前のページ 次のページ

第2節 

10 自然環境の現状

(1) 全国の植生の特徴
ア 植生の自然度
 我が国は、降雨量が多く、また温帯に属していることから森林の生育に極めて適しており、森林植生の面積が国土に占める比率は昭和62年度において約7割と高く、その水準は世界的にみても極めて高いものである。
 しかしながら、森林の内容は大きく変化してきている。環境庁の「自然環境保全基礎調査」によると、自然状態を保った「自然植生」、すなわち植生区分の「寒帯・高山帯」、「ブナクラス域」、「ヤブツバキクラス域」の各自然植生と「河辺・湿原・塩沼地・砂丘植生」は、全体で国土面積の19.3%と2割を切っている。しかも自然植生は、その58.7%が北海道に分布しているほか、東北及び中部の山地や沖縄に多くみられる。一方、近畿、中国、四国、九州では分布が非常に少なく、小面積のものが点在しているに過ぎない。
 また、自然林・二次林は減少し、昭和47年度の47.1%が62年度には43.2%となっている。一方で植林地が20.9%から25.0%へと増加しており、この植林地に耕作地、市街地などを加えた人工的な地域は国土の半分以上の53.3%に達する。森林面積自体は高い水準を保っているものの、自然度は大きく低下してきているといえる。
イ 樹林帯の多様性
 我が国は、南北に長く広範な気候帯を含んでいることから、多様なタイプの森林を育んでおり、北海道北部の亜寒帯性常緑針葉樹林帯、本州中部以北から北海道南部にかけての温帯性落葉広葉樹林帯、本州中部以西から四国、九州にかけての暖帯性照葉樹林帯、沖縄の亜熱帯林に大きく分けられる。
 温帯性落葉広葉樹林帯の代表的なブナ林は、自然林を代表するものであり、自然林全体の21.6%を占めている。また、「みどりのダム」といわれるように大きな保水能力を有し、環境を維持・形成する上で極めて重要な役割を果たしている。ブナ林はその分布の中心が冷温帯の山地にあったため、耕作地化、市街地化といった人間による強度の干渉をあまり受けずに比較的広い範囲で残存してきている。しかし、その分布域は山地部に限られ、分断されており、太平洋側では更に標高1,000m以上に限定されている。また、その周辺地に二次林や植林地が食い込んできており、分布域は狭められてきている。
 シイ、カシ、タブなどの暖帯性照葉樹林帯は西日本から関東の平野部にかけて我が国の西半分を覆うように分布していた。その分布域が古くから稠密な土地利用が行われてきた地域と一致することから、現在では、国土の1.0%、森林の1.5%と残存する面積は極めて小さい。
(2) 身近な自然環境
 戦後の我が国の高度経済成長の時期に我が国の人口、経済活動の都市、特に東京への集中が進行し、それに伴って、都市の周辺における雑木林や草原などの身近な自然環境は著しく減少する結果をもたらした。
 都道府県別の植生状況をみると、緑がほとんど存在しない植生自然度1(市街地、造成地など)の比率の高い都府県は、大阪(40.0%)、東京(37.7%)、神奈川(36.4%)と大都市圏に集中しており、これを東京区部などに限定すればほぼ100%に達し、全国平均の4.0%に比べ非常に高い比率を示している。
 海岸線については全国平均の自然海岸率が56.7%(昭和59年度)であるのに比べ、東京湾では9.67%、伊勢湾では20.39%と著しく少なく、人工海岸化が進んでいる。
 また、大都市及びその周辺の河川、湖沼は自然性が失われている。
 東京などの大都市地域では、人口密度が高い地域が拡大し、経済活動の活発化・集中の進行に並行して、樹木の減少、海岸の埋立てが進み、それに伴って動植物の生存地域も後退していった。

前のページ 次のページ