前のページ 次のページ

第3節 

2 地球サミットの成果

 1992年(平成4年)6月3日から14日にかけてブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた地球サミットでは、全体会合、政府代表演説、主要委員会、100余国から参加した各国首脳による首脳会議及び閣僚級の全体会合が行われた。我が国からは、中村環境庁長官(当時)が政府代表として演説を行い、我が国の過去の経験からみて環境保全と経済発展の両立は可能であり、我が国としても地球温暖化対策を始めとして地球環境問題の解決に向け最大限の努力をすることを表明した。また、宮沢総理はやむを得ず出席できなかったが、総理演説は公式記録として会場で配布され、その中で我が国は、1992年度(平成4年度)からの5年間に環境分野の政府開発援助を9000億から1兆円を目途に大幅に拡充強化することなど、我が国が地球環境保全に重要な役割を担う決意であることを表明した。これらの演説は、各国及び参加団体から大きな評価を受けた。また、6月13日には、気候変動枠組条約と生物多様性条約に著名を行い、他の諸国と共にこれらの条約に参加し地球環境の保全に向けて努力していく方針を明らかにした。
 首脳演説では、各国も環境保全に向けた積極的姿勢を表明した。米国は、森林関係の二国間援助を倍増するほか、国際的な環境援助に関して1990年(平成2年)レベルの66%増とする用意があることを表明、英国は、地球環境ファシリティ(GEFと呼ばれ、世界銀行等により管理され、地球環境保全に資するプロジェクトに無償を中心とした資金供給を行う仕組み)の資金枠の拡大、アジェンダ21の実施状況の定期的公表とフォローアップの重要性を訴えた。また、ドイツ、フランス、カナダなども相次いで資金援助の拡大方針を表明したほか、ポルトガルはECを代表して、アジェンダ21における重要な計画などに対し新規かつ追加的な資金を含む40億ドルをできる限り早期に提供することを表明するなど、各国は資金援助について積極的姿勢を示した。一方、パキスタンはG77(国連における開発途上国のグループ)を代表して、悲惨な経済状態にある途上国が環境問題に取り組むことの難しさ、途上国における開発の権利とそのための特恵的条件による技術移転の重要性、貧困の撲滅に係る地球及び国レベルでのより衡平な資金分配、途上国の人口抑制責任、新規かつ追加的な資金供与の重要性などを訴えた。
 地球サミットでは、準備会合や本会議を通じて、環境保全に重点をおく先進国と開発及び貧困問題の解決を重視する開発途上国との間の様々な対立点について議論が深まり、世界的な合意が形成された。具体的には、21世紀に向けての国家と個人の行動原則である「環境と開発に関するリオ宣言」、同宣言の諸原則を実行するための行動計画である「アジェンダ21」、全ての種類の森林の重要性の認識及び森林保全と持続可能な管理の必要性を訴えた「森林原則声明」が採択されるとともに、「気候変動に関する国際連合枠組条約」及び「生物の多様性に関する条約」が署名のために開放された。その主な成果は次のとおりである。
(1) 環境と開発に関するリオ宣言
 「環境と開発に関するリオ宣言」は、全世界的なパートナーシップを構築し持続可能な開発を実現するための行動原則であり、環境と開発を巡って先進国と開発途上国の間で交わされた議論の到達点を集約したものとなっている。地球サミットの準備過程、あるいは、それ以前からの先進国と開発途上国の間の議論の焦点であった地球環境問題の責任論については、第7原則で、「地球環境の悪化への異なった寄与という観点から各国は共通のしかし差異のある責任を有する」とし、先進国も開発途上国も共通して地球環境保全の責任を有するが、これまで地球環境に与えてきた負荷の程度等に鑑み、責任の程度において、先進国と開発途上国では差異があるとしている。これは、現在の地球環境の悪化を引き起こしたのは、主として先進国の社会経済活動によるところが大きいが、限りある地球の一員として、開発途上国も持続可能な開発を実現し地球環境を保全していく責任があるという考え方を示している。
 リオ宣言は、1972年(昭和47年)のストックホルム会議の「人間環境宣言」に沿い、さらにこれを拡張する形で、全部で27の原則を定立したものとなっている。開発する権利に関する議論を受けて第1原則では、人類は、自然と調和しつつ健康で生産的な生活をおくる資格があることを、第2原則で、各国は自国の資源を開発する主権的権利を有するが同時に各国の活動が他国の環境に損害を与えないようにする責任があることを謳っている。また、第3原則では、開発の権利の行使は、現在及び将来の世代の開発及び環境上の必要性を公平に充たす必要があること、第4原則で、環境保護と開発の一体性を、そして、第5原則で持続可能な開発のために貧困の撲滅に協力して取り組む必要があることを示している。また、女性や青年、先住民などあらゆる主体がそれぞれの立場で持続可能な開発の実現に取り組まなければならず、平和と開発及び環境保護は相互依存的かつ不可分であり、さらに、各国及び国民は本宣言の諸原則の実施に、誠実に、かつパートナーシップの精神で、協力しなくてはならないとしている。
(2)アジェンダ21
 アジェンダ21は、環境と開発に関するリオ宣言の諸原則を実行するための21世紀に向けた具体的な行動計画であり、前文及び?社会的、経済的要素、?開発のための資源の保全と管理、?主要な社会構成員の役割の強化、?実施手段の4部で構成され全40章からなっている。その中で、大気保全、森林、砂漠化、生物多様性、海洋保護、廃棄物対策などの具体的問題についてのプログラムを示すとともに、その実施のための資金、技術移転、国際機構、国際法の在り方等についても規定している(第3-3-1図)。
 地球サミットの準備過程でも主要な論点であった資金問題に関しては、資金供給システムについては、地球環境賢人会議の東京宣言の方向に即して、地球環境ファシリティ(GEF)を強化、拡充するなど既存のメカニズムを活用すること、また、先進国からのODAについては、先進国が既に受け入れ済みの国連目標を再確認するとともに、できるだけ早期にこれに到達することなどのため援助プログラムを増進させることを謳っている。また、技術移転については、「譲許的及び特恵的な条件を含む、相互に合意する最も好意的な条件で」技術移転を行うこと、先進国の枝術への途上国のアクセスの拡大を促進することで合意した。このほか、砂漠化防止についての条約交渉の開始や温暖化問題に対して様々な分野で経済的措置を含む対策の総合的な推進を図ることなどが合意された。さらに、国別の行動計画(ナショナル・アジェンダ21)の策定が求められるとともに、地方自治体の行動計画(ローカル・アジェンダ21)の策定を促し、あらゆる主体がこれに参加することが必要であるとしている。これらに加え、地球サミットの成果の実現に関するフォローアップのために、国連の経済社会理事会の下に持続可能な開発委員会を新設し、アジェンダ21の実施状況を監視すること及び国連事務総長に高級諮問評議会の設置を要請することで一致をみた。


(3) 気候変動枠組条約、生物多様性条約への署名等
 気候変動枠組条約は、大気中の温室効果ガスの濃度の安定化の達成を究極の目的とし、地球温暖化を防止するための取組の枠組みを確立するための条約であり、地球サミットの直前の1992年(平成4年)5月9日に採択され、地球サミットの場において各国の署名のために開放された。本条約では、特に、先進締約国等は二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を1990年代の終わりまでに従前のレベルまで戻すことが、条約の目的に寄与するものであるとの認識の下、政策を採用し、措置をとること、また、採用した政策、措置の詳細及びその効果の見積り等に関する情報を二酸化炭素等の排出量を1990年レベルに戻すという目的を持って、締約国会議に送付し、締約国会議は、これらの情報に基づき、この条約の実施状況、条約の目的の達成に向けての進捗状況等を評価することとされている。我が国は、6月13日に署名を行ったが、地球サミット期間中に155カ国が署名した。
 生物多様性条約は、生態系、生物種、遺伝子の3つのレベルの多様性を保全し、生物資源を持続可能であるように利用し、また、遺伝資源から得られる利益の公正で衝平な配分を目的とする条約で、条約交渉過程で資金メカニズム、知的所有権、バイオテクノロジーなどについて活発な議論がなされたが、1992年(平成4年)5月22日に採択され、地球サミットの場において署名のために開放された。本条約では、生物資源保全のための各種の措置を規定するとともに、開発途上国支援のための資金メカニズム等を規定している。我が国は、6月13日に署名を行い、地球サミット期間中に157カ国が署名を行った。
 森林原則声明は、森林の経営、保全、持続可能な開発に貢献し、森林の多様かつ補完的な機能の保持と利用を行うための原則を示したもので、条約化の推進については合意を得られなかったものの、森林保全と持続可能な経営の重要性を表明した世界で初めての国際的な合意となった。我が国は、準備過程の議論に積極的に参加し、議論の方向づけに多大な貢献をなした。
(4) その他の成果(NGOの取組等)
 地球サミットは、参加国数、参集した首脳の数の点で、史上最大規模であったが、同時に地方公共団体やNGO(非政府団体)も多数参加し、地球サミットに関連する様々な催しを行った。6月4日には、環境問題に関する我が国のこれまでの経験や取組を紹介するとともに、今後、日本が果たすべき役割について率直な意見交換を行うために、13カ国、8国際機関の関係者、約250名が参加して、ジャパン・デーが開催された。
 5月28日〜29日には、ブラジルのクリチバで、世界各国から55都市の参加を得て、世界都市フォーラムが開催され、「持続可能な開発に向けてのクリチバコミットメント」が採択された。また、6月3日にリオ・デ・ジャネイロで行われた国連地方自治体表彰では、地球環境保全のための対策に先進的な取組をしている世界各国の12自治体が表彰されたが、我が国からは、環境に関する国際協力に先進的に取り組んできた北九州市が受賞した。
 このほか、我が国からの11団体・企業を含む世界21カ国の480団体・企業が、環境上健全な技術を出展した国際環境技術博覧会は、延べ入場者数は15万人にも達した。さらに、世界各国のNGOによる会議、シンポジウム、展示等種々の行事が開催された92グローバル・フォーラムや、世界28カ国に所在する先住民関連団体が集まり、「カリオカ宣言」及び「先住民族地球憲章」を採択した先住民族世界会議なども行われた。

前のページ 次のページ