前のページ 次のページ

第3節 

4 各国の制度的枠組みの見直し

 世界各国は、今後、共通の、しかし、差異のある責任の下、持続可能な開発を実現すべく地球サミットの成果を着実に実行していかなくてはならない。地球サミットで集約された全世界的なコンセンサスを受けて、先進国は、その経済社会構造を、大量の資源を消費し、大量の廃棄物を排出するという持続不可能な形の経済社会から、地球環境は有限であるという認識のもと、環境への負荷の少ない持続可能な社会へと変革すべく努力を強化している。また、開発途上国は、環境保全と開発を統合した持続可能な開発を目指し努力を開始した。
(1) 我が国の基本法制の見直し
ア 中央公害対策審議会及び自然環境保全審議会の答申
 我が国では、これまで公害防止に関しては「公害対策基本法」(昭和42年制定)、自然環境の保全に関しては「自然環境保全法」(昭和47年制定)を基本的な法制として政策が進められてきた。しかし、今日の環境問題は、人間の幅広い経済社会活動による環境への負荷の増大が環境の悪化をもたらすとともに、それが地球的規模という空間的広がりと将来世代にもわたる影響という時間的な広がりを持つ問題となっている。このような背景から、環境庁では、平成3年12月、「地球化時代の環境政策のあり方について」を中央公害対策審議会及び自然環境保全審議会に諮問し、さらに地球サミットの成果を踏まえ、翌4年7月、前記の諮間事項のうち、「環境基本法制のあり方について」が中央公害対策審議会企画部会及び自然環境保全審議会自然環境部会に付議され、基本法制についての具体的な検討が開始された。これら審議会では、濃密な審議を進め、10月20日に答申を環境庁長官に提出した。
 本答申では、まず、今日の環境政策の対象領域が、公害対策基本法や自然環境保全法が対象としている領域よりも広範なものとなっていることに加え、環境そのものを総合的にとらえることが必要となっていることや、政策の手法面から見れば、従来からの規制的手法では不十分であって、多様な手法を適切に適用して経済社会システムのあり方や行動様式を見直していくことが必要であること、さらには、積極的に地球環境保全のための国際的枠組みづくりに貢献し、環境協力を行っていくことが必要であることを指摘した上、今日取り組むべき課題に適切に対処していくためには、公害対策基本法と自然環境保全法の二つを柱とするこれまでの枠組みでは十分でないとして、現在の新しい状況に応じた新しい基本法制の整備が必要と指摘した。答申では、このため、環境政策の基本的理念とこれに基づく基本的施策の総合的枠組みを含む基本法が定立されるべしとし、基本的理念、国、地方公共団体、事業者、国民の責務のほか、11の項目にわたって基本的な施策に係わる事項のあり方を答申した。
イ 環境基本法案
 この答申を受け、政府では、政府部内の調整、法制上の検討を進めたが、翌5年3月8日、法案の大綱を取りまとめ、内閣総埋大臣より中央公害対策審議会及び自然環境保全審議会に諮った上、同月12日に法案を閣議決定し、国会に提出した。
 「環境基本法案」では、第1に、環境の保全についての基本理念として、環境の恵沢の享受と継承等、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等及び国際的協調による地球環境保全の積極的推進という三つの理念を定めるとともに、国、地方公共団体、事業者及び国民の環境の保全に係る責務を明らかにしている。
 第2に、同法案では、環境の保全に関する施策に関し、まず、施策の策定及び実施に係る指針を明示し、また、環境基本計画を定めて施策の大綱を国民の前に示すものとするとともに、環境基準、公害防止計画、国等の施策における環境配慮、環境影響評価の推進、環境の保全上の支障を防止するための規制の措置、環境の保全上の支障を防止するための経済的な助成又は負担の措置、環境の保全に関する施設の整備その他の事業の推進、環境への負荷の低減に資する製品等の利用の促進、環境教育、民間の自発的な活動の促進、科学技術の振興、地球環境保全等に関する国際協力、費用負担及び財政措置など基本的な施策を規定している。
 第3に、同法案は国及び地方公共団体に環境審議会を設置すること等を規定している。
 これらのうち、基本理念は次のとおりであり、そこには、地球サミットの成果や我が国における環境保全の長年にわたる取組の成果と到達点が活かされ結実している。すなわち、まず、第1の理念は、「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人問の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤たる環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない」ことである。また、第2の理念は、「環境の保全は、社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようになることによって、健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、及び科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として、行われなければならない」ことである。第3の理念は「地球環境保全が人類共通の課題であるとともに国民の健康で文化的な生活を将来にわたって確保する上での課題であること及び我が国の経済社会が国際的な密接な相互依存関係の中で営まれていることにかんがみ、地球環境保全は、我が国の能力を生かして、及び国際社会において我が国の占める地位に応じて、国際的協調の下に積極的に推進されなければならない」ことである。
(2) 各国における制度的枠組みの見直し
 他の先進国、開発途上国においても、地球サミットの成果の具体化策の一環として、法律その他の制度的枠組みの整備拡充を図っている。
 米国では、1992年(平成4年)10月には、上院で気候変動枠組条約の批准を承認した。また、1993年(平成5年)1月に民主党のクリントン大統領が誕生し、ホワイトハウス内に環境政策局を設置することを決めたほか、ブッシュ前大統領の下で進めていた環境保護庁の省昇格についての議会での審議の促進を図っている。このほか、ハイレベルのワーキング・グループを設置し、開発と保護を巡って意見の分かれている森林問題等につき検討を開始している。オーストラリアでは、1992年(平成4年)12月、従来より検討中であった持続的開発に関する国家戦略等を取りまとめ、これに沿って対策を開始した。ECでは、1992年12月、持続可能な経済社会づくり等に向けた第5次の環境計画(「持続可能性に向けて」)を決定した。ドイツでは、従来から進められていた環境法典編纂作業を加速させつつあり、オランダでは、広範な分野をカバーする環境基本法として、様々な社会活動に関する実質的な条件を規定するべく「環境管理法」の制定作業を順次進めている。デンマークでは、地球サミットの準備過程にあった1991年(平成3年)に、持続可能な開発を理念とし、人間のみならず動植物にとっての環境の保護も目的とする環境法を制定したほか、東欧の環境問題解決のために、「東欧諸国における環境保全活動に対する補助金に関する法律」を制定し、地球サミットを受けてその施行の段階に入っている。また、アジアにおいては、フィリピンでは、地球サミットのフォローアップのため、1992年(平成4年)9月、政府に持続可能な開発に関する評議会が設置された。
 このように、各国においても行政の枠組み、法的な枠組みの見直しが進められ始めている。地球サミットが社会を大きく変えつつあると言えよう。

前のページ 次のページ