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第1節 

3 地球環境問題と南北間の利害調整

 地球温暖化やオゾン層の破壊、熱帯林の減少などの地球環境問題に対する取組が具体的になるにつれ、一層の国際協力が必要となっている。環境と開発に関する世界共通の概念である「持続可能な開発」を政策レベルにまで高めていく際には、南北間で配分すべき環境資源の質的・量的評価をどのように行っていくか、また、地球環境保全のための技術移転や資金協力をどのように行っていくかなどの問題を避けて通れない。
 地球温暖化の原因物質である二酸化炭素等の温室効果ガスの多くは、現在のところソ連・東欧諸国を含む先進国の経済社会活動を通じて排出されている割合が約4分の3と高い。IPCCによるエネルギー起源の二酸化炭素の年間排出量についてみると、1985年では世界の人口の約15%しか占めていないOECD諸国が世界の排出量51.5億トンの約38%を占めている。一方、開発途上国では26%となっている。これを人口一人当たりでみると、活発な経済社会活動を営み、消費生活水準も高い先進諸国が、エネルギー消費水準の高さを反映して高くなっている。また、GDP当たりで比較すると、先進国は第3次産業の比較が高く、エネルギーの利用効率を向上させてきているため低い値を達成している。一方、開発途上国はGDPに換算できない人間活動の存在やエネルギー集約度の高い産業の発展が進みつつあること、エネルギー利用効率が低いこと等により高い傾向にある。今後特段の対策が講じられない場合、開発途上国の排出量は、その生活水準の向上や経済開発のため先進国を上回る速度で増加し、世界の排出量に占める割合が高くなり、2025年には44%に達すると予測されている。(第2-1-1図)。しかしその場合でもなお、一人当たりの排出量は先進国と大きな隔たりがあると予想されている(第2-1-2図)。その他の排出の寄与についてみると、開発途上国の寄与も小さくない。森林減少により生じる二酸化炭素はIPCCでは化石燃料からの二酸化炭素の約3割に相当する約17億トン(炭素換算)と推定されており、そのほとんどは開発途上国の森林に由来している。また、水田や家畜から排出されるメタンや土地利用の改変による亜酸化窒素の放出も開発途上国から由来するものが多いと考えられている。したがって、地球温暖化対策の推進のためには先進国における率先した取組はもとより開発途上国における取組も必要であり、そのための国際協力が不可欠となる。
 また、熱帯林は二酸化炭素を吸収し酸素を供給する地球の肺といわれている。この熱帯林には地球上の種の半分が生息しているとみられており、熱帯林の減少は、これからの人類共通の財産である野生生物の絶滅や温室効果ガスの固定作用の減退等を招いている。
 人類の生存を脅かす地球環境問題といえども、多くの場合、その対策の実行はそれぞれの国家や地方政府の政策に拠っており、国家や地方政府はその管轄する地域の人々の生活に責任を負っている。現在の人々の生活を無視しては、環境保全対策の効果は期しがたい。先進国の人々の生活様式や経済社会活動の見直し、開発途上国における貧困からの脱却を通じて、これらの国や地方の政府が直面している国内の環境問題と地球環境問題の解決を、ともに可能ならしめる条件を作っていくことが極めて重要である。

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