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第3節 

3 相互に補完し合う環境改策と貿易政策を目指した取組の状況

 各国及び地球規模での環境保全と、自由な貿易による世界的な生産要素の効率的利用を通じた各国国民の経済的福祉の向上とは相互に補強的でありうるし、またそうしていくことが望ましく、適切な環境政策と適切な貿易政策による対応が必要となっている。1992年に開催されたOECD閣僚理事会のコミュニケは「貿易政策と環境政策は、特に、貿易上・環境上悪影響をもたらす政策介入が除去され、環境上の利益及びコストが国内的、国際的な価格に内部化される場合には、持続可能な開発を追求する上で、相互に支援するものとなり得る。」と述べ、このような考えを確認している。
 開発途上国の持続的な開発を可能とするために、先進国と開発途上国との間にどのような対応が求められるかについては、地球サミットで合意されたアジェンダ21においても言及がなされている。その中では特に、様々な貿易上の措置が途上国産品の先進国市場へのアクセス、途上国産品の多様化を損なっていると指摘している。具体的には、開発途上国の発展のための資金は、先進国市場へのアクセスを制限する関税や非関税措置(クリフエスカレーションを含む。)によって確保しにくくなっている可能性があるとされ、他方、先進国における、生産・輸出補助金については、競争力の低い生産を助成する措置を削減するよう求めている。このような文言が盛り込まれた背景としては、1980年代(昭和50年代後半)、途上国が開発を進める上で、自国の輸出品の価格の低迷、特に一次産品の価格の低迷によって、交易条件が悪化し、収入が減少し、経済的に苦しんだことが大きい。
 環境と貿易との間に一層望ましい関係を築くことについては、GATTやOECD等の場でも検討が始まっている。
 GATTでは、環境問題への関心、取組が様々な場で広がってきていること、環境問題が地球的・越境的に広がったことを背景として、GATTと環境保全との関係が議論されるようになっている。GATTでは1971年(昭和46年)の理事会において「環境対策と国際貿易に関する作業部会」の設置を決定した。この作業部会は長い間開催されていなかったが、最近の環境への関心の高まりを踏まえ、1991年(平成3年)11月に会合の開催し、その後、この作業部会では、環境関連の多国間の取決めとGATTとの関係、貿易に対して影響を及ばしうる国内環境規制の他国への透明性、環境保護を目的とした新たなパッケージングやラベリング規制の貿易に与える影響の3点について検討作業を進めている。
 OECDは、1991年(平成3年)l月の環境委員会閣僚レベル会議において貿易と環境との問題について検討作業を行うことを決定した。この作業の進捗状況を踏まえつつ、翌92年(平成4年)の閣僚理事会のコミュニケでは環境及び貿易政策の両立性を改善するための適切なガイドラインを作成し、環境規制及び環境関連貿易措置が貿易に対する偽装された障壁として作用することにならないようにするための一層の分析的作業と討議を進める方針を明らかにしている。
 前述のITTOは、国連貿易開発会議(UNCTAD)の下の商品協定の一つである国際熱帯木材協定(ITTA)を運用し、同協定の実施を監視するための機関であり、熱帯木材の生産国、消費国の双方が加盟している。熱帯木材の貿易は、場合によっては熱帯林の減少に密接な関係があり、ITTOにおいても熱帯林の持続可能な開発に向けた取組を行っている。ITTOは、前述した熱帯木材貿易についての西暦2000年の目標を、その第8回理事会(1990年(平成2年))において採択し、具体的な実施方法の検討を行っているほか、例えば1989年(平成元年)に決定・実施したマレーシア・サラワク州の持統的森林経営に関する調査では、代採量の削減等を含む具体的な森林経営改善のための勧告を行うなど活発に活動している。なお、我が国は世界最大の熱帯木材輸入国であり、ITTO本部(横浜)のホスト国としての立場も踏まえ、ITTOの活動に積極的に参画しているところであり、また前述の「西暦2000年目標」達成のため、具体的な諸施策を実施している。
 以上のとおり、貿易と環境保全との間に、相互に補強し合うような関係を築いていくには多くの分野で地道な作業が必要であり、国際的な取組が必要である。世界貿易の中で、恩恵を受けてきた我が国としては、これら作業に積極的に参画していくとともに、国民も企業も我が国の今日の便利で豊かな生活や高度な経済活動が、国内のみならず、国外の環境に多くを負っていることを十分に理解し、この問題を自らの問題として取り組んでいくことが期待されている。

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