2 求められる経済社会の姿
産業革命以降、人類の社会は、基本的に、利潤あるいは国民総生産(GNP)の大きさなど経済的尺度で図った豊さを増加させることを大きな目標として、発展を進めてきたといえる。工業化が推進され、市場経済の中で経済活動が行われ、各主体の利益の追求が全体としての経済成長をもたらしてきた。しかし、このような社会の発展が、一方では、様々な環境問題を発生させてきたことも否めない。今日では1で述べたように、人類の活動が地球全体の制約に突き当たる程の規模に達しており、影響の範囲が地域にとどまらず、人類自身の生存の基盤となっている地球環境全体に不可逆な影響を与えるおそれがでてきている。一方、途上国を中心として、貧困が経済の基盤でもある環境を堀り崩し、より貧困を進めるという現象が広く生じてきている。
このような状況を受けて、人類社会が目指すべき発展のあり方として国際的に打ち出されてきたのが「持続可能な開発」の考え方である。「持続可能性」については、昨年度の本報告書において、詳細にその考え方の展開をあとづけたところであるが、基本的な視点を要約すると次のとおりである。
「持続可能性」とは、歴史的にみれば、漁業資源の乱獲競争の反省から生まれた「最大維持可能生産量」の理論を通じて、資源利用の「持続可能性」について論じられるようになったのが最初である。これは、魚類等の再生可能な生物資源については、その資源のストックから生み出される純再生産量だけが利用可能であって、それ以上の利用を行えば、ストックが減少し、資源の枯渇を招くということを前提に論じられたものである。このような考え方が、1970年代以降、人類の活動が環境と人類自身に破局を招かないための政策の方向の考え方として頻繁に提案されるようになった。それが「持続可能な開発」という考え方である。この言葉を一般的に定着させたのは、国連環境計画(UNEP)において我が国がその設置を提唱して発足した「環境と開発に関する世界委員会(WECD)」により1987年(昭和62年)に公表された報告書「我ら共有の未来(OurCommon Future)」である。
「持続可能な開発」は、WECDのこの報告書によれば、「将来の世代の二一ズを満たす能力を損なうことがないような形で、現在の世代の二ーズも満たせるような開発」と定義されている。
1980年(昭和55年)に発表された国際自然保護連合(IUCN)、UNEP及び世界自然保護基金(WWF)の「世界環境保全戦略」は、「持続可能な開発」の考え方を初めて広く訴えたものであるが、1991年(平成3年)にその改訂版として発表された「かけがえのない地球を大切に(新世界環境保全戦略)」では、「持続可能な社会」の基本原則として9点を上げている。
? 生命共同体を尊重し、大切にすること
? 人間の生活の質を改善すること
? 地球の生命力と多様性を保全すること
? 再生不能な資源の消費を最小限に食い止めること
? 地球の収容能力を越えないこと
? 個人の生活態度と習慣を変えること
? 地域社会が自らそれぞれの環境を守るようにすること
? 開発と保全を統合する国家的枠組みを策定すること
? 地球規模の協力体制を創り出すこと
このように、持続可能な経済社会を作るための社会的枠組みに必要な条件について、様々な角度から検討が深められてきている。