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第1節 

3 経済政策への環境保全の統合

 アルシュ・サミットの経済宣言にも言うように、「環境保護は、貿易、開発、エネルギー、運輸、農業及び経済計画等の問題と不可分である。したがって、経済上の決定を行うに当たっては、環境に対する考慮が払われなければならない。実際、優れた経済政策と優れた環境政策は、相互に補強し合うものである。」さらに、昨年9月の政府主催「地球環境保全に関する東京会議」議長総括は、「持続可能な開発の要請は、貿易、直接投資、国際金融、政府開発援助といった国際経済の既存の枠組みのみならず、まさに、各国の国内経済、財政、金融政策の見直しを求めるものである。」ことを強調した。
 しかしながら、貧困と環境破壊の悪循環に悩む開発途上国においてはもちろんのこと、我が国を含めた先進工業国においても、持続可能な開発の実現は容易なことではない。南北間の経済力格差が開く一方でますます相互依存の関係を深めている世界経済の安定的発展については、なおさらのことである。実現へ向けての第一歩として、まず何より、現在の我が国の経済運営、エネルギー利用、資源管理等環境に関連する様々な政策や制度・体制が果たして持続可能な開発の理念に沿うものとなっているか否かを検討してみる必要があろう。
 また、持続可能な開発の観点から経済政策を評価するには、そのための何等かの指標が必要であるが、現在世界中で広く用いられている国民総生産(GNP)あるいは国内総生産(GDP)では必ずしも十分ではない。我が国では、かつて経済企画庁により環境汚染の被害と防止対策のコストにも配慮した純国民福祉(NNW)指標が開発されたことがあるが、その後広く採用されるには至らなかった。そこで、アルシュ・サミットは経済協力開発機構(OECD)に対し「経済と環境の統合」を示す新しい指標の開発を求めたが、我が国もOECDでの検討作業には積極的に参加し、寄与していくべきである。
 これに関連して注目されるのは。フランス、ノールウェー、スウェーデン等の国で数年前から試みられ、国連、OECD等の国際機関でも検討されている「環境資源勘定」の考え方である。これは、土地(土壌)、森林、湖沼、化石燃料等の環境資源のストックとしての存在量及び質を何らかの物的または金銭的尺度で評価して、一年(あるいは一年を超える一定期間)の始めと終わりで収支がどのように変化したかを定量的に表そうというものである。なお、これは現在のところ完全にGNP指標に置き換えられるものではなく、GNPによる国民経済計算と並べて経済政策の決定に当たっての参考とされるものである。

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