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第3節 

2 我が国と森林資源のかかわり

 西欧の「石の文化」に対して、我が国は「木の文化」と評されるように、日本人は、古来より木造の家屋に住まい、木製の家具や食器を好んで用いてきた。住まいの近くの雑木林は主要な燃料である薪炭材を供給するとともに、木の実やきのこ、山菜等の食菜をもたらし、落葉は田畑の貴重な堆肥となるなど我々の日常生活と密接に結びついてきた。また、森林のもたらす風景美は我が国の絵画や文学にも影響し、鎮守の森や巨木は信仰の対象として崇められるなど、森林は日本人の文化の底流をなしてきたとも言えよう。
 ところが明治以降の急速な近代化、都市化は、我々の日常生活と森林とのかかわりを希薄なものにしていった。燃料は薪炭材から石炭、石油へと転換し、田畑には化学肥料が使われるようになった。そして子供たちは身近に森や木と親しむことも少なく、アスファルトとコンクリートで囲まれた都市の中で育っている。
 一方、我が国は現在でも森林率でみると世界でも有数の森林国である。そして、今日においても屈指の木材大量消費国である。しかし、かつてのようにその木材を産出する森林に親近感をおぼえ、気配りをすることもなく消費生活を営み、森林や木に対し潜在的には愛着を感じながらも、現実には森林と切り離されたところで生活を送ることが多くなっている。
(1) 我が国の木材消費の現状
 我が国の木材消費量は、丸太に換算して年間約1億1千万m
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(昭和63年)であり、国民一人当たり1m
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弱の木材を消費している。
 住宅全体に占める木造住宅の役割は、次第に減少しつつあるものの、昭和58年でも70%以上を占めており、製材の消費量は主要先進国で比較してみると、米国、ソ連に次いで多い。これを国民一人当たりで見ると、北米、北欧より少なく、西欧諸国よりは多くなっている。また、合板についてみると全体の消費量は、米国、日本が多く、国民一人当たりの消費量で比較すると、米国、カナダ、日本がとび抜けて多い(第3-3-7図)。
 また、紙・板紙の消費量についてみると、我が国は米国に次いで多いが、国民一人当たりの消費量で比較すると西欧諸国並みである(第3-3-8図)。
 木材の需要量は昭和30年代から40年代にかけて建築用材、紙・パルプ用原材料を中心に急激に増大したが、その後昭和48年のピークを経て減少傾向にあった。近年、パルプ用材、合板用材を中心に緩やかながら需要が伸びており、全体として昭和57年以降増加傾向を示している(第3-3-9図)。


(2) 外材への依存率の高まり
 我が国の木材自給率は昭和35年の87%以降低下傾向にあり、昭和63年には30%を割った(第3-3-10図)。現在では、量的にも金額的にも、世界で有数の木材輸入国となっており、FAOの林産物統計年鑑によれば、林産物全体の輸入額では世界全体の12%(米国に次いで2位)を占めており、木材に限ってみると、産業用丸太輸入量では38%(世界1位)、製材品輸入量では8%(同3位)、木材パネルでは10%(同3位)、木材パルプでは11%(同3位)をそれぞれ占めている。
 我が国へ輸入される外材の内訳をみると、米材が最も多く、次いで南洋材、北洋材(ソ連材)、ニュージーランド材の順になっており、国別にみると米国とマレーシアからの輸入量が圧倒的に多い。
 熱帯林との関係で注目されるラワン材などの広葉樹材との関係をみると、我が国は世界全体の熱帯広葉樹丸太輸出量の約5割、熱帯広葉樹製材輸出量の約1割、熱帯広葉樹合板輸出量の約2割を輸入しており、近年、製材・合板の輸入が急増し、輸入形態が多様化している(第3-3-11図)。輸入元をみると、丸太については、かつてはインドネシアとマレーシアからの輸入が大部分であったが、現在ではマレーシアからの輸入が9割以上を占めており、マレーシアが輸出する熱帯広葉樹丸太の6割が日本向けとなっている。製材については、インドネシア、マレーシアからそれぞれ約35%、フィリピンから約20%を輸入しており、合板についてはインドネシアから90%以上を輸入している。このように日本の熱帯広葉樹材輸入の大半を東南アジアを中心とする南洋材が占めているが、南洋材の使途についてみると、丸太については合板用が約75%、製材用が約20%、製材については建築用が45%、梱包用が約20%、合板についてはコンクリート型枠、天井板等建築・土木用が約55%、家具用が約25%を占めている。


(3) 日常生活における木材資源のリサイクル利用
 近年、環境問題に対する国民の関心が高まる中で日常生活における木材資源のリサイクル利用の途を探る働きが高まっている。
 そうした働きの一つに古紙再生紙の使用がある。近年、オフィスのOA化等に伴って我が国の紙消費量は急速に増大しているが、これがゴミの排出量を増大させ廃棄物処理の観点から問題となるとともに、木材資源の浪費としても問題視されはじめ、新しいパルプからつくられる紙に代えて、できるだけ古紙を原料として作られた再生紙を使用しようとの動きがみられはじめている。特に最近オフィスで大量に使用されるコピー用紙やコンピューターの打ち出し用紙を再生紙に代えていく取組が行政機関を中心に拡大しており、現在までに14省庁と、43の都道府県、政令市においてコピー用紙等に再生紙が使用されている。また、こうした働きは民間企業の間にも拡大しつつある。
 我が国の紙パルプ産業の原料調達の現状をみると、製紙原料の50%は古紙であり、国産材が約23%、輸入材が約17%、輸入パルプが約10%となっており、古紙の利用率は他の先進国と較べても高い。しかし、近年、雑誌・書籍等に、より薄く軽い上質紙が好まれること等から古紙需要の伸びはおもわしくなく、古紙価格の低迷によって、古紙回収業の経営が難しくなっている。古紙再生紙の利用は、古紙需要を拡大して紙のリサイクルを可能にすることにより、廃棄物の減量化や森林資源の保護、エネルギー消費の節約に資するものであり、今後、一層の促進が望まれる。
 なお、ここで我が国独特の木材の消費形態としてしばしば引き合いに出される割箸の利用の状況をみてみよう。我が国の割箸の消費量は、外食産業の拡大等に伴って増加し、昭和62年において205億膳(国民一人当たり年に約170膳)となっている。原材料の内訳は国産材が約18万m
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(44%)、輸入材が8万m
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(20%)、製品輸入が15万m
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(36%)となっており、国産材としてはエゾマツ、トドマツ、アカマツやスギ、ヒノキなどが使われており、外材としてはエゾマツ、カバなどが多い。製品の輸入は中国から44億膳(製品輸入量全体の54%)、次いでインドネシアから16億膳(同20%)、韓国から9億膳(同11%)、フィリピンから9億膳(同11%)となっており、樹種としては中国・韓国では、アスペン、シナ、カバ、インドネシアではマツ、フィリピンではグバスなどが用いられている。割箸については、その大部分は製材の際に生じる端材や柔らかく耐久性に乏しい樹種等が用いられており、他に有効利用の途のない木材の活用方策になっているという側面もある。しかしながら、使い捨て型の消費文化の拡大は望ましいものでなく、身近な存在である割箸への関心の高まりを契機として、割箸使用のあり方を考える必要があろう。
(4) 我が国の森林の状況
 我が国の森林の賦存状況をみると、森林面積は国土面積3千7百万haの約7割に相当する2千5百万haを占めており、森林率(国土面積に対する森林の割合)で比較するとフィンランドの69%やブラジルの67%、インドネシアの64%と並ぶ世界でも有数の森林国である。一方、国民一人当たりの森林面積は0.21haで、世界平均(0.87ha)の4分の1にも満たない。
 また、森林の内訳を見ると、自然林(26.9%)、二次林(36.4%)、植林地(36.6%)となっており、自然林、二次林が減少し、植林地が増加している。自然林は長い年月にわたる気候条件等の環境との相互関係を経て成立し、継続してきたものであって、学術研究の場等としても貴重な価値をもっている。また、多種の樹木からなる自然林には多様な動物相がみられており、自然林の減少は、少なくともその地域における野生生物の種の減少をもたらすことがある。環境庁の行った第2回自然環境保全基礎調査においても、自然林の減少によってツキノワグマの生息域が分断・縮小されたり生息環境が悪化したことに伴い姿を消してしまったり、えさを求めて渡り歩くことになった結果、人間社会との間にトラブルを発生させている事例などが報告されている。さらに、多様な自然林の減少は人の生活環境にとっても景観の単純化をもたらす面もある。また、二次林はかつては薪炭材を産する場として日常生活に密接にかかわってきたものであり、親しみのある景観や自然とのふれあいの場、あるいはカタクリなど特有の生物の生息の場などとしての貴重性を有するものであるが、近年、適切な管理がされなかったり、都市化の流れのなかで住宅等へ転用されるなどにより、このような森林を身近なものとして親しむことが難しくなってきている。
 さらに、都市における草地等をあわせた緑被の状況を東京都についてみると、第3-3-12表のとおりであり、都市住民の身近な緑として大切な都市近郊林が減少していることがわかる。
 一方、森林資源の蓄積をみると、人工林を中心に年平均7千6百万m
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のペースで増加している。しかし、我が国の人工林は、昭和20年代以降に大規模に造林され、現在、保育・間伐作業の対象となっている若齢林(植栽後35年以下の森林)が8割を占め、生育途上の段階にある(第3-3-13図)。今後、このいわば「団塊の世代」の人工林が本格的に主伐期を迎え、国産材の供給力も次第に増大してくることになる。
 他方、我が国の林業生産活動は、近年、停滞状態にあり、丸太の生産量をみると、昭和40年前後には毎年約5千万m
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を産していたが、昭和42年をピークに減少し、最近は3千1百万〜3千3百万m
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で推移している。また、造林面積をみると、昭和30年代後半以降年々減少しており、昭和63年度には10年前と比較して40%程度となっている。こうした林業生産活動停滞の背景には、木材価格が低迷している一方で、造林費や苗木代などの林業経営費が増大していることなどがある(第3-3-14図)。また、林業労働力の状況をみると、林業就業者数は年々減少しており、昭和40年から60年の20年間で4割以上減少している。さらに、年齢構成をみると、昭和40年には34歳以下が36%、35〜54歳が47%、55歳以上が17%という構成だったのに対し、昭和60年には、34歳以下は全体の1割にみたず、約4割が55歳以上という状況である。
 このような林業生産活動の停滞は、特に人工林における林産物の生産に支障を生じさせるだけでなく多面的機能の十分な発揮にも重大な影響を及ぼすことが懸念される。第3-3-15図は、近年における間伐の実施状況をみたものである。60年度以降5年間に緊急に間伐を必要とする森林が190万ha(年平均約38万ha)あるのに対し、実施面積は年々増加してきているものの、昭和63年度で31万ha、60年度以降の4年間で117万haという状況である。間伐や枝打ち等の保育作業が適切に行われないと、細長い幹になるなど樹木が折れやすくなり、害虫の蔓延や火災の発生のおそれが高くなる。また同時に、低木や下草などが極めて少なくなることで表土の流亡を引き起こし保水力の低下、山崩れ、洪水の危険を高めることにもなる。現在、山腹崩壊、地滑りなどの災害が発生するおそれのある地区(森林)は全国で18万箇所あり、増加傾向にある。また、保安林の指定を受けながら疎林化していたり、根系の発達が悪いことなどから十分な機能を果たせないものが全保安林の11%(約90万ha)ある。

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