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第3節 

4 森林資源の持続的利用に向けた今後の政策展開

 我が国は世界の先進国の一角として、また、熱帯諸国と貿易等を通じて相互依存関係にあり特に熱帯林資源と深い関わりを有する国として、率先して森林の保全、造成に取り組んでいかねばならない。
(1) 国際的な枠組み強化
 現在推進されている熱帯林行動計画やITTOによる活動も、その成否は、開発途上国政府の主体的取組と各国政府による人的、資金的資源の動員にかかっている。このため、世界全体が共通の理解のもとに協調した取組を展開することが必要である。我が国は、今後とも森林の持続可能な利用に向けての国際的な合意形成に率先的な役割を果たしていくとともに、ITTOの活動への協力を推進したり、国別の熱帯林行動計画の策定及び策定した計画の着実な推進に向けて幅広い方面から取組を強化するなど森林の持続的な利用に向けての枠組み強化に貢献していかねばならない。また、世界的な森林の状態の把握のためには、統一的な手法による全地球的なモニタリングが必要であり、我が国としては自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)を始めとする各種の調査等で培ったノウハウや衛星による観測技術を駆使して、この分野の枠組みの強化に貢献していくことが必要である。
(2) 基礎的研究と実効的な援助の推進
 森林資源の現状や減少による影響の把握等基礎的な分野における調査研究を推進するとともに、開発途上国における持続可能な森林資源の利用に向けて、森林経営のあり方や森林の再生産技術の開発、未利用樹種の利用等林産業の技術開発、開発途上国におけるエネルギー利用の効率化等の幅広い分野にわたり調査研究を進めていくことが必要である。特に、森林の再生については、ノールトヴェイク宣言においても、今世紀中に森林の減少と増加を均衡させ、来世紀の初めには1,200万haずつ森林面積を増やしていくとの暫定目標について検討することが表明され、開発途上国からの強い要請もある一方で、熱帯地域においては土壌や気候条件が厳しいこと等森林再生を難しくしている条件があり、樹種の選定や育林方法等について、自然生態系と調和した森林が回復されるよう一層の技術開発・技術移転のための努力が必要とされている。また、森林保護区や自然公園の設定、管理、野性生物の保護等も強化していく必要がある。
 これらの諸施策の実施に当たっては、熱帯林行動計画やITTO等を通じた取組のほか、二国間レベルの援助についても、被援助国において、森林保全、造成に関する要請順位が低く、費用負担能力も乏しいこと等を踏まえて援助の推進を図ることが必要である。また、平成元年(1989年)12月には国際マングローブ会議において、マングローブの世界的な保護を図っていく目的で「国際マングローブ生態系協会」の本部の沖縄設置が決定されたところであり、今後は国際連合教育科学文化機関(UNESCO)及び日本国際マングローブ協会等と協力しながらマングローブの保全と持続可能な利用に関する調査・研究を促進していくこととしている。さらに、NGOsや企業による農業生産性の向上や造林事業を促進するため、側面から支援していくことも必要とされる。こうした観点から民間の海外造林投資拡大に向けて海外投資等損失準備金制度の拡充がなされたところである。
(3) 木材貿易及び途上国への投資の見直し
 熱帯林木材経済におけるその生産国と消費国との間の国際的な協力を目的として設立されたITTOが十分に機能するように引き続き支援を行っていくとともに、特に林産品の加工度、付加価値を高めるための施策を進めていくことが必要である。
 また、開発途上国における森林の持続可能な利用にかなう林産業を開発・振興するための投資の促進を図ることも望まれている。さらに、最近、いくつかの商社では、熱帯林減少問題に対する関心の高まりを受け、熱帯地域の森林の実情把握に努め、熱帯林の持続可能な利用と当該地域における植林事業の実施に向けての検討が開始された。開発途上国の森林減少の問題は、ともすれば開発途上国の経済社会上の問題として扱われてきたが、こうした貿易、投資及び援助等に際して熱帯林の持続可能な利用と保全に配慮していく取組は、今後とも支持されるべきである。
(4) 木材資源の有効利用、再生利用の推進
 木材資源は再生可能な資源であり、加工に要するエネルギーもプラスチック等の他の材料に比べ相対的に少なく、廃棄物としての処理も相対的に容易である。しかし、配慮を欠いた過度の伐採が土壌の侵食や劣化を招き、野生生物の種を絶滅させる等の問題を生じさせていることは既に述べた通りであり、紙消費量の増加はごみの排出量を増大させ廃棄物処理の観点からも大きな問題となっている。木材資源といえども無定量の使用が許されるものではなく、節度を保った利用とリサイクルの促進が望まれるところである。
 2.でみたように、紙については一部の行政機関や企業において古紙の分別回収や上質紙から古紙再生紙への代替が進められており、一部の小売店では過剰包装自粛の取組がはじめられているが、こうした取組を一層拡大していく必要がある。また、特にその著しい減少が問題となっている熱帯広葉樹材の使用については、できるだけ高級家具や内装材など熱帯広葉樹材が本来有する特性が生かされ、かつ、他への代替が難しいような付加価値の高い用途に使われるように努める必要があり、さらに、不要となった家具等も手を加えて必要とする者へ斡旋できるようリサイクルマーケットの形式を促進・推奨するなどの措置が講じられる必要がある。
(5) 国内の森林の保全・整備と持続可能な利用の推進
 今や森林資源の保全は世界規模で考えねばならないことはアルシュ・サミットの経済宣言等でも明らかにされており、特にノールトヴェイク宣言では、世界全体の森林面積の純増を図るため、熱帯及び温帯の両方で適切な森林管理が奨励されると同時に活発な林業計画が展開されるべきことが唱われている。既に米国では、ブッシュ大統領により民有地に年間10億本ずつ植林を行っていく計画が発表されている。我が国もこうした国際的合意を踏まえて、国内の森林の保全・整備に努めなければならない。
 また、実際の生活は森林とのかかわりが希薄化している一方で、森林の国土保全機能等への期待は高く、緑を求める国民の欲求も増大している。近代化、都市化の中で国民の生活から切り離されることが多くなった森林を、自然観察やハイキングなどふれあいの機会の整備、森林管理への国民の参加、資金の拠出等を通じて国民生活に密着したものへと取り戻していくことが必要となっている。
 さらに、熱帯林の減少が地球的規模の環境問題となっている今日、熱帯木材の最大の輸入国である我が国は、従来の木材消費、木材貿易のあり方を見直し、国産材の利用を拡大していく必要にも迫られている。
 我が国の森林のあり方については、こうした背景を踏まえ、長期的視野と幅広い観点から国民による議論がなされ、強力に施策を推進することが必要となっている。具体的には、それぞれの森林の自然的・歴史的特質を踏まえて木材生産、国土保全、文化的教育的利用、自然環境保全等の要請に応えていくことが必要である。脊梁山地など国土の骨格を形成する地域の自然林等では、自然環境と国土の保全の観点等から保全を基本とした取り扱いと、自然力を生かした計画的な木材生産活動の推進といった要請を地域の条件に応じ慎重に調整していくこと、特に自然性の高い森林等保全を旨として管理すべきものについては、自然環境保全制度、自然公園制度、保安林制度等各種方策の推進などにより貴重な国民的資産として適切な保全を図ることが必要となっている。また、かつて国民の日常生活と深いかかわりを有していた里山地域の二次林等については児童生徒の学習の場や山村における都市との交流拠点などの多様な要請に対し、自然環境や国土の保全に留意しつつ総合的な利用方策を講じること等を通じて森林としての維持・保全を図っていくことが求められている。さらに、都市近郊に残存する森林は、生活環境の保全や教育的観点などから保全を基本とするとともに、身近な緑とのふれあいの拠点としての整備を進める必要がある。また、都市内の緑を保全・創出していくため、例えば、兵庫県では昭和58年度から4か年に1億本の植樹植林計画が立てられ、「東京都緑の倍増計画」では21世紀に向けて既成市街地における樹木本数を2億本にするといった目標を掲げて緑の量的、質的な整備に向けた計画的な取組が行われているが、こうした取組を継続し、他の地域でも拡大していくことが重要である。
 一方、森林面積の5分の2を占める人工林は成長の最盛期を迎え、蓄積量を増加させており、このストックを国の資産としていかに活用していくかが重要な課題となっている。このため林業生産基盤や担い手の育成等の林業生産体制の整備等を図り、間伐等の保育作業を計画的に実施し、良好な木材としての品質の確保と森林の管理水準の低下を防ぐとともに、森林管理を担う林業や山村の活性化を図ることが急務であり、これに加えて多様な木材需要に対応した多品目、多品質の木材を随時提供し得るような伐採年齢を多様化・長期化していくことが必要となっている。さらに、国民の木材志向の高揚、安定供給体制の整備、素材生産及び流通・加工におけるコストダウン、新しい商品開発・技術開発、消費者志向に即応できる体制整備等の分野で一層の施策強化を図り、国産材の供給を増やしていく努力も求められている。

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