4 森林、特に熱帯林の保全
(1) 問題の概要
世界には、その地域の気候の特性に応じた様々なタイプの森林が分布しており、森林の総面積は約40.3億haで、陸地の約30.7%を占める。森林は、用材、薪炭材など人間の生活に欠かせない木材の供給源であるほか、医薬品の原料等の非木材生産物の供給源ともなっている。もとより、森林は多くの野生生物に生息地を提供し、また、土壤の保全、水源かん養や二酸化炭素の吸収・固定といった環境調整機能を有するなど、多面的な価値を持つ自然資源である。
しかし、近年、先進地域の森林面積にほとんど変化がないのに対して、熱帯地域の開発途上国の森林が急激に減少している。国連食糧農業機関(FAO)の最新レポートである森林資源評価プロジェクトの最終報告によれば、1981年(昭和56年)から1990年(平成2年)の10年間で年平均およそ1,540万ha(我が国の国土面積の約4割)の熱帯林が減少し続けていると推測されている。熱帯林には、世界の野生生物種の約半数が生息すると言われ、遺伝子資源の豊庫でもあるが、大面積の消失により、多くの野生生物種が絶滅の危機に瀕することが懸念されている。また、森林消失による大量の二酸化炭素の放出が地球温暖化を加速する一因となっているとの指摘もある。熱帯林消失の原因は地域によっても違いがあり、非伝統的な焼畑耕作、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧などが指摘されているが、その背景には人口増加、貧困、土地制度等の様々な社会的経済的要因が絡んでおり複雑である。
(2) 対策
平成5年度においては、地球サミットで採択された森林に関する初めての世界的合意である「森林原則声明」及びアジェンダ21における森林減少対策を踏まえ、熱帯林を含む世界の森林保全と持続可能な開発に関する議論が様々な国際会議等を通じて行われた。とりわけ、1994年(平成6年)に採択された新しい国際熱帯木材協定(ITTA)は、地球サミット後初めて採択された協定であり、西暦2000年までに生産国の熱帯林の持続可能な管理能力の強化を図るとの条文が盛り込まれるなど、熱帯林保全に向けての国際的枠組みが一層強化された。
我が国は、このような国際的な議論へ参画するとともに、従来からの二国間、多国間協力についても引き続きその推進に努めた。
二国間協力では、森林造成、人材育成、森林関係研究等を中心とする林業協力を東南アジア、大洋州、アフリカ、中南米などにおいて実施してきており、このうち国際協力事業団(JICA)を通じて、13か国、17のプロジェクト方式技術協力を実施中である(平成6年3月31日現在)。
多国間協力では、国際熱帯木材機関(ITTO、本部横浜)に対し、その活動を引き続き支援するため加盟国中最大の資金拠出を行った。
また、FAOに対しては、アジア太平洋地域の各国の林業計画政策策定能力の向上を目的としたプロジェクトへの拠出等を行った。さらに、国際農業研究協議グループ(CGIAR)の傘下に1993年(平成5年)に設立された国際森林・林業研究センター(CIFOR)に拠出を行うなど森林保全研究について支援を拡充している。
熱帯林の調査研究では、地球環境研究総合推進費による熱帯林生態系解明のための研究が、国立の試験研究機関を中心にマレイシアの多雨林をフィールドにして行われているとともに、海洋開発及び地球科学調査研究促進費による熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究が、国立試験研究機関によってタイの熱帯林をフィールドとして引き続き行われた。
民間においても、マレイシア・サラワク州における熱帯林再生のためのフタバガキ科樹種の苗木植栽実験の支援やパプアニューギニアにおいて持続可能な森林生産を目指して、現地産樹種を中心とした1.5万haの植林計画など熱帯林保全のための取組が行われた。