け質問を設けている。全業種共通の取組について見ると、例えば、分別の徹底・リサイクル等の推進、紙の使用量の削減に上場・非上場の企業等を通じて約6割が取り組んでいるなどの状況がわかる(第2-2-12図)
 海外企業の具体的な取組について見てみると、例えば、スウェーデンの自動車メーカーであるボルボ社は、顧客の環境に対する関心の高まりに対応して、1995年(平成7年)にスウェーデンにおいて、車種毎の環境への負荷を把握することができる「環境仕様書システム」を導入した。この環境仕様書は、ボルボが構築した環境データベースを基に、顧客が選んだ乗用車が、工場で製造されてから使用期間を経てリサイクルされるまでのライフサイクルの中で環境に与える影響について、例えば、排気ガス中に含まれる一酸化炭素、窒素酸化物等の量や素材ごとのリサイクル率等の情報を顧客に提供することを目的としている(第2-2-13図)。ボルボ社のこのシステムは顧客に対する単なる情報提供にとどまらず、消費者の環境意識を高めることにより、持続可能な生産、消費の様式を広めることに資するものと考えられる。
 また、めざましい発展を遂げている東南アジアにおいては、経済の成長に伴って環境への負荷も増大しているが、タイでは、環境問題に対する企業の責任を重視する世界的な流れに対応して、経済団体による自主的な環境保全活動が進められている。タイ産業連盟(Federationof Thailand Industry)は、個々の企業の環境管理体制の確立を目的として産業環境管理プログラムを作成し、このプログラムを推進する環境委員会を設置した。この環境委員会は、米国を始めとする先進国や国際機関の援助を受けながら国内企業の支援に取り組んでいる。具体的には、繊維、紙・パルプ、食品等の業種ごとに環境への影響の評価に基づく問題点を抽出し、米国等の協力を得て、試験的にその問題に対応する環境技術等を導入している。今後は環境技術の導入による環境への負荷の低減とともに、タイ企業と海外企業とのジョイントベンチャーの設立等を通じタイ国内におけるエコビジネスの発展が期待される。



(2) エコビジネスの動向

 環境負荷の低減が、長期的に資源やエネルギーの効率化を通じて経済効率を高めていくことから、環境への負荷を低減していくことそのものが、市場の競争原理を通してビジネスとして展開することにつながっていく。そして、これが産業活動の一部として地歩を占めることにより、産業界全体に取組が広がり、また、消費者や、国、地方公共団体の事業者、消費者としての環境保全への取組につながることが期待できる。
 環境にやさしい企業行動調査によると、エコビジネスについて、「既に事業展開をしている、又はサービス・商品等の提供を行っている」、「サービス・商品等の提供を始める予定がある」、「研究・開発をしている段階である」と回答した企業は、合わせて上場企業で43.0%、非上場企業で22.2%となっており、比較的多くの企業がエコビジネスに関心を持ち、かつ、何らかのかたちでエコビジネスに関わっていることがわかる。上場企業が高い関心を持っている製品・サービス等について分野別に見てみると、環境負荷を低減させる装置の分野では、ごみ処理装置(43.7%)、環境への負荷の少ない製品の分野では再生プラスチック(34.1%)、古紙(30.1%)、環境保全に資するサービスの分野では廃棄物処理事業(38.9%)、再生資源回収事業(34.4%)、社会基盤の整備等の中では廃棄物処理施設整備事業(33.3%)などが挙げられている。いずれも廃棄物処理やリサイクルに関連するもので、ごみ問題に対する関心の高さがうかがえる。エコビジネスの市場については、上場企業で、今後「増加していく」と回答したのが68.8%となっており、また、既にエコビジネスの事業を展開している上場企業のうち、42.6%が前年と比較して売上が「増加している」と回答していることなどから、今後とも引き続きエコビジネスの成長が期待される。
 また、エコビジネスへの中小企業の対応を、東京都が平成6年度に行った「中小企業と環境ビジネスに関する調査報告書」(都内中小製造業、建設業のうち従業員10人以上の本所、単独事業所より無作為抽出した10,000事業所及び都内エコマーク認定企業430社対象、有効票回収数3,126)によって見ると、エコビジネスへの取組状況は「環境ビジネスといえる事業を行っている」(8.8%)、「取り組む予定である」又は「情報収集や研究をしている」(6.4%)、「有望な領域と考えるが、特に何も行っていない」(35.7%)を合わせて、エコビジネスに関心を持っていると考えられる企業は50.9%となっている。これは、環境にやさしい企業行動調査において非上場企業がエコビジネスに対して「関心がある」と回答した割合(57.4%)と比較しても、ほぼ同様の結果となっている。環境問題に対する意識の向上が企業経営にどのような影響を与えるかについて、エコビジネスを既に実施している企業と実施していない企業で比べると、実施している企業では、「環境対応型の製品づくりや技術開発を行っている」(81.8%)、「ひとつのビジネスチャンスと考えている」(65.5%)、「情報収集や勉強をしている」(53.8%)などの回答が多いのに対し、実施していない企業では、「一定の対応が必要と思うが具体的な対応はしていない」(52.2%)、「情報収集や勉強をしている」(32.8%)、「特に影響はないと考えている」(28.9%)などの回答が多く、具体的な対応に大きな差が出ている(第2-2-14図)。エコビジネスを実施している企業が取り組んでいる分野については「自社のこれまでの製品や技術と同じ分野」との回答が65.4%と最も多く、既存の経営資源を活用してエコビジネスを始めていることがわかる。
 環境庁の調査によると、1995年(平成7年)における我が国のエコビジネス市場の規模は約9兆円程度と推計されている。また、同じく環境庁の調査によると、エコビジネスの発展は環境への負荷の低減が期待されているが、様々な仮定を置いて二酸化炭素排出量の削減効果を試算してみると、2010年(平成22年)で約1,900万トン削減されると推計され、エコビジネスの発展は環境保全に貢献すると考えられる。なお、平成6年6月の産業構造審議会地球環境部会における報告書「産業環境ビジョン」では、環境産業全般の市場規模を現状で約15兆円と推計している。
 また、海外におけるエコビジネスの市場規模について見ると、定義の違いなどから一概に比較することはできないが、例えば、アジア・太平洋地域における1990年(平成2年)の市場規模はOECDによると約800億ドルと推計されており、2000年(平成12年)までに約1,200億ドルに拡大すると予測されている。また、1995年(平成7年)のESCAP(Economicand Social Commission for Asia and the Pacific)アジア・太平洋環境白書では、この地域を国別に推計している。中国では1995年(平成7年)時点で環境関連のビジネスの市場規模が約600億ドルに達していると推計され、インドにおいては、政府が環境規制を強化すれば公害防止関連の市場規模が1990年(平成2年)の4億ドルから2000年(平成12年)までに6億ドルに成長すると予測されている。また、ASEAN諸国においては、1991年(平成3年)の環境関連装置及びサービスの市場規模は15億ドルを越えており、1993年(平成5年)は概算で18億ドルと推計されている。その後この地域の市場は、2000年(平成12年)までの間に毎年15%から16%の割合で成長し、特にシンガポール、マレイシアの市場の拡大が期待されている。
 環境基本計画では、製造、エネルギー、運輸・交通といった分野の事業者にとどまらず、企業への資金供給等を通じて環境に大きな影響を及ぼし得る金融機関においても、環境保全活動に対する寄付や投資が組み込まれた預金等の提供や、投資の際に対象企業の行う事業における環境に対する配慮について勘案することなどの取組が期待されている。従来から、公害防止装置や廃棄物処理施設等に対する低利融資は政府系金融機関等において扱われていたが、一部の都市銀行においても、脱フロンや、環境問題に関するセミナーの実施等を含んだ環境保全対策全般を対象とする融資型商品の提供が始まっている。例えば、ある都市銀行は平成5年10月から脱フロン関連の融資の取扱いを始めているが、平成7年9月現在における融資実績は、600件で約385億円となっている(第2-2-15図)。また、銀行や信用金庫では、預金利息の一部又は金銭信託の収益が環境保護団体等に寄付されるという商品を取り扱っているところがある。信販会社においても、クレジットカード会員のカード利用額の一部が環境保護団体等に寄付される商品を扱っている。そのほか、このような寄付型商品は、一部の損害保険会社、証券会社等でも取り扱われている。
 エコビジネスの一分野として考えられる環境保全に資するサービスには、環境コンサルティング等が挙げられるが、ある情報を整備することが、新たなエコビジネスの発展に結びつく可能性がある。
 ある産業から出る廃棄物を別の産業で原料として利用するというのは、ゼロ・エミッションにつながる考え方であるが、フィリピンでは、フィリピン産業廃棄物取引所(theIndustrial Waste Exchange of the Philippines)を中心とした産業廃棄物の取引システムがあり、ここで取引される産業廃棄物は、そのまま廃棄物として処理されず、原材料として利用されている。この取引所は、年に2回、原材料として利用可能な産業廃棄物や企業が原材料として利用を望む廃棄物を掲載したカタログを発行している。掲載されている廃棄物は、有機化学物質、廃油、鉄くず、プラスチック、布きれ、紙など数百に及んでいる。取引所は企業どうしを引き合わせるだけで、売り手企業と買い手企業の条件が合えば、あとは直接当事者どうしが交渉をすることになる。一例を挙げると、デルモンテの現地法人は、パイナップルの缶詰を製造する過程で出てくる果肉のかすの処理に年間150万ペソ以上の費用をかけていたが、このパイナップルの廃棄物を、家畜飼料を輸出している企業へ原料として売ることによって年間約140万ペソの収入を得ることが可能になり、合わせて年間約300万ペソ(約1,200万円)のコスト削減に成功した。フィリピンでは、数々の企業が、このシステムを利用することによって、廃棄物処理コストと原料調達コストの引下げだけでなく、最終廃棄物の量の削減や企業イメージの改善を実現している。このような事例は、エコビジネスを発展させていく仕組みのひとつとして大きなヒントを与えてくれる。



(3) 政府等の経済活動における環境保全への取組

 政府の行う通常の経済活動は、国民経済上大きな位置を占めており、その経済活動に際して、政府が環境保全に関する行動を実行することによる環境への負荷の低減効果は大きい。
 我が国政府は、平成6年12月に閣議決定された環境基本計画を受けて、平成7年6月に「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画」(以下、「率先実行計画」)を閣議決定した。この「率先実行計画」は、事業者又は消費者として国民総支出の2.2%を占める国が、自ら率先して環境保全に配慮した経済活動を実行していくために策定されたもので、?財やサービスの購入・使用に当たっての環境保全への配慮、?建築物の建築、管理等に当たっての環境保全への配慮、?その他行政事務に当たっての環境保全への配慮、?環境保全に関する職員に対する研修等の実施、?計画の推進体制の整備と実施状況の点検の5つの項目から構成され、それぞれの項目について具体的な目標や取組の内容が記されている。
 環境庁では、この「率先実行計画」及び「環境基本計画推進関係省庁会議申合せ」に基づく取組を推進していくために、庁内に率先実行計画推進・点検本部を設置し、当面、再生紙の使用、低公害車の導入、省エネルギー・省資源の推進及び廃棄物の量の削減等に重点的に取り組んでいくこととしている(第2-2-5表)。その他各省庁においても「率先実行計画」の推進・点検体制の整備が行われている。
 こうした政府による環境保全のための率先的取組は、いくつかの先進国では既に始められており、政府の率先実行が進むに従って、地方公共団体や事業者の取組も促進されている。米国においては、政府の率先行動の全体をひとつの計画にはまとめていないが、政府の省エネルギー、物品調達、廃棄物・リサイクル、低公害車の導入、有害物質による汚染の回避等に関する8つの大統領令が公布されている。また、省エネルギー型照明の普及を目的としたグリーン・ライト計画や、省エネルギー型のコンピューターを政府が優先的に購入するエナジー・スター・コンピューター計画の策定、環境にやさしい製品のガイドの作成等が行われている。カナダでは、1992年(平成4年)に政府全体の率先した取組を進める政策が定められ、電子メールの活用、両面コピーの徹底が行われている。イギリスにおいても同じく1992年(平成4年)に、環境省が「グリーン・ハウスキーピング・ポリシー」という率先実行の方針をまとめ、未利用エネルギーの利用促進や太陽光の利用等による省エネルギーの推進、再生紙の優先的な購入、環境省の建物から排出される二酸化炭素量の削減等が実施され、他の省庁の取組のモデルとなっている。ドイツでも、再生紙の使用、低公害車の導入、建築事業における環境保全等の取組が実施されている。こうした動きを背景として、1996年(平成8年)2月に行われたOECD環境大臣会合では、加盟国政府は、企業や国民に自主的、積極的な行動を求めるためにも環境への負荷の発生の最小化に努め、製品やサービスの調達やあらゆる段階における意思決定に際して環境への配慮を組み込むことにより、環境政策とその他の政策を統合していくことなど、自らが率先して環境保全に資する経済活動を実行すべきことについての検討がなされ、OECDの理事会において政府のグリーン化を促す勧告が出された。
 国際機関においても、物品調達や施設運営の際に環境への配慮を行っていこうとする動きが見られ、UNDP(国連開発計画)ではグリーン・オフィス・プログラムとグリーン物品調達プログラムが実施されている。また、OECDでは1996年(平成8年)2月の理事会において、OECDの建築物の設計、建設及び管理や物品調達の際の環境配慮の実施等を含んだ環境保全への取組の向上に関する決議案が採択された。
 環境基本計画では、長期的な目標のひとつである「公平な役割分担の下でのすべての主体の参加の実現」の章において、地方公共団体の役割のひとつとして、事業者・消費者としての環境保全に関する行動を率先して実行することを挙げており、各地方公共団体においても率先実行のための体制づくりや取組が順次進められている。
 環境庁が平成6年に438自治体を対象に行った調査(「国における環境保全活動率先実行計画策定調査」、人口6万人以上の市、都道府県、特別区、有効回答数321)の中の地方公共団体における取組の状況によると、環境保全の率先実行に関する計画・指針・マニュアル等を策定していると回答した地方公共団体は49団体(15.3%)、策定する予定(検討中を含む)と回答したのは22団体(6.9%)であった。なお、「策定している」又は「策定する予定」と回答したこの71団体においては、都道府県及び政令市を中心に2つ以上の計画等を策定している場合が多く、その数は全体で策定済みの計画等が74件、策定予定の計画等が24件であった。また、率先実行計画等を策定していない又は策定を予定していない団体でも、率先実行に関する取組を行っているところは多く、具体的には、再生紙を使用したコピー用紙の使用、庁舎の敷地内緑化、庁内冷暖房の適温化、紙資源の分別収集等の取組が特に多い。自由回答では、率先実行計画を策定していない団体でもその必要性は広く認識されており、地方公共団体向けの国のマニュアルを求める意見が多く、計画等を策定している団体は、計画策定後の具体的な取組の実践に際しての財政的援助を求める意見が目立った。
 また、「地方公共団体による平成6年度の地球環境保全施策等調査」(都道府県、政令指定都市59団体対象)では、行政による率先実行(率先・垂範)活動として、6分野(フロンガス回収等、省資源対策、省エネルギー対策、低公害車の導入、公共施設の緑化推進、その他)において延べ219団体から、393件の施策の報告があった。なかでも省資源を通じた地球環境保全対策は、行政の率先実行の対象として最も積極的に取り組まれ、59団体すべてから104件の施策が報告された。具体的には、省資源分野で古紙回収、再生紙利用、建設廃棄物の再利用、庁舎内での資源ごみの分別回収等が実施されているほか、省エネルギー分野では、冷暖房温度の適正化、間引き照明、電気自動車や圧縮天然ガス車等の低公害車の導入等が実施されている。
 地方公共団体における事業者・消費者としての環境保全のための率先実行ついては、率先実行に関する全体的な計画や指針等をまだ策定していない団体が少なくないものの、多くの団体において具体的な取組が実施されていることがわかる。
 平成7年度環境モニターアンケート「新しい環境行政の方向について」の調査(回答者1,364人)では、地方公共団体の環境保全に関する率先行動についてきいている。「積極的に再生品を使ったり、使うエネルギーや、出すゴミを減らしたりすることに、あなたの住んでいるところの地方自治体が取り組むことについて、あなたは良いことだと思いますか。」との問に対し、82.7%の人々が「効果があると思うので、積極的に進めるべきだと思う」と回答しており、国民が地方公共団体の率先的な行動に期待していることがわかる。
 滋賀県では、平成6年から、環境への負荷の少ない商品を購入していくことを定めた「環境にやさしい物品の購入基本指針」に基づく取組を実施している。この指針は、環境に配慮した製品を使用すると同時に、日常業務に密接に関係する物品を環境に配慮したものに変えていくことによって、県職員に日頃から環境への配慮を意識させることを目的としている。購入に当たっては、使用段階で環境への負荷がより少ないこと、使用することによる環境改善効果が大きいこと、使用後の廃棄段階で環境への負荷がより少ないことなどを基準として挙げ、当面はエコマーク、グリーンマーク、牛乳パック再利用マークの付いた商品等を購入することとしている。環境保全型商品の価格と通常の商品の価格については、滋賀県の場合を見ると、一般商品と比べて環境保全型商品の方が価格が高い場合があるが、ほとんどの商品に価格差はなく、商品によってはむしろ価格が低いものもあり、環境保全型商品が通常の商品と比べて割高であるとの一般的なイメージは、必ずしも当てはまらないことがわかる(第2-2-6表)
 神奈川県では、平成5年から「アジェンダ21かながわ」に基づき、オフィス業務や庁舎管理等の面で環境保全型のオフィススタイルの確立を図るため、県庁エコオフィス運動を推進している。具体的には、昼休みや時間外の不必要な電灯の消灯や両面コピーの徹底、再生紙や環境に配慮した製品の使用等、全庁的に取り組む行動のほか、水道の蛇口への節水コマの設置や紙コップ等の使い捨て製品の使用抑制等、各所属で選択的に取り組む行動を実施している。平成6年に行った取組状況調査によると、平成5年度に出納指導係で斡旋したコピー用紙4,901万枚のうち97%(4,752万枚)が再生紙となるなど成果があがっているものがある反面、「手間がかかる」、「コピー機に機能がない」などの理由で両面コピーの徹底はあまり進んでいないという結果が示された。



(5) 地域の経済活動における環境保全への取組

 前述のように、率先実行計画を策定している地方公共団体の数は、現在のところ必ずしも多くはないが、地域における経済活動を環境に配慮した持続可能なものへと変えていこうとする取組が各地で広がってきている。
 川崎市では、平成7年から全国に先駆けて廃棄物鉄道輸送事業を始めた。この事業は、市内の新しい廃棄物処理場の完成に伴って、この新しい処理場への廃棄物の運搬が必要となったことから、環境への負荷の少ない輸送システムへの転換を図るために始められたものである。従来の廃棄物の輸送は全国的に見ても車によるものがほとんどであったが、川崎市は、市内の一般ごみ、粗大ごみの一部、焼却灰の輸送を車から既存の鉄道に切り替えることによって、年間で約2.7トンの窒素酸化物の排出削減、都市部における交通渋滞の緩和等の環境への負荷の低減と同時に約2億円の輸送費用の節減という経済的メリットの享受も可能となった。
 福岡市では、平成2年より、ごみの減量に取り組む市内の小売店を「かーるマークの店」として認定する制度を実施している。この制度は、簡易包装等によりごみの減量を進めるとともに、すべての市民を挙げてのごみ減量運動の展開を図ることを目的としており、平成8年1月時点での認定店舗数は1,900ヶ店であった。認定に当たっては、簡易包装の推進、使い捨て容器・製品の使用の自粛、紙類、ビン類、缶類等のリサイクルの推進等の基準を設けており、平成7年度より、各店舗において資源回収量、簡易包装の取組状況、買い物袋持参運動の実施状況等について調査を始めている。このほか、このような環境保全活動を推進する小売店等の認定・登録制度を持つ市区町村はいくつかあり、例えば、東京都練馬区では、平成6年度から区内の小売店を環境保全・リサイクル推進店(エコストア:エコロジーとストアを合わせた用語)として認定する制度を実施している。この制度は、ごみの減量のほか、リサイクル商品又は環境保全型商品の積極的な販売や取扱いなども基準として挙げており、また、エコストアとして活動していくための具体的な取組方法について記したエコストアの手引きの作成も行っている。今のところ、このような制度の認定店において売り上げが増加したという調査結果はないが、認定店を市区町村の広報に掲載するなどかなりの宣伝効果があり、この制度が、環境保全型商品等の普及や環境に配慮するという意識の啓発に対して大きな役割を果たしていると考えられる。
 長野県では、平成4年度から資源有効利用促進事業を実施し、県内製造業33社の参加を得て資源の有効利用の事例検討等環境対策の具体的手法等について調査研究を行い、「環境にやさしい製造業をめざして〜資源有効利用促進マニュアル〜」を作成した。この報告書では、汎用原材料、易処分材料(リサイクルは不可能であるが廃棄する際に環境汚染が少なく最終処分量が最小となる原材料)の採用等の原料対策や過剰品質の廃止、修繕の容易化等の構造対策等についてまとめている。また、現在では、この研究会を発展させ、環境への負荷の少ない生産活動を実現するための環境調和型産業技術に関する調査研究を目的とした「長野県環境調和型産業技術研究会」を設立し、地場産業一体となった取組を進めている。このような官、民の研究会の活動は、最近、活発に行われるようになってきており、米国におけるポリューション・プリベンション(汚染回避)や国連環境計画(UNEP)が推進しているクリーナー・プロダクション等と同方向の取組に対する研究が、特に、地場産業の担い手を中心として、地方において盛んになってきている。(第2-2-7表)
 また平成8年2月には、消費者や企業、行政等の組織が商品やサービスを購入する際に、価格、機能、品質だけでなく「環境」の視点を重視し、環境への負荷ができるだけ少ないものを選んで優先的に購入していく「グリーン購入ネットワーク(GPN)」が設立された。この「グリーン購入ネットワーク」は、消費者団体等の民間団体、企業、地方公共団体、国の各主体すべてが参加できる組織で、商品選択の際に環境への配慮を組み込んだ消費行動が行われていないことや、消費者への商品の環境情報が不足していることなどの理由から環境への負荷の少ない製品に対する需要が低迷しているという問題を解決し、我が国におけるグリーン購入を推進していくこと目的としている。このGPNでは、学識経験者、消費者団体、企業、地方公共団体等で構成した幹事会が決定する活動方針の下、グリーン購入の取組状況の実態調査及びその結果の公表、購入に当たって環境面で配慮すべき事項をまとめたガイドラインづくり、市場に出ている個別商品の環境に関する情報を載せたガイドブックの作成等を行うこととしている。



(6) 家計の消費活動における環境保全への取組

 第1章第1節においては、食の多様化と平準化、外食化と個食化、食生活に関わる家電製品の普及等に伴って、食生活が環境への負荷の多いものとなっていることを指摘した。また、その一方では、家庭におけるエコクッキングや家庭と食物を生産する環境をつなぐ産直運動等の取組が徐々にではあるが始まっていることを見た。持続可能な経済社会を構築していくには、このように、食生活を含む現在のライフスタイルを環境への負荷の少ないものへと変えていくことが必要であり、供給サイドである企業ばかりでなく、需要サイドである家計においても、環境効率性を高めること、すなわち、その消費活動における環境への負荷の低減に向けた取組が求められている。
 消費者が環境への負荷の少ないライフスタイルを確立するのに役立つ手法のひとつとして、「環境家計簿」がある。「環境家計簿」とは、日々の生活において環境に負荷を与える行動や環境によい影響を与える行動を記録し、必要に応じて点数化したり、収支決算のように一定期間の集計を行ったりするもの(平成4年版環境白書)であり、必ずしも「環境家計簿」という名称ではないが、同じ趣旨の取組が、消費者団体、企業、地方公共団体において広がりつつある(第2-2-8表)。環境家計簿は、日常生活が環境に与える具体的な影響や環境への負荷の低減に資する取組の具体例等の情報提供、環境保全活動の結果としての環境への負荷削減の面、不用不急の支出の削減の面での効果の把握、自らの活動の客観的な評価等を助けるものであって、企業における環境管理の取組と同様の役割を果たす(第2-2-16図)。このように、環境家計簿は、より少ない環境への負荷で消費を行うという環境効率性に基づき、消費者が現在のライフスタイルを環境への負荷の少ないものへと変えていくことに寄与すると考えられる。このため、環境庁では、平成7年度に、この取組を促進することとし、環境家計簿に盛り込むべきエコロジカルな生活行動についてアイディア募集等を行ったが、今後、さらに適切な資料等の開発を進めていくこととしている。
 さらに、消費者の賢い選択を通じて、商品やサービスを提供する事業者において環境にやさしい製品等の開発や供給拡大が促される効果も大きいものがある。例えば、第1章第1節で見たとおり、家庭の消費活動に伴う二酸化炭素の排出量は全国の排出量の半分近くを占めることとなる(第2-2-17図)。このように、家庭での消費活動は、環境への負荷の発生に大きく与っており、家庭での消費活動を環境効率的なものへと変えていくことは大きな意義がある。

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