2 オゾン層保護対策
(1) 問題の概要
地球のオゾンの大部分は成層圏に存在し、オゾン層と呼ばれている。オゾン層は太陽光に含まれる有害な紫外線の大部分を吸収し、地球上の生物を守っている。このオゾンが近年クロロフルオロカーボン(CFC、いわゆるフロンの一種)やハロンなどの人工の化学物質によって破壊されていることが明らかになってきた。オゾン層が破壊され、有害な紫外線が増加することにより、人に対して皮膚ガンや白内障等の健康被害を発生させるだけでなく、植物やプランクトンの生育の阻害等を引き起こすことが懸念されている。
CFCは炭素、弗素(ふっそ)及び塩素からなる物質であり、洗浄剤、冷却剤、発泡剤、噴射剤等として、また、臭素を含むハロンは主に消火剤として使用されている。これらは化学的に安定な物質であるため、大気中に放出されると対流圏では分解されずに成層圏に達する。そこで太陽からの強い紫外線を浴びて分解し、塩素原子や臭素原子を放出するが、この塩素原子や臭素原子が触媒となってオゾンを分解する反応が連鎖的に起こる。
CFC等によるオゾン層の破壊は、いったん生じるとその回復に長い時間を要し、また、その被害は広く全世界に及ぶ地球規模の環境問題である。
(2) オゾン層保護対策
オゾン層の破壊を未然に防止するために、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が1985年(昭和60年)3月に、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が1987年(昭和62年)9月に採択された。我が国においてもこれらを的確かつ円滑に実施するための制度として「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(以下「オゾン層保護法」という。)を昭和63年5月に公布するとともに(第8-1-1図)、同年9月に条約及び議定書を締結した。
その後、1990年(平成2年)6月のモントリオール議定書の改正を受け、我が国においても対策の強化を図るため、オゾン層保護法の一部が改正され、平成3年3月に公布され、4年8月に施行された。モントリオール議定書の改正についても、我が国は、3年9月に受諾した。
さらに、1992年(平成4年)11月のモントリオール議定書第4回締約国会合では、CFC等の既存規制物質の削減スケジュールの前倒し、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロブロモフルオロカーボン(HBFC)及び臭化メチルの規制物質への追加等が決定された(第8-1-2表)。
オゾン層保護法を中心として、我が国としてこの地球規模の大気汚染問題に積極的に取り組むため、次のような施策を実施してきている。
ア CFC等の製造等の規制
オゾン層保護法では、1990年(平成2年)6月改正のモントリオール議定書に基づく規制対象物質(CFC、ハロン、四塩化炭素及び1,1,1-トリクロロエタン)を「特定物質」として、モントリオール議定書の削減スケジュールに即して生産量及び消費量を段階的に削減・全廃することとしているが、特定フロン(CFC-11、12、113、114、115)については平成元年7月から、ハロンについては4年1月から、特定フロン以外のCFC及び1,1,1-トリクロロエタンについては5年1月から製造等の規制を実施している。
我が国における平成5年の生産量及び消費量は、特定フロンが51,212t、47,435tとなり、基準年(昭和61年)に対し、それぞれ約43%、約40%に削減され、また、特定フロン以外のCFCが808t、788tとなり、基準年(平成元年)に対し、それぞれ約35%、約34%に削減されている(数値は各物質の生産量及び消費量に各々のオゾン破壊係数を乗じ合計したもの)。
イ CFC等の排出抑制・使用合理化
特定フロンを使用する事業者がその排出の抑制及び使用の合理化を図るための「特定フロンの排出抑制・使用合理化指針」を昭和64年1月に告示し、その周知普及を図るとともに、オゾン層破壊物質の使用削減の推進等オゾン層保護対策を的確かつ円滑に進めるため、毎年7月を「オゾン層保護対策推進月間」として位置付け、官民挙げてその啓発普及に努めている。また、指針において特に導入を図ることとしている特定フロン及び1,1,1-トリクロロエタンの代替品を使用する洗浄設備及び冷凍空調設備等並びに洗浄用の特定フロン及び1,1,1-トリクロロエタン排出抑制・回収設備については、法人税、所得税の特別償却、固定資産税の課税標準の特例といった税制上の措置や日本開発銀行、環境事業団等による低利融資等の金融上の措置を実施している。
ウ オゾン層の破壊に係る観測・監視、調査研究の推進
オゾン層の適正な保護を図るため、オゾン層の観測・監視を推進し、また、CFC等によるオゾン層の破壊のメカニズムやオゾン層破壊により生ずる影響等について詳細な研究を実施するとともに、オゾンレーザー・レーダーを用いたオゾンの高度分布の測定、オゾンに関する観測技術の開発、将来のオゾン層の消長を予測するモデルの開発等に取り組んでいる。