(1) 野生生物種の現状
ア 日本の絶滅のおそれのある野生生物種
我が国の自然環境は、多様な気候や地形並びに地理的位置を反映して豊かなものとなっている。野生生物もその生息・生育条件のこうした多様性を反映して多種多様である。野生生物種は種の存在自体、またその進化の歴史を伝えるものとして貴重な情報源であり、生態系の構成要素として物質循環やエネルギーの流れを担い、その多様性によって生態系のバランスを維持している。
また、人類は野生生物種を生活の糧としての利用をはじめ、様々な道具の素材、科学・教育・レクリエーション・芸術の対象として利用し、共存を続けてきた。しかし、こうした活動がある場合には乱獲につながったり、また人間の経済・社会活動の拡大に伴う生息地の破壊などにより、野生生物種は生息数の減少や絶滅への圧力を受け続けている。生物の種はいったん失われると人間の手で再び作り出すことはできない。野生生物種の絶滅を防ぐことは、生態系の保全から見ても、野生生物の持つ様々な価値を守る上からも、緊急の課題となっている。
このような課題に対応するため、平成5年4月1日、国内外の地域における絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図る体系的な制度として、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」が施行された。
この法律に基づき、我が国に生息する絶滅のおそれのある種については、順次、国内希少野生動植物種として指定し、捕獲及び譲渡等の規制、生息地等の保護、保護増殖事業等の対策を講ずることとしており、既に指定された鳥類38種に加えてツシマヤマネコ、イリオモテヤマネコ、ミヤコタナゴ、ベッコウトンボ、レブンアツモリソウ及びキタダケソウの6種の動植物が追加指定された。
(ア) 動物種
環境庁では、絶滅のおそれのある日本産の動植物の種を選定するために「緊急に保護を要する動植物の種の選定調査」を実施し、平成3年(1991年)の調査結果に基づき、動物については「日本の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータブック)」を発行している。この調査で対象とされた日本産の野生生物の種数(亜種を含む)は、哺乳類188種、鳥類665種、爬虫類87種、両生類59種、淡水魚類200種、昆虫類28,720種、クモなどの十脚類192種、陸・淡水産貝類824種、その他無脊椎動物4,040種である。
こうした種のうち、種の存続の危機の状況に応じて選定しているのは、?絶滅の危機に瀕している「絶滅危惧種」、?現在の状況が続けば近い将来に絶滅の危機に瀕する「危急種」、?生息条件の変化によって容易に「危急種」又は「絶滅危惧種」に移行する可能性を有する「希少種」に区分して絶滅のおそれのある種を選定している。
「絶滅危惧種」は110種あり、例えば、哺乳類ではニホンカワウソやイリオモテヤマネコなど、鳥類ではアホウドリ・タンチョウ・ノグチゲラ・シマフクロウなど、両生類と爬虫類ではホクリクサンショウウオやキクザトサワヘビなど、淡水魚類ではリュウキュウアユ・ミヤコタナゴ・ムサシトミヨなどが選定されている。また、「危急種」は114種で、例としてトウキョウトガリネズミ・ハヤブサ・オオセッカ・セマルハコガメ・イシカワガエル・イトウなどがあり、「希少種」は415種で、エラブオオコウモリ・ヤマネ・ラッコ・アオウミガメ・ユウフツヤツメなどが含まれている。また、既に絶滅してしまった種も動物では22種確認されており、ニホンオオカミ・ニホンアシカ・ハシブトゴイ・ミナミトミヨなどである(第4-6-1表)。
「絶滅種」、「絶滅危惧種」、「危急種」、「希少種」を合わせた種数を分類群ごとにみると、哺乳類55種、鳥類132種、爬虫類16種、両生類14種、淡水魚類41種、昆虫類206種、陸・淡水産十脚類52種、陸・淡水産貝類127種となっており、それらの分類ごとの種数全体に占める選定割合は、種数の圧倒的に多い昆虫類を除きすべて15%以上を占めている。
こうした野生動物の種が絶滅し、または絶滅の危機にさらされている原因としては、乱獲あるいは植生の変化、水質の悪化等人間活動による生息環境の悪化や消滅などが指摘されており、我が国の野生動物の生息環境が厳しいものとなっていることがわかる。
絶滅のおそれのある動物種のうち、例えば、北海道のタンチョウは昭和27年にはわずか33羽しか生息が確認されなかったが、保護増殖事業を行った結果、45年には179羽、平成6年には628羽(成鳥566羽、幼鳥62羽)の生息が再確認されている。また、一時は絶滅したと考えられていたアホウドリは、26年に鳥島で生息が再確認されて以来、個体数が回復しつつあり現在では約600羽が生息していると推定されるが、アホウドリの繁殖地が急傾斜地にあり、土砂が繁殖地に流れ込む等の不安定な状況にあるため、新繁殖地の形成や既存の繁殖地の整備等を内容とする保護増殖事業を実施している。
(イ) 植物種
日本に生育している植物種の総数は、環境庁の「緊急に保護を要する動植物の種の選定調査」によると、維管束植物8,118種、藻類1,850種、蘚類1,516種、苔類535種、地衣類2,295種、菌類約1万種(亜種、変種、品種、亜品種を含む)が確認されている。
日本自然保護協会と世界自然保護基金日本委員会によって作成された報告書「我が国における保護上重要な植物種の現状」によると、絶滅のおそれのある植物種(亜種、変種を含む)は絶滅寸前の種として147種、絶滅の危険のある種として677種、危険性はあるが実状が不明の種が36種、既に絶滅してしまった種は35種存在するとしている。こうした絶滅のおそれのある種は、この調査対象となった約5,300種のうちの16.8%を占めている(第4-6-2表)。
このように多くの種が絶滅の危険にさらされている要因としては、開発に伴う生育環境の悪化や生息地の消滅及び愛好家や山草販売業者による乱獲などが指摘されている。特に生育環境の破壊では物理的破壊にとどまらず、生育地を取り巻く環境、すなわち生態系に十分配慮が払われていないことも問題となっている。
イ 日本の野生生物の生息・生育の状況
日本においては、動物では哺乳類188種(亜種を含む。以下同じ)、鳥類665種、爬虫類87種、両生類59種、淡水魚類200種、昆虫類28,720種、クモなどの十脚類192種、陸・淡水産貝類824種、その他無脊椎動物4,040種で、植物では維管束植物8,118種(亜種、変種、品種、亜品種を含む)、藻類1,850種、蘚類1,516種、苔類535種、地衣類2,295種、菌類約1万種の存在が確認されている。
この数は、後述する野生生物種の数の多いメガ・ダイバーシティ国に比べると少ないものの、先進国、特にヨーロッパ各国と比べると生物種が豊かであることが分かる。これは、日本の気候的や地形的要件によって亜熱帯から亜寒帯にまで広がる多種多様な生態系が存在していること、またヨーロッパ諸国では国土の農地化が進み生態系の豊かな森林が少ないことなどによると考えられる。
例えば、日本の森林の植物構成は、高等植物だけに限ってみると世界には25万の種があると推定される種(亜種以下は含まない)のうち日本の高等植物相は5,565の種(被子植物4,770、裸子植物44、シダ植物751)によって構成されている(そのうち日本の固有種は1,950種)。日本とほぼ同緯度にあり面積的にも同程度である地域を定めてその高等植物相をみると、北アメリカ北東部では2,835種、ニュージーランドは1,871種からなるが、これら地域と比べた場合、日本の植物相は多様性に富んでいるといえる。
野生生物種が多く生息している環境を明らかにするため、哺乳類・鳥類・チョウ類の広域的に分布する種等(哺乳類9種、鳥類55種、チョウ類258種)について、生息種数をみてみると、第4-6-3表のように哺乳類・チョウ類では山地に、鳥類については山地とともに平野部で数多くの種が見られることが分かる。哺乳類は面積が広く多様な自然条件を持つ山地に多くの種が生息していること、鳥類は水域から森林までの二次的な環境を含む多様な環境を有する平野・丘陵に多くの種が生息する傾向にあること、及びチョウ類の生息にはそれぞれの食草が分布していることが必須であるため植生や森林構造が多様である山地に数多くの種が生息していることといった傾向を知ることができる。
我が国に生息している種は我が国の中でのみ生息しているのではなく、国境を越えて移動するものもあり、自然環境に国境の壁がないことを教えてくれる。
我が国はシベリア等からの渡り鳥の飛来地として重要な位置を占めており、我が国で見られる鳥類のうち60%以上(国内の移動を含む)が渡り鳥である。
平成6年1月に実施したガンカモ科鳥類生息調査によれば、ガンカモ科の観察総数は193万5千羽であった。そのうち95.3%はカモ類が占め、以下ハクチョウ類2.8%、ガン類1.8%となっている。ハクチョウ類は31都道府県428ヶ所で4種54,688羽が観察され、東北地方の各県及び新潟県、北海道でそのほとんどが観察されている。ガン類は、20道県634ヶ所で6種34,846羽が観察され、宮城県と新潟県で多くみられた。また、カモ類は最も頻繁に全都道府県で見られ、合計では29種、1,845,651羽が観察されている。地域的に見ると新潟県・愛知県・千葉県・山形県・島根県で多く見られている(第4-6-1図)。
渡り鳥の移動経路を明らかにすることによって渡来地の保全や渡り鳥保護のための国際協力に資するため、標識調査及び人工衛星を利用した渡り鳥経路の追跡調査を実施している。その結果、オーストラリアからのオオジシキや東南アジアからのツバメなど多くの渡来経路が明らかになり、マナヅルとナベヅルの朝鮮・中国経路やコハクチョウのシベリア経路が追跡されて、二国間渡り鳥等保護条約(協定)による調査・研究に寄与している。また、渡り鳥は国境を越えて行き来するため、飛来地を有する全ての国が協力して適切な保護措置をとらないと渡り鳥の数は減少してしまう。このため、渡り鳥の保護は国際的な責務であり、我が国はアメリカ、中国、オーストラリア及びロシアと条約等を結んで取り組みを進めている。
我が国に生息するクマ類はヒグマとツキノワグマの2種類であるが、近年の社会や自然環境の急激な変化により、それらの生息地に大きな変化が現れている。ツキノワグマは、本州に生息する最大の陸上哺乳類であり、温帯から冷温帯森林生態系を代表する野生動物であるが、日本版レッドデータブックに記載された地域等において個体群の絶滅の危機が懸念されており、ワシントン条約附属書Iに掲載され国際的な商取引が禁止されるなど、国の内外から適正な保護管理が求められている。
環境庁で実施したクマ類の生息実態等の調査の結果では、近年農耕地や住宅地及び森林開発など人間活動の影響により森林の連続性が失われた地域、あるいはツキノワグマにとって生息環境が低下した地域により生息地が分断され、生息状況が悪化している。例えば、第4-6-2図はツキノワグマの丹沢山地における生息域を示しており、1978年(昭和53年)に実施された第2回自然環境保全基礎調査の対象域と比較したものであるが、道路の建設等により生息地域が分断されつつあることが推測される。
ウ 海外の生物種の生息・生育の現状
野生生物の数については、維管束植物や脊椎動物について比較的良く知られているものの、特に昆虫類やその他の無脊椎動物については知見の蓄積は少なく、地球上での種の総数の推定値は、少なくとも500万種多ければ5,000万種ともいわれている。現在、確認されている種数は約140万種である。
熱帯林は世界の陸地面積の7%を占めるに過ぎないが、種全体の半数以上が生息・生育するともいわれている。既に知られている種で見ると、哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類・アゲハチョウ科のチョウ・被子植物について生物種の多い国は第4-6-4表の通りであり、南アメリカ諸国やインドネシアやザイールといった熱帯林を擁する国が多い。
生物種や固有の種が多い国を「メガ・ダイバーシティ国家」と呼ぶことがある。例えば、ブラジル・コロンビア・エクアドル・ペルー・メキシコ・ザイール・マダガスカル・オーストラリア・中国・インド・インドネシア・マレーシアの12カ国をメガ・ダイバーシティ国家とすると、世界の生物種の60%から70%をこの12カ国で見ることができるといわれている。ブラジル・コロンビア・インドネシア・メキシコは種の数が豊富であり、オーストラリアやマダガスカルは種数自体は多くないが固有種が多い。国土面積が広く種の数も多いブラジルや中国のような国もあれば、エクアドルやマダガスカルやマレーシアのように地形的な要因などにより面積は小さいながらも種の多様性が極めて高い国もある。こうした諸国については、その極めて豊かな生物の多様性を保護するために、当該国だけでなく国際社会が協力していくことが必要であるといえる。
こうした豊かな生物相も、その生息・生育地の破壊によって急速に失われようとしている。「1990IUCN Red List of Threatened Animals」によると、全世界での絶滅のおそれのある種の状況は、無脊椎動物で2,250種、脊椎動物で2,751種などであり、数多くの種の生息・生育が危うくなっている。また、熱帯雨林を含む熱帯林が急速に減少しつつあり、世界資源研究所(WRI、1989年)によると1990〜2020年の間に主として熱帯林の減少により全世界の5〜15%の生物種が絶滅すると予測されている。これは、現在地球上に1,000万種の生物が存在するとすれば、1年間に1万5,000〜5万種の生物が絶滅することになる。
種の絶滅は、自然界における進化の過程で絶えず起こってきたことであるが、その速度は極めて緩やかであり、今日、地球の歴史が始まって以来のスピードで種の絶滅が進行しつつあることやこの急激な種の減少の要因が自然のプロセスによるものではなく人間の行動に起因するものであることが、地球環境問題の一つに取り上げられている理由である。
絶滅のおそれのある野生生物の保護のために、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約、CITES)」等によって国際的な取り組みが進められており、また生物の多様性を包括的に保全すること等を目的として「生物の多様性に関する条約」が1993年(平成5年)5月我が国では受諾され、同年12月に発効した。
(2) 野生生物資源の現状
ア 水産資源
我が国の国民は、伝統的に水産物を重要なタンパク質として活用してきた。戦後ほぼ一貫して水産物の生産量は増加し、昭和56年に養殖業を除く海面漁業の生産量が1,000万トンを超え、59年には1,150万トンに達した。しかし、平成元年以降生産量が減少し、平成4年の生産量は777万トンにまで低下した。主要魚種別生産量の推移を見ると、イワシ類・スケトウダラ・サバ類の生産量が減少している(第4-6-3図)。我が国周辺水域では、漁船性能の向上等による漁獲強度の増大等もあって底魚類を中心に総じて資源状態が低水準にあり、マイワシ資源についても今後の資源の減少が懸念されている。
漁業と野生生物保護の関わり方の問題については、種々の国際会議等で議論されている。第8回ワシントン条約締約国会議では、大西洋のクロマグロを附属書に載せ、国際的な商取引等を制限しようとする動きが見られたが、国際漁業管理機関による保存・管理措置を今後とも強化することを条件に提案国は提案を撤回した。また、欧米等では鯨を環境保護運動の象徴として位置付け、捕鯨に反対する動きが活発であるが、地球サミットでは鯨を含む海洋生物資源の合理的利用の原則が確認されており、国際捕鯨委員会においてミンククジラの捕獲、沿岸捕鯨業の再開、南氷洋鯨類サンクチュアリの設定を巡って議論が行われている(第4-6-4図)。さらに、海生哺乳類・海鳥・ウミガメ等が混獲される問題に世界的に注目が集まっており、1991年(平成3年)に大規模公海流し網漁業の停止(モラトリアム)が国連総会で決議されたのを受け、我が国では4年末までに大規模公海流し網漁業の操業を停止している。
こうした水産資源は世界各国で栄養供給源として、また飼肥料等の原料として今後とも不可欠であり、その持続的な利用が極めて重要である。したがって、科学的データに基づき適正に管理された漁業を実践していくことが重要である。
イ 狩猟
狩猟は人間の業やレクリエーション等として行われているが、野生鳥獣を自然の収容力に見合った適切な生息数に管理する手段としての役割も果たしている。
我が国では、狩猟の対象としてカモ・スズメ・カラス・キジ等の鳥類30種類、クマ・タヌキ・イノシシなど獣類17種類が指定されている。平成3年度に捕獲された狩猟鳥類は、約311万羽、そのうちキジバトが31.2%、スズメが23.5%を占める。狩猟獣類は、約35万頭であり、そのうちノウサギが54.4%、イノシシが17.7%、タヌキが10.4%である(第4-6-5表)。
また、都道府県知事と環境庁長官は有害鳥獣駆除などの目的に応じ、野生鳥獣の捕獲を許可することができるが、平成3年に知事の許可を受けて捕獲された鳥獣は鳥類約132万羽、獣類約10万頭であり、鳥類ではスズメ類(34.2%)、カラス類(28.6%)、ドバト(13.3%)が多く、獣類ではノウサギ(51.0%)、イノシシ(15.7%)が多い。狩猟による捕獲数と合わせると総計鳥類約442万羽、獣類約45万羽が捕獲されている。
昭和51年までは、狩猟免許件数と狩猟による捕獲数は増加し続けたが、捕獲鳥獣の合計は、55年の約840万羽(頭)を最高にその後急減し、平成3年度には約346万羽(頭)にまで減っている。狩猟者人口の動向についてみると、51年の狩猟者数53万人が同じく3年には約26万人に減少しており、しかも高齢化が急速に進んでいる傾向にある。
ウ 国際取引
先進国では、海外の動植物、特に熱帯産の動植物が鑑賞用などの目的で輸入されている。輸入する国での珍しい動植物への嗜好の変化や輸送技術の向上により、熱帯地域から先進国への野生生物の貿易量が多くなっており、野生生物種の生息・生育状況に与える影響が懸念される。
貿易活動が野生動植物の種の絶滅に寄与しないようにワシントン条約は締結されており、絶滅のおそれのある種の国際取引については国際取引の禁止を含む貿易管理が行われている。第4-6-6表は、ワシントン条約で規制されている種の国際取引を示したものであるが、先進国が途上国、主として熱帯地域諸国からの野生生物の輸入を行っていることが分かる。
1980年代前半でアフリカゾウが密猟等によりその個体数が約半分にまで減ってしまったため、1989年(平成元年)のワシントン条約締約国会議ではアフリカゾウ及び象牙の商業の目的の取引禁止が決定された。この禁止措置は保護に向けた他の努力ともあいまって効果を発揮し、密猟が激減するとともにゾウの個体数は増加しつつあり、ケニア北部のようにいったん根絶させられた地域にまでゾウが戻りつつある例もある。一方、南部アフリカの一部には、ゾウの個体数管理や間引きの必要な地域もある。
(3) 生物の汚染
汚染物質の中には、大気・水質・土壤・底質といった様々な環境の自然的構成要素間にまたがってその存在が確認されているものがあり、こうした環境要素に依存して生息している生物も汚染の可能性にさらされている。
生物は、特定の有害重金属や化学物質を濃縮して蓄積し、大気や水質などに比べて高いレベルの汚染を示すことが知られている。また、生物における測定値はある期間の汚染の蓄積状況の指標であることから、人の健康や生態系に対して問題があると考えられる物質の環境中での挙動、汚染レベルの推移の把握、各種の公害対策の総合的な効果の把握など多くの点で有意義なデータとなる。
一般環境中に残留する化学物質の早期発見及びその濃度レベルの把握を目的とした魚類に関する平成4年度の化学物質環境調査結果によると、調査対象11物質のうち2物質が検出されたものの、検出濃度等からみて直ちに問題となるものではなかった。また、継続的に行っている生物モニタリング調査結果によると、24物質が検出された(第4-6-7表)。
さらに、ダイオキシン類など非意図的に生成される有害化学物質についても有害化学物質汚染実態追跡調査として昭和60年度から環境残留性を調査している。平成4年度の調査の結果、ダイオキシン類による一般環境の汚染状況は、現時点ではヒトの健康に被害を及ぼすとは考えられないが、低濃度とはいえ、ダイオキシン類は検出されており、今後とも引続きその汚染状況の推移を追跡して監視することが必要である(第4-6-8表)。