前のページ 次のページ

第2節 

6 その他の大気汚染物質対策

(1) 石綿対策
 石綿(アスベスト)は有用な物質として多くの製品に使用されているが、発がん性などの健康影響を有するものであり、これによる大気の汚染、ひいては人の健康への影響の未然防止のための措置を講ずることが喫緊の課題となっている。環境庁では昭和50年から環境大気の石綿の濃度の把握などの調査検討を進めてきたが、それらの結果に基づき昭和62年度には、石綿製品等製造工場周辺等の発生源周辺地域において環境大気中の石綿濃度や発生源対策等の調査を実施し、専門家からなる「アスベスト対策検討会」において調査結果の評価を行った。その結果、一部の石綿製品等製造工場周辺において一般環境の数十倍〜数百倍に達する高濃度の石綿が測定されるなど、排出抑制の十分な実施が疑われる場合があることが判明した。このような濃度が今後とも継続した場合には、肺ガン及び悪性中皮腫のリスクが相対的に高まることとなるため、工場周辺における石綿濃度を世界保健機構(WHO)が『石綿に起因する肺ガン及び悪性中皮腫のリスクは検出できないほど低い』としている濃度範囲におさえる必要があるとの評価がなされた。
 こうしたことを考慮し、平成元年3月、中央公害対策審議会において、石綿製品等製造工場から発生する石綿による大気汚染の防止のための制度の基本的な在り方についての答申がとりまとめられ、これを踏まえ、同年6月に「大気汚染防止法の一部を改正する法律」が公布された。
 改正法では、粉じんのうち石綿その他の人の健康に係る被害を生じるおそれのある物質を特定粉じんとし、これに伴い、特定粉じんを発生する施設を特定粉じん発生施設とした上で、特定粉じんの規制措置として特定粉じん発生施設の設置等の届出、計画変更命令等、特定粉じんの規制基準の遵守義務、改善命令等、特定粉じんの濃度の測定等の規定が設けられた。本改正法は平成元年12月27日付けで施行されたが、今回は特定粉じんとして石綿を、特定粉じん発生施設として石綿を含有する製品の製造の用に供する施設のうち、切断機等の9施設をそれぞれ指定し、石綿製品等製造工場に対して大気汚染防止法による規制が適用されることとなった。
 また、石綿製品等製造工場に対する大気汚染防止法による規制以外の石綿対策としては、今年度から建築物の改修・解体工事における石綿の飛散実態の調査等を実施しているところである。
(2) 有害物質に対する対策
 大気汚染防止法では、ばい煙発生施設から発生する「有害物質」として、窒素酸化物のほかに、?カドミウム及びその化合物、?塩素及び塩化水素、?ふっ素、ふっ化水素及びふっ化けい素、?鉛及び、その化合物を規制している。?〜?の有害物質に係る排出基準は、有害物質の種類ごとに限られた種類のばい煙発生施設に対して設定されているが、これは、有害物質の発生が特定の原料に起因しているためである。ばい煙発生施設において、これら以外の原因により発生する粒子状の物質については、全て「ばいじん」として規制が行われている。
(3) 未規制物質対策
 大気汚染を未然に防止する観点から、有害性が懸念されている未規制物質の中から物質を遂次選定し、排出濃度、環境への影響等に係る調査を行っている。調査の結果、現在直ちに大気中の濃度が問題となるレベルではないものの長期的には環境への影響が懸念される物質については、環境濃度の推移を把握していく必要があるため、アスベストについては昭和60年度から、ホルムアルデヒド及びダイオキシン類については61年度から、水銀については62年度からそれぞれ隔年で継続的なモニタリングを実施しており、平成元年度からは、有機塩素系溶剤についてもモニタリングを開始した。
(4) 地球温暖化対策
 大気中の二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等の温室効果気体の増加による地球温暖化については、気候の変化、海水面の上昇、土壌水分量の変化等を生じさせることにより、農業生産の地域特性の変化や生態系の変化等をもたらし、地球の環境及び社会経済に大きな影響を及ぼすことが懸念されている。
 地球温暖化問題については、予測される影響の大きさを考慮するならば、温暖化のメカニズム等の解明が十分でない分野の調査研究を強力に推進すると同時に、手遅れにならないうちに実行可能な対策から早急に着手する必要があり、国内的にも省エネルギーの一層の推進等着実な取組に努めている。
 また、環境庁では、二酸化炭素をはじめメタン、一酸化二窒素等の温室効果気体の環境中での動態解明等温暖化のメカニズムに関する調査研究を進めるとともに、「地球温暖化問題に関する検討会」による料学的知見の総合評価や対応策の在り方等についての検討を行い、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」等の国際的な検討に積極的に参画しその成果を反映させた。
 さらに、科学技術庁、農林水産省、通商産業省、気象庁等においても所要の調査研究が進められている。
(5) 酸性雨対策
 酸性雨は、北米やヨーロッパにおいて、湖沼や森林等の生態系に深刻な影響を与え、国際的な問題ともなっている。我が国においては、このような状況の発生は報告されていないが、生態系に対する被害が明白となった時点では手遅れであることなどから、酸性雨の発生機構の解明等所要の調査研究を行い、その結果を踏まえて必要な対策を検討することとしている。
 環境庁では、我が国の酸性雨の状況と影響を把握するため、昭和58年度から62年度の5か年で第1次酸性雨対策調査を実施した。その結果、全国的に年平均値でPH4台の酸性の雨が降っていること等が明らかになり、現在のような酸性雨が今後も降り続けるとすれば、生態系への影響が発現する可能性があることが懸念されている。
 このため、環境庁では63年度以降も引続き監視のための大気、陸水及び土壌の総合パイロットモニタリング及び雨水成分等の分析、酸性雨生成モデルの開発並びに生態系への影響等の調査研究を計画的に行っているところである。
 また、昭和63年度から、全国23か所の国設大気測定所において酸性雨監視を行うとともに、元年度には我が国のバックグランドを予測する目的で離島(長崎県対馬、島根県隠岐)に酸性雨測定所を設置した。
 さらに、通商産業省、気象庁等においても、所要の調査研究を進めている。
(6) 普及・啓発活動等
 地域の環境保全のために住民自らが果たすべき役割が増大していることから、住民が身近な環境に接し、身近な環境を見直していく機会を増やしていくために、昭和63年度から「全国星空継続観察(スターウォッチング・ネットワーク)」に取り組んでおり、全国の自治体等の施設の参加を得て星空観察を実施し、大気保全への関心を深めるとともに、平成元年7月には、地域における大気保全に対する取組やふるさとの環境を活かした各種の取組の推進について話し合うため第1回「星空の街・あおぞらの街全国大会」(芦別市)を開催した。
 また、オゾン層保護に関する国民の理解を深めるために、パンフレット、かべ新聞等を作成して配布した。

前のページ 次のページ