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第1節 

4 森林、特に熱帯林の保全

(1) 問題の概要
 熱帯林は食糧、肥料、燃料等の供給源として、森林に依存して生活している住民にとってはまさに生活基盤と言えるものである。また、木材ばかりでなく、医薬品の原料等の非木材生産物の供給源であり、さらに、世界の野生生物種の約半数が熱帯林に生息すると言われているなど遺伝子資源の宝庫でもある。もちろん、国土保全、水源かん養など各種の環境調整機能も有し、人類全体の福祉にとっても不可欠の存在である。
 国連食糧農業機関(FAO)の最新レポートである森林資源評価プロジェクトの中間報告によれば、この10年間で年平均およそ1,700万ha(わが国の約半分の面積に相当)の熱帯林が減少し続けていると推測されている。熱帯林の焼失等による大面積の森林の消失が、大量の二酸化炭素を放出して地球温暖化を加速する一因となっているとの指摘もある。熱帯林消失の原因は地域によっても違いがあり、非伝統的な焼畑耕作、過度の薪炭材採取、不適切な商業伐採、過放牧などが指摘されているが、人口増加、貧困、土地制度等の社会的経済的な背景など、様々な要因がからんでおり複雑である。
(2) 対策
 平成3年度においては、1992年6月の地球サミットを控え、熱帯林を含む世界の森林保全と持続可能な開発のための議論が、その準備会合を中心に様々な国際会議等を通じて行われ、我が国もそれらの会議に出席し、合意形成に向けて積極的な貢献を行った。
 当初、欧米先進国の一部は森林に関する条約の策定を目指していたが、開発途上国側が自国の森林資源の利用に対する先進国からの一方的な規制につながりかねないと強く反発したため、第2回の準備会合では、地球サミットまでに“法的拘束力はないが権威ある森林の原則に関する”世界的な合意を図ることで意見の一致をみた。議論の最大の争点の一つは、森林減少の主たる責任は先進国にあるとする先進国責任論に基づき、先進国から途上国への支援は補償として無条件に行われるべきものであるとの途上国側の主張である。
 地球サミットでは、森林の保全と持続可能な開発に関する原則の声明及び行動計画であるアジェンダ21に含まれる森林減少、劣化防止(保全)対策が採択される見込みである。
 森林問題に関するその他の主な国際会議としては、平成3年7月横浜において国際熱帯木材機関(ITTO)と林野庁の共催によりシニアフォレスター会議が開催された。これは各国の森林管理に直接携わっている森林官等が集まり、熱帯林問題の解決に向けて林業技術の専門家の立場から実践的な議論を行ったもので、「横浜森林林業宣言」を取りまとめた。
 また、9月にはパリで「森林〜未来への遺産」をテーマとして第10回世界林業大会が開催され、「パリ宣言」を採択した。
 我が国は、このような地球サミットに向けた国際的な議論への取組とともに、従来からの二国間、多国間協力についても引き続きその推進に努めた。
 二国間協力では、森林造成、人材育成、森林関係研究等を中心とする林業協力を東南アジア、大洋州、アフリカ、中南米などにおいて実施してきており、このうち国際協力事業団(JICA)を通じて、12か国、14プロジェクトのプロジェクト方式技術協力を実施中である(平成4年3月1日現在)。
 多国間協力では、ITTO(本部横浜)に対し、その活動を引き続き支援するため加盟国中最大の資金拠出を行った。ITTOは「2000年目標」(西暦2000年までに持続可能な管理の下にある熱帯林から生産される木材のみを貿易の対象とすること)を掲げ、その具体的実施方法に向けての検討を開始しており、平成3年12月の第11回理事会では我が国を含む16カ国が「2000年目標」を達成するための国別の施策を発表した。また、FAOの熱帯林行動計画(TFAP)については、アジア太平洋地域の各国の計画作成能力の向上を目的としたプロジェクトに拠出を行った。また、TFAPの運営体制等について改善の検討が進められている。また、東南アジアを中心として各地域における焼畑耕作等の実態調査、農村開発の手法について検討している。さらに、CGIAR(国際農業研究協議グループ)の森林保全研究について支援を拡充している。
 熱帯林の調査研究では、地球環境研究総合推進費による熱帯林生態系解明のための研究が、国立の試験研究機関を中心にマレイシアの多雨林をフィールドにして本格的に開始されるとともに、海洋開発及び地球科学調査研究促進費による熱帯林の変動とその影響等に関する観測研究が、国立試験研究機関によってタイの熱帯林をフィールドとして引き続き行われた。
 民間においてもさまざまな熱帯林保全のための取組みが行われるようになっている。例えば、三菱商事はマレイシア・サラワク州における熱帯林再生のためのフタバガキ科樹種の苗木植栽実験の支援を開始した。日商岩井はパプアニューギニアにおいて持続可能な森林生産を目指して、現地産樹種を中心とした2万ヘクタールの植林計画を進行中である。

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