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第3節 

3 豊かな精神活動の基盤としての環境の継承

 これまで見たように、環境と芸術・文化は様々なかかわりを有している。最近の芸術活動の中には、地球環境に対する意識の目覚めや、自然との共感への願望、さらには都市化や産業化の急速な進行に対する危機感、ひいては解決困難な様々な問題にぶつかるようになった現代文明自体に対する懐疑が見られるとの指摘もなされている。
 また、環境に大きな負荷を与えることなしに自然の素材を使って、ささやかさとはかなさに特徴付けられるような芸術作品を制作する動きも現れている。こうした作品は、限られた機会に、限られた人たちによって享受されるものととらえるのではなく、我々が日常生活のレベルにおいて、自然と親しむ方法として示唆を得るものととらえ、我々自身のものとしていく考えも有効であろう。
 一方、個々の文化遺産や芸術作品の中には、環境の変化によってその価値が損なわれ、場合によっては、作品そのものが失われることが示されている。第2節の初めにも見たように、近年我が国では、物質の豊かさより心の豊かさを求める声が大きい。先人達の残した文化遺産や芸術作品が、豊かな感性と健全な価値観の育成等に資すると考えれば、それらの保存のためにも、酸性雨等の環境問題に対処し、良好な環境を維持していくことの意義も大きいと考えられよう。
 先人から受け継いだこの恵み豊かな環境を、我々の世代だけのものと考えずに、生産活動の基盤としての役割に加え、豊かな精神活動の基盤として、確実に次世代に引き継いでゆくことが求められているのである。

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