河川の水質の状況における河川の名称
我が国の水質汚濁の状況は、環境基準の設定されている有害物質についてはほぼ環境基準を達成している。その他の有害化学物質については、微量なレベルではあるが水質や底質等から検出が続いている状況にある。また、有機汚濁については、なお4分の1の水域で環境基準を達成しておらず、特に湖沼や内海内湾等の閉鎖性水域及び都市内河川の改善が進んでいない状況にある。さらに、地下水については、有機溶剤や硝酸性窒素が検出される例が依然として存在している。また、良好な水辺環境が失われつつある。
(1) 重金属・有害化学物質など
平成4年度の公共用水域水質測定結果によると、水質環境基準の健康項目については、不適合率(調査総検体数に占める環境基準を超える検体数の割合をいう)は0.01%であり、近年ほぼ横ばいで推移している。この不適合率は、昭和46年度においては0.63%、47年度において0.28%であったが、排水規制の強化・徹底や鉱害防止事業の実施などにより、現在では大幅に改善されてきている(第4-2-1図)。また、トリクロロエチレン等従来の水質目標値を超える割合も、平成4年度は0.02%(3年度は0.03%)とほぼ横ばいで推移している。
また、一般環境中に残留する化学物質の早期発見及びその濃度レベルの把握を目的とした水質に関する平成4年度の化学物質環境調査結果によると、調査対象17物質のうち8物質が水質から検出されたものの、検出濃度等からみて直ちに問題を示唆するものはないと考えられる。また、継続的に行っている水質モニタリング調査結果によると、7物質が検出された。
さらに、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の指定化学物質等についての環境残留性を調査する指定化学物質等検討調査の結果によると、対象とした4物質すべてが水質中から検出されたが、これまでの調査結果と比較して汚染状況に大きな変化は認められなかった。
また、ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の状況については、平成4年度の調査結果によると、指針値を超過する検体の比率は少なくなってきているものの、依然として指針値を超過している事例がある。
我が国では、昭和40年代から重金属や有害化学物質について環境基準の健康項目の対象として水質測定を行うとともに、排水規制を実施してきたが、近年多種多様な化学物質が広範に使用されてきている状況に鑑み、化学物質による水質汚濁を未然に防止する観点から、平成5年3月に水質環境基準の健康項目について大幅な拡充強化を行い、新たにトリクロロエチレン等15項目を環境基準に追加するとともに、微量に検出される物質であっても公共用水域の継続的な水質測定を行うために要監視項目25項目を設置したところである(第4-2-1表、第4-2-2表)。また、追加された環境基準の健康項目の達成を図るため、5年12月には水質汚濁防止法の排水基準の項目追加等を行ったところであり、従来からの規制項目を含め、水質汚濁防止法の適正な実施を図ることとしている。
また、水質汚濁防止法において現在規制が行われていない化学物質については、引続き化学物質環境調査等必要なモニタリングを行うことにしている。
また、農薬による環境汚染の防止を図るため、農薬取締法の適正な施行を図るとともに、ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁防止のための暫定指導指針に基づき、地方公共団体と協力して適正使用の指導を行うこととしている。なお、水田で除草剤として使用されているクロルニトロフェン(CNP)については、一日当たり摂取許容量が設定されるまでの間は登録保留基準を設定しないこととした。
諸外国の主要河川の鉛及びカドミウムによる汚染状況の推移は第4-2-2図のとおりであり、多くの先進国の河川で改善の傾向にあるが、一部の開発途上国では有害重金属により深刻な汚濁が指摘されている。
(2) 有機汚濁等
我が国では、生活環境を保全する上で維持することが望ましい環境上の条件として水質の環境基準を定めており、河川では生物化学的酸素要求量(BOD)・水素イオン濃度(pH)・浮遊物質量(SS)・溶存酸素量(DO)・大腸菌群数の5項目、湖沼では化学的酸素要求量(COD)とpH・SS・DO・大腸菌群数及び全窒素・全リンの計7項目、海域ではCOD・pH・DO・大腸菌群数とn-ヘキサン抽出物質(油分等)及び平成5年8月に追加された全窒素・全リンの計7項目となっている。これらの生活環境項目については、水域ごとの水道取水等の利水状況などを踏まえた類型と水域の範囲ごとの類型にそれぞれ当てはめるような各水域の特性を考慮した環境基準となっている。
水域の生活環境では有機物による汚濁により最も影響を受けるため、有機物による汚濁と関連の深い指標であるBOD(河川)又はCOD(湖沼と海域)を代表項目として、公共用水域の水質を測定している。平成4年度の生活環境項目(BODまたはCOD)の環境基準達成率は全体で75.2%(3年度は75.0%)、河川で75.4%(同75.4%)、湖沼で44.6%(同42.3%)、海域で80.9%(同80.2%)であり(第4-2-3図)、湖沼における全窒素または全りんの環境基準の達成率は、39.6%(平成3年度は31.3%)となっている。この環境基準達成率については、河川はやや改善の兆しがみられるが湖沼は依然として低い水準で推移し、海域の達成率は80%程度と他の水域と比べ高い達成率を維持している。
湖沼・内海・内湾等の閉鎖性水域では、外部との水の交換が悪く汚濁物質が蓄積しやすいため水質の改善や維持が難しい。湖沼においては富栄養化の進行により、水道水の異臭味・漁業への影響・透明度の低下といった問題も生じており、水質改善対策が急務となっている。また、湖沼に流入するCOD汚濁負荷の発生源は生活系・産業系・畜産系など多岐にわたっており、その割合は湖沼流域の土地利用や産業構造等によって異なる。代表的な湖沼である琵琶湖・霞ヶ浦及び水質汚濁の著しい手賀沼のCOD濃度の推移をみると、霞ヶ浦及び手賀沼については改善が認められるが、琵琶湖については概ね横ばいの状況にある。
また、閉鎖性の海域については、「水質汚濁防止法」「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づき東京湾・伊勢湾・瀬戸内海についてCODに係る水質総量規制が実施されており、この3海域の流域における環境基準達成率(COD)は伊勢湾及び瀬戸内海・大阪湾については近年横ばいで推移しており、東京湾については平成4年度においては3年度に比べ改善の状況にある(第4-2-4図)。
汚濁の状況が著しい都市内河川の一部では近年改善の傾向にあるものの、依然として汚濁は大きいものとなっている(第4-2-5図)。これは都市域の拡大等により生活系排水等の大都市周辺の河川への負荷が大きくなっているためであり、下水道及び地域の実情に応じた合併処理浄化槽等の生活排水処理施設の整備など生活排水対策や河川等の直接浄化事業等が続けられている。平成4年度の調査では我が国のBOD高濃度水域上位河川は第4-2-3表のとおりであり、主な汚濁原因をみると第1位の揖保川下流は産業排水、第2位の弁天川は生活排水、第3位の備前川は生活排水となっている。
「湖沼水質保全特別措置法」は、湖沼の水質保全を図るとともに国民に健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的として、水質環境基準の確保が緊要な湖沼を指定湖沼として霞ヶ浦・印旛沼・手賀沼・琵琶湖・児島湖・諏訪湖・釜房ダム貯水池・中海・宍道湖の9湖沼を指定するとともに、湖沼水質保全計画を策定し、水質汚濁防止法による規制に加えて水質汚濁発生源に対するきめ細かな規制を行うなどの特別な措置を講じている。
閉鎖性の海域では汚濁物質が蓄積しやすいという特性があり、窒素及び燐が流入し全国の中でも高い濃度となっており、藻類その他の水生生物が増殖し繁茂することに伴い水質が悪化するという富栄養化が進行している。このため赤潮が発生し、漁業被害・悪臭・海水浴場の利用障害・海浜の汚染といった問題が生じているとともに、有機物の増加によりCODが増大し環境基準の達成が困難になるほか、青潮の発生などのDOの低下をもたらしている。環境庁では、平成5年8月に海域の窒素及び燐に係る排水基準を設定し、同年10月から閉鎖性の高い全国88海域について排水規制を実施しているほか、まず、東京湾・伊勢湾・大阪湾において窒素及び燐の環境基準の類型指定を行い有機汚濁防止対策と併せて富栄養化防止対策の推進を図るよう進めている。
一方、近年、公共用水域においては有害でないフミン質等の有機物が水道原水の浄水過程で注入される塩素と反応して生成する物質であって発がん性が疑われているトリハロメタンに対する国民の不安感が大きく、水道水源として利用されている公共用水域の水質の保全についても、特別の対策が求められている。このため、我が国では、「特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法」により、水道水源となっている公共用水域において水質の保全に関する施策を、規制・事業を含め総合的かつ計画的に講ずることとしている。また、「水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律」により、都道府県計画、河川管理者事業計画に基づき、水道原水の水質の保全に資する事業の実施を促進することとしている。
先進諸国における主要な河川と湖沼の水質の状況をBOD・全リン・全窒素についてみると第4-2-6図のとおりであり、総体的には改善傾向にあるが一部横ばい又は悪化している河川や湖沼がある。
(3) 海洋
海洋は、陸上の汚染が水の働きにより移されて蓄積されるなど汚染物質が最終的に行きつく場所となることが多く、広大な海洋ではあるものの人間の活動に伴い、海洋の汚染が世界的に確認されるに至っている。
平成5年に我が国周辺地域において海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は762件で、前年846件に比べ約10%減少し過去最も低い値となった(第4-2-7図)。このうち油による汚染は445件と全体の約6割と高い割合を占め、油以外のもの(廃棄物、有害液体物質(ケミカル)、工場排水等)による汚染は277件、赤潮は40件であった。油による汚染は船舶からの汚染が約8割を占め、原因別に見ると取扱不注意が最も多く、次いで故意及び海難となっており、海難が減少した反面で故意によるものが増加している。油以外のものによる汚染は廃棄物が最も多く、原因では故意によるものが大部分を占めている。
平成4年度に環境庁で実施した日本近海海洋汚染実態調査では大阪湾南方・沖繩南方・下関北方・内湾域の29測点において、全水銀・カドミウム・鉛等の重金属やPCBなどを調査しているが、各物質とも概ね過年度と同じレベルであった。また、気象庁が実施した日本周辺及び北西太平洋海域におけるバックグランド汚染観測においても例年と同じレベルであった。また、海上保安庁の実施した平成4年度における日本周辺海域等における海洋汚染調査では、海水、海底土中の石油、PCB、重金属等の測定を行い、長期的には毎年多少の増減はあるものの、ほぼ横這い又は減少傾向の結果を得ている。
日本近海海洋汚染実態調査では浮遊性廃棄物調査を実施しており、その目視調査では陸岸から50海里を境として沿岸と沖合いとに区分してみると沿岸域、特に瀬戸内海でやや多い傾向が見られ、発砲スチロールやその他の石油製品が多くいずれも大きさ50cm未満のものがほとんどであった(第4-2-8図)。一方、微小浮遊物の調査では各測点とも10mm以下のものが多くみられ、植物・石油化学製品が最も高率を占めていた。
海面に浮遊する廃棄物に関しては、海鳥や海獣などの海洋生物がレジンペレット(プラスチック製品の原料になる細粒)やその他プラスチック類などを餌と間違えて摂食し障害を起こしたり、流出した漁網やロープ類及びプラスチックバンドなどに絡まって死亡したりするなどの影響が問題となっているが、昭和62年度から平成3年度まで水産庁が実施した海上漂流物目視調査では、プラスチック類は日本沿岸及び東部太平洋を中心に北緯25度から40度の間に高い密度で分布していた(第4-2-9図)。この調査により発見された漂流物の種類別内訳は、発泡スチロールが25.4%、その他のプラスチックが22.1%、流れ藻が20.3%、漁具(漁網以外)が11.8%、木片が6.2%、流木が5.4%、ガラス製品が2.2%などであった。
油による汚染については、気象庁の海洋バックグランド汚染観測では日本周辺海域で浮遊タールボール(油塊)が観測されており、船舶からの故意及び取扱不注意の原因のほか、大規模な被害に結びつくおそれがある海難事故による原油の流出が懸念されている。平成元年(1989年)3月のアラスカ沖でのタンカー「エクソン・バルディーズ号」の座礁で約4万キロリットルの原油が流失した事故では、約3万羽の海鳥が死にニシン漁ができなくなるなど大きな被害が出たことを始めとして、5年(1993年)1月のタンカー「マースク・ナビゲーター号」がインドネシア・スマトラ島沖で起こした事故や6年(1994年)3月のタンカー「セキ号」がオマーン湾で起こした事故など、依然として積載原油が流出する事故が絶えない状況にある。
こうした流出原油は自然環境中で分解されるまでに長い年月がかかり、海洋動植物などの自然生態系に大きな影響を与える可能性が高いため、国際海事機関(IMO)を中心としたタンカー船体の二重化のような船舶に対する汚染防止対策など海洋汚染防止に向けた国際的取組が進展している。また、船舶からの油・有害液体物質等の排出による海洋汚染の防止を目的としたマルポール73/78条約附属書と廃棄物の海洋投棄による汚染の防止を目的としたロンドン条約附属書の一部改正を受けて、有害液体物質等の範囲の改正、南極海域における有害液体物質の排出の禁止、産業廃棄物の洋上焼却の禁止、ベリリウム等を含む廃棄物に係る海洋投入処分の規制強化等を内容とする「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令」等の改正が行われた。
なお、平成5年4月にロシア連邦政府が公表した白書により、旧ソ連・ロシアが多年にわたり日本周辺海域に放射性廃棄物を投棄してきたことが明らかになった。また、平成5年10月にはロシアは日本海において液体放射性廃棄物の投棄を行った。
これらの投棄に対処するため、政府の放射能対策本部(本部長:科学技術庁長官)幹事会の決定により、平成5年の春及び秋に、日本海において緊急の海洋環境放射能調査が実施された。
これらの調査結果をとりまとめた放射能対策本部幹事会は、「現在までの調査によれば異常な値は検出されておらず、かかる海洋投棄により国民の健康に対して影響が及んでいるものではない」旨の判断を行っている。
(4) 底質
河川や湖沼及び海域の底質には、様々な経路からもたらされた多くの種類の汚染物質が蓄積していることが考えられる。我が国ではかつての著しい産業公害の過程で、水銀を含むヘドロの汚染などが明らかになり、全国で合計約2,813万m
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に及ぶ底質のしゅんせつが行われている。
一般環境中に残留する化学物質の早期発見及びその濃度レベルの把握を目的とした底質に関する平成4年度の化学物質環境調査では、調査対象15物質のうち9物質が底質から検出されたものの、検出濃度等からみて直ちに問題となるものはなかった。また、継続的に行っている底質モニタリング調査結果によると、20物質すべてが検出された。
環境庁では、化学物質の合成過程や燃焼過程などで意図せずに生成されるダイオキシン類などの化学物質による環境汚染が問題となったことから、昭和60年度から有害化学物質汚染実態追跡調査を実施している。平成4年度の調査の結果、ダイオキシン類による一般環境の汚染状況は現時点では、ヒトの健康に被害を及ぼすとは考えられないが、低濃度とはいえダイオキシン類は検出されており、今後とも引続きその汚染状況の推移を追跡して監視することが必要である(第4-2-4表)。
(5) 地下水
地下水は良質で水温の変化の少ない貴重な水資源であり、現在でも都市用水の約3割は地下水に依存している。昭和50年代後半より、トリクロロエチレン等による地下水汚染が顕在化し、地下水汚染実態調査等において広範な汚染が判明した。例えば、千葉県の君津市では主に生活用雑用水として使用されている井戸水で地下水評価基準(0.03mg/l)を超えるトリクロロエチレンの汚染が発見され、汚染面積が約53haという大規模な汚染であることが判明している。地下水の汚染はある程度周辺に広がりを持ち、また過去に発見された汚染井戸は回復が困難であることが分かっており、評価基準等を超過した井戸では飲料用の井戸も含まれているため、必要な汚染対策が講じられている。
平成元年6月には「水質汚濁防止法」が改正され、有害物質を含む水の地下浸透を規制するとともに、国と地方公共団体は地下水水質の汚濁状況の常時監視を実施することとなった。平成4年度の地域の全体的な地下水質の状況の把握を目的とした概況調査では、評価基準等を超過している井戸の割合はトリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについてはそれぞれ0.4%と0.7%、カドミウムについては0.1%、砒素については0.2%、総水銀については0.1%、1,1,1-トリクロロエタンについては0.1%であり、シアン化合物・PCB他の物質については超過した井戸はみられなかった。
トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンなどについては平成元年度以降若干減少傾向にあるものの汚染は依然として各地で見られているため、概況調査等により新たに発見された汚染について、その汚染範囲確認を目的とした汚染井戸周辺地区調査や汚染の継続的監視等の定期モニタリング調査を実施している。トリクロロエチレンについては汚染井戸周辺地区調査では3.5%、定期モニタリング調査では9.0%、またテトラクロロエチレンについては汚染井戸周辺地区調査では6.3%、定期モニタリング調査では19.7%の井戸で評価基準の超過が高くなっている。
また、硝酸性窒素による地下水汚染問題は多肥集約農業に伴う窒素肥料の多量使用により1960年代に欧米で顕在化した。硝酸性窒素より容易に還元される亜硝酸性窒素は、メトヘモグロビン血症、いわゆるチアノーゼ症状を引き起こすため、我が国では硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素について水道法に基づく水道水質基準(10mg/l)が設定されている。我が国においても、序章第2節206/sb1.4.2>に示したように水道水源となっている地下水の汚染例が見られるほか、平成4年度に11府県が行った地下水の概況調査結果によれば5.4%の井戸で硝酸性窒素濃度が要監視項目としての指針値(10mg/l)を超えており、今後とも硝酸性窒素による地下水汚染の実態を把握するべく調査・研究を進める必要がある。
(6) 水辺環境
人々の生活や社会経済活動との係わりの深い河川や海域などにおいては、都市化の進展などによって埋立等の人工的な改変が行われ、水辺の生き物の生息環境が損なわれたり、身近な湧水が枯渇し河川の流量が減少するなど、良好な水辺環境が失われつつある。さらに、近年では水辺への関心が高まってきており、快適な水辺環境が求められるようになってきている。
都市内部では身近な湧水の枯渇や水量が低下する事例が発生しており、湧水を水源とする中小河川の流量が減少する傾向にある。平成4年の東京都の地下水実態調査報告書によると、東京の都心部の湧水の状況は明治期より2年の調査時点までに枯渇あるいは消滅した湧水は約180ヶ所以上になるとされ、市街地の中小河川や水路では、平常時の水量が著しく減少し、降雨時以外には水流が消滅したものもある(第4-2-10図)。河川や水路は水辺の生物や水生生物などの生息地としてだけでなく、多様な動物の繁殖地や生息地である様々な緑地をつなぐ移動ルートであるため連続した水辺環境が必要であり、また環境基準の達成が困難な河川や水路では浄化対策とともに河川水量の確保が必要なことから、清流の復活といった水の流れを保全する動きが見られる。
海岸などの公有水面においては、公共的用地や産業廃棄物の最終処分場を陸地に求めることは困難になってきているため依然として公有水面埋立の要請は強く、東京湾の臨海部では現在も各種の開発が計画され、水辺環境の持つ自然浄化能・親水機能・豊富な水産資源が損なわれる等の水辺環境への悪影響が懸念されている(第4-2-5表)。
また、東京湾・伊勢湾・大阪湾においては富栄養化の進行がみられるため、環境庁では全窒素及び全リンに係る環境基準の水域類型の指定を行うよう進めているところであるが、閉鎖性水域ではその自然特性を把握した上で、干潟や浅瀬・砂浜・緑地などの自然が有する浄化機能を見直すことも考えられている。例えば、全国各地の池沼や河岸及び湿地に群生するアシは、水中や土壤から無機塩類の吸収を行うとともに、根圏での種々微生物による浄化も行うとの研究もされており、アシ原が水圏と土壤圏が最も接近した環境として独特の生態系を有していることがいえる。
汚濁のないきれいな水のある水辺では、魚が棲み水遊びができるなど精神的なやすらぎやレクリエーションの場としての人々の心を豊かにし、快適な水辺環境を作りだしている。環境庁及び建設省等では、昭和59年より全国河川の水生生物調査を実施しており、カゲロウやサワガニなど身近な自然の水生生物を調査することにより水域の水質を把握するといった一般市民等の参加による調査を行っている。
また、水辺は古くから個性的な景観を作りだしており、護岸や河川沿いの空間整備に際して、周囲と調和のとれた親水性の高い水辺環境も求められている。例えば、山口市の一ノ坂川の自然石の護岸・水辺の植栽等によりホタルの呼び起こしに成功した例や横浜市の自然水を利用し少ない水量でもせせらぎが楽しめるような工夫を行っている例がみられる。こうした水辺環境の保全については、地方自治体において対策が実施されており、東京都では快適で良好な水辺環境を保全・創出していくための水辺環境保全計画を、また宮城県仙台市では広瀬川の水辺環境を保全し快適環境を作っていくなどの対策が講じられている。