2 環境政策が貿易に与える影響
貿易には、消費者の消費財選択の幅が広がることに加え、貿易に参加する国がそれぞれ相対的に高く販売できる輸出財の生産に一層多くの資源を投下し、それで得た所得を相対的に安く購入することができる輸入品に支出することによって、それぞれの国の国内資源の利用効率が高められるという利点がある。一方、環境政策の中には自由な貿易に影響を与える場合があり、また、環境保全のために貿易を制限することが認められる場合がある。
第1に、国内の環境問題に対する貿易制限措置については、GATTルールの下、第20条の(b)項及び(g)項において環境に配慮する条項が規定されている。これらの条項では、(b)人、動物又は植物の生命又は健康のために必要な措置、(g)有限天然資源の保存に関する措置については、国際貿易の偽装された制限とならないような方法等で適用することを条件に貿易制限的措置をとることが認められている。
第2に、絶滅に瀕した動植物及びその加工品や有害廃棄物等、環境保全の観点から国際的な取引の規制が必要なものについては、条約等国際的な合意に基づき、貿易制限措置がとられる場合がある。野生生物の国際取引に関するワシントン条約、有害廃棄物の越境移動に関するバーゼル条約はその典型的な例である。
第3に、各国の環境政策が、結果として、自由な貿易に対する間接的な制限となっている場合がある。例えば、自動車に関しては、各国は自動車の走行時での排出ガスの量などについての規制、いわゆる製品基準を設け、環境保全を図っている。この基準は各国の自動車の利用形態などを反映して、国ごとに異なっているのが現状である。このため、自動車排出ガス規制の相対的に厳しい国へ自動車を輸出しようとする他国の自動車メーカーは、その国への輸出については、特別の排出ガス処理装置を積載するなどの対応を取る必要がでてくる。こうした追加的な対応を要することは、これだけを取り上げてみれぱ、貿易に影響を与える要自動車メーカーは、その国への輸出については、特別の排出ガス処理装置を積載するなどの対応を取る必要がでてくる。こうした追加的な対応を要することは、これだけを取り上げてみれば、貿易に影響を与える要因となる。最近では環境保全目的で行われるパッケージングやラベリング規制が結果として貿易に悪影響を与えることが懸念されており、仕組、運用によっては偽装された国内産業保護措置となる可能性のある政策も考えられる。
また、環境政策としての補助金の利用は貿易を歪めうる。OECDでは、汚染者負担の原則(P.P.P.)すなわち、公害対策費用を汚染者が負担するという原則を確立しており、ある国が企業の公害対策費用を政府の補助金で賄うことによって、貿易を歪曲させることがないようにすることを求めている。
第4に、他国に対し、世界と協調した環境対策を行うよう促そうとする場合に、貿易への制限が手段として使われることがある。こうした例には、締約国に対し、非締約国との間の規制物質等の輸出入を禁じているオゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書がある。これとは別に、独自に自国の管轄外の環境保全を理由にした貿易制限を一方的に行い、貿易上の紛争を引き起こすことがある。例えば、米国はキハダマグロの捕獲が他の海洋生物を混獲するような方法によって行われることを理由に、キハダマグロ製品の輸入制限を行った。これに対し、メキシコは同措置をGATT違反であるとしてGAFF23条に基づく紛争処理パネルに訴えた。この案件を検討したパネルは、米国のとった措置をGATT11条違反との判断を下した。
以上のような貿易に影響を与える環境政策を、自由貿易との関係でどう考えるかは、今後国際的な取組が必要な問題、この点については、次に述べるGATTやOECDの作業を通じて検討が進められている。